懐古趣味音源ガイド    其伍拾壱

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801 jyake01 1972

Aria/Alan Sorrenti

高音で震えるような非常に特異なボーカルがエキセントリックな狂燥感を駆り立てるソレンティの1stソロ・アルバム。最近はポップ・シンガーになっちゃったみたいですが、かつては神憑りとしか思えない研ぎ澄まされた鋭利な透明感が絶賛されていたものです。圧巻はタイトル曲でもある22分の「Aria」。制御不能の自動演奏機のように発声していく情念と呼応するアンサンブルは、ときにはトラッド、ときにはジャズ、クラシックと緻密にかつ変幻自在に変転していきます。ほとんど無名だと思われますが、楽曲のアレンジも繊細に構築されたガラス細工のようでソレンティの声に負けない緊張感が見事。ゲストでバイオリン弾いているポンティ(Jean Luc Ponty)の演奏も壮絶です。

802 jyake02 1980

Augenblicke/Novalis

黒と白の猫が睨み合っているようなジャケットは黒猫の目がくりぬかれていて、中のスリーブを引き出すと印刷された帯状の濃いピンク、黄緑、薄青で目の色が変わるという作りになっている。定位置は濃いピンク。ノヴァリス末期のリリカルでタイトなポップが堪能できます。一曲目「デンマーク」から暮れ方の蜀光のような儚いノヴァリス節が全開です。インスト曲、歌入り曲が半々ぐらいですが、ミュルベック(Fred Mühlböck)の比較的甲高い歌謡曲風のボーカルは曲作りと共にずいぶん存在感を増したように思える。後期は本国で数十万枚とかなり売れていたそうですが、確かに新古典主義的というかオペラっぽい艶っぽさまででてきて思い入れたっぷりに演歌しております。ドイツというとクラウト系の「すんごいの」ばっかりが話題になりますが、彼等の本性はここにあり。

803 jyake03 1999

River of return/Agitation Free

復活後の新盤。もっともその後の話は全く聞かないからどうなったことやら。復活とはいえウルブリッヒ(Lutz Urblich)とグンター(Michael Günther)、ブルクハルト・ロッシュ(Burghard Rausch)というかつての主要メンバーに、あまり見かけないグスタフ・リュトヤン(Gustav Lütjen)が加わったかたち。ヘーニッヒはいないし、おそらくプロジェクトみたいなかたちなんでしょう。いきなりアコギのアルペジオで始まったりして一瞬おやぁ~と度肝を抜かれますが、すぐに迷宮に迷い込んだかのような堂々巡りが始まるのだ。リズムがタイトになった分かつてのドロドロ感は薄れて華やかになった気もするが、全曲歌無しの心意気とダレずに聴かせる緊張感はかつてを髣髴とさせる。「スージーは海岸で貝殻を売る」などという回文のようなアンビエントな曲ではこれまた『Malesch』を思い出させるコーランが聞こえてくる。

804 jyake04 1975

Un biglietto del tram/Stormy Six

一応4作目のようですがこれ以前のものは見たこともないわ。有名なのは70年代末期のRIO、いわゆるレコメン一派になってからのものなのだが、ここではまだアコースティックな音とイタリア臭い素朴なオヤジ声で民族系をしています。もっとも、カンタウトーレというほど甘くもないし、フォークというほど柔らかくもなくて意外に緻密で正確無比なアンサンブルが後のレコメン一派を彷彿とさせる。全編を流れる民謡風のバイオリンが憂愁というか優美というか渋くも美しい情感をたたえているのだが、構成は総じて技巧的だ。インデペンデント・レーベルであるロルケストラ(L'Orchestra)に移籍したことで可能になったと思われるが、中身はかなり左翼的です。WW2における対独レジスタンスに関する内容のようですが、一曲目「スターリングラード」なんか後々まで語り継がれる曲になってしまいました。

805 jyake05 1974

In concerto/Le Orme

『Felona e Sorona』後のライブ。前半は英語タイトル「火の車」の少し冗長なELPみたいな曲。後半は『Collage』からの曲と『Felona e Sorona』の後半部分。サポート等は特に記述がないんで使っていないのだろう。今と違ってコンピュータもないしこれらの曲をライブで3人で演奏するのは確かに辛いものがあるだろう。それに加えて元々“上手くない”というのは定説だがそれはその通り。それなりにインプロっぽい展開もしているのだが、それなりのソロを弾いてしまうキーボードのパリューカ(Antonio Pagliuca)の貢献度が高いか。今じゃすっかり館の領主さまのようになってしまったターリャピエトラさんも「グラッツィエ、グラッツィエ」と言っております。うぅ、若い。

