4月8日

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柔道

全日本女子柔道選抜体重別選手権大会
兼ミュンヘン世界選手権代表選考会

(横浜文化体育館)

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 今年最初の大会に挑んだ田村亮子(トヨタ自動車)が、決勝では3回目の対戦となった濱野千穂(肥後銀行)を相手に両者警告を受けるせめぎ合いとなりながら残り7秒、背負い投げで技ありを奪って総合勝ちで優勝、大会11連覇を果たして世界選手権代表を決めた。田村は1回戦で小田智子(ミキハウス)に優勢勝ち、2回戦で真壁友枝(住友海上)に旗判定と、すべて慎重な戦いぶりで昨年のシドニー五輪後の福岡国際柔道11連覇、今大会11連覇と、国内121連勝に記録を伸ばし、ミュンヘンでの世界選手権では男女合わせて前人未踏の世界選手権5連覇に挑むことになった。

    各階級の優勝者
    48キロ級 田村亮子(トヨタ)
    52キロ級 横澤由貴(住友海上)
    57キロ級 日下部基恵(福岡県警)
    63キロ級 谷本歩実(筑波大)
    70キロ級 上野雅恵(住友海上)
    78キロ級 阿武教子(警視庁)
    78キロ超級 新谷緑(筑波大)

大海11連覇を果たした田村亮子「濱野選手は高校の後輩であるということと、3回目の対戦ということで、研究して作戦を練ってきているなという感じはした。ただ、それほど中に入ってこなかったので、自分もそれに合わせるように待っていた。特に駆け引きはなかったけれど、それまでの試合が判定や優勢勝ちだったので、一本勝ちを狙おうというのはあった。その点では、数少ないチャンスを逃さず、今だ、という瞬間をとらえることができた。そういう感覚は肌が覚えていて、まったく力を入れずに投げることができる。まさに練習の成果だし、思っていたような試合運びだったと思う。
 世界にはいろいろなタイプの選手がいるし、強い選手もたくさんいるので、練習から負けない気持ちを持つことが大切だと思う。そういう意味でドイツでの合宿では強い選手を相手に練習をしてきたことが自分にとってすごく勉強になった。勝負である以上、勝つときもあれば負けるときもあるが、そういう波がないように強い気持ちをもって練習にも取り組んできた。今回は上半身を中心に鍛えたが、これからは全身の力をつけるように、バランスに気をつけていきたい。
 今日勝って、全日本は11連覇となったが、11年間の日本一は誇りだと思っている。国内でもきっちり勝って、次は世界でも勝つというふうに完全制覇をめざす。7月のミュンヘンでの世界選手権では柔道において誰も達成していない前人未到の5連覇、そして12月の福岡では12連覇を達成することが今年の最大の目標。今日の試合に勝って、充実した気持ちでミュンヘンをむかえることができるのが嬉しい。ミュンヘンは自分が対外試合で初優勝した場所。11年ぶりとなるが、そこで最高の結果を出したい。まずはけがをしないこと。そして負けない柔道、勝ち続ける柔道をすることが大事。みなさんに喜ばれるような戦いをしなければいけないというのと、負けちゃいけないという両方の気持ちがあるが、この7、8年は常にそういう状況で戦ってきたので特に迷いはない。とにかくきっちりと、正確に勝っていくことをこころがけている。
 自分ではシドニー五輪前の99年くらいから、気力がアップしてきたような感触がある。五輪で勝って、本当の意味での揺るぎない自信がついた。福岡、そして今回と結果を出し続けていく中で着実に成長していると感じている」


「田村に辞められては……」

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 2回戦で田村を旗判定まで追い詰めた真壁友枝(住友海上)は、「絶対に動かないこと、仕掛けないこと」を自分に言い聞かせて4分の勝負に挑んだ。2人の4分は、見ているものからすると、どこかじれったいかのように動きの少ない柔道であり、変化に乏しいものだった。
 しかし、当事者には、観ているものにはわからない分だけ凄まじい勝負のやり取りがある。
 前回真壁が田村と対戦したのは、2年前の福岡である。このとき、真壁は一本勝ちを連続して決勝に進出し、対して田村は判定での、どこか芯のない勝ち方で決勝の畳に上がった。この時、「もしかすると」と、真壁の勢いに田村が敗れるのではないかといった声も試合場のあちこちで上がるほどだった。真壁もその気だった。
「体調も、気力ももの凄く充実していたんです。彼女はひとつ下ですが、もう何度も対戦していて、あそこでは勝てるかもしれない、と挑んだ。でも結果は、焦って自分が仕掛けた途端、見事にやられました。ですから今回は、絶対に彼女に柔道をさせないように、と思っていたんですが……」
 試合後、真壁は、最後の最後に辛抱しきれずに動いてしまった自分の柔道を悔やんだ。真壁は、田村の変化、それは自分も同様なのだが、「動かない柔道」を見抜いている。仕掛けると、「信じられないほどの反応」(真壁)で技を返してくる田村に、自分も同じように待つしかない。待って、待って、相手がじれる頃に技を思い切ってかければ、と思った。4分のうち、実に3分57秒を自らの作戦通り戦いながら、3秒ですべては水の泡となる。
 会場も「このままなら旗で……」と田村と真壁の大接戦を口にしかけた残り3秒、田村は背負いをかける動作の直後に、左から小内巻き込みに出る。そこで真壁は足を取られる。旗判定は3本が田村。試合そのものの流れならば真壁に1つくらいの旗があってもおかしくはないが、真壁は「あの3秒で当然の結果」と、勝負に対する潔さを見せる。
「組み負けたところもなかったし、前半は計算通り、彼女のペースにはさせなかった。田村が焦ってくるところ、と思いながら、最後は自分が焦っていた。強い。本当に」
 決勝の濱野も、同じである。
「自信を持って挑んだつもりでした。最後の1分に波を持って行こうと決めていたことも間違いではなかった。でも、気が付いたら投げられていました」
 残り7秒、濱野によれば、「今がチャンス」と思って右足を踏み込んで技をかけようとした瞬間、一本背負いで投げられていたのだという。1回戦も、残り3秒で効果を奪っている。3試合すべてで、残り10秒を切ったところで勝負に出た。追い詰めたように見えて、実は田村に追い詰められてじれている3選手が残り数秒で倒されたことに、田村の、ぞっとするような「勝負観」が潜むのではないか。
 観戦に来ていた、シドニー五輪男子金メダリストの野村忠宏(ミキハウス)はこう言った。
「負けませんね、本当に負けない。あれは強いですよ。怖いくらい強い。勝負師として、尊敬している」

 真壁は、ひとつ年下の田村にだけ特別な思い入れがあるわけではない。しかし、この日の敗戦で勝ちたいという気持ちが一層強くなった。田村が、じっくりと待ち、相手の出方を見ながら展開する、負けない柔道を倒すには、同じような「我慢比べ」を挑む面白さがあると真壁は実感したと言う。
「田村だけに特別、という思いはありません。ただ、私が引退する前に彼女に辞められてしまってはもう倒せない。ですから、次の対戦にかけます。勝負に勝ってみたい」
 真壁自身、国内で3試合連続1回戦負けを喫する絶不調のどん底だった。辞めることも頭をかすめたこともある。
 勝ち続ける田村がいて、負け続ける相手がいる。しかしその相手が、2年もの間、常に牙を砥いで来たのだということを、真壁は存分に示した。
 魂のこもった4分だった。



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