2001東京ヒラタ採集日誌

[鍵の写真]
by えいもん

1.プロローグ

 「東京でヒラタを採りたい」
 都区内出身のため、少年時代からヒラタには縁遠かった。今でも夏場は近所の公園の雑木林での観察を欠かさないが、残念ながらヒラタにはお目にかかったことがない。そんな憧れのクワガタを初めて採集したのは、3年前の大阪での単身赴任の時だった。幼虫でも成虫でも初めて採れたときは、大袈裟なくらい感動した。東京に帰ってから、近場でヒラタを採ってみたいという思いは募るばかりであった。

 近所で幸運を待つだけでは埒があきそうにもなかったので、この春から、少し足を伸ばすことにした。ヒラタといえば河川敷、というのが随分前にこの「くわ馬鹿」から授かった貴重な情報だ。そのおかげで河川敷のヒラタ採りを関西で実際に経験済みである。東京西部に流れる川といえば、多摩川。ヒラタ採集の実績は、いくつかのHPの採集記で確認している。さっそく多摩川を狙ってみることにした。


2.材採集編

4月8日(日)
 早朝、家族が寝静まっている中を起き出して、始発直後の山手線から京王線に乗り換える。あてはないが、多摩川が見えたら適当に降りようと思った。八王子市某駅で降りてみると、そこは多摩川の支流であった。早速川沿いを歩いてみるが、思ったような雑木林はない。ヒラタ採集の定番であるヤナギは特に乏しい。ようやく見つけた実に貧弱なヤナギの根元で埋もれかかった流木を叩いてみる。それでもクワガタの幼虫は出る。もちろん一目、コクワ。でも頭部の色が濃いような気もする。4頭キープしてしまう。コクワでも採れれば嬉しい自分が情けない。(→後日、4頭ともコクワに羽化)

[林の写真] 河川敷のしょぼいヤナギ

[幼虫の写真] コクワだよなぁ

4月14日(土)
 出たとこ勝負では、やはり勝ち目は全くない。そこで、八王子市在住の田老さんにお付き合いいただくことにした。日野市の多摩川本流河川敷の雑木林へ。ヤナギは少なく、ハンノキ?が多い。倒木を叩き始めるとコクワ幼虫がボロボロと出る。ヒラタを狙うなら朽ち木の根っ子を掘り返さなければならないが、気軽に掘り起こすのに適当な木は見当たらない。しかたないので、倒木の根っ子付近や水際に落ちている流木を叩くこととした。やはりいつもの幼虫が次々に出る。コクワってこんなにもいるものか。結局、大きめのものを選びに選び10頭ほど持ち帰り、一縷の望みを託す。だって、あれだけ沢山の幼虫が、まさかみんなコクワってこともないでしょう。ヒラタ幼虫の同定に自信がない自分が悲しい。(→実際は後日みんなコクワに羽化)
 途中、デジカメを紛失して長い時間探し回り、田老さんにはたいへんご迷惑をおかけしました。

4月22日(日)
 もう、悔しくなってきた。3週連続の採集行きだ。電車での採集は不自由でしかたがない。夜明け前に起き出して、車で多摩川中流域へ向かい、ポイント開拓。昭島市の河川敷をとにかく歩いてみる。が、やはり一人で掘り起こせる木はなかなか見つからない。地中に埋まっている流木を中心に叩き続ける。見慣れた幼虫が次々と顔を出す。コクワ採集なら何もこんなところまで来る必要はない。それに、これ以上多くのコクワを飼育してられないぞ。叩く木を慎重に選びながら、大きめの、見慣れてない幼虫が出てくることを祈る。ようやくヤナギの根部の朽ちた部分を掘りあてて、叩いてみる。「一縷の望み幼虫」をやはり10頭ほど持ち帰るものの、再び惨敗と確信。(→惨敗の予感だけはけっして外れることはない)

