5月19日

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サッカー
J1リーグ第10節
ジュビロ磐田×コンサドーレ札幌

(ジュビロ磐田スタジアム)
キックオフ:15時4分、観衆:12,979人
天候:晴れ、気温:24.6度、湿度:60%

磐田 札幌
2 前半 0 前半 0 1
後半 1 後半 1
延長前半 1 延長前半 0
89分:高原直泰
102分:大岩剛
和波智広:63分

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 前節、清水に敗れて連勝にストップがかかった磐田は、この試合も、司令塔を勤める名波浩(右ひざ半月板損傷で手術)を欠いて、4位を維持する好調の札幌と対戦した。前半からイージーミスが多く、特に、この日初めての起用となった両サイド、右の西紀寛と左の平野孝のコンビネーションも合わず、中盤だけにボールが集中。オープンスペースがないため結果的に中盤でボ―ルをまわすことだけにエネルギーを使うようなサッカーを強いられた。

 前半には、中山雅史がゴール前キーパーとの1対1となったが、これを札幌のGK佐藤洋平が足で正確にセーブ。また30分過ぎには右サイドの西が放ったシュートがポストにあたり、これで流れたボールを藤田俊哉がシュートしたものの、これは場外に。絶好ともいえる3本を外して磐田は自滅し、逆に札幌のGK佐藤を勢いに乗せてしまった。
 0−0で迎えた後半12分、前半17分にイエローカードを受けていたDF田中誠が、この試合2枚目のイエローをうけて警告2枚で退場となり、残る30分を10人で戦うことになる。わずか6分後には、札幌の和波智広にヘディングでゴール隅に押し込まれて先制された後は、10人の不利を背負いながらのプレーだけに焦りや迷いが出たのか慌てる場面が相次いだ。

 0−1のままベンチ前にはロスタイム表示が「3分」と出される。おそらくこれがラストワンプレーというとき、磐田はこの日初めて「磐田」になったかのように、DF最後方から大岩剛が左の服部年宏へ。服部がこのボールに左から巻き込んでゴール前に入るカーブ回転をかけて、このボールに中山、高原がラッシュをかけた。ゴール前直前で中山がDFを連れて転倒、キーパーとDFと3人になった高原直泰がワンバウンドになったボールを頭で札幌のゴールに転がす、高原の奇跡的な今季7得点目で延長に持ち込んだ。

 延長前半12分、またも服部の直接フリーキックから、この2試合セットプレーからの得点を逃がしていたというDFの大岩がヘディングでゴールを奪って苦しい試合をようやくものにした。磐田は連敗を何とか回避し、これで勝ち点26で首位でJリーグ休止期間に入る。22日からはアジアクラブ選手権(試合は24日、26日)のためにソウルに出発する。
 また、今夏予定されていた世界クラブ選手権は、2003年までの延期と当初発表されたものの、中止となることになった。

磐田・鈴木監督「きょうの勝利は苦しい中だっただけに価値があるが、一方ではチャンスをものにできなかったり、退場もあるなど、自分たちで自分たちの試合を潰してしまったようなものだった。これでアジアクラブ選手権と休むことはないが、代表も含めて、高いモチベーションと、フィジカルを持続して2試合を戦ってきたいと思う」

札幌・岡田監督「サッカーとはこういうものだ。89分を自分たちのチームのために戦っておきながら20秒でひっくり返されてしまう。きょうは98%の力では勝てない、100%でなければダメなんだと選手に言い、(闘争心を持つために)プロレスラーの悪役のような気持ちで行こうと言った。そうしたら、本当に悪役になってしまった……(イエローカード6枚)」


「たぶん、微笑む数は同じ」

 残り時間はおそらくもうなかったのではないか。このワンプレーで試合も終了するだろう、とスタンドの観客も席を立ち、通路に向かう。磐田のDF・服部の表現でたとえるならば「自分たちはいつだって点が取れるんだっていう、いってみればふんぞりかえった試合」にほとんど救いはないはずだった。
 しかしあとワンプレーを勝利の女神と岡田主審が与えてくれたおかげで、試合はすべてが変わってしまった。女神が口元を少しだけ緩めたかもしれない瞬間を見逃すことがなかった、キャプテン・服部の冷静さに救われたのかもしれないが。大岩からつながれたボールを服部は、回転をかけてゴール前に蹴り出す。無鉄砲に蹴ったのではなくて、狙っていた。