806 jyake06 1977

Trans Europa Express/Kraftwerk

しかしまぁ、銀行員とレストランのボーイにしか見えないなぁ。さりげなくて良いセンスだ。おそらくその歴史の中でもっとも売れたというか、いちばん有名なのはこれだろう。当時(遥かな昔)聴いていたのはカラージャケの英語盤。YMOからの遡上人気だったと思うが、思いもかけないところで、思いもかけない人に“Craft Work”って知ってる? とか聞かれてびっくりしながら困惑したものだ。これは当時は存在すら知られていなかった(私だけでせうか)独語盤。ボーカルトラック以外は同じだと思うが、英語盤に比べボーカルがかなり押さえ気味だと思う。おかげでポップな印象が多少薄れてメカニカルでインダストリアルなビート感が強調されている。もっとも「ユーロップ・エンドレス→オイロパ・エンドロス」、「ショウルームダミー→ショウフェンステプッペン」だもんでなんだかぽよぽよしていて可愛らしい。前作のほの暗さはそれなりに一掃されてタイトでポップにテクノしています。ちなみにイギー・ポップもデビッド・ボウイもでてきません。あれは英語盤のサービスだったんだねぇ。

807 jyake07 1979

"L'écume des jours" d'après Boris Vian/Memoriance

何でも屋ボリス・ビヤン(Boris Vian 1920~1959)の小説『うたかたの日々』をテクストにしたトータルアルバム。1stは見たことも聞いたこともないがメモリアンスとしては2作目らしい。『うたかたの日々』は“肺に睡蓮の花が咲く”少女とその夫の転落を描くかなりブラックで諧謔的な内容ですが、ビヤンという人は実際いろいろと過激な人だったようです。メモリアンスはノルマンディの田舎出だそうですが、音の方は意外にクールで武骨な感じはしない。小刻みに展開する曲調と印象的な音色、エグ目のフランス語のボーカルの相乗効果でなかなか魅惑的な感触だ。ラパーユほどではないけれどリズムもころころ変拍して飽きない。あまり盛り上がりもなくさらっと終わっちゃったりして軽妙な風刺劇でも観ているような触感です。

808 jyake08 2001

Camere zimmer rooms/Picchio dal Pozzo

PdPは77年と80年に1枚づつのアルバムを出していますが、これはおそらくその2枚の間に録音された未発表音源をまとめたもののようです。イタリアーノでありながらクールなカンタベリィ風ジャズ・ロックというのが定説ですが、カンタベリィ的なウィットに富んだ叙情性というよりはずっとアヴァン・ガルドに傾倒しているところが特徴です。カンタベリィの如何にも功利的なアングロ・サクソン文化に対して、アヴァン・ガルド(Avant-garde)がもともとフランス語であるように、前衛に走る(ついでに行き過ぎる)のはラテンやゲルマンのお家芸なのだろう。全曲歌入りで正規盤に比べると比較的メロディアスで聴き易い内容ですが渋くて流麗な良い曲を作る。

音質の向上のためにあらゆる手段をつくしたと書かれているとおり70年代ものとは思えない素晴らしい音質です。

809 jyake09 1998

Legend/Parzival

パルツィファルの1stに1st以前のシングル等を加えた復刻盤のようです。中世風ドイツ・トラッド+バロックの電化版。美麗なメロディを先導するフルートと畳み掛ける弦楽四重奏のアンサンブルが迫力な上にリズムもけっこうタイトで小気味良い。如何にも中欧風の絶妙な暗さとあいまって上品な雰囲気を醸しだしておりまする。長めの曲にはミニマルな展開もあったりして現代音楽風だったりもするのだが、ボーカルがカエル声で英語というところがちょいと興を殺がれるかもしれない。プロデュース+エンジニアはコニー・プランク。曲作りにもクレジットが入っていたり写真も載っていたりと珍しい。

