懐古趣味音源ガイド    其六

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81 jyake01EG Records
EGCD 53
1983

Apollo/Eno, Brian

共同クレジットのダニエル・ラノワ(Daniel Lanois:フランス人?)はU2のプロデュースで協業した関連と思われ、もう一名、Roger Enoは実弟。副題として『Atmospheres & Soundtracks』とある通り、アポロ計画のドキュメンタリー・フィルムのサウンドトラックとして製作されたもの。空気がなければ音は存在できないという基礎的な物理現象は置いておいて、それでも尚、“月の音”にふさわしい音響であることは認めよう。

イーノ中期の総じてクールなアンビエントではあるが、ラノワのギターに代表される生楽器の音と、極めてシンプルで、抒情的とすら云えるメロディが特徴ではあるか。「Ascent」の燐光の淡い発光のようなソリーナの音色が、20数年前の夏の深夜、17号に合流渋滞する353上で延々とエンドレスで車内をしっとりと満たしていた記憶は今でも鮮明に刻まれている。

82 jyake02 2000

The eternal knot/Adiemus4・Karl Jenkins

今更ソフト・マシーン云々は迷惑だろうが、カール・ジェンキンズのプロジェクト、アディエマスの四作目にして現段階では最新作のようです。仰々しさがすっかり薄れて曲も短いものが増えてきました。と思ったら今回は「ケルト」のTV特集番組のサウンドトラックみたいですね。パーカッションが結構効いてきて今までのとはちょっと傾向違うかも。まぁ今風で聴き易いということかな。

83 jyake03King Record
GXG 1031(LP)
1973

Rock orchestra/Esperanto

ロック交響楽団と銘打たれたエスペラントの初作。女性歌手3名を含む総勢12人の大所帯で、国籍も首領レイモン・ヴァンサン(Raymond Vincent)のベルギーを筆頭に、欧州、オセアニア、アメリカ・ハワイまで、というところの統合の象徴が世界言語としてのエスペラントの由縁なのだろうが、英語圏に偏ってないか?

歌は専任歌手の存在ゆえに文句のつけどころがないが、やはり特筆すべきは2本のヴァイオリン・ヴィオラ・チェロによる弦楽の艶やかさとシャープなアレンジだろう。それなりに緊張感に富んだスリリングな演奏が繰り広げられ、尚且つ極めてテクニカル。ロック・バンド部分とのアンサンブル・バランスについても似たような形態をとるカーブド・エア等よりも遥かに充実している。全8曲中2曲を除く6曲がヴァンサンによるものだが、すべて歌曲。今ひとつ方向性が定まらず、AOR調のゆったりとした歌ものポップ・ロックから先鋭感に溢れたハード・ロック調、ソウル調まで中身はさまざま。初作ということで力み過ぎな部分は散見されるが、個々の曲の出来は非常に良い。

84 jyake04 1974

Hamburger Concerto/Focus

業界地図の片隅で、所詮は小国人。どんなに巧くても決して一流としては評価されない悲哀が切々と感じられる部分はあるが、ポップなのかクラシックなのか、ジャズなのかプログなのか、結局どれでもあって、どれでもないみたいなところが歴史の中で大国に挟まれながらも狡賢く立ち回ってきたオランダ的進取堅実と云うべきか。 リコーダーとリュートが奏でるバロックそのまんまのイントロでスタートするフォーカス4作目。 考えてみればFocusの曲って器楽ばかりで歌詞がないしなぁ。ヨーデルみたいな声はたくさん入ってるけどね。ジャージーな雰囲気はだいぶ薄れて、格調高い室内楽風の曲調が増えてきた。地味だけどとても好感の持てる一枚ですね。

85 jyake05DGC 9 24277-2 1990

Reading,writing and arithmetic/Sundays

バブル末期、六本木の今は亡きWAVEでジャケ買いしたサンデイズのデビュー・アルバム。タイトルは『読み書き算盤』の意だが何のコッチャ? と訝しい感覚を拭えないままレジに差し出すと、レジの黒人のあんちゃんにウィンクされて「これいいよ」みたいなことを言われた記憶が残っている。

