懐古趣味音源ガイド    其百弐

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1617 jyake01
ARTD-5521
2006

Elapsed time/Céline

セリーヌの初作。詳細は全く不詳だが、セリーヌ(フルネームはどこにもないな)は名だたる欧州エレクトロニカ系製作者に起用されるNYC在住のフランス人歌手ということらしい。今風の技巧的なエレクトロニクス上に浮遊する冷っこく透き通るヴォイスというあたりが最早お約束の定番中の定番。想像通りの破綻無き安定と安寧。狙うは刹那と耽美が織りなす光と影の白昼夢といったところ。ドンピシャですな。タイトルは『経過時間』あるいは『過ぎ去った時』。

エレクトロニカ領域はオッサンが語れる領域ではないので外している部分はあるだろうが、曲を提供しているFunckarmaやUlrich Schnaussくらいは聴いたことがある、ような気がする。その他計8名の製作者による全10曲。もっとも、実際に、どこで、誰が、どのようなシチュエイションで、どのようなメディアで、どんなふうに聴く音楽なのか、さっぱりわかっていないわけで、自分が聴いていることがある意味不思議ではある。内容は、心地良くも硬質なリズムと、テクニカルで鮮烈、情緒的でエモーショナルな音響によって、穏やかで、聞く人に心地良い気分を醸成する聴覚訴求表現とでも云うべきか。唯一フランス語で歌われるウルリッヒ・シュナウス作「Un Rêve(アン レーヴ:夢)」が絶品であることは云うまでもない。

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Our Secret Records
OSRC03
2009

Still night, still light/Au Revoir Simone

このところ非常に気に入って、日々浸っている、オ・ルヴォワール・シモーヌ。直訳すれば「さよなら、シモーヌ」だが、同名のコメディ映画タイトル(Pee-wee's Big Adventure:1985)から採られたものと云われる。アメリカ東部NYC産。見目麗しくも心地良い3人娘のガールズ・エレクトロ・ポップの3作目。ジャケ絵は森に沈む夕日といったところ。

一応鍵盤は操れるようだが、上手いか? って言われると、そういう方向性で評価すべきではない、と答えたほうがよいレベル。ところどころ意表を突くアレンジが施された単なる歌ものではない方向での曲作りはなかなか斬新で魅せるものがある。派手派手しいというよりはクールで流麗。ベタッとしない、一歩引いた距離感と相まって、恐ろしくなめらかなメロディと今風の転調は鮮やか過ぎるくらいに決まる。狙いすましたチープな音感と上品な浮遊感、オーソドックスな少女趣味、売り方を心得過ぎちゃってるあざとさが垣間見えなくもないが、笑顔が可愛いから全てが許せるって、女は特だよなぁ。この手のものに在りがちな造りものめいた過剰プロデュースも感じられず、自然な素人っぽさがより魅力を引き出している。ちょっと舌足らずなユニゾンが気持ち良すぎ~。

1619 jyake03
Gonzo HST204CD
2013

Best of Clearlight 1975-2013/Clearlight

75年の『Clearlight Symphony』から2013年の近作『Impressionist Symphony』までの自主制作レーベルの作品からテキトーに包摂したベスト盤のようなもの。冒頭の「Clearlight Symphony」は1st movement、2nd movementともに20分強のオリジナルが7分強に短縮された再録ヴァージョン。2013年の最新作『Impressionist Symphony』の一曲がPre-mix ヴァージョンで収録されている。主宰のシリユ・ヴルドー老師はすっかり教祖然として、ブラジリアのオスカー・ニーマイヤ作の建築群の前でポーズをとっておるが、終の棲家はアメリカ西海岸からブラジルに移住した模様。コンセル・ヴァトワールの作曲科を出てるエリート中のエリートという触れ込みだったが、すっかり道を間違えた感が拭えなくもない。まぁ、悪い人じゃないんだろうけどね(笑)。微妙でこそばゆい東洋趣味と相変わらずのゴング人脈によるサポートも健在である。