[幼虫の写真] あなたにはよくお会いしますね

(注1)
私は家族との関係で、週末における遠出の単独行動を控え気味にしている。日頃仕事が残業続きなので、週末の家族との時間は貴重だ‥‥というか、自分勝手な行動は家族の手前非常にやりにくい。単身赴任のときは、家族の元に帰らない週末は季節を問わず、それこそ一日中野山を出歩いていたのに。今は、一人で採集やポイント探しに出るときは、家族生活にとって支障のないよう、未明に出発して朝の9〜10時には帰宅するというパターンが多い。その時間帯なら、一人で車を使うことも家内から何とか許される。夏場の樹液採集は、このような家庭事情に加えて交通事情も勘案して、もっぱら深夜採集である。体力的には結構しんどいのだが。
(注2)
上記ののような事情もあり、私の採集は基本的に近場採集である。自宅が都心近くなので、採集できるポイントは限られる。したがって、オオクワなどを狙うのは、実力不足も相俟ってとてもできたものではない。今の生活環境の下では、近場でヒラタを狙うことが、自分にとって十分挑戦的な課題だと考えている。
(注3)
ヒラタを狙うのは、@ヒラタが好きだから、A近場採集においては十分に狙い甲斐があるから、という理由に加えて、 B河川敷の材割り採集は罪悪感をさほど生まないから、という理由もある。河川敷は私有地ではなく、また、大雨であっさりと洗い流される環境なので、ある程度のマナーを守れば気兼ねなく材割りができると思う。
(注4)
しかしながら、ヒラタ幼虫採集は実に容易でない。そもそも東京方面のヒラタは小さな個体が多いから、幼虫はコクワとの見分けがつきにくいのではないか。また、いったん材割りを始めると、いくら根部狙いといえども、コクワやノコ幼虫をたくさん割り出してしまうのが常である。何とかコクワやノコに迷惑をかけずにヒラタだけを割り出してみたいのだが、それは無理というべきであろう。という訳で、ヒラタ狙いのはずが結局多くのコクワ幼虫を飼育するはめに陥ってしまう。
5月12日(土)
 GWの間は採集に出ることができず、ヒラタへの思いは日に日に増すばかりであった。GW過ぎの最初の週末、待ちきれないように、未明の暗いうちに中央高速を飛ばして昭島市へ。無駄なコクワ割出しを極力避けるため、ヤナギの朽ち木だけを探し、その根を掘り起こして根部だけを叩き、倒木・流木には目もくれない、と固く誓って臨んだ。その思いが通じたのか、早速ヤナギの朽ち木っぽい切り株を発見。何とか掘り起こして叩いてみる。2令幼虫がいくつか出てきた。この時期での2令は、4月以降今まであまり見たことがなかった。2令にしては大きめな気がしたし、何となくコクワではないのが混ざっていそう、というのが正直な直感だった。5頭ほど割り出し、もしかするとという期待を胸に帰途についた。(→3令になると、2頭はコクワと判明。残り3頭については後述)

[幼虫の写真] 顔を出した2令幼虫

(注5)
この頃、あいあんさんのHPに「神奈川産クワガタムシ調査委員会」なる地下組織?が立ち上がった。私は迂闊にも直ちに入会を申し込んだところ、主催者を除くと何と最初のメンバーとなってしまった。何と大それたことを。これを機に、採集ポイントが「東京」だけでなく「神奈川」も含まれるようになる。
5月13日(日)
 懲りずに連日の早朝採集を断行。前日、対岸に多くのヤナギが見えたので、この日はそちら側を攻める。確かにヤナギが濃い。これはいい雰囲気だと思った。その中でようやくヤナギと思われる細い朽ち木を発見。砂地なのでわりと楽に根部を掘り出した。既に太めの食痕が見えていた。宝の箱を掘り当てたような気がした。

[根っ子の写真] 宝箱には何が入っているのか

 叩くと、前日同様、まず2令幼虫が出てくる。5頭。次に太い食痕を慎重にたどってみる。出ました。けっして大きくないが、極太の幼虫。こんなコクワは飼育下でも見たことがない。特に臀部が太いので、尻が紡錘形であるコクワ幼虫には到底思えない。一方、頭幅が小さい気もしたが、東京サイズはこんなものだろう。ヒラタ幼虫であることを確信した。そうすると、2令幼虫の方もヒラタであるように思えた。踊り上がるような気持ちで帰途についた。(→蛹化の結果は後述)

