4月7日

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サッカー

鹿島アントラーズ×ジュビロ磐田
天候:晴れ、気温:20.6度、湿度:47%
観衆:35,221人、15時04分キックオフ
(国立競技場)

鹿島 磐田
1 前半 1 前半 1 2
後半 0 後半 1
04分:鈴木 高原:08分
藤田:54分

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 開幕から3連勝と勢いに乗っている磐田は、昨年勝てなかった鹿島に対して、全員が体を張った強いプレーと、中盤からの早いプレスを長時間持続させる忍耐のサッカーで、前半から鹿島の心臓部・ビスマルク、小笠原満男の2人を徹底して抑え続けた。
 前半4分、磐田はセットプレーからGKヴァン・ズワムがこぼしたボールを鈴木隆行に押し込まれて先制を許す。しかし、開始直後のしかもディフェンスを割られた格好での失点ではなかったために、この後も慌てずにチャンスを作った。8分には、名波浩がFKを得て、このボールに左サイドに流れるように走り込んだ高原直泰がワントラップから左足でシュート。ゴール隅右にコントロールする狙いすましたシュートで早くも同点として試合を振り出しに戻した。
 膠着状態が続いたものの、中盤からの早い潰しに戦意喪失気味となった小笠原、ビスマルクに対して、磐田は藤田俊哉、奥大介が攻守で早い動きを見せ、名波、服部年宏が果敢なスライディングからボールを奪って攻撃に転じるなど、磐田の気迫と、それを表現するプレーが鹿島を追い詰めて行く。
 後半9分には、藤田から出たボールに対して、中山雅史がポストとなってこのボールを高原へ。ブラインドになったために、ボールの動きを一瞬見逃し反対に踏み込んだGK高桑大二朗を冷静に見ていた高原が思い切ったシュートを正面から放つ。このボールがポストにはね返ったところへ藤田が飛び込む「トライアングル・プレー」で勝ち越した。
 この後も鹿島は流れを変えようと、切り札の本山雅志を投入するが、その直後に守備の中心となるファビアーノが退場。鹿島にとっては後手後手に回る結果となってしまい、磐田は昨年徹底して封じられた鹿島を倒して、リーグ優勝のためにもっとも重要な試合で、今季ベストゲームを果たした。磐田の開幕4連勝は初めて。服部、藤田、福西崇史、名波、奥、高原、中山7人が9日からのスペイン戦に向けた代表候補合宿に参加する。

名波に、『こぼれ球をすべて拾ってくれた。服部さまさまだった』と言わせる活躍を見せた服部「鹿島は、ビスマルクと小笠原のところを抑えれば絶対に勝てると信じていた。徹底して2人を潰してやろうと思って試合に臨んだし、体を張って最後まで止めるサッカーをすれば、きっと勝負の神様は自分たちの方を向いてくれるんじゃないかと……、まあ信じたかったよね。それほど全員が体を張ったゲームだった。まあ、これで終わりじゃないし、キツイ日程も続く。油断はしない」

中盤の高い位置からのプレスを最後まで持続。1点目のアシスト以上に、地味な守備で大活躍の名波「15分の1勝とはまたちょっと違う喜びと重みがある勝利だった。若干気温が上がってきつかったが、それでもみんな最後までよくやったと思う。今までまともに勝てたことのないゲームに、力でねじ伏せて勝てたということがうれしい。とにかく互いにカバーしあって、フォローをしなくてはならないわけで、その点で、オレの(試合中の)声をみんな信頼してくれるしフォローしてくれた。特に服部はすばらしい働きだったんじゃないか。後半は服部さまさまです」

厳しい接触をしながらも耐えたDF大岩剛「非常にいいゲームをしたと思う。確かに先制はされたけれど、それほど負担にはならない時間帯だったし、やられ方でもなかった。あそこでDFがドタバタしなかったのは良かったと思う。後ろで見ていて、あれだけ前から徹底して守備をする中盤は、Jリーグにはないんじゃないかと思った。うちの中盤は本当に強い。守備の面では今季ベストゲームだった」

