懐古趣味音源ガイド    其伍拾七

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897 jyake01 1970

Beggar Julia's time trip/Ekseption

トレイスと掛け持ちするような形でリンデン家のリック(Rick van der Linden)が主宰していた金管入りグループ。これが2ndアルバムで70年代いっぱいぐらい存在していたと思われる。内容的には地味だけどトレイスとの差異がよくわからん程度によく似ている。タイトル『乞食女ジュリアの時間旅行』からもわかる通り、いや、わからない通り、ところどころクラシック、ときには電子音楽が紛れ込んだようなSFトータルアルバムになっております。もっとも、とてもメロディアスで聞き憶えのあるフレーズ等もちょこちょこ顔を出すので、すんなり内に入ってくる上品な音で聞き易い。アルビノーニ、バッハからチャイコフスキィまで、中世音楽にバロックにジャズと、ごった煮ながらも典型的なリンデン・アレンジによって見事な一大絵巻に仕上っております。

898 jyake02 1984

Messenger of the Son/Cyrille Verdeaux

クリアライト(Clearlight)を率いるピアニスト、シリーユ・ブルドー名義のソロ。どっかの教祖を思わせるインドかぶれな風貌もさることながら、相変わらずよくわからない人だな。まぁ、「Son」は息子じゃなくて「子なるキリスト」なんだろうが、そういう話には興味が持てぬの。歌無し(ラストのボーナスだけ英詩で歌入り;いちばん良かったりして)だから良いのだが、ついさっきまで「Son」じゃなくて「Sun」だと思ってたわい。クリアライトの1stの印象が強くてSFに引き摺られてしまうのだな。基本的にはクリアライトと同じこと(の80年代版)をやっていると思うが、ピアノが目立って前に出ている点と曲が短くて展開が破綻しないところが違うか。えぐい音使いは全くなく、昔に比べればリズムはアグレッシブとはいえ、どちらかといえば淡々と冷涼なつづら織り。

899 jyake03
bellaphon
289-09-006
1974

Down to Earth/Nektar

『Remember the future』の翌年、『Recycled』のほんの1年前、裏を返せばおそらく彼等の地はこの辺にあったのだろうと思わせるチャキチャキのネクター流ポップ。曲は短いですが『Recycled』を思わせる可愛いフレーズや展開も満載。キャッチーなメロディとファンキィでのりのりなリズム、クリアーなハイトーン・ボーカルが同居する。前作との大きな違いはハモンド・オルガンの分厚いバックが消えて、カッティング・ギターとシンセに置き換わったこと。格好良い。当時としたら目から鱗が落ちるほど新鮮だっただろう。タイトルとどう関わりがあるのかよくわからんが(皮肉?)、一応サーカスがテーマになったトータル・アルバム。

900 jyake04 1971

Hinten/Guru Guru

生々しい男のケツで暑苦しく顰蹙を買うグルグル2nd。重量級サイケノイズという雰囲気で、リズムがダイナミックに強調されており聞き易い。シャープな洗練を期待する人はいないと思うけれど、わけのわからない宗教的高揚感と何でもあり状態の重量音塊がセンスもへったくれもなく突撃してくるのだなぁ。昔、ドイツ人は突撃戦車やら駆逐戦車(頭にJagd;ヤークトがつくもの:“狩る”の意)なる砲塔の旋回しない、前進して攻撃しまくるか後進しながら防御に徹するのみのコストダウン納期短縮型戦闘車両を盛んに生産して、中には前方から破壊することが不可能な装甲と破壊できないものがない強力な戦車砲を装備しているが、重くて動けないみたいな珍品もありましたが、その滑稽さに似ている。グルグルの御三方は皆とても賢いしテクも人並み以上なのだが、エンジンかけると突撃しちゃうんだよなぁ。

