懐古趣味音源ガイド    其弐拾六

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401 jyake01 1977

Low/David Bowie

イーノとコラボレイトしたベルリン三部作の初作。なんとあの岩谷宏が解説を書いているのを再発見して、思わず読んでしまった。若いです。既に音楽関連からは足を洗ったのかどうかは知りませんが、最近は「Software Design」誌に原稿を書いているので、おそらく同一人物だろうと勝手に思いつつ毎月読んでます。イーノ(Eno)が出張っているので、かなりアンビエント・テクノ風の味付けはされているものの、リズムはけっこう覚醒的だろう。歌わない曲が多いのは珍しいのだけれど、その中でもインスト曲「Warszawa」があまりにも有名です。自分の風土を、足元を見詰め直すというのも、今思えば流行りの一種であって、そのうち飽きたらまた他を見れば良いぐらいに考えておくべきだったのでしょう。

402 jyake02 1989

Tempted and tried/Steeleye Span

20周年記念盤だそうですがなかなかノリのよいトラッド。暖かめのコーラスとタイトなリズムが絶妙のバランス。アコースティック一色というわけでもなくて、電気も使ってます。もっとも、渋いところはあくまで渋いので、期待通りではあります。年季の入った旨みを含んだ味のある曲ばかりですが、中でもヴァイオリン(フィドルと云うべきか)が良い音を出してます。当たり前だけれど非常に土俗的というか、私達が普通抱いているあのクラシカルで芸術的で、お高く留まっているイメージとは正反対。民謡ア・カペラの伴奏がヴァイオリンということ自体別に珍しいことではない。

403 jyake03
ReR 2
1972

So far/Faust

2作目はラシャ紙みたいな薄手の無光沢の真っ黒なジャケットにグレーでタイトルが小さく記されて、真っ黒な中袋に真っ黒に塗り潰されたレーベルのついた真っ黒なレコードが入っております。もう一つ真っ黒な冊子袋があって中には30cm角の黒地に曲に合わせてどっか壊れたなかなか美しい絵が9葉、歌詞のようなものとクレジットが一枚。79年の再発レコメン盤なのでオリジナルはどうだったか知りませんが、相変わらず凝った作りが楽しい。比較的ポップで一般的にイメージされる曲らしい曲が聴けるのですが、執拗に反復されるリズムと訳のわからない発声を聴いていると、最近のディジタル・ビートと思いもかけず似ていたりして面白い。適当に無茶苦茶やってるようだけど、実はさりげなくとてもよく考えられた力作です。いきなりタムの連打で始まって7分20秒、最後までそのまま。「雨だぁ、天気娘だぁ」「あうん」と一人が歌って、一人が呻いております。小曲のメロディを弾くギター唖然とビックリですが、すぐに「とうちゃん、バナナ買う」「明日は日曜」と連呼が始まって一安心。どこまでも壊れていく崩壊感こそがファウストの本質です。

404 jyake04 1974

You/Gong

壊れついでにもう一つ。不可視電波妖精3部作の完結編は『You』ときたものだ。ジャケはチチェンイツァのククルカン神殿ですか。もっとも、中身はマヤとは関係あるのかないのか、曼荼羅でもマントラでも“なんでもあり”だから考える必要はないでしょう。「Gong is one and one is you」も、まぁ、標語みたいなものでしょう。テクニカルな部分は更なる進歩を遂げて、スペイシーな浮遊感とドライブのかかった疾走感で怒涛の変拍子アンサンブルが炸裂しています。特にパーカッション隊は驚異的。テクも凄いが体力も人間を越えている。全編を覆う夜っぽい雰囲気の中を盲滅法突進しまくる壮絶と快感。絶頂に達した途端、Dingo Virgin(Daevid Allen)は“一抜けた”と辞めちゃうわけだが、さぁすが変人、誰にも真似はできない。

405 jyake05 1994

Ten ways/Masque

スウェーデンはマスクのアルバム二作目。乾いた明るさ(暗いのかな)となかなか達者な固めのリズムセクション。パーカッションは固めで乾いた感触だがベースは音の芯がどこにあるのかわからないようなどよんとした重さで妙に技巧的なリズムを作っています。前作に比べてボーカルが変わったりしているようですが、明らかに表現力というかスケール感は優れたものになった。それに加え非常に特徴的なのは、あまり例の無いコード進行というか、他に似ない独特の変態メロディ。ここまでやると“なんとなくできました”というわけいかないだろうから、作るのもかなりしんどいのではないかと思うのだが実に意欲的です。聴けば聴くほど異質さが募る、それでいて、味が出てくる不思議な音楽です。

406 jyake06 1973

Greenslade/Greenslade

ようやくグリーンスレイドの出番ということで。元コロシアム云々は不詳なので他の方にお任せするとして、個人的にいいなぁと思うのは暖かめのキーボードとメロトロン、品のあるリリシズムと格調高い曲調というところでしょうか。1stの割には落ち着き過ぎじゃないかみたいなところもありますが、全体が浅葱色みたいなカラーで統一されて美しく調和しています。もっとも、キレの良さにはほど遠く、かなり野暮ったい雰囲気が微笑ましい。キーボードも音が丸くて往年の英国風。構成はツインキーボード+リズムセクション。マニア受けしそうな、まぁ、珍しいといえば珍しいかも。

