懐古趣味音源ガイド    其四

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49 jyake01 1992

Echoes/Maggie Reilly

80年代中頃にマイク・オールドフィールドのユニットで歌っていたスコットランド人歌手、マギー・ライリィのソロ・デビュー作。それなりの年齢だと思われるが、鈴が転がるような美声の持ち主。冒頭「Everytime we touch」は初めて本作を聴いたときに、どこかで聴いたことがあると思ったから結構ヒットしていたのかも知れない。ドイツで録音されたようでプロデュースにはアモン・デュールII『Pyragony X』時代のキーボード、シュテファン・ツァウナー(Stefan Zauner)の名前が見える。同曲のPVにはエニグマで一山当てたミヒャエル・クルトゥ(Michael Cretu)の顔が見えるあたり、おそらく何らかの関わりがあるのだろう。音の処理も当時としてはかなりセンスが良い。トラッド風味のアコースティックな曲もあるが、全体的にはエレクトロニクスを多用したかなりポップな仕上り。

50 jyake02
A Factory Disc
Facd 75
1983

Power,corruption & lies/New Order

ニュー・オーダーの二作目。CDの円盤そのもの以外にはタイトルはおろか何のクレジットもないという素気無さ。当時はインターネットなんぞもなく、情報誌の類からも完全に離れていたので買うときにかなり困った憶えがある。Fantin Latour(1836-1904)の「Roses」がそのままスリーブに使われていて、拡げると24cm角になるのだな。裏にはLondon National Gallary蔵 0.489x0.603 と書かれてますがそれだけ。曲名ぐらい書いておいて欲しいものだよ、なぁ。「Your Silent Face」という打ち込みの曲にはまりました。深い海の底を思わせる青緑の静寂。サンプリングされたメロトロン? (実際にはストリング・シンセのようだ)

タイトルは『権力、腐敗、欺瞞』の意。当時のイングランドを席巻した新保守主義に対するあてつけだろう。それを何故か『権力の美学』とほぼ正反対の意味に訳することにいったいどういう意味があるのだろう?

51 jyake03 1970

Quatermass/Quatermass

60年代末期から70年代にかけて、朽ちたとはいえビートルズというアート・ロックを菌床として、雨後の筍のように萌芽したブリット・ポップの一つにして唯一作。時代の潮目に突如姿を表し、振り返ったときには水没して行方知れずのような奇跡の名盤としても評価が高い。後年、打楽器奏者アンダーウッド(Mick Underwood)により再編されるが、内容はまったく被らないと考えてよいだろう。鍵盤:ロビンソン(Peter Robinson)+ベース/歌:グスタフソン(John Gustafson)のトリオ編成で 前に出てくるハードなメロディと「Entropy」や「Post war Saturday echo」のなんともいえない“くもった”音のアンバランスが絶妙。消費社会にどぶ漬けメッキされてるところなど今とまったく同じで、ほんと進歩がねぇなぁ。漬からないでいるのはしんどいというのが真実か。

「Post war Saturday echo」
 
街は悪夢のネオンに蹂躪されて
フロイトのシンボルが私の心に剥き出しで横たわる
曲る道はすべて
電飾看板が炸裂し
意味の無い言葉が
絶えま無く襲いかかる
私の知りたい真実など欠けらも無い
 
ひたすら急ぐ孤独な100万の人々
心配という重荷以外に共有するものも無く
どこへと行くところもとんと無い
ただ、のろのろと進んでいく
よりにもよって、近づく顔は
唯一、私に話しかけるものは
それは、壁の時計の文字盤か
 
おまえは懸命に競争をはじめ
まさにそこに居着くために
おまえは仕事に就いて
おまえは稼ぐようになり
おまえは浪費をはじめる
持てば持つほど、欲しくなる
終ることのないスパイラル

さすがに年代もののキーボードの音は古典に近いのでしょうが、打ち込みを聴き飽きた耳にはかえって新鮮かもしれない。アナログ・ハモンドオルガンの饗宴。

52 jyake04
Virgin V2325(LP)
1984

The Big Express/XTC

アクの強さが売りなのか仇なのかよく分からないが、脂が乗り切ったXTC、7作目。打楽器奏者が外注になったトリオ編成であるが、微妙にポップな天邪鬼なメロディに素っ頓狂な超絶変拍子リズムを組合わせ、予定調和をとことん破壊する。大仰だったり、こしゃまっくれていたり 凝りに凝ったアレンジ 天邪鬼な皮肉。 変人パートリッジ(Andy Partridge) 機知と賢さがあちこちからボロボロと溢れちゃって、収拾がつかない。 メロトロンのリフが ジャケは機関車の動輪なのだろう。