2点目を奪った藤田「(よく詰めていた、との問いに)ああ、あんなの誰だって入るよ。とにかく今日はモチベーションが高かった。始めはあんまりみんなが飛ばすんで、俺は体がついていかねえのになあ、なんておっかなびっくりだったけど、それでも一人一人がしっかりやっていたからああいう結果で最後まで切れなかったんだろうね。日程うんぬんはもう言っても仕方ない。代表合宿はレベルが高いわけだから、気持ちの高めて刺激になるリフレッシュをしてきたいと思っている」

先制点を奪った高原「1点目は動き出してから、ゴールまでのイメージが完全に出来上がってシュートした。結果を出すことだけが、こういう苦しい日程に勝つ手段だと思います。フランスの教訓というのを忘れたくないし、生かしていかないとならない。開幕4連勝は初めてだそうですが、でも慢心はいけないと思うし、勝ち続けることです。代表では、中山さんも加わるので、いい意味で楽しみたい。(2人でコンビを組めればいいね、の質問に)いや、それは監督が決めることですから」


「ゴンちゃん、この前休んでいるでしょ」

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 風邪で体調を崩し、咳も止まらず体も思うようには動かない。中山自身、「競技歴の中でも怪我をのぞけば最低」というようなコンディションの中で迎えた大一番は、「頑張った分だけ報われる」という善良の神様が判定を下したゲームとなった。
 中山は前半開始直後、体を張ってボールに喰らいついて行く仲間の様子を見ながら、「あんまりハイペースなもんですから、俊哉(藤田)と、おい、こんなんで大丈夫なの? って話していたんですよ。あいつはあいつで、やべえよ、オレだけ? こんな疲れてんの、って回りの顔色を見てたらしいんですが、まあ飛ばす飛ばす(笑)。服部には、ゴンちゃん頼むよ、今週休んだんだからね、と言われましたしね」
 ナビスコを休養したベテランにも容赦ない叱咤が飛ぶほど、中盤の守備陣にとっては笑いごとではないほど、立ち上がりからの守備こそすべてだった。
 服部によれば、「完璧に潰そうと思った」というほど、鹿島のビスマルク、小笠原への早い囲みを徹底させ、流れたボールに対しては名波、藤田、奥、福西が飛び込んで行く。前半10分からは、名波が立て続けにスライディングでボールを奪い、これを服部が拾う。服部がピッチ脇の看板に体当たりしながら、中に戻したボールを奥が転びながら拾って攻撃につなげる。華麗なボール回しと表現されてしまう磐田の、凄まじいばかりの「泥臭さ」に、ビスマルクも、小笠原も棒立ちになるシーンが繰り返された。
「向こうにしてもあんなに早く囲まれてしまうとは思ってなかったと思う。自分の声を信頼してくれて、フォローに入ってくれる。非常にいい連携があった」
 名波は試合後そう説明した。前週のゲームで、名波が試合中に怒鳴った声が聞こえたことがあった。自分が囲まれ、そこにフォロー、サポートが遅れた瞬間、「フォローしろ!」と仲間を叱咤した。当たり前のことを、当たり前に続ける磐田の強さは、強靭さを増すばかりだ。

 しかし、誰よりも「大丈夫かよ」と話していたFW中山こそ、この日の磐田をリードし、象徴していた。
 後半、2−1と勝ち越した後、中山は相手DFとの接触で芝に顔面をうちつけた。このとき、鼻血が出たように見えたが、実は鼻の中の皮膚を切ってしまって傷口がぱっくりと開いていた。ドクターが綿を詰め込んだが、これでは手当てにならない。中山は鼻から綿を抜いて、ワセリンを詰め込んでピッチに、戻った。コーナーのピンチだったからだ。
 この直後、中山はコーナーのボールに顔面から突進。相手にしてみれば、スパイクと顔がぶつかる高さだけに、危険であり、一歩間違えば中山も顔面を蹴り上げられるか、イエローものだ。
「まあね、一箇所怪我するのも、2箇所怪我するのも同じですよ、なんてね」
 気取った口調でジョークを言って報道陣を笑わせたが、鼻を切ってそれでも顔からボールを止めに入る神経はよく言えば、あまりにも忠実で勇敢なプレーで、常識的に考えれば、「(怖いもの知らずの)イカレたプレー」である。シュートはなかったが、勝つことへの執念はこんな格好でも示せるのだ。

