懐古趣味音源ガイド    其八拾八

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1393 jyake01
EMI/Electorola
CDP 538-7 90969 2
1973

Inside/Eloy

おお、古い。エロイの2nd。いきなり17:14の長曲「Land of no body」でスタート。順次「Inside」「Future city」「Up and down」と続くわけで、SFしてますね。クラウトでありながらも国際進出を念頭においた英語化を図るも、今一つ脱皮しきれない田舎臭さと、ロマン派の末裔的体質を髣髴とさせる情念的な切れの悪さが特徴であり特質でもある。

当時の録音の悪さを差し引いてもB級であることは否めないが、それなりの抑揚と重量感、下手なりにしゃかりきになって跳ねまわるリズム隊、インパクトのある切れ込みかたなどはなかなか新鮮で面白い。レスポール系のギターとリッケンバッカー風のセミアコベースにハモンド・オルガンという基本は70年代ヴァーティゴ風オルガン・プログ。歌入り部分は僅少でほとんどインスト演奏がメインだが、バラード風のリリカルで情緒的なメロディや、ラストの広がり続け収束しない無常感などなかなかツボに嵌るものを持っている。

1394 jyake02
Brilliant Classics
92178
2004

Chamber Music/Couperin, François //Musica Ad Rhenum

おおお、もっと古い。フランスのバロック中期を代表するフランソワ・クープラン(1668-1733)の7枚組室内楽集。概観的にはルイ14世お抱えのクラヴサン(古式ピアノ=クラヴィネット)演奏家兼作曲家として著名ですが、連弾ものも適宜弦楽器や管楽器に差替え可など柔軟な構成で華やかに場を演出する室内楽も見事です。音楽を独立した芸術として悪戦苦闘しながら世間一般に認知させたのはずっと後世のモーツァルトやベートーヴェンの功績で、市民社会の経済的勃興と隆盛を待たねばならなかったわけだが、多くの室内楽はその成立の過程から、食事や娯楽のBGMとして王侯貴族に仕える音楽職人達によって極めてプロフェッショナルに作られてきたものです。

中身は『王宮のコンセール集』、組曲『諸国の人々』、フランス様式とイタリア様式の融合を試みた『リュリ讃』『コレッリ讃』といった有名どころはもちろん、トリオ・ソナタ集『趣味の融合、あるいは新コンセール集』に四重奏ソナタ『スルタン』、最晩年の『ヴィオール組曲集』を加えて、クラヴサン曲と宗教曲以外はほぼ網羅されているようだ。劇的な表現や情熱的な思い入れを極力排し、緻密な構成と展開、こまやかな情緒を旋律の美しさと親密さ、優美な上品さで優しくクールに包み込んだ小曲の連なりは極めてフランス的ではあるか。美と喜びに満ちた世界を現世に見出すことは甚だ困難であるし、来るべき未来には前もって愛想が尽きたが、ここにある世俗性を徹底的に排除した世界は実に細やかで小体な心地良さを、押し付けがましくなく素っ気無く呈示しているだろう。

演奏はMusica Ad Rhenumというオランダの室内楽団で古楽器使用、最大14人ほどの編成。親密でまとまり過ぎの感はあるが室内楽らしい丁寧さで、思い入れを排した情感を品良く奏する。ピッチは注記されていてa=398Hzを採用し、現代音楽(a=440Hz)とは異なる。2004年のディジタル録音。

1395 jyake03
Rhino/4AD
R2 78359
2001

1981-1998/Dead Can Dance

ライノから出たリマスター・アンソロジー3CD+1DVD。スリップケース付の布装丁でブックタイプの豪華写真集に銀盤を挿入する凝った作り。17+17+13の全47曲。うち9曲がデモ等の未発表ヴァージョンとなっている。DVDは“Toward the within”ツアー(94年のUSAツアー)のライブ13曲にプロモ5曲を加えたもの。NTSC、リージョン0。

