4月2日

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陸上

高橋尚子(積水化学)記者会見
(東京都・港区積水化学東京本社)

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 シドニー五輪女子マラソン金メダリストの高橋尚子が個人の肖像権を自由に使用すること(いわゆるプロ活動)を求め、JOC(日本オリンピック委員会)、日本陸連、積水化学の3者が折衝していた問題で、高橋に関しての「JOC選手強化キャンペーン事業からの適用除外」が正式に認められた。
 これによって、従来は4000万円を支払ってJOCスポンサーとなった企業のみに限られていたCM活動、ポスター、カタログ、講演、テレビ出演などのタレント活動も、スポンサードの制限なく高橋の意志で自由に行えることになる。また女子マラソンの有森裕子(リクルートAC)、藤村信子(元ダイハツ)のケースとは違って、「陸上競技が生計を成り立たせる上での収入源の主となる場合にのみ自由な活動を認める」(社員ではないということが前提)と、自由化の前提とされていた規定も、すでに日本陸連が理事会で改正しているために、社員でありながら、自分の望む活動が自由に行えるようになった。
 陸連、JOCのルール改正後に適用されたのは高橋が第一号となる。

積水化学・龍村豊取締役、陸上部部長(会見、囲みから抜粋)「会社としても大変うれしく思っている。しかし高橋選手は世間で言われているようなプロ選手ではなく、あくまでも積水の社員で女子陸上部員であり、あえて言うならノンプロという立場になる。自分自身の肖像権を自由に使っていけるということで、今後も小出監督指導のもと、実業団で優勝するとか、マラソンで世界最高を出すとか、陸上で結果を出すことを第一の目標にしてもらいたい。
 高橋選手は、社員給与体系に基づいて、大卒女子社員と変らない給料で今後もやっていってもらうし、ボーナスなども、記録や結果に応じて出していくこれまでの形とは変らない。
 CM活動については、うちの社員として給料をもらいながら、ほかの社から給料以上のギャラでCMに出るといった事態をどう解釈するか、役員の間でも話し合った。だからといって、(従来の有森や藤村のケースのように)彼女に退社してもらって別組織を作るようなこともできない。2月の段階で、陸連理事会からこうしたルールの改正が検討されるということがあって、社員であり、肖像権も、と両立ができるようになったことはみなさんに感謝している。まあ、うちが積水ですからほかの住宅会社のCMに出ない限りは、双方の話し合いで解決できる問題ということになった。
 マネージメントについてはしばらくはうちの広報部で行うが、今後1か月の間に別途会社をお願いすることにしたい」

日本陸連・桜井専務理事「今回、こういう形に前進した理由は、シドニーの後、小出監督から『苦労して金メダルを取って、得るものは(メダル以外)何もなかった、というのではスポーツや陸上をやる人がいなくなるよ』と言われた言葉がきっかけとなった。これまでは、走ることを収入源とするランナーに限ってのシステムだったが、今回は、母体となるものを離れない所属したままの形で行くことができるようになった。しかし、今後もオリンピックキャンペーンそのものには協力していくように指導していく」

小出監督「こうして周りの人たちがいろいろと考えてくれてよかった。高橋には道が開けたなあ、がんばったかいがあったなあと言った。選手が走ることができる期間は非常に短いから、(こうしたシステムができることで)いろんなことができるようになると思う。子供たちに夢を与えて、それを育んでいける選手になるべきだとずっと話してきた。
 ただ、高橋の目標はあくまでも世界最高記録の樹立であり、それをどうやってやらせるか、僕の課題でもある。これは変わりがない」

    高橋と一問一答(抜粋)

 (最初に)JOC、日本陸連のみなさんのお力でまた新しい道を歩むことができるようになってうれしいです。これを前例として、今陸上をされている人たちが上を目指せるようになればいいと思うし、スポーツ振興にも貢献できるようになったと思う。私自身、陸上選手としてマラソンの世界最高を目指す気持ちには変りはありません。

──テレビ、ラジオにも出られるようになりましたが
高橋 もちろんそういうことになりますが、私としては陸上を主としてやることには何の変わりもないし、出演などを細かく考えていくことはありません。

──自由な活動の具体的なイメージは
高橋 金メダルを獲得してから、うれしいことも、楽しいことも、いろいろと経験した。こういう経験をほかのみなさんにも一緒に味わってほしいと思ったことと、全国を回って走っていると、子供たちに喜んでもらったり、走っている人、いない人に対して、あ、自分はこんなことができるんだとも思いました。スポーツの良さをわかっていただくために活動をしたいと思っているし、ボランティア活動やチャリティーといったものをもっとやって行きたい。

──先輩の有森さんとのケースとは
高橋 先輩ですが、今回のことでは特に相談をしたりするようなことはありませんでした。道を先に開いてくれたお陰でこうしたことができたと思ってます。

──これからはもっと忙しくなるでしょう。体調管理などは
高橋 私には目標があります。第一に陸上で、と考えているし、(足場ができたことで)今後はもっとしっかり一歩、一歩を踏みしめていきたい。それと、小出監督がいて、ランナー高橋がいるということには変りがありませんから、これからも世界記録のためにどうするかです。金メダルを取ったときのように、それをプレッシャーにするんではなくて、経験したことを大事にしてさらに成長していきたい。


「プロではない」

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 この日、急遽行なわれた会見の最後に、桜井専務理事(日本陸連)から、「注意書き」がされた。メディアで表現されてきた「プロ」という表現である。
「プロの組織、サッカーや野球に属してプレーしている人はプロと呼べる。しかし、同じ野球でも会社に属しているならノンプロと呼ばれる。勤め先に所属した選手をプロと呼ぶことは正しくない」とし、今回の高橋のケースが、アマチュアの呼称には一応こだわった上で、その成績に応じて評価、報酬を得る「新しい道」であることを強調した。

 世界中で、アマチュアは存在しない、と言われる一方で、例えば国際陸上連盟は、IAAF、つまり国際アマチュア陸上競技連盟という看板を掲げている。看板と実情が矛盾して久しいが、高橋のケースに関するならば、「プロ」ではない。

 有森や藤村のケースが走ることを収入源とした「プロ」と呼ぶにふさわしい独立したランナーであるのに対して、高橋はいわば、自分が望む活動が制限なくできるようになった、むしろ肖像権の自由な行使という点で、アマチュア選手の道を開く新しいものだ。スポーツ選手の肖像権については、法的整備がかなり遅れているのが現状でもあり、現在では、例えばチラシやポスター、広告に選手の顔を使うことはキャンペーンに協力した企業以外認められていない。
 今回、こうして選手の肖像権をスポンサー料で買った企業以外にも使用を認める形が適用され(本人と会社、JOCの合意のもとで)、JOCに所属するほかの競技団体の人気選手たちにも、大きな波及効果があるはずだ。



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