「先週の試合後、俺は、FWがもっと早く結果を出せばと言ったけど、今日はその通りなった試合」
 名波は、前節でシュートを外したFW陣にテレビのインタビューを通じてそう叱咤した。高原は「ええ、覚えています。今日は取り返すつもりでした」と言った。
 見かけは華麗な花をつけていても、それを支えるのが強固な根と幹である以上、磐田という樹は、ちょっとやそっとで倒せる大木ではなさそうだ。


サッカー

横浜F・マリノス×浦和レッドダイヤモンズ
天候:晴れ、気温:22.0度、湿度:51%
観衆:30,759人、19時04分キックオフ
(横浜国際総合競技場)

横浜 浦和
0 前半 0 前半 1 1
後半 0 後半 0
  トゥット:32分

 開幕から3試合で白星のない横浜F・マリノスは、浦和をホームに迎え撃った。前半44分、すでに12分に城彰二へのファールでイエローを受けていた井原正巳が、木島良輔との競り合いからファールをおかしてこの日2枚目のイエローで退場。横浜は早くも数的優位に立って試合を展開することになった。
 ところが後半、この試合初出場のFWレアンドロの起用が裏目に出る。
 練習でも合わせていないというFWとのコンビネーションが合わず、また城とも動きが噛合わないために、中盤、サイドからの狙いが定まらず、一方、守備的になった浦和は引いて、小野伸二もベンチに下げての専守防衛となる。後半出場した岡野雅之が、転倒した際、左ひじを脱臼。さらに優位になったはずの横浜だったが、最後まで攻めきれずに結局、21本(浦和は8本)ものシュートを放ちながら、無得点。開幕3敗1分けでリーグ最下位となった。なお横浜が最下位となったのは、チーム史上初。


「一体何が悪いのか」

「FWが機能していなかった」と、試合後アルディレス監督は説明していたが、選手にしてみれば、この日初めて試合に出場、それどころか練習でも一度も合わせたことのなかったFWの起用に、戸惑いのほうが先にあったようだ。事実、中盤の遠藤彰弘、またアウトサイドの木島といったあたりからはボールが上がってはいた。しかし中が攻めきれていない結果が、21本シュートで無得点の要因である。
 前半で数的な優位を背負っていながら、守り抜かれてしまったことは、敗戦以上の痛手かもしれない。
「悪いときはこういう形になってしまう。最初に点を取られても、そう焦ったり、怖がったりすることはないと思う。自分が主将としてどう考えるのか、この1週間で立て直したい」と小村徳男は話す。
 昨年の第一ステージチャンピオンチームの初の最下位転落と、磐田の初の開幕4連勝を見て、試合の流れとは、チームの浮沈とは何によるものなのか、その分岐点とは一体何か考えてしまう。答えは見つからないのだが。


「だから言っただろう」

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前半で試合を去った井原は、試合後、「本当にみんなに迷惑をかけてしまった。これからご馳走しないと」と頭をかいていた。
 ベテラン福田正博は試合前、井原に「いくら古巣とのゲームだからといって燃えるなよ。燃えすぎるとイエローだからな」とクギを指していたそうで、「だからオレが言っただろう。井原のせいでこんな苦しい試合で」と、ロッカーで福田にからかわれていた。
 しかし井原は「このチームの結束力にびっくりした」と真摯に話す。本来ならば、プロ同士、あんなところでゲームを潰して、とハーフタイムに批判されてもおかしくはなかった。気まずくロッカーに入った瞬間、「井原のためにもがんばろうぜ」と、全員が手をたたいていた。
「申し分けないです。でも、ああいうムードは初めて味わいました。あれで、人数ではないと思いました。あんなに長い後半はありませんでしたが」
 試合後、マリノスの選手と握手を交わしながら、井原を最後まで頭を下げていた。
 岡野がひじを脱臼し怪我をしたときも、相手の木島が転倒したときも、浦和の選手が走って駆け寄った。小野も不本意な交代をせざるを得なかったが、少しもふてくさることなく「もともと全部は無理だったから」という。
 これで7位。順位以上の収穫があった。



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