90年代末期に幕を閉じたDCDではあるが、90年リリースの『Aion』を最後に80年代と90年代の味付けは同じデュオとは思えないほど異なる。80年代が4ADをバックにしたルーツ探訪的中世キリスト教世界への思索的、内省的追求であるのに対し、90年代は外世界への解放的な憧憬とでもいうべきか。平たく云えば、どうもヨーロッパ人は辛気臭いから、ここは一丁アフリカ+南米土俗民謡でもやってみるかと。ワールド・ミュージックの隆盛に合わせて波に乗ろうとしたのだろう。もちろん、禁忌を蔑ろにすれば堕ちるのも早い。安直で薄っぺらい異教認識と雰囲気だけの異国趣味は、根源的な異種蔑視にとっぷりと身を任せた如何にもアングロサクソンの末裔が標榜しそうな似非ヒューマニズムに満ち満ちている。

デュオ+エスニック風6人編成のライブですが、指向性、音楽性において、デュオの二人の方向性の相違も明らかになり、少なくともおまけのDVDを見る限り、それぞれの持ち歌以外の場面では互いにステージから引っ込んだり、椅子に座って相方の芸が終わるのを待っているという最早意味不明なライブとなっている。曲も未消化で当り障りのない民族風味のワールド・ミュージック。特にペリーの歌曲はアコギを片手に声を張り上げるオーストラリアの牛追いフォークソング歌謡にしか聞こえないし、奏者としての才の欠落に関しては問わないが、なんともちぐはぐな印象は免れない。リサ・ジェラルドは中世宣教師の娘のような衣装で、まぁ、雰囲気は美人だよね。プロモは初期「Frontier」以外はかなり陳腐。貧困がテーマになっている「The Host of the Seraphim」に至ってはアフリカ、アメリカあたりの貧困風景を描写した後に東南アジア風淫売宿のネエチャンの濃厚な眼差しを映すのだが、何故かその直後、扁平顔の弥生系アジア人トリオがだらしなく長襦袢(?)に帯締めて日本舞踊風(その道の人がみたら怒るんじゃないか?)の妙な踊りを踊り始めるのであった。でもさぁ、帯背負ってないよー(爆笑)。それなんだぁ? 筒かぁ? 日本の芸者はそんなことしない気がしますが……。曲が良いだけに思いっきり白けること請け合い。ジャパニーズ・キモノの着付けには根本的な誤解がありそうだ。

ちなみに昨年(2005年)、止めときゃいいのに再編されたそうだ。

1396 jyake04
BBL 52 CD
1984

The waking hour/Dalis Car

ジャケ絵を見ただけで買ってしまうダリズ・カー唯一作。元バウハウスのピーター・マーフィ、ジャパンのミック・カーン(Mick Karn)にローフォード(Paul Vincent Lawford)によるリズムマシンが加わった仮設トリオ。典型的なエレポップでありながら、マーフィのオドロオドロしい演劇ボイスとブフブフ・ドヨ~ンとのたうつカーンのベースが誘う夜の調べ。両性具有の使者がお迎えに来る朝を待つ、濃密にして妖艶な夢見の夜か、すかすかで虚ろな現実に咲いた一夜の徒花。もっとも、リリース当時も叩かれていたが、どこか力の入れどころが狂ったような半端さ加減がもどかしい。
表記は「Dalis Car」だが、実体は牛肉核心隊長の希代の銘作『鱒面傀儡』の曲名「Dali's Car」から採られたようだ。まぁ、Daliはあのダリなのだろう。

カバー絵はパリッシュ(Maxfield Parrish:1870-1966)の「Daybreak」の青版(正確には元版ではなくシアンかぶりの印刷ミスが出回っているらしい)。空が青いのはレイリー散乱という物理現象ですが、パリッシュ・ブルーという色名にもなるぐらい青が魅惑的なイラスト画家の1922年の代表作。パリッシュの作品はノヴァーリスやBJHのジャケ絵にも使われています。

1397 jyake05
MECA-30102
1997

Whiter/Prism

プリズムももう30年選手。長年連れ添ったベースの相棒(渡辺健)がリタイアしてからは和田アキラの個人プロジェクトのような雰囲気もありますが、本作はトリオ構成だった結成20年にあたるスタジオ盤。変拍子フュージョンを基盤にしたテクニカルな音作りは変わらないが、緩急自在で変化に富んだ曲調には驚いた。“J”にありがちな、寄ってたかってロクでもないプロデューサに小奇麗に、売れ線にまとめられる愚は犯さず、伸び伸びしたスケールを保ち続けているのも好感である。その分広告も打って貰えず、ドサ廻りに徹しなければならないだろうが、そんな割り切りまでもが全体を通して流れる、ゆったりとした「明るい諦め」のようなものに繋がっているのだろう。