407 jyake07 1978

The eye of wendor/Mandaraband

『ヴェンダーの眼』というのはこのジャケの赤ダイヤのことかな? いきなりオーケストレイションで思わず後ずさってしまいますが、アレンジはそれほどしつこくもない。完全にトータル・アルバムの作りで、最早前作ほどのインパクトはないですが完成度は一段と高くなってます。シンフォ系には造詣が深くないもので比較は当てにならんけど、荘重なスケール感は比較に困るほど仰々しく大きめ。ただし、見目はでかい割には神経は隅々まで行き届いていて気持ち良い。スティールアイの民謡歌手マディ・プライア(Maddy Prior)に、ムーディーズのヘイワード(Justin Hayward)まで、どこかで聞いたことのある名前がたくさんクレジットされてるし、楽団のアンサンブルも70年代ものとは思えない先進的なアレンジで、ついでにとても上手い。基本的にはデイブ・ロール(Davy(David?) Rohl)なるアレンジャーの一発プロジェクトで、楽団の部分は後にサッド・カフェ(Sad Cafe)になったと記憶している。

408 jyake08 1991

Dondestan/Robert Wyatt

前作から6年ぶり、90年代最初のリリースはモノトーンで沈痛なモノローグ。同志でもあり奥さんでもあるアルフリーダ・ベンジが半分ほど歌詞を書いてます。全体的にかなり内向きの淡々とした感触。何を見据えているんでしょうか。ちなみに、中スリーブの24cmx12cmの見開きの不思議な写真が気になっていた。モノクロで広大な海岸に黒っぽい服装の女性が海の方を向いてぽつんぽつんと離れて二人立っている。なんだろうと思ったらこれだった。

「礼拝」
 
尼僧が二人
砂浜に立つ
互いに離れて
真っ黒な木の杭のように
海の神に魅入られて
 
片方の尼僧
人の弱みをさらけだし
くたびれ果てた
足を砂に捕られ
子供のように
座り込む
 
黄金色の縞が
西の地平線に現れる
海の神からの合図
おまえが疲れ果てたのは
お見通しだと
 
頑固な尼僧は一人
あくまで起ち続ける
そして太陽が
沈む

見て来たことを見て来たままに歌ってしまえる境地とは如何に?

409 jyake09 1972

Lo scemo e il villaggio/Delirium

土臭い雰囲気は薄くなってかなり技巧とアンサンブル重視に変わったロック・イタリアーノ、デリリウムの二作目。もっともカンタウトーレの部分はそのまま残っています。フルート以外にサックスが巾を効かせて来たことと強弱の差が大きなダイナミックな展開が特徴的だ。ジャズっぽいピアノやサックスのソロも目立つが、やっぱり派手ではないがかなり効果的なメロトロンと叙情的なメロディの印象が強い。暖かくて柔らかくて、光と色に満ち溢れた春の午後、大河をゆるゆると下っていくような、なんともゆったりとしたほのぼの感に瞼がくっつきそう。これはフォニット・チェトラの再発イタリア盤CDですがレーベル面の色がゴールドで、ちょっと目を惹きます。

410 jyake10 1991

Love:and a million other things/Claudia Brücken

プロパガンダのヴォーカルのお姉さんの一人です。90年代風のかなりテクニカルな音作りですが、曲によって結構ばらつきがあるようだ。ダンスビートから「Surprise」みたいなノイズ・アンビエントみたいなものまで千差万別、玉石混淆。もちろん好みは後者ですが、かつてのプロパガンダを彷彿とさせるところはまったく無い。あらゆる意味で今風の軽めでポップな“ノリ”ですが、かなり特徴的な声なので耳が憶えているというか不思議に愛着を感じてしまうようだ。プロパガンダ自体ももレーベル側に相当作られた(おまけに安っぽい)イメージが強かったユニットでしたが、そこでのおどろおどろしくて、エキセントリックなイメージで随分損したような気はする。

411 jyake11 1973

Queen/Queen

三作目『Sheer heart attack』(←うろ憶え)でなんだかよくわからないけどアイドル人気爆発のクイーンの1stアルバム。二作目まではごく普通に「いいねぇ」、「先が楽しみだねェ」とか言いながらレコードを回覧していた憶えがありますが、その先の記憶はぷっつりと途絶えてます。結局、『オペラ座』くらいまでは聴いた憶えがありますが、当時は2nd、今はこれが一番気に入っています。当人達も意識過剰じゃない初々しい雰囲気だし、フレディ・マーキュリィは最初から良い声してるし、荒削りな生々しさが捌いたばかりの平目の刺身みたい。リズムセクションが弱いのはまぁ、ご愛嬌か。それなりにいろいろと自負心の強い部分はあるのだが、1枚目にしてそれだけのレベルには達しているとしていいでしょう。ゼペリンよりもいけるんじゃないか? と思ったこともあったなぁ。

