2002東京ヒラタ採集日誌

[採集用具]
by えいもん

プロローグ

 2001年は東京産のヒラタを追い求めつづけ、結局のところ満足な成果を得るに至らずに終わってしまった。(→ くわ馬鹿2001年冬号「2001東京ヒラタ採集日誌」
 ところが2002年が明けると、これまで見放されてきた運が、はじめは少しずつ、やがて一気にやって来るようになる。 それというのも、年初の下見で、いきなり絶好の採集ポイントに巡り会ったからだ。しかし、そこを訪れた当初は、それほどの確信はなかった。 「コクワでもノコでもなさそうな」幼虫を割り出しても、それがヒラタであると同定できるようになるまでには時間がかかり、それまでは心の中は モヤモヤしたままであった。疑心暗鬼と無我夢中の心境のうちにそのポイントに通い続け、結局、そのまま10月初旬まで採集と観察を 続けることとなった。その間そこに通った回数は、実に44回にものぼった。
 その結果、東京ヒラタを数にして50以上、いや、友人達の採集分を含めれば、優に100以上は確認したこととなる。しかも不思議なことに、 そのポイント以外でも、昨年ヒラタの気配さえなかったポイントも含めて、さほどの苦労と困難もなくヒラタに出会うことができた。 昨年の採集の下手さ加減に神様が呆れて、少しイタズラでもしてくれたかのような1年であった。

 このように、今年の採集は昨年にも増して慌しいものだった。一回一回の採集は例によって平均して正味1〜2時間程度と短いのだが、その分出撃回数が 多いのである。目まぐるしい採集日誌となってしまったが、辛抱強い方だけにでもご一読いただければ、筆者としては本望である。

(注1) ヒラタが採れたポイントが5つあるため、以下の日誌ではA〜Eとポイントを区別してポイントごとに綴ってある。 特に記すべき採集結果がない場合も当然のことながら多く、日誌を略記しているところもいくつかある。



Aポイント(東京都内)

 年初に見つけた優良ポイントであり、ここでは結果的に、1月初旬から10月初旬にかけてヒラタの「定点観察」を行うこととなった。 植物相や朽ち木の集積具合など、ヒラタの生息に適した環境が整っているポイントである。


T.材採集編(Aポイント)

1月6日(日)
 年が明けて早速活動開始。近場のポイント探しに早朝から出かけると、日の出が遅いためにいつまでも薄暗く、 風は刺すように冷たかった。採集の下見といえども季節はまだ早すぎたのかもしれない。しかし、下見の最後に、 市街地近辺としては非常によい感じのポイントに巡り会った。この日は深追いをせず、本格的な準備をして再訪することとした。
結果:コクワ幼虫1頭確認

1月14日(土)
 スコップなどの道具を持って、6日に見つけたポイントに向かった。折れた太めのヤナギの枝が半分地中に 埋まっていて、地上に出ている部分はカワラタケに覆われているという、絶好の材を発見。掘り起こして地中に 埋もれていた部分を叩いてみる。すると、太い食痕の先に何やら黒いものが。成虫かと思ったら、 大きな幼虫の死骸だった。頭幅は9mm、コクワのサイズではない。ノコか、もしかしたらヒラタだろう。 寒空の下にかかわらず、俄然やる気が出た。
 もう一つ同じような材を掘り起こすと、すぐに食痕が見つかり、若3令幼虫が現れた。頭幅は8mmほど。 あてにならない直感によれば、コクワではない。頭の形・色や気門の形からはノコには見えない。 「ついにヒラタか? やったのか?」 ぬか喜びは二度とするまいとは思いつつ、期待が高まる。
結果:不明幼虫4頭(3令2頭、2令2頭)採集

[幼虫1] [幼虫2]
不明幼虫が出るコクワ幼虫とは違う雰囲気

1月19日(土)
 ヒデキ氏とあいあん氏を早朝採集にお誘いし、同じポイントへ。しかし、不発。 コクワが割り出されたのみ。お二人には申し訳ない気持ちであった。
結果:コクワ幼虫多数・成虫♀を確認・採集