時代に合わせようとしながらもズレまくっている底無しのB級感は否めないが、上手いんだか下手なんだかよくわからないピアノ+鍵盤と、リリカルながらも背景に徹して出しゃばらない、一歩引けたようなマイナー調ミニマルに何故か愛着を禁じ得ない。以前どこかにも書いたが、個人的に夏のイメージを彷彿とさせられて、夏になると引っ張りだしてよく聴いている。夏だからどこかへ出掛けようなどという気もサラサラ無く、終日24℃に空調した直射日光の入らない部屋で、グラスに注いだ冷たいシャブリを手に、流麗なピアノソロにメロトロンが被さってくる、少しひんやりした触感の心地良さに浸りきる。

1620 jyake04
Universal
6025 375 121-2 6
2013

The bones of what you belive/Chvrches

2014/09/18にスコットランドがUKから独立の是非を問う住民投票が行われる。スコットランドには北海油田があり、その権益の下での経済的自立は可能だろう。さらなる自沈を被るUK=イングランドは引き止めに必死だが、どうなることやら。当然スコッツ独立の暁には、ウェールズや北アイルランド、カナダのケベック、ひいてはバスクやカタルーニャ、北イタリアや南北でスッタモンダが絶えないベルギーといった地域にも飛び火が確実なわけで、EUも黙ってはいられまい。統合から離散への幕は開けるのか?

で、グラスゴウ・スコッツのチャーチズ。Churchesの「u」を「v」で置換したChvrchesが正式名称である。ブルガリみたいなもんか。理由は検索するとき楽だから。極めて今風のエレクトロ・ポップ・トリオであるわけだが、スコッツ訛りで謳う主唱のローレン・メイベリィ(Lauren Mayberry)が凄すぎる。インタビューの受け答えから類推するに、えらく論理的で偏差値高そうだな~と思ったら、法学修士にマスコミ学修士という才女を通り越した女史だった。その一方で、なんという落差。高校生と見紛うほどのお肌ツヤツヤの美貌で、参ったな、こりゃ。「嬲」が基本形態だが、右の男がヘタクソな歌を歌って、ローレンちゃんが鍵盤してる曲もあって面白い。男はともかく、ローレンちゃんはコケティッシュなソプラノ・ヴォイスで、凡そ声量があるとはとても思えないが歌はとても“上手い”。歌詞も微妙に屈折した生真面目さが滲み出ていてとても良い。文句なしに絶賛レベル。微妙にヒップホップ臭く軽いリズムを重ねてくるチープさが爽やかさとちょい暗めの抒情と絶妙にマッチしてしまう辺りが真骨頂。急いで出した1stアルバムのようで、熟れていないアレンジや、方向性が定まらない部分もなくはないが、補って余りある魅力が今後を期待させる。

1621 jyake05
DRL226
2009

Carousel/Guthrie, Robin

ロビン・ガズリーは80年代初頭からコクトー・ツインズ(Cocteau Twins:以下CT)を主催したギター奏者で、一世を風靡した歌手エリザベス・フレイザーの旦那に収まったと思ったが、その後の展開は知らんし興味もない。スコットランド人。タイトル:カルーセルは『回転木馬』の意だが、かつては遊園地に必ずと言っていいほど在った、微妙に上下動する木製の擬似馬に跨って、ただ中心軸の周りをひたすら回るだけの遊具。英語ならメリィ・ゴゥ・ラウンド(merry-go-round)。サーカス小屋のような円形のとんがり屋根と華やかな電飾が施されるのが通例で、基本は中欧あたりが出自の遊具だね。オレは木馬より回転ティーカップを滅茶苦茶に回転増速させるほうが好きだったけどね。

CTからフレイザーの歌を除き、夢見るアンビエント風味を50%割増した……で片付けてはいけないか。歳月は機材とテクノロジィの進化を後押しし、いとも簡単に夢幻と幽玄の音場を生成してしまう。CT以後、コラボ作、単独作含め追い切れないほど多作であるが、近年になるほど柔らかくも心地良い音のタペストリィ。全曲インスト。展開しそうで展開しないであっさり終わる楽曲などは、相変わらずというか深海浮遊透明海月。正にジャケ通りのお耽美潤々。

