5月30日

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サッカー
FIFAコンフェデレーションズカップ2001
前日記者会見
(新潟市内)

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 2002年W杯のプレ大会として行われるコンフェデレーションズ杯を控え、トルシエ監督と選手がそれぞれ会見を行った。
 トルシエ監督は「キャプテン」についてこれまで繰り返してきた不要論を大展開。自らと通訳のダバディ氏まで一緒になって腕にキャプテンマーク(監督は黄色、通訳は赤)を腕に巻いて会見に登場し、ほかにも日本選手は海外に誰も行っていないことが大きなハンディである、日本のメディアは成熟してないから「スター」だけをもてはやす、といった定番を繰り返して、約2時間もしゃべりまくった。

トルシエ監督の話(※全体は1時間45分ほどの会見で、ほとんどがキャプテン、日本メディアのレベルの低さについて、日本の選手が海外でプレーしてないハンディ等、同じ内容の繰り返しのため、カナダ戦、今大会のことについてのみ抜粋)
「大会は2002年に向けて新たなステップとなるもので、相手との力関係によってスタイルを変えていかないとならない。明日のカナダ戦は、今大会の中でもっとも難しい試合になる。初戦というのは非常に難しく、この試合に勝てば先が見えてくる。また、カナダはほとんどの選手が欧州でプレーをしているが、日本はそうではない。1986年のW杯メキシコ大会、初戦でフランスがカナダと対戦したことをお話ししたい。誰もが、フランスが0−5で勝つと信じていたが、始まってみればフランスは1−0、それもロスタイムぎりぎりでの得点だったと思う。これを見てもわかるように、初戦は全体の試合でもっとも難しいもので、カナダは日本が簡単に勝てる相手ではないし、何よりも日本がフランスのような(難しい緒戦に勝てる)レベルにはない。もちろんホームのアドバンテージは生かしていかねばならない。
 最初からアグレッシブに行かなければ、いけないだろう。戦術的には、今まだ考えている。自分たちからビルドアップをしなければマズイだろうし、バランスを取りながら攻撃的なサッカーをしなければならないし、DFもしっかりとさせなくてはならない。とても難しい。
 日本の問題は、海外でプレーする選手が(中田英寿、西澤明訓の)2人だということで、私の問題ではない。フィリピンの監督が日本の選手を使えば勝てる。そういうことだ。私もアフリカで指揮を執っていて、どんなに監督がすばらしくても勝てなかった。しかし今は世界の強豪国になった。これはアフリカ選手が欧州でプレーしたからだといえる。
 サッカーについては、もう説明することもないし、戦術的に新しいものはもうない。教えることもなくなった。あとは(新しいのは)、FWの中山(雅史)をGKにすることくらいだろう。26時間もの移動、7時間の時差、1回のトレーニングで私たちのサッカーがスペインに通用することを実証した。新しい戦術はもう何もない」

中山雅史(磐田)「リーダーシップについては、特に意識してないけれど最年長ですから、それなりに自分が姿勢を見せたいと思う。それでもついて来ない人は捨てます(笑)。といってトルシエ監督に捨てられるのは自分だったりしますけど。とにかく元気印で行かないと。カナダは(日本が)単純に放り込んでも身長があるので攻撃にならない。個人の力やイマジネーションも重要だと思う」

森岡隆三(清水)「カナダについてビデオを見たけれど20分もないもので、パワフルなイメージだった。でかいし速い。何人かはスキルもある。ゴールキック1発でペナルティエリアまで来てしまうのでどうしようかと思う。僕らの守りが前線からかかれば大丈夫。プレスが前からかからないと苦しい」

中田英寿(ASローマ)「来年のW杯の前としては一番大きな大会になるので、ある程度の結果を出したい。フランス、スペインの結果をチームとしてうまく生かしていければいいと思う」


「5試合目」

 中田、小野伸二の2人が中盤に入るのは、98年の日韓戦(4月)以来、これで5試合目になる。31日は左アウトサイドに小野が入る可能性があるが、もともとのポジションではなく、中田がどういったアイディアで小野とどう柔軟性を持った中盤を展開するか、これが楽しみでもあり、初戦の重要な鍵になる。
 小野は「久々にコンディションもいいし、楽しんでやっていることを監督にもアピールしたい。(左アウトサイドは)難しいですね。ドリブルもライン際などやっていないし、押し上げなどタイミングもわからない。けれども与えられたポジションだから何とかこなしていきたい」と話している。


「1200ページがいつの間に……」

 就任以来、「私のテキスト(※あるいはバイブル、という表現を使った)は500ページある」と話してきた監督が、この日「もう戦術はない。教えることもなくなった」と、テキストがいつの間にか終了したことを宣言した。
 500ページは、その後、広島での講習会で1200ページまで増えていたので、かなりのスピードで履修されたようだ。故障者が続出して、さらにはメンバーの入れ替えもあり、チームの状況は決して良くはない。しかし、新潟で行われた29日の練習、そしてこの日行われた練習でも、緊迫感や危機感といったものが薄い。
 こうした感覚の欠如は、予選免除のメリットに比例して生まれる必然でもある。この日もある選手が「代表レベルだから、個人個人は非常に高い意識とモチベーションを持っていると思う。しかし、チームとしての方向をもう少し強く持たないと」と、この歓迎できないリラックスムードを表現していた。反対に、カナダは日本を確実にターゲットにした練習を行い、オジェク監督も「小野にしても動きはよくわかっている。日本が絶対に勝つ、ということはあり得ない」と開幕での金星を密かに狙うかのようだった。

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 すでにスペイン戦を前にした会見から、同じことを何度も何度も繰り返している監督が、腕にキャプテンマークを巻いて会見場に入ったとき、こうしたパフォーマンスを「エスプリ」などと思うユーモアなど誰も持ち合わせていなかったし、通訳でアシスタントのダバディ氏までが赤のキャプテンマークを左腕に巻いて着席したことは、もはや洒落にもならない。
 キャプテン不在である、というのは、日本代表の「現実」であって着色はない。不在だからフランスに0−5で負けるとか、キャプテンがいれば0−0のスペイン戦でロスタイム失点をしなかった、あるいは奪えないゴールがたちまち量産される、などといった馬鹿げた話を、読んだことも聞いたこともない。
 一体、誰が日本語を話さない監督に、どんな記事を見せて、どう訳して、何をアドバイスしているのか知りたいところである。それほど、最近のトルシエ監督の一方的な会見には「前提」や「根拠」というものが欠落している。

 監督は「キャプテンマークを巻けば完全に人間を変えることができる。巻くことで強くなるから、多くの選手にとって重要なのだ」と会見の冒頭で話したかと思うと、最後のほうでは質問をした記者に歩み寄ってキャプテンマークを腕に巻かせ「これをつけて人格が変わるか、変わらない。だから無意味なのだ」と180度違う話をする。「現代のサッカーで、リーダーシップやキャプテンシーを持った主将など世界中にどこにもいない。彼らは行政的な意味(コイントスや審判との会話など)でのみ重要なのであって、ピッチの監督としての主将など世界のどこにもいない」とまくし立てた。しかし、誰でもいい、と本当に思うのなら、まさに「誰でもいい」のであって、かつての加茂監督のように「誰でもいいから、代表試合数がもっとも多い井原1人が事務的にやっていれば済む」とするほうが楽である。
 それをわざわざ3年もかけて「9人」に主将をやらせているのはほかならぬ監督自身であり、逆にそこまで「マーク」にこだわる監督もいないだろう。
 いずれにしても、どこまで続くかキャプテン論、である。



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