901 jyake05 1975

Shekina/Zao

バイオリンが抜けた補充に弦楽四重奏を加えてしまうザオ三作目。バイオリン二人のビオラとチェロでマルガン(Margand)という名前のカルテットみたいですが、正式メンバーとしてのクレジットになっていますね。田舎娘が4人も加わっちゃってなんだか微笑ましくも楽しそうだな。この音の洗練と見た目の非洗練(実にどん臭いのだ)のギャップには著しいものがあって非常に興味深い。当然ライブも4+4(5?)人でこなすわけですが、当時の技術では生楽器のモニターがやっかいでコストがかかったと書かれております。また、スコアはセファーが起したそうですが古典的な表現手法ではどうにも表せないため、いろいろと苦労したそうです。前作において僅かに残されていたマグマの影響も既になく、アヴァン・ガルドな陶酔感すら感じられる高質密ジャズロックの完成型。カルテットの効果も絶大で神秘的なまでの静謐感とダイナミックな躍動感に揺さぶられて翻弄される。

902 jyake06
Musea
FGBG 4150.AR
1981

Terpandre/Terpandre

ピュルサと同じリヨンの出。それなりにベテランだと思うがテルパンドル唯一のアルバム。ツイン・キーボード+バイオリンってところが特徴でしょうか。通奏低音のように響き渡るストリングズ系のメロトロンの音色が冴え渡ります。ジャズ・ロック基調の丁寧で上品、耽美でリリカルな終始淡々とした曲調でインパクトやドラマには欠けるかもしれないが、聞き込むほどにさり気ない味わいが増す。地味だけど曲構成もテクニックも非常に安定していて、全曲歌無し、彼のチェレステのように琴線に触れてくるものがある。実は81年の初回プレスはたったの1000枚だったそうで、そのうちの何枚だか知れないが、日本に持ち込まれて評価されたことがきっかけになって88年のMuseaのCD再発につながったらしい。本国人が知らないものまで掘り起こして的確?な評価を下せる才能は凄いよなぁ。

903 jyake07 1973

Second/Agitation Free

中近東エスニック趣味は薄れたものの、アンビエントな抒情性とテクニカルな実験性、ジャズ・ロックのダイナミズムがほどよく混在した2ndアルバム。砂の迷宮は明確性を増したリズムと雄弁に切れ込んでくるギター、抑揚のある複雑な展開が作り上げるエレクトロニクスの迷宮に遷移した。元々、基本的なテクニックというか素養はしっかりと固められていただけあって、蜃気楼のように儚く構築された迷宮は悩ましいまでの色気すら感じられる。このそこはかとない微妙なエロティシズムは総じて固めなクラウト系ではアシュラや一時のアモン・デュール2あたりを除くと意外に珍しい。外面は鋼の面持ちなのだが垣間見える断面は美しくも爛熟した紅色なのだな。

ラスト「Haunted island」では初のボーカル入り。もっとも電気的に処理されていて内容判別は不可能だろう。ポオ(Edgar Allan Poe ; 1809-1849)の『Dreamland(夢の国)』を詠唱しているらしい。

904 jyake08 1978

Passpartù/Premiata Forneria Marconi

地中海民族路線に転進した『Jetlag』の次。歌詞も全曲イタリア語に戻り国内のみでの発売になって、同時に情報は途絶したと憶えている。形骸プログ愛好者には極度に受けが悪かったらしい。『Passpartù』はフランス語の「Passe-partout」と同じ音で、“マスター・キィ”とか“どこでも通用するもの”といった意味なのだが、それなりの意図を込めた路線変更であったことは間違いないだろう。結果的にイタリア国内でも受けなかったようだが、アコースティックで緻密なアレンジはコミカルさとリリカルさが表裏一体で同居している民族ポップなもの。かつてのしっとりとしたバロック風味は表面上消え失せたけれど、キレが良くドライなアンサンブルは大人の風格でしょう。