4人編成のバンド形態だが、ベースとドラムはおまけみたいなもの。ハリエット・ウィーラー(Harriet Wheeler)の舌足らずで幼くもエロっぽい声と見えそうなミニドレス容姿がセールスポイントだが、ギターのあんちゃんとデキているのがあからさま。難しいことは何もしていないが、フォーク・ソングを基盤にした不思議に力のある楽曲と簡潔で気持ち良いアレンジに惹き込まれるものがある。4ADやSmithの影響下にあるギタポの一つと言ってしまえば身も蓋もないが、少女趣味的ながらも夢見るような可憐で瑞々しい透明感は語り継がれるだけのものを包含している。

86 jyake06 1974

Aguirre/Popol Vuh

70年代に頭角を現したドイツ人映画監督ヴェルナー・ヘルツォーク(Werner Herzog)の映画『アギーレ』のサウンド・トラック。その筋では有名な映画監督だが、ポポル・ヴフの首領フロリアン・フリッケとは旧友といわれる。映画はスペイン人? の傭兵隊長アギーレが部下と宣教師と妻と娘と現地人の奴隷を引き連れてエルドラド(El dorado=黄金郷)を求めアマゾン?(アンデスか)の奥地へ乗り込んで行くという話。そして、アギーレの執念と無謀なまでの狂気故に、現地人と戦闘を繰り返し、ひたすら“ただ全滅していく”過程を描いていくというファナティックで救いのない映画。一度は捨てたはずのシンセ類を多用したテーマは深い霧のようにアンビエントで洗練された印象。2曲目「」は原住民の夜襲の後、景気づけに奴隷に吹かす笙(サンポーニャ?)みたいな笛独奏。景気付けとは裏腹な物悲しさが印象に残る。

87 jyake07 1986

Old rottenhat/Robert Wyatt

日本語だったらとても発売できないような内容。政治的な意味でね。10年ほど見かけないと思っていたら政治をしていたわけか。過激にやるには年をとり過ぎてるのだろうけど、例の声でこの世の矛盾を淡々と、切々と謳いあげています。本人に聞いたわけじゃないから知らんけど、「東チモール」では“好みの友達はインドネシアかい?” “ギレスピーは助けてくれたかい?”と反語的にいっております。ギレスピーはアングロ・サクソンの名前でしょうが特定できません。一般的には侵略者イスラム・インドネシアからオーストラリアの支援の元に独立を勝ち取ってマンセー!ってのが相場みたいですが、実際には二つの地域大国が覇権を争って、米資本による経済混乱に疲弊していたインドネシアが負けたということ。東チモールは豪経済圏に組み込まれ200海里水域における石油・天然ガス採掘権は豪のものになってチャンチャン。一方、大きな意味では日本の経済圏だったインドネシアの一部を奪われた上に、PKOまで出して豪に貢献している日本は去勢された子犬のようで愛らしい。

88 jyake08日本コロムビア
COCY-75335
1992

Liebeslieder/Blech

南ドイツ・ババリア出身のブレッヒの6作目と思われるアルバム。詳細はWEBを漁ってもほぼ不詳。何故か国内盤で、もう1作出ているらしいが、見たことも聞いたこともない。何枚刷ったのかは知らないが、おそらく100枚も売れてないだろう。という、悲しいほど誰に顧みられることもなく消えていった、ブリキにしてくだらないもの、名前通りに取るに足らないブレッヒ。

ブレッヒ=ブリキ。ブリキとは19~20世紀初頭、ドイツで缶詰や玩具等に多用された錫をメッキした鋼板のこと。スイス人女性金管奏者に加え、どう見てもすっかり禿げた中年おやじトリオが1930年代風キャバレー・ソングをモチーフに、アコーディオン弾きながら打ち込みしてダダ(Dada)をすると。その道のプロばかりだから、中身はきっちり、危なげなく仕上がっている。そういや、ダダは最近見かけない。腐った骨組に上っ面だけとっかえひっかえしているだけだから、うっかり触ると壊れちまうから、危なくてダダどころじゃないか? タイトルは『愛の歌』。