1月26日(土)
 懲りずに早朝に出撃。ヤナギ倒木の埋もれ材を掘り起こして叩くと、 14日に採集した期待幼虫と同じ雰囲気の3令幼虫が出た。コクワ確実3令幼虫も一緒に持ち帰り、 比較しながら飼育してみることとした。
結果:不明幼虫1頭(3令)、コクワ幼虫3頭(3令)採集

[幼虫]

怪しい幼虫

(注2) コクワはできるだけ割り出したくないため、ヒラタやノコに当たる確率が少しでも高くなるように、 埋もれ材を中心に叩くこととしている。それでも、見つかる幼虫の確率はコクワの方がずっと高い。 したがって、材をやみくもに叩くことができないのが辛いところである。

1月27日(日)
 自分にしてはめずらしく、昼間の採集。日曜にかかわらず家族から短時間の単独行動の許可が下りたのだ。 午後の日差しは暖かくて、早朝と比べると天国だ。コクワしか見つからない中、期待薄の細めの埋もれ材を叩くと、 3令になり立ての、体は小さいくせに頭部だけやけに大きい幼虫が出た。直感的にヒラタだろうと感じてキープした。
結果:不明幼虫2頭(3令、2令)、コクワ幼虫数頭採集

[幼虫]

上の幼虫の頭が大きいのがわかる

2月2日(土)
 早朝採集。コクワとおぼしき幼虫しか確認できなかったが、幼虫同定の研究のために持ち帰る。
結果:コクワ幼虫2頭(3令)採集

(注3) これまで採集した不明幼虫が気になって仕方がない。頻繁に飼育ビンを覗き込み、累代飼育中のヒラタ幼虫と比較してみる。 これが3月まで毎日続くこととなる。

2月10日(日)
 またまた早朝採集。とても寒かった。採集内容もとても寒かった。
結果:コクワ幼虫2頭(3令)採集

2月11日(月)
 連日の早朝出撃。スコップはすっかり車のトランクに積みっぱなしだ。いい埋もれ材が見つかり期待したのだが、 大きめのコクワ幼虫しか出ず。材叩きの最中にピーコ氏から電話が入る。長電話。その後、少し場所を移動すると、 3令に加齢したばかりと思われる小さめの幼虫が出る。腹の中がピンクがかった乳白色で、コクワとは違う感じだ。 キープすることにした。
結果:不明幼虫1頭(3令)、コクワ幼虫数頭(3令)採集

[幼虫]

腹部の色がコクワと違う気がする

(注4) 不明幼虫を採集して持ち帰ってくるたびに同定にウンウン苦しんでいる父親に対して、長女「どうせおっきな コクワだよ」 次女「ちっちゃなオオクワかもしれないよ」 自分の他は女性ばかりの家庭の中で、次女はときどき父親の 味方をしてくれる。

2月16日(土)
 相も変わらずの早朝採集に、この日はピーコ氏に付き合っていただく。細めながらも良さそうな埋もれ材を発見。 無数の食痕。コクワサイズの幼虫が続々と出るが、ヒラタかもしれない幼虫もいくつか混ざっている。 結局その材からはコクワ♀成虫が出て、それなら幼虫はみんなコクワかも知れずいっぺんに気分が萎えたが、 それでも怪しい幼虫の先行きを楽しみに持ち帰る。
結果:不明幼虫5頭(3令3頭、2令2頭)、コクワ幼虫6頭(3令)採集

[幼虫] [ピーコ氏]
不明幼虫が混ざっている材を物色するピーコ氏

(注5) 2月23日(土)、神奈川産クワガタムシ調査委員会(神ク調)の有志が集まり、S川の河川敷某所にて ヒラタ狙いの材割り採集オフが行われた。ヒラタ幼虫が濃いのに驚いた。自分はヒラタ3令幼虫を12頭採集。 この採集経験により、いつも採集しているAポイントでの不明幼虫がヒラタであるとの期待がますます高まった。