[幼虫の写真] ピンボケですが、見事なお尻

[幼虫の写真] 脂肪たっぷりのまるまるとした幼虫だが

5月19日(土)
 前週の採集で、課題をやり遂げたとの思いであった。そんなことから、この週末は多摩川といっても全く別の場所を攻める余裕が生まれていた。それは、下流域。上記調査委員会を意識して、川崎市側の土手や河川敷をルッキングして廻った。前週までの中流域と異なり、ヤナギはほとんどない。土手にはエノキが多く、クヌギもちらほらと見られる。しかし、クヌギは私有地内であったり、ホームレスの簡易住居の柱の一部に使われていたりで、近づけないものが多かった。結局、数時間かけたものの、樹液採集に望みがありそうなクヌギを1本見つけただけであった。

(注6)
この日のルッキングで、カブト幼虫タコ採れ場所を発見した。川の土手とはいえ、都市部のまっただ中に貴重なものを見つけたので、早速翌日、近所の少年を連れてカブト掘りをした。少年は初めての経験に熱狂していた。
5月25日(土)
 ヤナギの朽ち木根部から採集した2令幼虫が、ちらほらと3令に加令し始めた。よく見ると、頭部が正円のように丸い形状で、その色は赤みを帯びていると言っていいほど濃い。これは、ノコギリだ。よもやヒラタと期待していただけにがっかりした。(→結局12、13日に採った2令幼虫はほとんどノコであった)
 しかし、これらの幼虫と比較してみると、13日に採集した極太3令幼虫は明らかにノコとは違っている。頭部の形は正円ではないし、色はオレンジ色だ。加令した幼虫がノコと判明して、かえって極太3令幼虫についてヒラタであるとの確信が揺るぎないものとなっていった。

6月2日(土)
 5月13日に叩いた朽ち木の残りの部分を叩きに再び中流域へ早朝採集。2令幼虫が3頭と、3令の太めの幼虫が1頭採れた。その3令幼虫は、コクワらしくもあり、先日の個体ほどにはヒラタとの確信を持てなかった。(→結局その3令幼虫は傷つけてしまったのか、間もなく☆に。2令幼虫は上記同様ノコに)

[幼虫の写真] これはやはりコクワ?

6月8日(金)
 5月13日に採集した極太幼虫が蛹化した。既に、これまで飼育したどのコクワよりも大きな蛹室を作っていたので、ヒラタ蛹化の期待に胸がはずむ瞬間であった。が・・・・・・、まだ透き通るような蛹の大顎は、何と、見慣れたコクワの形状を示していた! 恥ずかしながら、もの凄い胸の痛みようであった。落ち込んだ。へこんだ。

(注7)
この蛹は、後日、48ミリのコクワガタ♂に羽化した。羽化個体を瓶から掘り出したとき、あんな極太でも結局50ミリに届かないものかと、再びがっかりした。今から思うと、採集して持ち帰ったりしなかったら50ミリオーバーのワイルドになっていたのかもしれない。


[コクワの写真] シェンク? カブトより大きなコクワ

(注8)
それにしても、と思う。なんでコクワってあんなにたくさんいるのだろう。河川敷にある広葉樹の朽ち木、倒木、流木すべてに幼虫が入っているように思える。持ち帰らずに埋め戻した幼虫は相当な数にのぼる。それが、これまで見てきたところ、ごく一部を除いてことごとくコクワなのだから、まことに恐れ入るとしか言いようがない。

3.樹液採集編

 やはりヒラタは採れない。下手だからしかたがない。でも、採りたい。どうしても採りたい。そう思っているうちに、すっかり材採集から樹液採集のシーズンに移っていた。しかし、生活環境に変化はなく、これまでどおり、短時間の採集を積み重ねていくしかないのだから、今さら新規ポイントを開拓する余裕がない。樹液採集も、4月から回ってきた、なけなしのポイントに賭けるしかないのだ。

6月16日(土)
 懲りずに早朝出撃。昭島市のヤナギのポイント、その後川崎市のクヌギのポイントを回る。昭島市のヤナギの根元付近でいきなりノコ中歯型をGET。幸先よしと思ったが、その後はおよそ10本のヤナギを回ってコクワ♂1頭が見つかるのみ。コウモリガは多そうで、ここそこに樹液は見られるものの、樹液につく虫の影は薄い。雰囲気は良くても、有望ポイントではないのかもしれない。しかし、自分自身ここのポイントについて経験も知識もまだ十分にないのだから、とにかく何度でも回ってみるしかない。こんどは夜に来てみよう。

