懐古趣味音源ガイド    其八

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113 jyake01
WMMS 029
1982

In Blau/Anyone's Daughter

変に凝りまくっていなくてとても素直で素朴なエニワンズ・ドーター(以下AD)4作目。5、6分の中尺曲6曲に15分超えの三部構成組曲が1曲。前作は朗読+演奏でトータル1曲というプログ大作だったが、今作は歌曲でまとめた小品集といった内容で、親密でこなれ、少女趣味といわんばかりにロマンチックなADの世界を余すところなく堪能できる。タイトル、歌詞はすべてドイツ語。所有音源は93年再発のデジタル・リマスター。タイトルはジャケ絵のイメージ通り『青の中』。

10年ほど遡るノヴァーリスなどよりもはるかに上手くテクニカル。ドラマチックな要素は比較的抑えられ、聴いてるうちにやがて耳に馴染んでくるような穏やかさが特徴で、上品でリリカルな音像はドイツ・ロマン派の正統な嫡子といえるだろう。ツボを押えた包みこまれるような拡がりを持った音は安定感があってひどく気持良い一方で、かなり作り込まれたリズムパターンが軽やかでダイナミックな躍動感を生んでいる。80年代という時代もあるが、最早クラウトのアクの強さとはまったく無縁。一見、情緒的ではあるが、アレンジや構成はかっちりまとまっている。

114 jyake02
WB 46234
1973

Bury my heart at wounded knee/Gila

ギラの二作目。ポポル・ヴフでは曲を書いているフロリアン・フリッケ(Florian Fricke)とコニー・ファイト(Conny Veit)が入れ替り、ギラはファイトが仕切る。丁度、裏返しの構図。神秘主義やキリスト教に傾倒するヴフに対してギラは民族的なのか? コンセプトはインディアン虐殺の話の模様。ファイトの自由奔放なギターが非常に新鮮というか冴えている感があります。フリッケのピアノ、フルート音、ストリング音のメロトロンに元アモン・デュールIIのダニエル・フィーシェルシャー(Daniel Fiechelscher)のベース、ドラム、ちょっと可愛い感じのザビーネ・メルバッハ(Sabine Merbach)の頽廃的なボーカルが絡み合って、寂しくも儚い佳曲の数々。

タイトルはそのままディー・ブラウン(Dee Brown)による著作の名称。ネイティブ・アメリカンの歴史をネイティブ側から書いた最初の本。邦題は『わが魂を聖地に埋めよ』と意訳されている。ウンデッド・ニー(wounded knee;傷ついた膝)はサウスダコタ州の地名で1890年末にラコタ族の女子供が300人ほどまとめて虐殺された場所。1973年にその末裔たちが教会占拠事件を起して銃撃戦を繰り広げたところでもある。悪いインディアンをやっつける正義のFBIと包囲する米軍の映像は記憶の底にかすかに残っている。

115 jyake03
EPIC/SONY
32.8P-162
1986

Mad,bad,and dangerous to know/Dead or Alive

バブルの波が下々に浸透し始めた頃、新橋駅前のディスカウントで買った憶えが懐かしくも甦る。デッド・オア・アライブ(以下DoA)の3rdアルバム。一世を風靡したとはいえ、商業音楽の哀しさ故に、後に残ることはない泡沫の夢の儚さを併せ持つ。夜10時、残業を終えて会社の前でタクシーを停めて六本木。道は大渋滞で飯倉片町から坂をちょっと上ったAXISあたりで、“お客さ~ん、ここから歩いて”なんていうのが当たり前の世相だった。最初から徒歩でも行けたんだけどさ。イカレタ従業員風情が客の顔を見て気まぐれで入店させるフザケたディスコもあったなぁ。このDoA、あちこちのディスコで耳にタコができるほどがんがんかかっていたもの。なんだか毎日が「Bland new lover」みたいな“のり”だった。もっとも、なんだかいつも酔っぱらっていて、記憶が定かではないというよくあるパターン。全9曲のユーロ・ビートはしなやかに、艶やかに虚飾を彩る。好みはラストの「Special Star」かな。キラキラと輝きながら精一杯の虚勢を張りながらも、既に宴の後の虚しさを予感させる。