 札幌は一人多いはずが、残り10分を切ってからも一向にボールをタッチラインやサイドに流してキープしようとはしない。服部は、こうした指示をしながら時間を稼ぐ、あるいはそういうことに気が付いて動こうとしているのがアウミールとビジュだけであることに気が付いていた。これが最初のキャリアの差である。

 もうひとつ、ロスタイムになってから両者入り混じってのいざこざが2度あった。この時も服部は、倒れた札幌の播戸を助けるかのように「早く出せよ」と声を出しながら担架に乗せてしまった。播戸は自分たちの時間を失うための時間稼ぎをし、服部は自分たちの時間を増やすために時間を稼がせなかった。
 岡田監督は負傷を心配し、しかも1枚のイエローを受けていて危険な播戸の交代を告げた。実はこの瞬間が、女神が口元を緩めたときだった。

「札幌は詰めがあまかった。どうしてサイドに逃げたりしないのか、なぜボールを回さないのか、見ていて、これは最後まで何があるかわからないな、と自分に言い聞かせた。あのボールは、(FW)2人に何とかしてくれ、という願いを込めて、うまく行けば、ゴンちゃんは抜けてくれるかな(DFの間を)と思った。まあ抜けないでスッ転んでいましたけどね」
 服部は「本当にほっとしたよ」と大きくため息をつきながら笑う。
 しかし、服部が苦笑いした中山の転倒によって奇跡のスペースが生まれた。高原はゴール前を一人任される。DFとGKの間にちょうどボールが飛び込んでくる、言ってみれば一番面倒な軌跡を描いて入ってきたボールを、頭で叩き込んだ。

 驚いたのはGK佐藤だったはずだ。ワンバウンドで自らの目前、これを両手でキャッチしようと手を胸の近辺で揃えていたとき、高原の坊主頭とすれ違ったからである。キャッチングの直前になってあのボールをヘッディング打ってくるようストライカーは、高原以外に見つけることはできないはずだ。

「服部さんのボールが来ることはわかっていました。これでもう終わりだと思い、ホイッスルが鳴るまで、と決めていた。勝ち点よりも雰囲気が悪くなってはいけないと思っていた。(同点ゴール後、笑いもしなくてポーズもなかったのはと聞かれて)脚も痛いし、疲れていたんで、無駄に動きたくありませんでしたから」

 冗談ではなかった。
 高原もチーム最多の3本のシュートをそれまで放っていて、決めきれなかった。DFとGKの間に自分を入れ、しかもその隙間でヘディングをするというほとんど考えられないようなシュートであり、本人も記憶にはない、というロスタイム、それもラストプレーでの1点である。

「まったく覚えていません。軌跡も見てなかったし、ただ、ゴール前がごちゃごちゃだった(全部で5人)ことはわかったし、GKがちょっと前に出たのが見えました。自分が転がって頭で決めたときに初めて、ボールを見ることができてああ入ったと……」

 高原は試合中、何度も何度も、声にならないような雄叫びをあげ、イラ立った様子でアクションをしていた。その姿の理由は、チームメートや相手、局面に対してではなく、チャンスをものにできず、そして諦めかけてしまう自分自身への怒りだったのだろう。
 1点を取って派手に喜ばなかったのは、脚が痛かったからではなく、「自らが招いた苦戦で追いついたくらいで喜べるわけがない」という彼のプライドゆえだったはずだ。

 気持ちのわずかな揺れは、ここまでサッカーに影響するのかとあらためて思い知らされるゲームでもあった。今夏、レアルと対戦するなど選手にとっては高いモチベーションのひとつでもあった世界クラブ選手権中止が、試合前ロッカーで伝えられている。