[ノコの写真] 中歯型ながらきれいなノコ

 川崎市でもコクワ♂2頭だけ。ボコボコのクヌギなのに樹液の出が今ひとつだったので、そのポイントは暫く回らないこととする。

6月21日(木)
 残業より帰宅後、深夜に昭島市へ出撃。初めて夜に踏み込む河川敷であったが、見事にボーズ。週末だと競合者がいるかもしれないと平日に無理をしたのだが、こんなものか。

6月24日(日)
 夜明け前に昭島市のポイントへ。馬鹿の一つ覚えだ。結果はヨツボシケシキスイが見つかったのみ。さすがにこれでは帰れないので、八王子〜日野を車でルッキング。雰囲気のありそうなクヌギを見つけたので、藪に踏み込んでみたが・・・・、カブトとコクワがついていただけ。だからと言ってカブトを持って帰ってどうする。(→直ちに近所の少年にあげた)

6月28日(木)
 またまた平日帰宅後深夜採集。昭島市〜八王子市を回り、コクワ数頭を見つけただけ。再び、眠くて気の晴れない金曜出勤が待っていた。

(注9)
私は採集していること自体が好きなので、結果がどんなにしょぼくてもあまり気にならないのだが、こうして改めて振り返ると、アホかと思うほど採集下手である。しかし、こうして費やした時間がほんとうに無駄なのかどうかは、分からない。ボーズを重ねても、その一つ一つに必ず体得しているものがあると信じている。採集の腕は、失敗を含めた経験の積み重ねによってのみ磨かれていくのではないか。
(注10)
もちろん、そもそも採集ポイントの選び方が下手なので思うような結果が得られない、ということはあるのだろう。樹液採集が始まる前の、冬から春のかけての採集ポイント選びは、たいへん重要で、本来ならできるだけじっくり時間をかけたいところである。
(注11)
なお、ここまでの採集結果について、「採集ポイントとして間違いはなく、ただ、採集競合者に先を越されているだけだ」と楽観的に考えることもできるかもしれない。実際に、採集ポイントについて他に選択肢を持たない私は、そうした考えに立って、他の採集者と競合を避けるために、平日深夜採集というサラリーマンとしては無謀な行為を繰り返していくのである。
7月4日(水)
 米国の建国記念日が日本の休日である訳でもないのに、全く懲りることなく昭島市へ深夜採集。この日は藪こぎに藪こぎを重ねてでも、できるだけ多くのヤナギを見て回ろうと思った。しかし、樹上に見つかる黒い影は、やはりコクワのみ。ノコさえもいない。その代わり、写真のような大きな外道を見つけた。東京で見るのは初めてである。
 なお、この日は、生まれて初めてスピード違反でつかまるという記念すべき日となった。

[カミキリの写真] ヤナギを齧るシロスジカミキリ

7月18日(水)
 深夜採集へ。もはや、日頃の仕事のストレスを車の運転で晴らすということにしか意義を見出し得ない採集行である。しかし、惰性で続けている訳ではなく、毎回期待だけはしっかりと抱いてポイントに向かっている。昭島市のヤナギで、コウモリガの幼虫が穿ったと思われる小さな洞に顎を突っ込む黒いドルクスが見つかった。そっと引き出すと・・‥、何と、スジクワガタの♂であった。34ミリあり、立派な顎である。これはこれで結構嬉しかったりした。

7月28日(土)
 未明に起き出して、久しぶりに川崎市のポイントに向かう。といっても、有望なのはたった一本のクヌギだけなのだが。そこは期待どおり、樹液が溢れ始めていた。ただし、早朝のせいもあるのか、見られたのはカブトとコクワのみ。まあ、ここも周囲は都市部と言えるような所なので、本来はこれで十分な成果なのだろうが。こんどは夜に来よう。

8月4日(土)
 昭島市と川崎市のポイントへ深夜採集。夜、車を走らせると、周りの環境が全く見えないので、知っているポイントに向かうほかはない。そもそも採集時間が長くとれる訳ではないので、これはこれでしかたがないのだが、付近にどんなにいいポイントがあるかも知れず、何とも非効率な採集のような気もする。昭島市はコクワ♂♀1頭ずつ見かけただけの惨敗。やはりポイント選びを間違えているのだろうか。
 川崎市のクヌギは、カブトとコクワとノコと無数のゴキブリが入り乱れて酒盛りの真っ最中であった。ノコが活発に動き回っている間は、ヒラタが採れる可能性は低いのだろう。