53 jyake05(CD)Virgin EG
7243 8 47447 2 4
1972

Roxy Music/Roxy Music

当時としては類を見ない斬新さで登場したロクシー・ミュージックの1stアルバム。ブライアン・フェリィ(Bryan Ferry)のふらふらと頼りないビブラートヴォイスを初めて聴いたときは、なんて気色悪い歌い方なのだ! と寒気が走った憶えがあるが、慣れればすぐに快感に変るもの。1950年代風のいかにも紛い物然としたキラキラの安っぽさを纏ったダンディズムがとても格好良い。端的に言ってしまえば、映画『カサブランカ』の頃のハンフリー・ボガートに奉げた「2HB」における“君の瞳に乾杯”の美学の再現なのだろうと思う。

デビュー・アルバム特有のアイディア倒れや、アレンジと演奏力が伴っていない部分も散見されるとはいえ、それを補って余りある意欲と斬新さはひしひしと伝わる。曲も良いし音も良い(録音は悪い)し、歌詞も凄い。密度の濃い内容で驚いたが、サイケでキッチュでエキセントリックな魅力に満ち溢れている。ポップからプログまで雑多で多様な捨て曲なしの力作である。

54 jyake06(LP)United Artist
UAG 29672
1974

Hall of the Mountain Grill/Hawkwind

前衛アングラ・サイケの70年代前半を経て、鍵盤重視の音作りに転換しつつある時期の佳作。ライブを挟んでスタジオ・アルバム4作目。次作以降のヒロイック・ファンタジィな物語性はまだ薄弱で、ひたすらストレートに宇宙の虚空を謳いあげる様は前作からの流れだが、サイモン・ハウスの加入によって鍵盤(特にメロトロン)が安定して醸成される空間が無指向に一気に球面膨張したような広がりを感じさせるものになった。オシレータの無機質な発信音が冷たいながらも有機的なメロトロンに変わって壮大な空間を描き、延々と繰り返される無機的なリフが宇宙の虚無を表象する。音の位相を変化させる薬物的浮遊感と相まって、非常に完成度の高い虚無感が美しくも心地良い。タイトルはメンバーが入り浸っていた実在のカフェ(バー?)の名前。現存はしないらしい。

55 jyake07 1982

A broken frame/Depeche Mode

ポストパンク後、雨後の筍のように生えてきたイングランド80年代エレポの一つ、デペッシュ・モードのアルバム2作目。前作での中心人物(名前失念)が抜けて、ゴア(Martin Gore)にお鉢が回って来たのが結果的には良かったということでしょう。今ほどタイトでも派手でもなく柔らかめ、地味めの音でゆるゆるとテクノ。グルーブというよりは儚くムーディ、乗り切れない昏さがとろんとして魔可不思議な慰謝で包み込む。鎌を振回す赤頭巾のジャケデザインがすばらしい。もちろん寓意は新保守主義に蹂躙された労働者階級の無常観を表し、「鎌」と「赤」は冷戦末期の対立概念、ソ連国旗からの引用だろう。次作は「槌」だもの。

56 jyake08 1972

Matching Mole/Matching Mole

ソフト・マシンのドラム奏者ワイアット(Robert Wyatt)、キャラヴァンの鍵盤奏者デイヴ・シンクレア(David Sinclair)、デリヴァリィのギター、フィル・ミラー(Phil Miller)、クワイエット・サンのベース、ビル・マコーミック(Bill MacCormick)によって記されたカンタベリィの袋小路にして盲腸、マッチング・モールの1stアルバム。カンタベリィ・フリー・ジャズと牧歌ブリット・フォークの合いの子。ワイアットの叙情性とアヴァン・ガルドの掛け合いがあまりにもすばらしい。寒暖取り混ぜて表情豊かなメロトロンの音色、暖かめなピアノとヴォーカル、即興(improvisation)、どれをとっても絶妙な手作り感が漂う佳品。現代の室内楽みたいな小体(こてい)さ? 『Rock Bottom』以降の特異性は既にここでも現れているが、様々な意味でまだ元気だ。