905 jyake09 2002

The river flows/Iona

初期の三枚にアウトテイク集を加えた4枚組BOX。豪華ブックレット付きですが、最近は楽器がどうたらとか、どんなライブかとかなんていうことにはとんと興味がなくて、姉ちゃんが綺麗か否か、どの角度の写真が一番いいかなぁ、ぐらいしか見ることもなくなりました。Karnatakaなんぞもそうだけど、やっぱり美人は得だ。それなりの苦労もあるだろうがやっぱり理屈以前の問題だろう。90年の『Iona』から『The book of kells』、『Beyond these shores』と時を経るにしたがって、民族色が薄れケルト風神秘性を強調したプログ風味が増していくのは宿命か。1stではゲール語なんぞもでてくるのだが人口400万弱の偉大なる田舎、アイルランドでは食えないことは自明なのはよくわかっているつもり。と、てっきりアイルランドだと思っていたら違うじゃん。北京がどうたらこうたらいう如何にもアングロ・サクソンな曲に目が止まったので、ブックレットちゃんと読み直してみたら、姉ちゃんは北アイルランド出身で、他にアイルランド系の名前も見えるけれど基本的にはUK(それもイングランド)のグループのようですね。ふ~ん。共和国の人の感想を是非聞いてみたいものだ。

906 jyake10 1973

Rot/Conrad Schnitzler

Kluster分裂後の最初のソロ。当初の発表がほとんど自主制作で、その上、恐ろしく気まぐれかつ唐突に発表されるため、とにかく全容の掴めないおっさんだな。CD化されてるのかどうか知りませんが、これはおそらく2002年の再発LPと思われまする。混じり気なしの真っ赤なジャケット。表も裏も完全無地。白い内袋には赤いラベルの貼られた赤いレコードが入っておりまして、ラベルにはただ、「A」という文字が片面にのみ書かれておる。どこをどうひっくり返しても書かれている文字は「A」、唯一文字という按配で困ったものだよ。まぁ、お金なかったんですかね。一応調べてみるとA面は「Meditation」、無印面は「Krautrock」という曲名があるらしい。「Meditation」はえぐく尖った電子音とモジュレーションがパルス状に発信されてびっくりというか心臓に悪いな。「Krautrock」は微妙にリズムっぽいゆらぎがあるのだが、電子がビチビチ跳ねまわっているような無機質感がたまらない。ラスト3分ほどの変態リズムと音響は蛋白質の分子構造がばらばらに分解していくような崩壊感で目が廻りそう。どのみちコジャレたカフェテラスかなんかでかけたら一人も客がいなくなりそうだね。

907 jyake11
Bonnet Records
BOR 96016711
1996

De gouden eeuw/Flairck

さすがに頭からオランダ語で迫られると逃げ出したくなるフレルック。素朴な女性ボーカル入りの脅威的なアコースティック・アンサンブルで、その超絶大道芸ライブも含めてそれなりに昨今はとみに著名ですね。基本はトラッドなんでしょうが最近はオケを使ったアレンジも聞けます。民族調の抒情性を基調に軽くてコミカルなものから重厚でシリアスなものまで変幻自在。極めて高質なアンサンブルが堪能できます、としか書きようがないな。

オランダが栄華(植民地支配ともいう)を誇った『黄金の世紀』である17世紀の東インド会社の大型商船の航海を描いたトータル・アルバムになっているようで、出港から帰還までの航跡付きの海図付き。本家のwebは英語版も非常に充実しておる(歌詞の英訳はないなぁ)ので、けっこう便利です。

908 jyake12
Laser's Edge
LE 1024
1977

Pictures/Island

当時は自主制作だったらしいスイス産チェンバー。もっとも、当人達はチェンバーやってるつもりがあったかどうかはけっこう疑問である。ギーガーみたいなジャケ絵だね、ったらギーガーだそうで。この手の絵には全く興味も感慨も湧かないけれど、ジャケのこの口もとはそのまんま後の『エイリアン』になるのだね。しかし、全く別の進化を辿った生物に歯があるってのはお笑いにしかならないと思う。外面に比べ、管楽器、キーボード、パーカッション+ボーカルという一風変わった編成による緻密で内にこもったハイテク・チェンバーは興味深くも面白い。かなり暗めな曲調で歌詞も抑鬱神経症気味。隅々まで行き届いた堅苦しいまでの完全主義的統制がスイスの風土を思わせるかもしれない。ちなみにキーボード+ペダルベースの魔術師のようなペータ・シェラー(Peter Scherer)は後にアンビシャス・ラバーズ(Ambitious Lovers)の片割れに化けるのだな。