[カブトの写真] カブトが活発

[ノコの写真] ノコも活発だがヒラタはいない

8月8日(水)
 川崎市のポイントが有望な状況になっているので、この日も深夜に向かってみる。このポイントは、6月下旬〜7月の夜にもっと足繁く通うべきだったかもしれない。この夜は、数が少なくなっていたが、顔ぶれはノコ、コ、カブトと先日と同様だった。

(注12)
私は、こうしたヒラタ狙いの近場採集以外にも、ちょくちょくと採集に出掛けている。特に、家内の実家が鎌倉なので、鎌倉から葉山にかけて、いくつか自分なりのポイントを持っており、家内の実家へ家族を連れていくたびに、夜になるとこっそり抜け出して採集をしている。この夏は、三浦半島で初めてミヤマをいくつか採集できた。もちろん、一番の狙いはヒラタであることに変わりはない。
8月10日(金)
 鎌倉・稲村ヶ崎の家内の実家に泊まる。蒸したいい夜であった。皆が寝静まったのを待って、むっくりと起き上がり、車で逗子・葉山方面のポイントへ向かった。昼間渋滞している道でも、日が替わる時刻にはスイスイと走る。で、横須賀市の本命ポイント。台場風で洞のあるいいクヌギがあり、その一帯は低地にもかかわらず、先日ミヤマも採れた。静かに近づき、洞に懐中電灯を当てると・・・・。
 洞の入り口近く、いつものコクワと違うシルエットが目に飛び込んだ。奥に逃げ込まれないよう、すぐに指で押さえ、慎重につまみ上げた。大顎に目をやる。ヒラタだった。大きいと思ったが、実際は41ミリの♂。これが私自身、関東地方で初めて採集できたヒラタであった。

[ヒラタの写真] ついに採れたヒラタ。残念ながら右触覚が欠けていた

(注13)
ミヤマとヒラタが同じポイントで混生している三浦半島の自然の深さを感じた。このようなことは、大阪の川西や能勢以来の経験であった。


[ミヤマの写真] 三浦半島のミヤマ

(注14)
下手くそなくせに、とにもかくにもヒラタを採集できたのは、この「くわ馬鹿」をはじめいろいろなHPや掲示板における他の方々の活躍に励まされた結果に他ならない。感謝申し上げたい。こうして初めて関東地方でヒラタを採集できた訳だが、しかし、それは本来の狙いの「東京産ヒラタ」ではない。目標はまだまだ達成されていないのだ。
8月15日(水)
 深夜に、相も変わらず川崎市と昭島市のポイントへ。両ポイントは同じ多摩川沿いながら、道路で測った距離はけっして近くはない。毎度非効率な組み合わせであるが、しつこいようだがポイントは当面それしか知らないのだ。この夜は、両ポイントともコクワとカブトのみ。河川敷のヤナギにつくカブトを初めて見た。

[カブトの写真] ヤナギにつくカブト

8月25日(土)
 もはやほとんど機械的に川崎市・昭島市の両ポイントへ深夜採集に向かう。川崎市ではもうノコもカブトも見られず、晩夏ということでコクワが勢力を伸ばしていた。昭島市は、22日の台風で河川敷がすっかり洗い流されており、状況が一変していて、ヤナギはあちこちが泥まみれ、樹液も涸れていた。もうこのポイントはこの夏は終わりだと思った。

(注15)
結局、昭島市の多摩川中流域の河川敷ポイントは、樹液採集だけでも高速を飛ばして10回も通ったにかかわらず、ヒラタという本来狙った成果はゼロであった。勉強になった、としか言いようがない。でも、直感的にはこのポイントはいい雰囲気を持っている。あきらめきれない。反省点としては、ヤナギにヒラタが好みそうなほどの深い洞が少ない、ということがある。今後、洞を探すという視点から、この周囲でもう少しポイント開拓に努めたい。
9月8日(土)
 川崎市ポイントへ深夜採集。予想どおり、コクワとゴキブリだらけ。もう樹液採集シーズンも終わりなのか。