全12曲。原則インスト。最後の2部構成の前半に下手糞な英語ボーカルが入っている。個人的には渡辺健の手になる曲がツボに嵌るかな。弦楽入りの「Hinata-bokko」、ラストのラスト、「Unfogettable」あたりのたおやかな叙情性はメロウで鄙びた余裕まで感じさせる。一方で、曲タイトルは英語なのだが、日本語をそのまま横文字で読ませるのは良いにしても、如何にも日本人が日本人の発想で考えました的な和製英語風のタイトルの連なりはコッパズカシイというか、微笑ましくも香ばしい。

1398 jyake06
North Side
NSD 6066
2002

Live in Helsinki/Värttinä

スオミ現代民謡の雄ヴェルティネの近作。2000年12月6日のヘルシンキでのライブにビデオ1曲を加えたエンハンスド仕様。フロントは女性4人の謡い(いろいろ迷ったがこの字が最も相応しい)、バックは木管、アコーディオン、ダブルベース、ヴァイオリン、打楽器にギターという計10名による構成。ビデオを除く14曲中5曲が出身地であるカレリアの民謡リアレンジ。ほとんど祝詞(というか呪詛か)に近い語りの迫力もさることながら、独特のハモリが多用される(つまり非西洋音楽的な)コーラスのアンサンブルも精気に満ち溢れぐいぐいと迫る様が圧巻である。味のあるア・カペラも聞かせるが、器楽演奏も安定したプロフェッショナル。奇数拍子からグルーブまで、リズミカルな曲から神秘的なまでの豊かな情感にたゆとう曲まで、変幻自在のアレンジには普段耳にする音楽とは違った意味で圧倒される。

四人の謡い手の振り付けははっきり言って盆踊り。極めて印象的にして格好良い。懐かしさすら感ずるな。ちなみにヴェルティネとはカレリア地方の民族衣装に使われ、彼女達がベルトのように腰に巻いている帯状の刺繍を縫う編み針のことのようだ。

1399 jyake07
EMI Electora
7243 8 22672 2 5
1975
2001

Let it out/Kraan

旧西独超絶洒脱ジャズ・ロックのクラーン。鍵盤奏者が加入しキンテットとなった通算五作目くらい。世間を舐めきった孔雀女のジャケ画のチープな質感とは裏腹に、緊張感とセンス溢れる中近東メロディにメロウな脱力感がふわりと乗って織り成す至福の迷宮。否、孔雀女そのものの艶やかさと淫猥さを兼ね備えた女性性と前衛風味まで感じられる意欲的な音作りは類例を聞かない、ぐらい云ってもよいだろう。はっきり言ってエロい。彼等のテクニックを持ってすれば、ガチガチのアカデミックだろうがきゃぴきゃぴ・ポップだろうが朝飯前だろう。それを惜しげもなくふわっと崩す大人の余裕と、ドイツ人らしい手の抜けなさ加減と如何にも一貫したコンセプトの尊守っぷりが絶妙にして抱腹。鍵盤による浮遊感を上手く生かした微妙な曲線的肌触りがもう堪えられません。はぁ―――。

2001年リマスターのせいか音質は恐ろしくリアル。音圧、音像はもちろん、音場の広がりも極めて豊潤とすらいえる。

1400 jyake08
Christophrus
CHE 0050-2
1985
1994

Motetten/Pachelbel, Johann //Capella Sebaldina, Werner Jacob

バロック前期のドイツの作曲家兼演奏者、ヨハン・パッヘルベル(1653-1706)の計13曲の宗教曲集。うち2曲がオルガン曲。残りは若干の伴奏が入った混声合唱曲。パッヘルベル=カノンというくらいただ一曲(それも曲の前半)だけが取り上げられる人ですが、後のJ.S.バッハにも特にオルガン・コーラルの分野でそれなりの影響を与えたことは間違いない。もっとも、宗教曲と他を厳密に区分し、非宗教曲では技法の追求と革新に遠慮がないバッハに対し、パッヘルベルの技法としてのフーガはあくまでも宗教曲の手段として用いられているあたりが、埋もれてしまった評価の一因でもあろう。