1622 jyake06
MASO CD 90071
1995
(1998)

Flowers/Stàlteri, Arturo

70年代中期にイタリア・プログのピエロ・リュネーレを主宰していた鍵盤奏者:アルトゥーロ・スタルテリの純ピアノ・アルバム。元々、クラシック畑のピアノ奏者だったのか、転向したのか、極めて達者に弾きこなすテクニックは申し分ないうえに、単なるクラシックのピアノ奏者にない色気を感じさせるあたりが真骨頂。録音も今風のロック系のダイナミズム重視なので馴染みやすい。続編として2012年に『Flowers 2』として純ピアノ集2作目がリリースされている。

内容は全11曲。自作5曲に加え、坂本龍一作の名曲が2曲、グラス、ドビュッシー、チック・コリア、ダリル・ウェイの「Vivaldi」(原曲はバロックのアントニオ・ヴィヴァルディ作)を強引にピアノ曲にしたもの各1で、カバー全6曲という構成。どれも上手いが、個人的には冒頭の自作「Scarlett」にぞっこん惚れ込んだ。超絶可憐で流麗。「赤毛の女の子が身振りで話す」という副題だが、人名とScarlet=深紅に掛けていると思われる。と、まぁ、冒頭一曲でノックアウトなのだが、ピアノだけなのに最後まで全く飽きさせない華麗なアレンジと引き気味のテクニック、隅々にまで配慮が行き届いた繊細さと完璧さには恐れ入る。カバーに関しては、オリジナルは必ずしもピアノ曲というわけではないのだが、単なる解釈を超えた創意に富んだ再構築が成されており、才気が溢れ落ちとるわ。

1623 jyake07
EMI
0946 363037 2 8
1985

Alchemy : An index of possibilities/Sylvian, David

オリジナルは1985年、イギリスのみでシリアル入り限定カセット・テープでリリース。2ndソロと云われる『Gone to Earth』と同時期のリリースで、こちらは歌無しの全曲インスト、後のアンビエント路線の萌芽と位置付けられるものだろう。デヴィ・シルは70年代後期、どう見てもキワモノ、或いは色物でとても手を出す気にはなれなかった『Japan』のフロント・マン。お化粧グラムからニュー・ロマンティックス辺りのジャンルだったのだろうが、Japan後期はエレポ時代の坂本龍一近辺とコラボして、当時は最先端だった今は無き西武系のプロパガンダにも一役買っていた記憶が残っている。

タイトルは『錬金術:可能性の目次』といった意味と思われ、オリジナルは全3曲。1曲目は「シャーマンの言葉」と題された3部構成。熱帯雨林系のエスニックなリズムに導かれた太古の夜明けと祭祀ですかね? 中間に現代音楽調のボーナスが2曲挟まれて、ラスト19分の「鋼鉄の大聖堂」は山口ヤスユキの環境ビデオのサントラ。ジャンセン、チュカイ、坂本龍一、土屋昌巳、フリップ、トランペットのハッセル(Jon Hassell)その他というオール・スター総出演のアンビエント。DVDにすらなっていないビデオだが、中身は川崎辺りの石油化学コンビナートを撮影したもの。家庭に民生用ビデオ機器が普及し始めた時期で、こういうのが時代の最先端としてセンス溢れる人たちに絶賛されていたものだ。誰もが期待する最大の武器である上手な歌(ボウイより上手いだろ)を封じてまで、作りたかったデヴィ・シルなりのアンチ・テーゼなのか?

1624 jyake08
unicord UNCR-5042
2007

2nd hands/Gourishankar

ロシアのグリシャンカール。2作目。グリシャンカールは高峰を意味するネパールの地名と思われる。表記がキリルじゃないのは助かるが、歌詞が英語なのはちょっと興醒め。ディスクはカナダ盤だからなのかもしれない。CD1枚で1:11'11"の大盤振る舞い。こんな規格あったのか? 特に問題なく再生は出来るみたいだが。基本コンセプトは神秘主義的創世記のようだが、スリーブ・デザインも恐ろしく現代的というか、洗練されすぎちゃうところが最近のロシアだなぁ。

