![]() シドニーへ 彼女たちの42.195km 2001年1月11日発売 高橋尚子、山口衛里、市橋有里、小幡佳代子、弘山晴美、有森裕子…… ●文藝春秋HPの |
前書きから少し引用します。
思い出すのは不思議なことに、彼女たちが颯爽と走る姿よりも立ち止まった時の姿のほうである。
連載の中間点少し手前となった2000年3月、選考会の大阪国際女子マラソンで2時間22分56秒をマークしながら代表に漏れた弘山晴美(資生堂)の夫でコーチの勉氏から、こんな便りが届いた。
「ここボルダー(米国)に入ってから、様々な意味で疲れが一気に出て来たようです。晴美が昨日、もう走れない、走りたくないと口にしました。夫婦とはいえ、軽々しくまた走ろうと言うことは彼女のがんばりを一番良く知っているからこそできません。黙って見守ることしかできないことがとても辛い。彼女が心の底から走りたい、と口にするまで待とうと思います」
連載は当初、一体誰が代表になるのか、誰がもっとも速く走れるのか、そして、3人の代表が決定してからは誰が金メダルを獲得できるのかといった興味に答えることを目的とした。しかし、このボルダーからの便りを読んだとき、これが彼らの職業であることは当然としても、「走る」とは一体どういう行為なのかを深く考えなくてはならなかった。なぜ42.195kmを、もっと言えば、練習ではこの何百倍もの距離を走ろうとするのか、誰もが抱くであろうこの素朴な疑問について考えるスタート地点ともなった。
スポーツライター 増島みどり