というところまでが前口上。ニュルンベルク生まれで、各地の教会を転々として晩年は再びニュルンベルクに戻り、聖ゼバルト教会の主席オルガニストを務めた。現存する楽譜の大半は宗教曲で賛美歌をテクストに曲を書いたもの。楽理的にはルネサンス音楽の伝統であるポリフォニック(複数声部+独立リズム)とバロック期に成立したホモフォニック(主旋律+伴奏・和声)との混在が対位法の究極的表現とも云えるフーガと相まって、完成度の高い楽曲を構成しているのだろう。穏やかで典雅、優美で敬虔な曲調はするりと入り込むものを持っている……が、わたしはどうせ異教徒だし、ラテン語歌詞もわからんし興味もないから昼間からへろへろに酔っ払いながら昼寝の睡眠導入音楽として重宝しております。

録音はニュルンベルク、演奏もニュルンベルクのセバルディーナ合唱団とオルガンのヴェルナー・ヤコプ(Werner Jacob)。ちなみにこのシリーズは初心者向けの廉価盤らしいが、ミサ曲、マニフィカトを含み、これがまたなかなか優れた選曲である。

1401 jyake09-a
EMI
07243 538408 2 2

jyake09-b
(1973 original)
1973
2002

Baby James Harvest/Barclay James Harvest

初期BJHの転換点でもある四作目。鍵盤奏者ヴォルシュテンホルム~ウォルステンホーム(Woolly Wolstenholme)が曲作りのためヨークシャーのムーアに遁世したため、田園メロトロン・フォークの朝霧が晴れてギター中心のフォーク・ロック色が濃いものに仕上がった。ウォルステンホームは60人編成オケ付(財務窮乏のため最後の随伴生オケ付き作品)のラスト「Moonwater」1曲の作曲演奏と他数曲で鍵盤を後入れしているだけに過ぎない。というあたりで基本的な品質は保たれて佳曲はあるものの、総じて平板、若干散漫な印象は否めないのだが、移籍後の次作で心機一転巻き直しが掛かるので、まぁ、良しとしよう。

元々、奇を衒ったり、エキセントリックな自己主張をしないだけに、SE入れたり複雑な展開を見せたりと構成に凝った曲が新機軸か。電気使ったギターの音もえぐみのない穏やかさが品良く淡々と忍び寄る。2002年リマスターはオリジナル6曲に加え、別テイク5、シングル・ヴァージョン1、セッション3、2002年リミックスの「Moonwater」計10曲がボーナスで付属と大盤振る舞い。

1402 jyake10
Musea
FGBG 4200.AR
1977

Tome VI/Ange

70年代アンジュの集大成的、当時は2LPだった実況録音盤の再発CD。音質に加え編集もお世辞にも良いとはいえないが、70年代前半の名作アルバムから満遍なく選ばれたレパートリィが素晴らしい。ライブ向けの曲ばかりでなく、半分ほどを物語性の強い緩急抑揚に富んだ劇的な歌曲が占めるところにアンジュのアンジュたる自負が感じられる。個人的には四作目の佳曲「Sur la trace de fées(妖精の跡を追って)」が聴けて満足である。ほぼ、オリジナル通りのアレンジだが、叙情的な抑揚と躍動するシャンテ、アンジュ・オルガンの茫洋とした響きが堪えられない。イントロのシンセ音とアルペジオが始っただけで歓声を上げる観客もなかなかおつだ。

ジャコティ老の前口上

あっという間に過ぎ去った我が幼年時代に見た一羽の鳥に視線を向ける――大昔の奇譚。どこの森が私達の隠れ家なのか、
どこの吹き出物なら最初の愛撫を妨げないのか、
風が我等に鳥たちの高潔なメロディーを語るのはどこなのか……

「Sur la trace de fées(妖精の跡を追って)」
 
ジャディスはピエールとグラディスとともに
白い服に身を包み通り過ぎてゆくものを見た
僕等の夢を吸い寄せて流れる小川を
喜びの宝石箱に向けて
僕等は妖精の跡を追った
それは五月のことだった
 
