懐古趣味音源ガイド    其弐拾弐

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337 jyake01 1975

Warrior on the edge of time/Hawkwind

マイケル・ムアコックが曲間で詩なり小説の朗読をしてしまう中期の代表作です。前期がハードSFなら中期はスペース・ファンタジー。ちなみに最後はスペース・オペラです。音の方は前期はメカニカルでサイケなアイディア勝負、中期はアレンジと完成度、後期はもう盆踊りかハチャメチャなメタル色が濃厚で格好良いと取るか衆愚化したと取るかは好みの分かれ目。冒頭、サイモン・ハウスの洪水のようなメロトロンが冷やっこくて気持ち良い。怒濤のように流されて場末の浜に打ち上げられて、死にかかって陽光にきらきら輝いているクラゲのようだ。

338 jyake02
32VD-1021
1986

So/Peter Gabriel

CDが出始めた頃のリリースで、まだまだLPに比べ随分と高価だった。最近のハイエンドにおけるアナログ回帰を見ていると、CDの優越性というのは随分といい加減なものだったということがよくわかる。HDCD、あるいは某メーカー肝いりのSACDというものもあるけれど、どこまで普及するやら。個人的には音質に対する欲求よりも経年変化に対する耐用性を考えて欲しいものだ。ポリ・カーボネイトの耐湿性、紫外線耐性や記録面塗膜の物理的脆弱さは記録メディアとしては致命的だと思うのだが、本質的に恒久性というものは商売と反目するものだから、脆弱性は解決することなく永続していくのだろう。ソロになって五作目くらい。玄人受けしそうな貫禄十分なわりには、ポップで若干エキセントリックな売り方が意外に一般受けもしていた。地味だしひどく陰鬱な感じもしますがケイト・ブッシュ(Kate Bush)とデュエットしてる「Don't give up」が秀逸。すっきりしてて。

339 jyake03 1976

Technical ecstasy/Black Sabbath

くたびれてきた7作目。キリコの絵みたいなジャケを見てもわかるように、少しイメージチェンジを意図したのかもしれない。中身の方は仰々しい構成が薄れてタイトにシンプルに締まってきた印象があります。技巧的ではあるが狙いは簡潔なブルーズ・ロック路線へ回帰したといったところでしょう。オズボーンが歌っていない曲もあったりして、まぁ、いろいろあったのでしょう。実はその「It's alright」を歌っているビル・ワードの声がほのぼのとしてて誠にいいなぁとかも思っていたりして噴飯ものですな。えっ? お前みたいなのは退場? 失礼しましたぁ。

340 jyake04
ThunderBolt
CDTB 055
1987

Supranatural/Neuronium

随分と軽くて今風になった分初期の気概は失われたが、きれいで聴き易くはなったか。なんだかNHKの紀行番組のBGMみたいなフレーズが増えてきて困ったものだ。相変わらず尖鋭過ぎず、ウェットで少しもっさりした感性は私にはぴったりかもしれない。ちょっと不思議な浮遊感がでてきて、秋風に誘われてたった今観察してきたミズクラゲのようだ。カツオノエボシほど美しくはないけれど(美しいものには毒があるし)夏の少し濁った暗い水色の中で白く透明に映える。流れに逆らって一所懸命泳いでいるんだが、ちっともそう見えなくて、流されているようにしか見えない。ゆるりゆるりと。

341 jyake05 1974

Starless and Bible black/King Crimson

リアルタイムで聴いた初めてのクリムゾン。凄過ぎて、あるいは幼過ぎて当時は意味不明だったなぁ。和紙のような手ざわりの真白な紙に炙り出しのようなタイトル、内ジャケは全面千代紙張りという美しいアートワークですが、真白な闇なんて子供にゃ理解できなくてもしょうがない。この時期はR・パーマー・ジェイムズという作家が歌詞を作っていますが、これがまた難解(ピート・シンフィールドよりは歳がいってそうだけど)の極みでおたおたしてしまう。レンブラントの「夜警」に触発されて書いたと思われる「Night Watch」など未だに輝きを失わない絶品の数々。真似のできない高みというか、音楽に対する教科書的認識を根底から覆されて慌てた記憶が鮮明に残っている。即興の比重が高くてボーカルが入ってる曲以外がアムステルダムでのライブテイクだということが発覚したのは随分経った後だと思いましたが、これが後の得意技の第1弾。