「自分の力でどうすることもできない話。やってくれと言ってやってくれるのなら言うけれど、正直、カクっとは来たでしょう」
「関係なかった」という選手もいたが、服部の感想が率直なところだろう。名波がいないことではなく、単純な各自のコントロールミス、田中の明らかな「判断ミス」による警告2枚、が自滅を生んだ。
 勝負には女神がいるという。だがこの試合でわかったことは、女神がよくいう「どちらに微笑むか」という話ではなく、どちらにも同じ回数微笑んでいるのかもしれない、ということだ。ただし、それに気がつくか、無視するか、これは女神にとって大きな評価ポイントなのだろう。

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 この日最初のチャンスは、磐田の中山がもらった1対1、札幌にもアウミールの惜しい1対1があり、これを両者が逃がした。
 2度目の微笑みをもらったはずの磐田は、西、藤田が続けて外して、せっかくの笑顔をないがしろにした。札幌に2度目の微笑みを提供したのが田中の退場である。
 大岩が後半、GKのミスから放たれたシュートをすんでのところでクリアに持ち込んだことは、中山がフリーを外し、田中が退場してしまったことにご立腹だった女神のご機嫌を直させるものだったのだろう。

 中山は言う。
「結局最初のゴールを決めていれば何でもなかった。サッカーのつけも、試合の後半にいけばいくほどかさむもんで、このケガも、自分がチャンスに報いなかった罰ですよ」
 相手のスパイクが眉の上を裂いていた。顔面骨折じゃなくてよかった、と話す中山に笑顔はなかった。
 罰といえば、服部はあの場面で1点取られることよりも退場をしてしまった田中に試合後も立腹し「判断ミス以外の何物でもない。重大な罰金だ」と、宣言していた。
 チームは22日、韓国に入る。札幌を下した磐田に、女神の評価はいかに……。


「絶対にあきらめない」
文・松山仁

「同部屋だし、いいボールが来るのを信じていました」
 1−1の同点で迎えた延長前半12分、服部のフリーキックを頭で豪快に叩き込んだ大岩剛は、そう言ってアシストの正確さを称えた。
 前半からボールを支配し、何度かチャンスを作るがなかなか得点に結びつかない。大岩自身、行詰まりを感じるような試合運びの中、最後にヘディングでチャンスが回って来たこともどこか因縁めいている。
 前節はヘディングをして決まったがファールを取られてノーゴール、その前にはクロスバーにあたる残念なコースで決めきれなかったからだ。
 苦しい状況の中での逆転勝利を、「選手はどんな時でも絶対あきらめてはいけないと思っているから、負けるわけがないという気持ちで最後までやっていた。それにうちのチームは、どの選手が抜けてもそれをカバーできる力をもっているのが大きい。今日はそれをあらためて感じた」と冷静に分析した。
 自らの手柄ともいえるVゴールについては、最後まで「いい感触だった」と、大岩らしくほとんど触れることはなかった。ただ勝ち点2を獲得しただけでなく、アジアクラブ選手権に向けて、忍び寄る連敗の影を振り払い、モチベーションを維持する効果があったことは間違いない。

「中山雅史の“武器”」
文・松山仁

 Jリーグ200試合出場を「あくまでも通過点」という中山雅史は、「とにかく絶対負けないという気持ちでやっていた」と土壇場での逆転劇を振り返った。チームの勝利を自らのゴールで飾ることはできなかったが、ロスタイムでの服部のロングボールにいち早く反応し、ディフェンスを引き連れて「つぶれ役」となったプレーがスペースを生み、DFを消し、高原の同点弾を生んだ。
 ゴールは増えなかったが、顔を蹴られて、また一つ、右目の上に生傷が増えた。骨折、切り傷、眼球損傷と、今までどれほどのダメージを顔面で受けて来ただろう。この日も後半、ゴール前で顔からボールに突っ込んだ。
「前半の決定的なチャンス(前半10分、右サイドからの西のセンタリングをヘディングシュート、前半13分、GKとの1対1)を決められなかった天罰ですよ」と話すが、怖れを知らない、ボールへの常軌を逸した執着心こそ、相手DFが恐れる中山の武器なのかもしれない。



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