89 jyake09 1981

The Garden/John Foxx

今聴くと打ち込みを生楽器でやってるような奇妙な違和感を感じてしまいますが、時代の流れとしてはコンピュータが導入されていくのはこの後のこと。初期のウルトラヴォクスの実質的なコンポーザでしたが、ちょっと線が細いけどとてもクールなセンスが際立った人です。二枚目のソロ・アルバムは前作の無機質光眩趣味から変転して、田園趣味が極まった透明感と控えめな音感がつくるアンビエント志向。しかしスリーブに載っているこの典型的なイギリス庭園(スタジオなのかぁ?)はかなり見事ですな。

90 jyake10 1977

New age of Earth/Ashra

元はアシュ・ラ・テンペルなるバンド形態だったが一人欠け、二人欠け、とうとう一人になったギタリスト:マヌエル・グトシンクが、この頃からアシュラ(Ashra)と名乗った歴史に残る第1作。当初は76年フランスでリリースされて、翌年ヴァージンと契約した英進出初作でもあった。LPは新宿の輸入盤屋で購入した記憶がありますが、冒頭「Sunrain」のシーケンス・パターンが遠くから聞こえ出した時点でノックアウト。こんな音楽がこの世にあったのか!? と、ただひたすら感涙した。ほつほつと降り注ぐ木洩れ陽を身に一杯に受ける幸せ。とはいうものの確かにスーラ(Georges Seurat;1885~1905)の『グランド・ジャット島の日曜の午後』のような緻密に計算された光という感じはするか。そうそう、計算はされているけれど、ドイツ的な厳格さというよりもフランス風の優美な艶めかしさ。テクノの始祖としての完成度もさることながら、放蕩なまでの悦楽に蕩けそうだ。

91 jyake11Vertigo
6673 001(LP)
1972

666/Aphrodite's Child

フランス亡命状態だったギリシャ人トリオのポップ楽団、アフロディーテズ・チャイルド解散後、唐突に一時的に再編されて、リリースされた本業とは毛色の違う継子、あるいは盲腸のようなもの。「知性ある人ならば誰でも獣の番号を説明することができる。それは人類の番号でもある。その番号は666」というタイトル通り、旧約聖書の黙示録がそのまま歌詞になっているコンセプトアルバム。当時はLP2枚組。ムード歌謡ヒット・メイカーだった従前とは異なり、当時のアナログ電子楽器やテープ操作によるコラージュ、録音技術を最大限駆使した千差万別で多彩な曲群がいびつな正鵠さをもって奇跡のように構築され、艶やかに咲き誇った大輪の徒花となった。

異常なまでにメロディアス、寓意とシンボルに富んだコンセプトに恐ろしいほど合致した創意に富んだ曲が多い一方で、歌曲とインストのバランスも優れ、隙のない緻密な完成度に舌を捲く。特筆すべきは前代未聞の歴史的奇曲「∞」か。単調で原始的な打楽器のみを背景にした、イレーネ・パパス(有名な映画女優さんだな)の発狂しているとしか思えない「"I was, I am, I am to come"(わたしであったもの、わたしであるもの、わたしになるもの;過去の自我、今の自我、未来の自我) 」にぶっ飛んだ。いやはや、通勤電車の中などでBGMとして流したら暴動でも起きそうだな。この「∞」、当初は39分の長曲だったらしいが、レコード会社の強固な反対により、たったの5分強に縮められた曰く付きのもの。LPのD面を占めるコラージュ部分がその割愛部分なのだろう。まぁ、確かに、39分も流したら世界が終わっていたものと推察される。