金毛の頭が狂ったように宙を舞い
それは白い服を脱ぎ捨てた
金色の髪の奔流がほとばしり
僕等の絹の目を舐めた
僕等は妖精の跡を辿る
それは五月のことだった
 
「わたしは馬車に乗った王子――。
わたしの女神が星空の下で悲しんだが故に、
わたしは再び犬(卑屈な人間 けちん坊)に姿を変えたのだ」
 
ジャディスが百合の花の下に隠れていると
白い服を着たそれはぶらぶらと目の前を歩く
北風が絡みつくその地方で
幾千のがま(燈心草:藺草の穂)が嘆き悲しむ
僕等は妖精の跡を追った
それは五月のことだった
 
ニンフの金髪は狂ったように風になびき
白い服のそれが笑う
庭園の芝草は
僕等、子供の足を包み隠し
僕等は妖精の跡を辿る
それは五月のことだった

わかったような、わからないような老人が語るいにしえの妖精譚。同じテアトラルでもアンジュとモナリザは随分と趣が異なるものだ。

1403 jyake11
Virgin Classics
7243 5 61615 2 8
1999

Piano Quartets/Brahms, Johannes //Domus

ブラームスのピアノ四重奏1番(Op.25)、2番(Op.26)、3番(Op.60)にマーラー(Gustav Mahler:1860-1911)の未完にして唯一のピアノ四重奏「断章」を加えた2CD。
ブラームスの1番は若書き。情熱的で印象的なテーマとダイナミックでしなやかな美しさ、はっきりした抑揚をもち、もっともよく耳にする。ハンガリア舞曲のテーマが組み込まれた第4楽章はつとに有名である。
2番は60分越えの長曲で1番の直後に書かれているにもかかわらず、趣はまったく異なる。1番が風薫る新緑の萌えならば、こちらは枯れた晩秋を思わせる寂寞と透明感が胸を打つ。
3番はロマンティックでリリカルなメロディが極まった集大成。着手は1番と同じ頃、すなわち、恩人であるロベルト・シューマン(Roberto Schumann:1810-1856)の自殺未遂、狂死、その妻クララへの思慕が極まった20代後半だったらしいが、長い間寝かされ改良が続けられて晩年になってようやく発表されたもの。

重厚で歴史的なモチーフで飾られた薄暗いセピア調の部屋に差し込む穏やかで少し黄味のかかった斜光。追いつ追われるピアノとヴァイオリンの悩ましい掛け合い。いずれも気品に溢れた格調と秋を思わせる鮮麗な透明感が特徴。晩年のリストやヴァグナー等の標題音楽が19世紀音楽として隆盛を極める中で、頑ななまでに音楽そのものの美しさを追求しつづけた最後の変人でもあったのだろう。

演奏者であるドーマス(Domus)はイギリスの四重奏団で、ピアノ四重奏だからヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ピアノという編成。ブラームスの特質を丁寧にかつ清楚に表現している。録音はロンドンの教会ということで、残響がかなり豊かで自然で艶やかな感触の優れたデジタル録音になっている。

ちなみに購入に走った最大の動機はジャケ絵がシダネルだから(笑)。アンリ・ル・シダネル(Henri le Sidaner:1862-1939)の象徴主義時代の逸品中の逸品「日曜日(Le Dimanche)」をジャケ絵にするなんていい趣味してるなぁ。シダネルは時期的にどう足掻いてもマイナーだが、1900年以降、パリ北郊オワーズ県ジェルブロワ村に定住し自邸に「白い庭」を作庭しつつ多くの作品が描かれたようだ。元々、叙情的リアリズムから象徴主義を通してアンティミスム(親密派)に行き着いた人で、大半を占める庭園画の内的宇宙を醸し出す溢れんばかりの情緒に惹かれて止まない。

1404 jyake12
SI 905420
1994

Disco 2/Pet Shop Boys

わはは。ひゃいん。懐かしいよん。光光光、異様に強調されたベース音。音。打ち込み、音。すべて音。ピンク、赤、黄色、レーザー、青青、紫紫。レーザー、上、下、斜め。点滅、発光、ミラーボール。腕、首筋、顔、髪、唇、瞳。パール、ピンク、ブラック。柑橘、フローラル、光光、ジンライム。暗転、点滅、光の洪水、そして残響の彼方の闇。『1』からやれって? まぁまぁ。全12曲、すべてリミックス。ペット・ショップ・ボーイズは80年代を代表するイングランドのエレクトロ・ポップ・デュオ。未だ生きているのがある意味凄いのだが、バナナラマが生きているんだから良しとしよう。