[コクワとゴキブリの写真] コクワとゴキブリの天下

(注16)
ヒラタを樹液採集で狙うには、初夏の、それもノコやカブトが出る前の6月までがいい、とよく言われる。それならば、それらがいなくなる9月はどうなのか。9月がヒラタ採集に適しているという話はあまり聞かないような気がするが、実は有望なのではないか。現に、飼育下のヒラタは、オオクワよりも冬眠に入るのが一般的に遅く、餌さえあれば、9月はおろか10月まで活発に動き回っている。自然下でも、樹液さえ出ていれば、9月は狙い目なのではないかと思う。
(注17)
9月も半ばを過ぎると、どこかで今シーズンの樹液採集にけりをつけたいと思うようになる。いつ幕を下ろせるのだろうか。
9月26日(水)
 その夜は、9月下旬に似合わず、かなり蒸した、匂い立つような夜だった。家内からどんなに白い目で見られようと、採集に出かけたい気分であった。いつものように残業から帰ると、めずらしくまだ起きていた長女から、「先生がコクワガタのオスを拾ったので、学校で飼うことにしたから、ケースを頂戴」と頼まれた。「オスだけでは寂しがるから、メスを採ってきてあげよう」と即座に答えた。こんな時間から採集に出掛けるための何たるエクスキューズ。しかし、この心騒ぐ夜に娘の方からクワガタの話をするなんて、大袈裟に言えば運命の後押しを感じたのである。呆れる家内を後目に、採集に出た。
 向かうところは川崎市のクヌギ一本しかない。しかし、この夜に行かなければ、悔いを残すと思った。真の狙いはもちろんコクワ♀ではない。40分ほど飛ばした車を停めてポイントへ向かうとき、携帯するはずだったデジカメを車内に忘れていた。このことは、横須賀でヒラタを採集したときと同じだった。何かに急かされるようにクヌギに近づいていった。
 懐中電灯を照らすと、まずコクワ♂が目についた。次に、そのそばに、もっと小さな、しかしツヤのあるクワガタがいるのに気が付いた。もしやと思い、急いで手に取った。小歯型であるが、見慣れたコクワとは顎が違う。それに、このピカピカしたツヤ。そこで、前足を確認してみた。しっかりと内側に湾曲している。これは、ごく小さなサイズではあるが、ヒラタの♂ではないか。真っ暗な中、懐中電灯だけを頼りに、何度も何度も確認した。やはりヒラタである(後で測ると♂のくせに24.5mm)。嬉しさとともに、ポイント選びに間違いはなかったという満足感がこみ上げてきた。
 その後、時間をかけてクヌギの洞、樹皮の裂け目など、すみずみをチェックした。しかし、あとはコクワ♂数頭とゴキブリだけであった。それでも車に引き返すときの夜風がたいへん心地よかった。

[ヒラタの写真] ピッカピカの個体。これでもヒラタ

10月2日(火)
 昼間がこの季節にしては暑いくらいの陽気だったので、深夜を待って、ヒラタの採れた川崎市のポイントに向かう。しかし、夜はもうすっかり秋の風だった。コクワ2♂が見られたのみ。これで今シーズンの樹液採集の幕を引くこととした。


4.エピローグ

 川崎市といえども多摩川沿いのポイントなので、ほとんど東京産と言っていいヒラタを、シーズン最後の土壇場で採集することができた。繰り返しになるが、これは、ここに集まっておられるくわ馬鹿な方々から私自身が勝手に励まされたおかげである。感謝しても感謝し足りないものを感じている。私の非効率な採集ぶりをここに余すことなく暴露した訳であるが、読んでいただいた方々は呆れておられるのではないだろうか。それでも私なりに何とか結果を出せたことには、素直に満足している。

[ヒラタの写真] 左:飼育個体66ミリ 中:採集個体25ミリ 右:採集個体41ミリ

 しかし、最後に採れたヒラタ、厳密には東京産ではない。また、あまりにも小さい(むしろ逆ギネスか?)。飼育を考えれば、♂だけでなく今度は♀も是非採りたい。採集欲には限りがない。こうして近場採集をまだまだ続けるのかと思うと、我ながらやれやれという感もある。これを書いている今は、ちょうどクヌギの葉がすっかり落ちたところだ。年が明けたらまたポイント探しから始めようか。(了)

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