342 jyake06 1970

Shooting at the moon/Kevin Ayers and the Whole World

ワイアット(Robert Wyatt)が云うには、もともと「地元ではちょっとした有名人」だったソロ名義二作目です。もちろんかなり変てこな意味での有名人らしい。「牡蠣と飛び魚」では飛び魚になりたいのになれない牡蠣の気持を女の人とデュエットしていますが、思いっきり楽しくいかれてます。普通は寓話だったり何かの暗喩だったりするわけだけれど、この人の場合はあながちそうとは言い切れないところがあって少し恐ろしい。ただのナンパ歌の名曲「May I」みたいのもあるんだがねぇ。しかしこのまるでギターみたいに弾いてる(マイク・オールドフィールドの)ベースは凄い。なんちゅうか前代未聞、初聴時はたまげた。ジャズの人コクスヒル(Coxhill)の味のある管楽器、現代音楽の人ベドフォード(David Bedford)のアコーディオンも実にフランス風で可愛らしい。「May I」もライブではフランス語で歌っているものなぁ。考えてみればプロ中のプロみたいな凄い(年の開きも凄そう)メンバーでさらっと流して「どぅ?」みたいなさりげなさ。

「May I」
 
ちょっと道を折れて
何か食える店がないかとさがす
小さなカフェがあって、女の子が座ってる
そして、こう言うんだ
 
ここに少し座ってもいいですか
君の笑顔と友達になりたいんだ
 
何も喋らなくてもいいんだ
歌無しの歌みたいなもんだよ
髪に陽光がきらめいて
そこに座ってるだけで素敵だな

なんだか少し淋しいけど、中年おやぢになってこういう心境がよくわかります。やったことはないけどねぇ。

343 jyake07

わらべ唄/不詳

一応おなじみの曲が15曲ほど入っているのですが、知らない(忘れている?)ものもあるなぁ。今更ながらによ~く考えると意味がわからない歌が多くて不思議です。こういう歌を歌っていた頃には気にもしなかったのでしょうが。昔から不思議に思っていた「かごめかごめ」なんぞ、暗号説とか間引き歌説とか、ちょっと調べてみるといろいろあるものです。「通りゃんせ」にしても「あんたがたどこさ」にしても「花いちもんめ」にしても極めて隠喩に富んだ意味深さが特徴ですが、そろそろこういった伝承も消えていきそうな気配です。現在の教育事情というか子供社会? みたいなものにはとんと縁がありませんが。

344 jyake08 1970

Atom Heart Mother/Pink Floyd

今となってはほとんど古典といっていいのではないでしょうか。スタジオテイクは混成合唱にフレンチホルンとチェロ付きですが、4人でやってる何にもないライブもそれなりに感慨深くかつ面白い。実際、組曲の構成、アレンジ、合唱パートやチェロパートはすべてロン・ギーシンにブン投げたというのが実情だったらしい。まぁ、裏話はともかく、人の顔があるに決まっていたはずの部分にただ「見返り美人」ならぬ「見返り牛」だけのタイトルすらないジャケのデザインに一票。『Meddle』の次くらいに聴いた記憶がありますが、最初はこっちの方が理解し易かったかもしれない。LPのB面の小品(特に「Fat old sun」とか「Summer '68」とか「Breakfast」の卵焼くところ)の地味さも実に好みでして、彼等の本質は実はこの辺にあるのではないか? 等とも思っておるのです。うーん、おいしいオムレツが食いたいよぅ。

345 jyake09 2000

Kid A/Radiohead

一般的にも随分と評価が高い近作。何もわからないんでWebで少し調べたら膨大なリンクがヒットすること。ヤマセのような風が吹きぬけて身体の表面温度が低下するこの頃、秋の夜長に合いそうな音です。そのまま下がっていってしまいそうな、恒温動物辞めるのか? って感じですか。アンビエント・テクノ風にデジタルに入れ込んでいますが、意外に生っぽい部分があるなぁ。素直に面白がれないところはやっぱり歳を食ったということだろう。かつてのプログ風の趣がそこはかとなく感じられて、微妙に居心地が悪い。というか、これ弟の日本盤なのだが、なんか変な付録みたいのが付いてて著しく気持ちが悪い。こういうかたちで売る意味って何なのだろう。ま、関係ないけど。でもこの声、誰かの声に似てるんだが思い出せない。

346 jyake10 1988

Children/The Mission

さてさて、何故ミッション好きなのか自分でもきちんと把握してないのですが、何故だろう。ゴシックと云うわりにはなんとも綺麗なのだ。ウェイン・ハッセイの才能なのだろうがこのやたらと流麗に流れていくメロディは一歩間違えると歌謡曲であろう。シスターズ(Sisters of Mercy)ほどではないにしても暗いし、重い。でも聴いてるうちに曲を全部覚えてしまう親和性の高さは傾聴に値する。滅多にないことです。前作よりも一層こなれて2作目とは思えないほど円熟味が増しています。つまらない曲がまったくなくて、こう、力は入っているのだけど、男だけど、しなやかでたおやか。もっともシスターズの影が薄れた次作以降は今ひとつピンとこないもんで、やっぱり囚われているのはシスターズの残滓なのかもしれない。