116 jyake04
Kichenware
KWCD 30
1997

Andromeda Heights/Prefab Sprout

非常に心温まるというか、我道を行くとか、流行りに興味が無いプリファブ・スプラウト通算6作目。前作からなんと7年ぶり。最終作か? と思ったら2002年に新作がリリースされていてちょっと驚いた。構成員はマクァルーン兄弟(Paddy+Martin McAloon)に紅一点ウェンディ・スミス(Wendy Smith)のトリオと既にバンド形態は放棄した模様で、残念ながら本作限りのウェンディの出番もあまり目立たずに限られているようだ。出世作である2nd『SM』以来の付き合いであった業界人敏腕プロデューサ、トーマス・ドルビィは今回一歩引いてプロデュースから外れている。

ドルビィの不在は、澄んだ空気に生音の美しさが凛と響くという結果になって現れている。鍵盤やシンセに代って導入されたサックスも良い味が出ているだろう。根っこは北東イングランドのトラッドと50~60年代アメリカのポップにあるのだろうが、北イングランドの冷涼感そのもののようなウェンディのヴォーカルが、洗練と心地良いまでの柔らかさを醸し出している。冬枯れの庭を一廻りしてきて、暖炉に薪をくべながらブラウンエール(Newcastle brownale;地ビール)を一杯といった趣。上質な時間。

117 jyake05
Polydor
POCP-2155
1971

Faust/Faust

LP原盤は透明ビニルジャケットに掌のレントゲン写真が印刷された透明なレコードと、朱色で印字されたプロデューサ、ウヴェ・ネッテルベックの崩壊した詩と解説文が入っているという前代未聞の凝りに凝りまくったものだった。所有する日本盤CDはジュエルケースに掌形とFaustという印刷がされていて、再発廉価盤としては、頑張っているというべきなのだろう。全3曲、北ドイツ、ヴュメでのライブ録りとあるが、加工編集はされているのだろう。

音はまぁ、音楽的キュビズムというかパピエ・コレ(Papier colle)というか偽装コラージュというか解析的展開というか……今風に云うならばサンプリング切り張りにオリジナルのフレーズや小曲を様々な技法でモザイク状に絡めて序破急らしきものをでっち上げてしまおうという秩序破壊と再構成。壊れているけど計算された崩壊美。聴くたびに違って聞こえる切断面の斬新な切り口は、ネッテルベックのアイディアによる部分も多いが、実は意外にテクニカルなファウストの演奏技術によってもたらされているのではないかとも思える。

118 jyake06
EMI
CDP 79 6436 2
1975

Young Americans/David Bowie

ファンク・ソウルに傾倒した8作目。60年代後期から半世紀に渡るキャリアを誇りながらも、特異なオリジナリティは確保しつつも変幻自在な固執のなさっぷりは特筆に価する。本作はイギリスのグラム時代を経て、アメリカに渡った2作目にあたる。明解できらびやかできめ細かく美しい。弾けるリズムとエキセントリックなメロディ。見掛けの奇矯なエキセントリックさが目眩しになっているが、音楽そのものは至極まともで、品性と品質を確保した上で斬新でもあり、きちんと商業ベースに乗せてくる常識も持ち合わせている。

以後長きに渡って片腕になるギター奏者、カルロス・アロマー(Alomar)が構成員として固定された。更に、ビートルズの「Across the Universe」のカヴァーでの共演に加え、名曲「Fame」はレノン(John Lennon)との共作・共演。1991年のリマスター。ボーナス3曲。