3月2日(土)
 これまで「不明幼虫」の採集という、何ともスッキリしない結果ばかり続いていたが、ついに、明らかな幸運が訪れた。 同行したピーコ氏のおかげで、一つの材から二人でなんとヒラタ成虫を♀ばかり9頭も割り出したのだ。 自身、東京でのヒラタ成虫初採集となった。(→くわ馬鹿2002年春号「ついに! 2002東京ヒラタ採集記」
結果:ヒラタ♀4頭(ピーコ氏も同じく4頭)、不明2令幼虫1頭採集

[ヒラタ]

ヒラタ♀がタコ採れ

3月9日(土)
 神ク調のくわたけ氏と本郷氏とともに採集。ピーコ氏も同行した。ピーコ氏が、倒木の根元とはいえ、 すっかり乾いていた材からノコ幼虫を出したのには驚いた。くわたけ氏はヒラタらしき幼虫を10頭ほど、 本郷氏もヒラタ♀成虫を割り出していたが、特にくわたけ氏がヒラタらしき幼虫を出したのは、 地中に埋もれておらず地上に完全に露出した太めの材からであった。ノコやヒラタの幼虫は地中の材のみと考えていたが、 採集は先入観どおりにはいかないものだと改めて思い知らされた。
結果:ノコ3令幼虫1頭採集

3月16日(土)
 モグどんを誘っての早朝採集。前回の反省から、地上に露わになっている材も叩いてみると、 なるほどヒラタらしき幼虫が出てきた。しかしながら、そうは言ってもやはり埋もれ材の方がヒラタの確率は高いようだ。 おあつらえ向きの材を掘り起こして、ヒラタらしき3令幼虫を短時間のうちに二人で10頭ほど採集した。
結果:ヒラタ3令幼虫3頭、不明初〜2令幼虫6頭採集

(注6) この頃になると、3令であればヒラタ幼虫をほぼ同定できるようになった。こうなるまでに、 どのくらいの時間をかけて幼虫の顔を見つめてきたかわからない。 (→ くわ馬鹿2002年春号「ヒラタ幼虫同定お助け手引き」

3月21日(木)
 久しぶりに一人で来たせいか、採集気分に今一つ乗り切れなかった。このポイントに飽きがきたのかもしれない。
結果:コクワ幼虫の他、ヒラタ3令幼虫の死骸を発見

(注7) せっかくの採集が惰性に流されてはいけない。Aポイントでの採集が続き、さすがに満腹感が芽生えてきたので、 この後しばらく、Bポイント(後述)を中心に他の場所を攻めてみる。

4月13日(土)
 仕事場で知り合ったあきんこ氏を、初めての材割り採集に誘う。それだったら、このAポイントしかない。 ピーコ氏、モグどんも合流した。このポイントは3週間ぶりであり、春が深まり草が伸びてきて、 よい材を探すのに苦労するようになった。しかし、首尾よくタコ採れ材を発見。あきんこ氏を除く3人で 一つの材から20頭近いヒラタ幼虫を割り出す。あきんこ氏も、そのすぐそばで、初の材採集ながらしっかり ヒラタ幼虫を割り出していた。
結果:ヒラタ3令幼虫13頭、不明2令幼虫5頭、コクワ幼虫数頭採集

[m&P] [幼虫]
タコ採れ材を削るm&P氏モグどん採集のデカ幼虫

(注8) これで、このポイントでの今シーズンの材採集を気分よく終了することができた。

(注9) なお、1月以来採集してきた不明幼虫のうち、結局3令幼虫はすべてヒラタであり、初〜2令幼虫も 多くはヒラタ(その他はノコ・コクワ)であった。


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