57 jyake09WEA 4509-90618-2 1992

Tubular bells II/Mike Oldfield

オリジナル・バージョンから20年ぶりの『II』はさすがに音が良くなった。CDということで全曲通しで聴かれることが前提になったが、さまざまな工夫で違和感なくトータルに聴けるのは、アレンジもこなれて各部のつながりも自然で流麗になった結果だろう。14分割されて各曲にインデックスがついて頭出しもできるようになった。基本構成はオリジナルと同等だが、メイン・テーマは装飾音符が付いてコードもメジャー化することでずいぶん雰囲気が変わったものになった。 単に90年代ヴァージョンの『Tubular Bells』でいいと思うし、展開もこなれて味もでてきたなぁと思うし、曲調も随分明るくなったと思います。次は是非、2010年ヴァージョンをつくって下さいな。単純に好きなんで期待してます。と思っていたら、出るわ出るわ、そんなに泥鰌はいないだろうと言われんばかりの超特価大安売りには呆れた。

58 jyake10 1989

L'océan/Atoll

70年代中期、レーベルがマイナーだったせいもあり本国ではほとんど評価は得られていなかったが、日本では“フランスのイエス”なるキャッチフレーズが効を奏し、それなりに売れたアトールの再結成第二期の最初のアルバム。生粋のフランス製でありながら、アンジュのように大道芸的でコケティッシュな、日本人がフランスに抱くイメージとは大いに異なる理解し難い、保守的で野卑なまでの“濃さ”が薄かったのが受けた理由だろう。元の構成員はギターのクリスティヤン・ベヤ一人のみで残りは一世代違う新人。70年代のように長めの曲をテクとアレンジで押し捲るというよりは、コンパクトにまとめた小品をセンス良く聞かせるという趣ではあるが、曲自体はかなり良い出来で驚いた。概ねポップで歌入りが主体。如何にも“フランスもの”という趣向のちょっと優雅でこしゃまっくれて品が良い複雑な変拍子と清冽でリリカルなメロディ。引き締まったリズムはそれなりに今風だが、かなり捻られた作りで、比較的ハイトーンの男性ヴォーカルも表情豊かに迫ってくる。

59 jyake11 1975

Shamal/Gong

デヴィッド・アレンがいないゴングなんて、気の抜けたコーラ、お茶で食う鮨、あるいは田舎の高速道路じゃないか! と、当時、激しい衝撃と幻滅に気が遠くなった記憶が残っている。気を取り直して手に取ったLPは、気違い夫婦が抜けてすっかりまともになるかと思いきや、予想通りすっかりまともになっていた。プログ衰退期を見越して、早々と転進を計ったアレンの先見の明に今更ながら感服すると同時に、以後、急速にクロス・オーヴァー色を強めていく残党の選択もまた正しかったといえるだろう。

全6曲。コミック+アハーン・ボーカルがいなくなったおかげで、歌ものや破天荒な展開の比重は大きく減ってインスト重視のアルバム構成だが、意気込みの感じられる出来映え。基本的には最盛期の構成員なので極めてハイテク、アンサンブルもアレンジもケチの付け所がないほど完璧な質を保っている。ときおり聞こえるギターのクレジットはなされていないが、おそらくヒレッジがゲストで弾いているのだろう。特筆すべきはパーカッションの女性、ミシェル・ボーによるマリンバや鉄琴の澄んだ音色とマルールブの木管楽器か。     こういう音って他にないから今聴いても結構新鮮だったりします。「Bambooji」における尺八風篠笛とか和太鼓なんか和風なんだけどうっかりするとフレーズが中国風になっちゃったりして西洋人の観る東洋が垣間見えちゃったりして爆笑です。

60 jyake12 1984

Dead Can Dance/Dead Can Dance

イングランドのインディ・レーベル4ADからリリースされたDCDの1stアルバム。ポップというよりはコンテンポラリに近いか。オーストラリア人ブレダン・ぺリィ(Bredan Perry)とリザ・ジェラルド(Lisa Gerrard)によるデュオ+α。初作ということで荒削りな部分はあるけれどその分、ダイナミックで格好良い。ロックっぽいアレンジも珍しいですが、エスニックなパーカッションと冷徹なリズムマシンの対比が闇の視覚的イメージを彷彿とさせますかね。名前の通りひたすら紡ぎ出される音は現代において巧妙に、そして完全に隠蔽されている死のイメージでもある。ボーカルは比較的歌っぽく歌っていますが、この一枚目のやたら暗いイメージが強烈でその後もアンダーグラウンドな印象が付き纏っている。