119 jyake07
Virgin/Charisma
VJD-28072
1970

The least we can do is wave to each other/Van der Graaf Generator

ああ、「Refugees」か……。としかいいようのない、重暗く、壮厳なVdGGの初期2作目。ヒュー・バントンが弾く教会オルガン、変幻自在なジャクソンのフルート+サックス、タイトでいながら饒舌なガイ・エヴァンズのドラムと、以降のVdGGの骨格はここでほぼ完成していたと云えるだろう。30年もたてば色褪せる部分もあるのは確かだが、結果的には西も東もたいして変わり映えしなかった気がするし、その後の頓挫を鑑みれば後世の歴史評価はまた違ったものになるのだろう。ハミルの歌詞は暗喩と隠喩のオンパレードで初めから理解することは放棄しちゃうのだが、崇め奉るほど高尚なわけでもないように思う。逃亡者でも亡命者でもそんなことはおかまいなく、只々絶妙なアンサンブルと心を貫くボーカルの力にひれ伏すのみか。

120 jyake08 1991

Power themes ninety/不詳

1960~1970年代のイギリス製TVドラマのテーマ曲を掻き集めたリミックス集。「サンダーバード」、「謎の円盤UFO」、「スペース1999」、「プリズナーNo.6」、「キャプテン・スカーレット」等々といった中身だが懐かしいですな。何でこの時期、こんな妙なものばかり放映していたのだろう? 今考えると甚だ疑問に思うに加え、中身も不可解にして設定がぶっ飛んでいた。「UFO」の月面基地の管制官と要撃機パイロットは何故女ばかりなのだろう? それも子供心にもえぐいボディスーツと紫色の髪なのか? 「No.6」の逃亡防止のオレンジ警報は風船が追いかけてきて押し潰されてその後どうなるのよ? いつもベッドで目を覚ますのだけど……等々今でも疑問は尽きない。「UFO」や「No.6」など、実によくできているのだけど今もって不可解で、狐か狸に化かされたような理解不能な終わり方をしていたものだ。“Chanel 4”がない時代だからすべて国営BBCだろう? よく許されたものだ。苦情が殺到しなかったのかな?

121 jyake09 1987

Without Mercy/The Durutti Column

英インディ、今は亡きファクトリィからリリースされたドゥルッティ・コラム、アルバム五作目にして転換点。ゲストにタキシード・ムーン(Taxedomoon)のライニンガー(Brain Leininger)を配した欧州チェンバーへの接近がみてとれる。初期のふわふわとした儚げな電化ギター・フォークのような素朴さは失われたが、相変わらず非常に“個人的な音”であることには変わりがない。書きもの風に言えば自然派のエッセイに近いか。雨に洗われた緑のような清冽な鮮やかさ。そこにライニンガーの欧州大陸色というか緻密で陰気な知性が加味されて、ほの暗く静謐に定位した音像が聴き取れる。長曲全2曲で後半は同じ曲のディジタル・ダンスバージョン。現在でも末永くやってるようですが最近のものには手を出していない。聴けば気が変るような気はするが、この時代には若さ故の煌きみたいなものがあると思うと気後れしてしまう。

122 jyake10
Polystar
P35D-20034
1987

The Joshua Tree/U2

貫禄中年の様相を呈し、勿体つけてリリースされたU2中期の5作目。過去のような攻撃的な姿勢は薄れ、前作で節々に感じられた汎欧州色もすっかりどこかへ消し飛んで、アメリカ情緒たっぷりで余裕綽々の大人の音になっていた。たいそう商業的にも成功して、ビッグ・ネームとして知らない人がいなくなったのもこのあたりか。全11曲。製作は前作に引き続きカナダ人ダニエル・ラノワとブライアン・イーノ。ミックスに初期三作の製作者スティーヴ・リリィホワイトが復帰している。製作が同一人物であるのに印象は大きく異なり、別のバンドといってよいのではないか? という気すらするのはバンド自身の成長の証なのだろう。

ブルーズ、ソウル、ゴスペルといったアメリカ土着の要素を吸着し、野性味の裏返しとしての繊細で神経質ですらあったかつてのマイナー・アイリッシュは、骨太で表裏のない、自然で率直な硬派に転進していた。宗教歌のように荘厳にして荘重なまでの精神性が込められた歌は世評も極めて高いが、個人的には面白味の方向性が異なってしまったかな? という感が強く、以後は興味を失った。