412 jyake12 1986

Scoundrel days/A-ha

最近は手が廻らなくて買っていないのだが、今でもやってるんだろうか。(中断してたが最近再開してまたやってるみたい)これは二作目ですが、スーッと伸びやかなとこがとても気持良い。個人的にはポップだがまとまりのない1枚目より圧倒的に気に入っています。キャッチーでカワイっぽいノリは希薄になったが、北欧的なすっきりした空気感というか透明感が増してきて伸びやかな開放感が優れて気持ち良い。現象としては「ぽっと出」に近いけれども、下積みの長さを感じさせる骨太なプロ意識みたいなものが感じられて頼もしくも質の高いポップを作り上げているように思う。楽曲の出来も上手いし、歌はもっと巧いしなぁ。できればノルウェイ語で歌って欲しいものです。

413 jyake13 1977

Blackout/Ashra

個人ユニットになって、二作目は少しギターが復権した。シーケンサとリズムマシンが作り出した波の上を享楽的でうっとりするような音色のギターがふわふわと漂っています。とても人工的で美しい音ですがマヌエル・グートシンクの場合は何故か無機的な雰囲気にならなくて、柔らかくて滑らかで暖かい。くるくると表情の変わる女の子と二人で遊んだり、会話をしてるような、浮き浮きした楽しそうな雰囲気なのだなぁ。晴れたり曇ったり雨だったり、笑ったり泣いたりすましたり、やたらと視覚的なイメージをかきたてる音楽です。こういうものこそ是が非でもプロモビデオを見てみたいものだが。当時はもちろんコンピュータはないけれど、最近のものと比べても遜色はないでしょう。

414 jyake14 1976

Üdü wüdü/Magma

うむむ、コバイア語なのでもちろん意味はわからん。物語は「Ork」の章に突入してるのだろうか? コアなファンではないのでそこまでは興味が向きません。当時は日本盤はリリースされないし、そのせいもあって唯一入手可能だったドイツ盤やフランス盤は3,000円越えていた高価なものだった。そういう意味でもリアルタイムでマグマはかなりきつかったけれど、憑かれる部分はあるでしょう。中期に入って、質的にも転換を遂げた頃。いきなり冒頭ジャズっぽいピアノとブラスで始まるけれど、曲も短いし憶え易いポップで美しいメロディだったりして驚いたものだ。ひたひたとうねるようなトップ(Janik Top)のベース、ベース・シンセは相変わらず重量級でおぞましい。最後はそのトップ作の18分の大曲「De Futura」ですが、畳掛けるような強迫フレーズと変幻自在なリズムは健在です。神経を逆なでするようなシンセサイザとクラウス・ブラスキーズ(Klaus Blasquiz)の低音の掛け声が、一層強迫感を煽っておりまする。

415 jyake15 1969

Ummagumma/Pink Floyd

ライブとスタジオテイクの2枚組。タイトル『ウマグマ』は馬熊ではなくてエロい隠語だと記憶している。「ユージン、斧に気をつけろ」はライブでかつ初耳だったものでなかなか衝撃的でした。一つのアイディアに対する愚直なまでのこだわりと、それを実現するためにあらゆる機材を投入してしまうみたいな、スマートさの欠片もないドン臭さ。逆にとても丁寧で愚直なまでの真摯さが伝わってきました。しかも1967年のデビューから1971年の『Meddle』まで、たったの4年で一つの頂点に達した丁度中間点でもある。スタジオ盤の方は雲雀がずうっと鳴いてるとか「神秘」の拡張版みたいなものとか、2年前とも2年後とも全然違うところが面白い。アイディア倒れな部分はあるにせよ、小さな宇宙を垣間見せてくれたところは個人的にとても喜ばしいと思っている。実験的な過渡期と云えばその通りだが、ウォーターズの絶叫とライブ版「神秘」におけるギルモアのコーラスはなかなかオツで迫ってくるものがあるだろう。

416 jyake16 1988

The Serpent's egg/Dead Can Dance

昔ロシアの上空から見たレナ川やエニセイ川もこんな感じに見えました。苔の絨毯のような柔らかい緑と多分途方もないスケールの河川。もちろん実際には苔じゃなくてタイガなのだろうが広大に広がる無窮の大地も薄っぺらな布地のように実体感が乏しい。中期四作目にしてすっかり境界線の向こう側に逝ってしまったような音楽なので、気持ちよさそうに聞いてしまうのも本当は拙い気がしないでもない。だいぶ民族音楽色が強くなりましたが、コンテンポラリな形でうまく消化しています。全体を通した虚ろな感触と明晰で澄みきった暗さは相変わらず完璧に美しい。ラストのワルツ「Ullyses」の妙な安っぽさと現実感の無さも印象深い。20年ほど誰も住んでいない無人の部屋で鳴り続けていたような絶望的な空疎感が空恐ろしい。

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最終更新日 2002/12/11