61 jyake13
4AD CAD CD513
1985

The pink opaque/Cocteau Twins

同じく4AD、初めて聴いたコクトー・ツインズ。初期から中期ののベスト盤ではあるが、メイル・オーダー・カセットのみの収録だった「Millimillenary」、CDとはテイク違いの「Musette and Drums」、EPとも異なる「Aikea-guinea」といったアルバム未収録だった曲が良い。スコットランド 総じて最近のものよりかなりダークで耽美的な感じがするけれどそういう時代だったのかしら? もう忘れたわ。基本的に歌詞にも曲名にも意味が無いことが売りの一つですが、しかし、タイトルの『ピンク色の不透明なもの』って何よ? 気になるじゃん。

62 jyake14 1990

1234/Propaganda

メンバー一人を残して全員入れ替り、すっかり明るくなった第二期プロパガンダとでもいうべきもののデビュー・アルバム。唯一残ったミヒャエル・メルテンス(Michael Mertens)はオリジナル・メンバーではないので、既にデビュー当初とはまったく別のユニットと考えてよいでしょう。音の方もおどろおどろした部分や如何にもドイツ的な硬質な単調さが影を潜め、明るく楽しいポップに改竄された。ゲストのデビッド・ギルモアのギターソロにメル・コリンズのサックスソロまであったりして、最早、どちらかというとイングランド田園風AORの趣。田舎のパブでぬるい黒ビールでも傾けながら、女将特製のキドニーパイでもつついている風情であろう。

あのキャピキャピした鬱屈感の象徴ともいえるクラウディア・ブリュッケン(Claudia Brücken)はもちろん不在、マネジメントの強い圧力下(というか彼氏が社長だもんな)にあったと思われるズザンネ・フロイターク(Susanne Freytag)がところどころボイスのみで嫌々御参加、陰の総帥デルパー(Ralf Dörper)も一部の歌詞を書いているだけと、かつての面影は風前の灯火状態。一方で、新加入のボーカルのお姉さん(Betsi Miller)がしっとりした声質の綺麗な発音の人(アメリカ人らしい)になってしまったので、マシンに寄りかかっていた部分はちょっと生っぽい音に置き換えられて透明感溢れる清々しさまで感じられる。これはこれで結構気に入っているのだが。

63 jyake15Virgin Japan
VJCP-2515
1975

Ricochet/Tangerine Dream

英Virgin移籍で世界デヴューを果たした絶頂期の聖堂伽藍ライブ。構成としては全ー曲だが、前半part1はフランス、後半part2はイングランドでの録音となっている。タイトル『リコシェ』はフランス語で“石切り遊び(水面に小石を跳ねさせる)”、そこから転じて“連続して繰り返される出来事”の意。初聴時はドラムやギターがかなり前面に出ていて、特にpart1はロック色がかなり強いことに驚いた記憶がある。ミニマル色が強い『Phaedra』や『Rubycon』の成果を援用し、ライブ向きにリアレンジしたような内容だが、スタジオ盤よりも抒情性は強く、抑揚もあるので聴き易いかもしれない。基本は即興演奏を旨とするユニットのはずだが、このライブのどこまでがアレンジでどこが即興なのか、正直わからんほど完成度は高いといえる。

シーケンサとシンセ、ソリーナの織り成す冷徹なまでの拡散感は、印象的に挿入されるギター、ピアノ、フルート等既成楽器の音色と相まって、当時としては未知の音像を作り上げていた。複数のシーケンサがタペストリのように精緻に音符を織り上げていく様はまさに圧巻で、ぞっとするほど美しくかつ気持ち良い。一発録りなのかどうかは不詳だが、70年代ものにしてはライブとは思えないほど音質も非常に良い。スリーブ写真はエドガー・フローゼの妻モニク・フローゼ(Monique Froese)によるもの。CDだとインパクトが小さいが、LPは思わず手に取らせる迫力があった。アートワークもこの頃が絶頂期か。

64 jyake16
R&S Records
RS 95066 CD
1995

Deep Space/Model 500

デトロイト・テクノの人:フアン・アトキンス(Juan Atkins)が一人ユニットModel 500名義でリリースした初作。ちなみにデトロイト・テクノとはテクノとファンクを融合したジャンルで、このあたりが始祖にあたるということらしい。 シンプルでミニマル、音と音の間に隙間が空いてスカスカしているように感ずるのは、伝わり方が波動じゃなくて粒子だからでせうか? 地味で無機的なシーケンスからファンク・ヴォイス入りまでアレンジはいろいろだが、深宇宙の高真空を髣髴とさせる冷涼感とリリカルな感触はほぼ共通する。タイトル通り、各曲は黄道面に近接するメシエ天体の星雲名を冠している。ディスカウントのワゴンセールでジャケ買いしたものということで、稀にこういった領域外のものも引っ掛かる。

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最終更新日 2008/11/07