123 jyake11 1989

Counterfeit e.p/Martin L Gore

デペッシュ・モードのコンポーザ、マーティン・ゴアのソロアルバム。ミニアルバムということで比較的短い6曲しか入っていないのですが、これが又全部カバー物。ずいぶんと遠慮がちなことです。選曲はタキシードムーン(Taxedomoon)とかドルッティ・コラム(Durutti column)とかゴスペルとか。ちょっと渋過ぎという気はしますが決ってます。2003年に二作目にあたる『2』が発表された模様。

124 jyake12 1996

Gone again/Patti Smith

この人は捉らえ所がなくて結構難しい。これは内容的にもかなり暗めだけど、アメリカの陽気なオバサンってのもあるしなぁ。基本的にはニューヨーク・アンダーグラウンドということで、そのシャープで爛れた陰鬱さは所謂アメリカ的な間抜けな健康指向とは無縁だ。非常にカリスマ的な立場にある人みたいですが(いつもTom Verlaineがギター弾いてるし)、個人的には剥き出しの女っぽさというか、雌性を前面に押し出されるのはちょっと苦手。(生臭いというか、そこが良いの?)

125 jyake13 1995

1999/Robert Fripp

フリップ御大のアルゼンチン・ライブです。70年代のイーノとのコラボから進展したサウンドスケイプ系のものなので、基本的に追っかけてるわけではありません。ただの一度もこれといってフリップ・ヲタであったことはないし、この先もないでしょう。いつ買ったのかまったく憶えていないCDですが、ライブをそのままスタジオテイクのように出してしまうという毎度お馴染みの奴です。曲は「1999」、「2000」、「2001」、「2002」などとまるで3秒で考えたような曲名ですね。即興なわけだからCDで聴くよりもやっぱりその場に立ち会うことにこそ意味があるような気もするし。

126 jyake14 1985

Crush/Orchestral Manoeuvres in the Dark

明るくなって一皮剥けたO.M.D.中期85年の6作目。とても上質な大人向けエレ・ポップって捉え方をしていたような気がします。音の使い方がおとなしくて自然、ピコピコからは完全に卒業して、今聴くとエレ・ポップって感じはない。いろいろな意味で突き詰められて、既にゆるりとした優雅さまで感じられる。結構聞き覚えがある曲ばかりなんで巷でも流行ってた時期があるかもしれない。ノリもいいし声も甘めだ。

127 jyake15 1987

Figure one cuts/Minimal Compact

ベルギーのインディ、クラムド・ディスクからリリースされたミニマル・コンパクト5作目。ポスト・パンクな80年代ポップ。音は中近東ですがイスラムではなくて、全然逆。似たようなところで似たような暮らしをしてると嗜好まで似通ってしまうので、それを差別化して民族性を同定固着させるのが宗教なのだろう。イデッシュとアラビア語は思いの他、実は似ているらしいし。ヨーロッパで活動していたみたいだからあまり関係付けても仕方ない気もするが。妙に渇いたエスニックな情緒性がとても新鮮だった。この後どうしたんだろう?

128 jyake16 1970

Gracious/Gracious

B級の宝庫、渦巻ぐるぐるのヴァーティゴ(Vertigo)レーベルからデビューしたグレイシャスの1st。当時はほとんど情報がなくてグレイシャス自体についてはまったくもってこれっぽっちも知らないが、『!』なジャケを見て何だぁこりゃと思った記憶は残っている。結局手に入れたのはCDで再発された90年代ですが、古臭いのも公平な目で見れるようになったのはここ数年のことです。少しクラシカルな味わいのブリット・オルガンものですが、けっこう最近愛聴しております。バロック風のハープシコード、メロトロン、ピアノがサイケかつ上品に絡み合う何とも不可解な、聴けば聴くほど味がでるスルメとか鮭トバのような音です。

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最終更新日 2009/01/21