347 jyake11 1972

YS/Balletto di Bronzo, Il

四部構成による全一曲。重くて暗くてしなやかという意味では誰にも負けない。バロック風のチェンバロと陰鬱でアナーキーなリズムがただ終章のカタストロフに向かって突き進む、直情径行、元祖ダーク・ゴシック。ムゼオのツァラトゥストゥラに匹敵する(越える)暗黒と緊張。非常に攻撃的で変拍子を多用した不安感を煽るような暴走に次ぐ暴虐。聴き終えるとなんかもうヘトヘトです。バロック風な要素を除くとほとんどイタリア臭さはなくて、非常に先鋭的というか切れまくってます。低くたれ込めた雨雲の下で離陸しようとしても足を水でばしゃばしゃやりながら滑走して、なんとか風をつかまえてようやく低空飛行をしている雁みたいに少し悲しい気がするけれど、その名の通り青銅人形が踊っているバレエのようなぎくしゃくとした異形。

タイトルは『イース』と読んで、フランス、ブルターニュ半島にあったというケルト伝承上の都市を指すらしい。繁栄と栄華は一夜にして水没するというよくある話。ちなみにすぐ北側のサン・マロ湾は満干潮の差が15mほどときわめて高く、大潮のころは洪水のように潮が押し寄せるのはモン・サン・ミシェルでもお馴染み。

348 jyake12 1987

Filigree & shadow/This mortal coil

プロジェクト2作目。74分を越える大作ですが前作よりも一層地味です。前作では演じている人の個性に寄りかかっていたものが、ここでは完全に統率されたアイヴォ(Ivo)の意識に制御されている。もちろんより一層暗くて重くてそして美しい。モノクロームに美しい。かたちだけがゆらゆらと揺れているような、掴めそうで手を伸ばしても届かないもの。するっと逃げられてしまうもの。プロジェクト名はハムレット(シェイクスピアの)の台詞「... When we have shuffled off this mortal coil,Must give us pause.」から来ているそうだが、そういえばこの間、久生十欄の『ハムレット』は読んだ。って全然関係ないですね。「浮き世の煩わしさ」という意味だそうです。やだなぁ。

349 jyake13 1975

Birds/Trace

ジャズ風、クラシック風、ロック風、ナイトクラブ風と何でもござれのリンデン老(歳は知らぬが)のワンマン・プロジェクト。ゲスト参加のダリル・ウェイのバイオリンも凄いですが、やはり超絶技巧のピアノ、ハープシコード、パイプオルガン等々を弾きこなすリンデン老には脱帽ですね。前半はバラエティに富んだ小品、後半は組曲で締めてますが、私はホテルのレストランかナイトクラブのBGMピアノみたいな小品が好みです。ちょっとした木陰で、食事というよりは、冷え過ぎていないビールでも飲みながら道行く人をぼんやりと眺めている、なんとなく時間が過ぎてゆく光景。『ベニスに死す』のラストのような無残。

350 jyake14 1980

Symphonie pour le jour ou bruleront les cites/Art Zoyd

「町が焦土と化す時のための交響曲part1、part2」と「愚かな町の二枚の写真(絵?)」という小品ですが、相変わらずの強迫室内楽です。巷ではチェンバー・ミュージックと言われておりますが、その名の通りかつての弦楽四重奏の形式を借りたもの。最近は映画のサントラなども手がけているそうですが売れているのだろうか?(売れているわけないじゃんという反語)。羽根飾りのついた靴をはいた女の人の足の影絵をモニターに映したスリーブが格好良くて視覚を刺激します。アンサンブルも神経をかきむしるようなゾクゾクするほど刺激的な音に満ちていますが、とても逆説的に綺麗、かつ変態です。予測できない流れのような唐突さとあり得ない音階が不意に出会う鮮烈なシュール。

351 jyake15 1992

Holy smoke/Peter Murphy

『Deep』の次か。乗りのよい部分は少し影を顰めてどよんとした暗さが戻ってきた。次作『Cascade』のような諦観した明るさもないから少し地味に感じるかもしれないが、かなり力は入っているようだ。相対的にキャッチーなポップさが再びエキセントリックな気難しさに取って代わられた。がしかし、こちらの方が本質的には似合っているような気はします。抜けるような音の良さというか、エレガントな品の良さまで感じられて、ポストパンクかぁ? 既にそうでないことは自明にして、ボウイーやフェリィと同じ道を歩き出しているのだろう。

352 jyake16 1973

Dedicato a Frazz/Semiramis

キワモノっぽい雰囲気ですが中身はいたってまともです。暗鬱なジャケ通り重暗いとはいえ、アコースティックな軽妙さと特有の情熱的で粘っこい歌い方も同居している。ラフで未完成な部分もありますが、総じてアンサンブル指向でかなり計算された曲作り、目まぐるしいまでの展開が特徴です。生きのいいリズムとメロディがキラキラと映えています。なんと曲を書いてる頭目ミケーレ・ザッリロは当時17才だそう(と、どっかのWebで見た記憶)で、驚くやら呆れるやら。

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最終更新日 2005/06/06