92 jyake12Mute Records
ALCB-396
1991

The first letter/Wir

70年代末期パンクとして出生したワイアは80年を待たずに瓦解したが、87年に突如同構成で復活を成し遂げる。その第二期ワイアのラスト、というかドラムが抜けて一人減ったからWireじゃなくてWirと表記されている。ゴトベッドの生ドラムが無くなった代わりは使い回しを含めた打ち込み。元々、二期ワイアはDOME組の寒々しいノイズ+インダストリアルとニューマン(Colin Newman)のポップ・センスの融合体だが、アルバムを重ねる度にバランスはメカニカルでデジタルな方向に振れ、もはや後戻りできないところにまで達したということだろう。「ロックでなけりゃなんでもいい」とほざいてスタートしたのが第一期ワイアならば、第二期ワイアは“音楽であり続けることを放逐”して、ここに終焉の地を見つけた。白地に文字だけのジャケットデザインが意味するタイトルは“手紙”ではなくて、『最初の一文字』という意味なのだろう。

93 jyake13Spoon CD 010 1974

Soon over babaluma/Can

録音中に歴代二人目の日本人ボーカリストは異端宗教(エホバの証人)に走り、以降、歌は自前で分担したといわれる。が、しかし、クレジットにそのダモの名前はないが、4曲目「Chain Reaction(連鎖反応)」のボーカルは明らかにダモ鈴木である。残りは原音からはかなりかけ離れるまで変調・加工されたもの。音楽的にもこの頃からより非ロック的で未来的、後に云うテクノや環境音楽的なアプローチを取り始める。レゲエやタンゴのラテン・リズムが導入され、空間を縦横無尽に駆け巡るパーカッション群に酩酊すること必至だが、決して熱くはならない冷え冷えとした機械的感触がクラウトたる所以。前作までは生楽器の痕跡を露わに残していたのに対し、本作以降はボーカルを含め、すべての音が音響的に処理されて、一発録りなのに何が出しているのかさっぱり不明な音が増えた。

「Chain Reaction」に途切れることなく続く「Quantum Physics(量子物理学)」は大気の分厚い層を通して聞こえてくるような、不思議な耳触り。“能”的な幽玄の解釈か? 浮遊するオルガンに原初的なポコポコリズム、セオリーを越えたベースがうねって鄙びたギターが絡むという、およそ現世とは無縁な異界。ひんやりと青白い。カンはクラウトのなかでもほぼリアルタイムで日本盤が出ていたので、当時からそれなりに入手は容易かった。CDだと冴えないが、原盤LPのジャケットは銀ラメ加工された月世界。

94 jyake14 1987

Floodland/Sisters of Mercy

う~ん、惚れ惚れするほど格好良いですな。楽団の皆に見捨てられたのか、首にしたのかは知らんが、一人になってしまったアンドリュウ・エルドリッチ御大(Andrew Eldrich)が眉目秀麗な女性ベーシスト(Patricia Morrison)を連れて来て二人+一台で作り上げた二作目。マンホールの底から湧きでる様な声は相変わらず健在です。音も分厚く迫ってきます。

95 jyake15 1970

Third/Soft Machine

“元祖カンタベリィ”の三作目。当時はLP二枚組各面1曲全四曲の大作です。メンバーは前作と同じですが、いっそうジャズに接近した。LP片面一曲という長い曲ばかりで、インスト曲が主体。一曲だけ「6月の月」というとてもロマンティックな曲でワイアット(Robert Wyatt)が歌っています。『Fourth』、『Fifth』のような即興性はないものの、一つの方法論が確立されかかっている、軌跡の始まり。

96 jyake16EMI
CDP 7 46003 2
1982

Rio/Duran Duran

個人的にはデュラン・デュランの最高作と思う2ndアルバム。80年代もののなかでも5指に入る質と魅力を兼ね備えた名盤と評してもよいだろう。ニュー・ロマンティック・ブームの下で、やたらと容姿を取り沙汰されたデビューだったが、本作以降は内実と外面の評価は完全に逆転した。全曲シングルカットできそうな美メロとノリの良さ、演奏は上手くはないが、それを補って余りあるセンスには脱帽せざるを得ない。正に神憑り。 尚、ギター・ベース・ドラム担当は揃って苗字がTaylorだが、姻戚関係はなく完全に偶然だったといわれる。

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最終更新日 2010/02/06