さて、この白装束で歌唱中のおっさん、かつてのヒネタ人なのかヌケタ人なのか、どちらか不詳ですが、あるいはどちらでもないのか果てしなく意味不明。タイトル通り、曲はすべてダンサブルであるが、今の日本でこのタイトルは既に死語。時代と世代は移り変わり、元の世相にあらず……と。個人的には最後の二曲、爽快な「Yesterday, when I was mad」と悩ましい「We all feel better in the dark」が秀逸にして快感。ちなみにわたしは眩いくらいの光のなかが好きだ。

1405 jyake13
Rhino
R2 970195
2003

511/New Order

サポートでフィル・カニンガム(Phil Cunningham:ケルト音楽の重鎮とは別人)と黒人女性ボーカルを加えた2002年6月ロンドンのフィンズベリィ・パークでのコンサート。カニンガムはギルバートの代わりに現在は正式要員になっているはず。一人だけ一世代若いという見目で控え目だが元気もあるし、腕もマトモで花はないが堅実で良い選択だろう。JDのレパートリィが少し増えて3曲が5曲に。ゆえに『316』が『511』に。「Love will tear us apart」が追加になったのが嬉しいな。JDの曲はすべて生音で随分上手くなったなぁと感慨深いが、総体的なダメダメぶりはもう愛嬌の境地に達している。

観客はけっこう中年層を含んでいるせいか意外に大人しい。開演まで雨だったらしく多分芝生の足元はびしょびしょ。最初から全員立見ですが如何にもイングランドのライブといった趣。泥んこ遊びを始める奴(女の子か)がいるのはどこも同じ。中年のオバサンが「Bizzare Love Triangle」を腕突き上げて歌っていたりするのはけっこういいなぁ。「True Faith」は最近のライブ・ヴァージョンで鍵盤アレンジが若干異なるもの。オリジナルの方が良いが、やはりこのあたりは人気のある曲のようで観客のノリが違う。

夜9時過ぎでしょうか。夕闇が迫りつつも残照が空を染めるアンコールのラストは「Your Silent Face」。個人的にNOで最も好きな曲であり、これには痛く感激した。これをラストに持ってこれるというのはある意味凄い。ヒット曲でもノリノリの曲でもない、言葉足らずなおかげで解釈はボケるが、淡々と歌われる素っ気無い歌詞の“you”はイアン・カーティスを指しているのだろう。今またこの曲をライブのラストに置いて、レクイエムさながら決別を表明するあたり、意外と感傷的に思えないこともない。ちなみにバーニーのピアニカはノーミス。おお!

日本語字幕付、NTSC リージョン1の海外盤です。

1406 jyake14
Accord
461 820-2
1995
2001

12 Etudes d'exécution transcendante/Liszt, Franz //Claire-Marie le Guay

クレール=マリー・ル・ゲ(1974- )のデビュー作でもあるリストの「超絶技巧練習曲」。エチュードはそのまま練習曲の意ですが、本作は学習のためというよりは演奏会用の12部構成の小品集(計64:12)で、その名の通り超絶な技巧が要求される難曲中の難曲。時期的にはショパンや若きフォーレと同年代、調性音楽ではあるが不協和音の響きがダイナミックで技巧的(たぶん視覚的に手の動きがもの凄い)で、それでいて詩情溢れる高みに登りつめた冴えたセンスに圧倒される。

楽譜になった初稿は1826年リスト15歳のときの作。37年に誰も弾けない2稿、52年に難易度を落とし現在使われる3稿が出版された。フランツ・リスト(1811-1886)はハンガリー生まれのドイツ人。当時のパリでは超絶な演奏家としてもてはやされ、超イケメンだったせいか超アイドルで、リサイタルは失神者続出、外した手袋を猫に餌をやるように床に放り投げ、淑女が悲鳴を上げて殺到し奪い合うのを冷笑して愉しんでいたというなかなかクールな御人柄だったらしい。ちなみにどっかの伯爵夫人とできちゃって、生まれた娘が紆余曲折の末リヒャルト・ヴァグナーの妻になるコジマ(Cosima:1837-1930)である。