中身はなかなか。久々にあらゆる意味で凄いと感じた。何? この完璧? 北欧プログ・メタルや世紀末フランスMuseaのテクニカル・シンフォあたりの影響は皆無ではないにしても、ロシア・アヴァン・ガルドと得意のクラシカルと未来風味の12音階主義とそこここに見え隠れする絶妙に隠蔽された民族性、透き通るまでの超硬質、超絶変拍子と想像を絶する曲構成に抑揚、緩急、転調づくしの展開とディジタル・バカテク。5曲くらいを強引に入れ子状に組合せテーマで繋げて、どうだ? 文句あっか? 的な斬新。呆気にとられた。リズムを外してスルリと全く別の曲に遷移していくスリリングな緊張感が美しくも流麗なメロディに映える。映えすぎる。音楽的な情感を徹底的に廃しながらも、粉砕されたガラスの破片を再構築することで醸しだされる、あまりにもヴィヴィッドな音像は正に音楽的という絶対矛盾、論理の断裂ともいうべきか。

1625 jyake09
Columbia 88875173862
2016

Blackstar/Bowie, David

タイトルは正確には「★」。不吉な予兆を司る暗黒星。リリース2日後に逝去となる遺作。若すぎる天才の死。享年69歳。スタジオ・アルバムとしては28作目。時代の変遷を常にリードしつつ一歩先を歩んできた。初期グラム時代のエキセントリックな外観や、頂点に達するとあっさりとウッチャリをきめて転身を図る変幻自在な立ち位置が虚飾に見えてしまい、意外に聞かず嫌いが多く評価が低いきらいがあるが、根底に流れる一本芯の通った意気込みにして、ボウイのボウイたる所以を見出すと嵌ることになる。

不吉なシンボルと死を予感させる語句に溢れた表題曲で始まるアルバムは、新世代ジャズ人のサポートで陰影の淵に深く沈み込んでいくような情感を余すところ無く描き切る。ハイテク・ジャズ人脈を起用しながらも全然ジャズじゃない方向に制御されているあたりがボウイのボウイたる所以であり、だからといってロックでもファンクでもないところは以前から変わらず。謳い上げる声はもう老いを隠せないし、弱々しさや悲痛さを感じさせながらも、それを逆手に取ったような傍観者的な視線も相変わらずだが、70年代の名作『Low』から綿々と引き摺られてきた不吉な予兆と刹那的なエロティシズムの不遇で親密な融合は今ここに大成した。いやぁ、まいった。

1626 jyake10
Reprise Records
9362-49478-7
2012

Sunken Condos/Fagen, Donald

20世紀アメリカの超一流アダルト・ロック:Steely Danの鍵盤奏者によるソロ・アルバムとしては『Morph the cat』以来6年ぶりの4作目。タイトルは『沈んだコンドミニアム』。日本語風に表現するならば『水没したマンション』。オリジナル8曲にアイザック・ヘイズ(Isaac Lee Hayes:故人)のカバー1曲。基本は『Gaucho』期のSteely Danの展開であることには違いないのだが、前作までのスタジオ・ワークを駆使した研ぎ澄まされた緊張感と陰影に富んだ奥行きの深さの追求というよりは、若干趣が違う軽やかさ、あるいは年齢的に角が丸まった冗長性、妙に明るく清潔、清澄ですらある。

AORにしては夏向きの爽快な清々しさ。水没した見開き内スリーブも青基調の気持ち良いもの。敢えてラフっぽい、ライブな録音だが、ダイナミックレンジの広さや音の粒立ちはディジタルを駆使した現代のテクノロジィ、音質のクォリティは相変わらず絶賛レベル。

1627 jyake11
ECM
1080 B0011614-02
1976

Sargasso Sea/John Abercrombie + Ralph Towner

ECM(Editions of Contemporary Music)を好んで聴くようになると、そろそろ人生も終焉に近づいたという理はあながち間違いではないだろう。“The Most Beautiful Sound Next To Silence(沈黙に次いで最も美しい音)”を標榜するヨーロッパ・ジャズを基本に、昨今は現代音楽、古楽、バロック辺りまでを包含するドイツ(英ユニヴァーサル傘下)のレーベルである。タイトル『サルガッソ海』は北大西洋中心部の海流が滞る海域のこと。プランクトンが少ない? ため、透明度が異常に高い特異海域。西部のキューバ寄り、西インド諸島東側は俗に云うバミューダ・トライアングルとして知られる。