909 jyake13
Carbon 7
C7-045
2000

Surf,wind & desire/Hardscore

明るく陽性なベルギー・チェンバー、ハードスコアの2nd。一部に昔のダグマー・クラウゼのようなキャピキャピしたボーカル入りだけど、リリカルという風情ではない。最近のものらしい軽めののり。タイトルも前向きだ。サムラに通づる人を食った諧謔と脅威的なテクニックに翻弄される変態ジャズ・チェンバー。超絶な変拍子のおかげでロック風のグルーブ感とは無縁ですが、気持ち良いほどの肩透かしと可愛らしさ、意表を突く展開をこれでもか、と云わんばかりに食らいます。元々、文化圏の狭間的な素地はあったのだろうが、70年代から連綿と続くベルギー・チェンバーに関しては一度きちんと俯瞰して眺めて見なくてはいかんなと思わせるこの頃。

910 jyake14 2000

Close to the fire/Kayak

復活カヤック、2000年の新盤。サビ廻りの独特の転調は健在です。歌もの中心の短曲ばかりだが(最長8分14秒)、曲の連続感というか並べ方、個々の曲の出来も非常に素晴らしい。ポップな泣きメロ満載ながら、あの冷やっこい透明感に包まれると過去の記憶を掘り起すような微妙なやるせなさが忍び寄る。80年代以降の詳しい経緯など全く知らないのだが、『Merlin』を彷彿とさせる美しくも涼しげな情感はより洗練されているといっても過言ではない。復活ものは以前との比較で語られる上に、それを越えるか路線を変えるかの選択を迫られるわけで非常に難しいと思うのだが、これは越えてかつ成功した稀有な例になりそうだ。たぶん前作すべて踏まえた上での最高作でしょう。

しかし、歌入りのポップ系オランダものはEarth & Fireもそうだけど、歌詞は冴えないが英語の発音が綺麗なのだなぁ。暑苦しい夏場はKayak+Earth & Fireで冷や冷や。体感2℃は違うでしょう。

911 jyake15 2001

Les ténèbres du dehors/Elend

ゴシックというの? ジャンル分けには極度に無知ですが、エレクトロニクスと生オケを背景にデス声が唸り耽美な天上のソプラノが降り注ぐ現代版歌劇、ネオ・クラシック。フランス+オーストリアという組み合わせのユニットで、フランス風にエランというのかドイツ語風にエーレントと読むのかは不明だ。言葉自体はドイツ語で「悲惨」という意味。古語の「異国」を掛けているのかもしれん。リズムレスなので所謂ポップ系を期待すると完全に外します。一般的にはこれにメタルな要素が加わると星の数ほどあるゴシック・メタルということになるらしいです。初出は1996年のようですが、これは2001年のリマスター、ボーナス・トラック付きの六面デジパック。三部作の二作目で、デス声はルシファー役なのだろう。タイトルは「外側の闇」というわけで、中身はキリスト教的な二元論的世界観とラテン語の引用がビシバシの物語(あぁ、叙事詩か)で感覚的にはお手上げだな。

912 jyake16 1996

Anime Salve/Fabrizio de Andrè

最後はカンタウトーレ。そんなに古い人ではなかったはずだが99年死去の故人です。クウェッリ時代や『Passpartù』のころのP.F.M.に引っ張り出されて共演したり、ニュー・トロルスの1stをプロデュースしたジェノバの重鎮でもありました。サルディーニャに若隠居を決め込んでましたが、これがラスト・アルバムでイヴァーノ・フォサッティ(Ivano Fossati)との共作というかたちを取っております。アディエマスあたりの影響が若干感じられ、前作までの純地中海音楽というよりはワールド・ミュージック系の傾向も感じられますが、まぁ、内容的には二義的で気にするほどではないでしょう。正直それほど期待していなかったのですが、一聴して安直な認識は180度転回しました。名盤だの必聴盤だのマストアイテム(はぁ? must?item?)だの余計な御世話(と価値操作)が溢れかえっておる世の中ですが、言葉での表現を超えた、これこそ、本当の意味での歌でしょう。元々、薦めるために書いているつもりはまったくないですが、これはこんな形で載せて良いものか非常に迷いました。

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最終更新日 2003/09/18