で、ル・ゲ。あまり指は長くはないしグリモーほど打鍵も強くないが、デビュー盤にリストの難曲を選ぶに相応しい、瑞々しさと輪郭のはっきりした演奏が特徴である。節度を持ちながらもカラフルな色彩感を失わない。左手が拙くテンポが落ちるところもあるにせよ、音を飛ばさない、あくまでも輪郭の明晰さを表現したいというセンスは評価すべきだろう。流れるような弱音の美しさと透明感にも心が洗われる。

1407 jyake15
Musea
FGBG 4156.AR
1995

Clone/Tiemko

こちらも超絶技巧で、ばりばりの12音主義で突っ走るトリオ、ティヤンコの四作目にしてラスト・アルバム。直後に首領である太鼓奏者死亡により散会。短曲中心の構成という意味でロック色は強まったが、内容的にはジャズ・フュージョンの基盤の上で現代音楽に半分足を突っ込んだような何ともいいようのないクールで鮮やかな広がりを併せ持つ。華麗でありながらシリアスで緊張感に溢れた演奏、量子的な音の手触りの冷やっこさ、そこはかとない如何にもフランス風のおどけた滑稽趣味を繊細で上品なソースで合わせた極上のアンサンブルは極めて(今聴いても)未来的で格好良い。10年か20年後くらいに流行りそうだ。半分弱の歌入り曲の無調諧謔ポップもお洒落にして饒舌な洗練の境地。この惚けた清涼さというか、どこにもない、聴いたことのない反自然的不可思議さは癖になる。

加工され尽くし、変拍子リフから雪崩のような洪水メロディまでを弾きまくるギター、クールで硬質な空間を醸成するアンビエント鍵盤のセンスも尋常ではないが、同じ曲でもフレーズや展開で音色を替え、電子的に加工された怪異なリズムを叩き出すデローネの太鼓は技巧的で圧巻だろう。

全14曲? で66:15。ラストの「In Mémoriam」の内容(まぁ、平たく云えばTiemkoへの追悼)を鑑みるに、この時点でラスト・アルバムになることは決まっていたようだ。それはそれで、なんとも惜しいことだ。合掌。

1408 jyake16-1
2004CD
Eastgate

jyake16-2
1975LP
1975
2004

Epsilon in Malaysian pale/Froese, Edgar W.

75年の表題作の2004年リマスター+部分改作。74年の『アクア』に続くソロ二作目。当時の音源を部分的に再録音しているようだ。当時リリースされた日本盤には『青ざめた虚像』なるタイトルがつけられていた。その後90年代初頭頃にLPそのままのオリジナルCDが英ヴァージンからリリースされていたが、相互の確執は相変わらずのようで、今回のものはそれとは異なる改作ということらしい。タンジェリン・ドリームの絶頂期でもある時期の作ということで、オリジナルは極めて静謐かつ幽玄なまでの奥行きと繊細さを醸し出していたのだが、止めときゃいいのに、弄繰り回し追加したトラックが今風の御手軽ディジタル効果音で湿った霧から立ち上る香気と滋味を殺いでいる。ジャケットも似て非なるもので、総体としての陳腐化は免れず、まるで、タンジェリン・ドリームの歴史を見るようだ。オリジナルでのCD再発を強く望みたい。

全2曲、表題作「マラヤの青寂でのとるに足らないこと(18:30)」は題名通りマレーシアでの印象を音像にしたものといわれている。雰囲気は雨季。煙る水蒸気と熱帯雨林、どちらかというとかなり涼しげな清浄感が漂う。フルート音とストリング音のメロトロン重奏、中間部のアナログ・シーケンスによるミニマル・リズムは『Rubycon』の延長線上でありながら、よりきめ細かい、染み入るような叙情性が美しい。
後半「Maroubra Bay(17:33)」はオーストラリア、シドニー近郊の湾の名前で、波のSEと変化に富んだリズムパターンが特徴だがアルバム全体を貫く冷涼な感触は一貫している。

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作成日 2006/06/21--最終更新日 2006/08/27