分類上はジャズなのだろうが、ジョン・アバークロンビー、ラルフ・タウナー共に熟練ギター奏者であり、電気ギターのアバークロンビーにアコギ(一部ピアノ)のタウナーが縦横無尽に絡み絡まれ組みほぐれつつ、即興主体のクラシカルでありながら多重録音を多用し、前衛的な現代音楽的ギター・バトル協奏曲になっている。全8曲。描かれるのは夏の情景でありながら、ひんやりとした透明感と緻密でありながら控え目な、エモーショナルでありながら淡々とした叙景とでもいおうか。地味で暗いが一歩引いた距離感が心地良い。

1628 jyake12
EREBUS RECORDS
ERCD009
1973

An Old Castle of Transylvania/Cosmos Factory

尾張一宮出身のプログ。1973年のアルバム・デビュー作。当時全盛期だったクリムゾンやフロイドのイイトコ取りながらも、器楽優先の楽曲にマイナー歌謡曲調の日本語歌詞を上手く乗せた先駆者。厭世的な悲劇性を内包した情緒的な歌詞も当時の歌ものには珍しい個性だろう。4人組と思われるが、主宰者? は鍵盤奏者・作詞作曲の泉つとむと思われる。売れたという記憶は一切ないが、以降77年にかけてEP3作とLP3作が製作されるが頂点は3作目かな? ちなみにバンド名はアメリカの60年代スワンプ:Creedence Clearwater Revivalの1970年の5作目『Cosmo's Factory』から採られたと思われるが、意図は良くわからん。

タイトルは『トランシルヴァニアの古城』で後半20分の4部構成長曲の曲名から採られたもの。饒舌なベースが唸るブルーズ基調の曲調とエモーショナルなギター、通奏低音のように鳴り響く泉のメロトロン、オルガン、ピアノ、思いっきり湿っぽい歌謡曲調、ドラマチックに謳い上げるヴォーカルが帰って新鮮な情感を掻き立てる。総じて時代物めいた古臭さは否めないし、テクニックやアレンジもキレが悪く今一つ、輪郭が不透明な録音もお世辞にも良いとは言えないが、ギルモア初期のピンク・フロイドが持っていた曖昧模糊とした湿った素人臭さがひっそりと息づく親密性として表出したような独特の個性はおもしろいし、気に入っている。「~雨は降り注ぐ……どこまでも……大きく大地を揺るがせるほどに……」

1629 jyake13
Imbalance Computer Music
ICM08
2009

Indigo_Transform/Henke, Robert

スウェーデンのアンビエント作家:ロバート・ヘンケの近作。Monolakeという名義でも多数作をリリースしている。本作はMonolake名義の『Cinemascope』の収録曲である「Indigo」を長時間ループ化し、同国人:Fredrik Wretmanのインスタレイションの音響として提供したもので、会場の3か所からループの異なる音響を流し、それらが重奏化する効果を疑似マルチ・トラックで全一曲、ぴったり60分切り取ったもの。

基本はダーク・アンビエント・ドローンということで、うねる重低音の連なりと、洞窟の中の地底湖に滴る水滴の残響音、寄せては返す潮汐の位相が少しずつずれて、同期し、やがて再びずれて離反していくという無限のループ。恐ろしく叙景的でリアルな音響が新鮮だ。スペクトルを眺めると、ほとんど振動に聞こえる20Hz近辺の重低音がズーンと伸びていて、加齢に伴う聴覚機能の低下にも係らず躰に響くような、辛気臭いまでの強迫的圧倒感と底なしの深淵に沈埋していくような刹那感が素晴らしい。「Indigo」は色名で「藍色」。タイトルは『藍色遷移』とも云うべきか。

1630 jyake14
Usakuma Records
USAK-011
2011

Rocking Roller/Benoit Moerlen

ゴング・ハイテク期の打楽器奏者として著名だったピエール・ムワルラン(Pierre Moerlen:故人)の弟にして、D・アレン期以降の『Gazeuse!』からゴングに所属していた、基本的には木琴(マリンバ)・鉄琴(ヴィブラフォン)奏者であるブノワ・ムワルランのソロ・アルバム。兄者のVirgin繋がりでマイク・オールドフィールドの『Exposed』『Islands』辺りにも名前が出ていた気もするが、うろ覚え。昨今はしばしば来日している模様で、これも国内レコード会社からのリリースのようだ。

概ね70年代後半『Gazeuse!』~『Downwind』期の歌無しジャズ・フュージョンの打楽器的展開に、オールドフィールド、ベドフォード辺りから影響を受けたと思われる民族調ミニマル反復を合成したかのような曲調が主調。全盛期Gongのアレンジとインプロが入り組んだスリリングな緊張感を期待すると外すが、コロコロとした心地良い木琴・鉄琴の響きは類例が少ないせいもあって新鮮に聞こえる。

1631 jyake15
WARPCD70
2002

Twoism/Boards of Canada

エディンバラ@スコットランドの二人組アンビエント・テクノ。率直に訳するならばカナダの板材。銘木バーズアイ・メイプルから下地の針葉樹合板まで幅広く使われている。実際はカナダの国立映画製作庁の作品から取られたらしい。まぁ、BOCというと古老にとってはBlue Oyster Cultなんだけどさ。こちらは今風に言えばエレクトロニカ。オリジナルは1995年にアナログEPで100枚限定リリース。当初はトリオだったらしいが、現在の再発CDからは名前が削除されている。タイトルと齟齬をきたすからだろうか? ジャケットは1980年のSF映画『The Killings at Outpost Zeta』のクライマックス・シーンであるが、結果的に見ればタイトル『Twoism』に通ずる部分がないとはいえないか。映画は余りにも凡庸な出来で国内では公開されなかった模様(音楽は意外と良いんだが)。もちろんYoutubeで全編視聴可。

自前スタジオ「Hexagon Sun」で制作された初作と思われる。録音が古いせいもあって生音もけっこう聞こえる。今聞くとエレクトロニカ黎明期の拙さ、安っぽさは否めない部分もあるが、ミニマルな音響の中で基本は一定のリズムの上を漂うように這う、滑らかでメランコリックでノスタルジックで心地良いメロディ。クールでいながら乾いた春陽のような霞。全曲歌なしながらも親密性の高さは類稀な情緒性と相まって、するりと忍び込んで来る。

1632 jyake16
MIDI Creative
CXCA-1160
2005

The Lie Lay Land/World's End Girlfriend

う~ん「最果ての彼女」? の『嘘まみれの地』で良いんでしょうか? 通称WEG。西の最果てなんて言ったら失礼だろうが、東シナ海の離島、五島列島出身の前田勝彦による一人ユニット。同一人物別名義で「World's End Boyfriend」と「Wonderland Falling Yesterday」がある。現在もそれなりに活発に活動中で、自前レーベル「Virgin Babylon Records」も主宰しているという才人。

2005年の4作目。20Hz~20kHzのあらゆる周波数に渡って音数が飽和して破綻寸前の超絶疾走暴走アンサンブルは鳴りを潜め、ノスタルジックなメロディとジャンルを尽く無視した楽曲展開があくまでスュルレアルに、手術台の上の雨傘のように鮮烈に切り込むノイズと絶望的なまでの崩落。歌謡曲からクラシック、ロック、ジャズ、民族音楽からノイズ・アンビエント・エレクトロニカまで、縦横無尽の節操の無さは正に誇るべき真性ハイブリッド。イイトコドリを捏ね繰り回したような日本的なあざとさと二者択一的に幼稚性を切り捨てられない思い切りの悪さを感じなくもないが、西洋音楽の規範と戒律に雁字搦めにならなくて済む日本人としての民族性を突き詰めた感は感動的ですらある。近年稀に見る絶賛。

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作成日 2014/07/03--最終更新日 2017/02/25