810 jyake10 1994

Story 69-79/Martin Circus

白装束に白いお面を被った集団が茫漠とした砂洲をさまよう画像を初めて見たのはもう25年以上前ですが、音を聴いたのは90年代になってからです。当時聴いていたら怒り心頭だったかもしれんが、今なら全然平気。ロック・テアトルというそうですがほとんどコミック楽団に近い。音はそれなりの民族系ビート・ポップですがブックレットを見る限りドリフターズだな、完全に。演劇趣味というか大道芸パーフォーマンスは徹底していそうだ。AngeやMona Lisaとはまったく別のタイプだが先駆者としての影響力はそれなりに認めなければならないだろう。69年から79年の10年間のコンピ盤ですが軽いのから重いのまで玉石混交全18曲。革命歌「Retour de la bastille」まで入っていたりして微笑ましい。(革命の結果、現体制があるので「革命」という概念に対しては当然極めて肯定的) 陰をMagmaとするならば正に陽なわけでして、実際陰の総帥ヴァンデールと道で出会えば喧嘩になる(なった)犬猿の仲らしい。

811 jyake11 1976

Le petit violon de Monsieur Grégoire/Mona Lisa

モナ・リザの中でも最もテアトラルな70年代3作目。「かもめのジョナサン」が下敷きになっている部分があるとか、アトールのアンドレ・バルザァがバックで歌っているとか話題になりそうな部分もなくはないが、あまり関係ないだろう。前作の荒々しいまでの強引さは巧みな展開に取って代わられた。こしゃまっくれたエレガンスは歌無しだけど「Solaris」みたいな小曲に上手く結実していると思う。意外にも「petit violon」がLPB面全部を使った初めての長曲だけど、きちんと三つに分かれていたりして妙に気を使っているような気がする。タイトなリズムと歌メロの華麗な美しさはAngeよりも洗練されてわかりやすい(若いともいう)。わざとらしく盛り上がらずに淡々と幽かに消えていくような余韻も、喋繰りまくる前半と好対照で趣がある。技術的にもずいぶん上手くなったのだけれど少女趣味的な可愛らしさを失わないところが好感です。

812 jyake12 1974

Ballermann/Grobschnitt

LP2枚組だった2nd。2枚目が「Solar music」です。もっともCDだと通しだもんで頭の「Sahara」からラストまで全部でトータルに聴こえてしまう。妙ちきりんな格好からグロそうな印象を受けますが基本はお笑い系です。この時点で既に専属舞台役者が4人ほどいるようだ。その一人がタイトルにもなっている「玉男」ということらしい。

「Solar music」は展開も曲調も意外に正統的で、緩急もドラマチックなリリカルさも絶妙なまでに考え抜かれていながら、変幻自在な自由度を併せ持つ不思議な曲です。『Solar music live』とも結構違うし、その自由度を生かして同じライブは一度としてしなかったらしい。盛り上げ方も一流で、クライマックスの後で幽かに始まるエレピのメインテーマは涙ものですね。コミックすれすれの外見の極もの的なイメージとは裏腹に奏でられる音は実に真っ当で美しくゲルマン風のリリシズムに溢れている。

813 jyake13 1985

1st option/Barbee Boys

暗い曲は受けないのでどうしても似たような曲調が多くなってしまう中で、いまみちともたかの曲と歌詞はその禁断の領域を絶妙に回避しながらも類稀なバリエーションで迫ってくる。歌い手が男女のデュエットという形態なので、歌詞の内容は一見、他愛ないものになりがちだが、実は意味深で淫蕩で笑える。日本の歌謡でうんざりするほど多用されるいくつかの特定の言葉が絶対に出てこないのも特筆に価するだろう。英語のフレーズが皆無とは言わないが、わけわからん雰囲気だけの意味無しでなく、ちゃんとしゃれになっていたり韻を踏んでいるところも好感だ。竪読みする歌詞っていうのも初めてですよ、はい。音は(おそらく諸般の事情により)どうしてもシンプルなものになってしまうのだが、それでもいまみちのギターのセンスは独特で独自である。“歌と伴奏”に終始しない存在感とエレガンスを賞賛しよう。

814 jyake14 1981

Delay 1968/Can

68年~69年にかけての『Monster movie』と同時期に録音された発掘物。ホルガー・チュカイの技術と編集で音は60年代物とは思えない出来に仕上げられている。内容的にも『Monster movie』と比べ特に遜色はない出来です。シュトックハウゼン門下生だったチュカイ、現代音楽のイルミン・シュミット、ジャズドラムのジャキ・リーベツァイトという当時30過ぎの三人のおっさんと、当時若干20才ながらすでに他界しているミヒャエル・カローリ、時々思い出したように病気が治る歌えないボーカリスト、マルコム・ムーニィに加え、スリーブの写真には名前だけしか知らないデビッド・ジョンソン(David Johnson)と思われるオーボエ、フルートを吹いている人も写っておる。一定の極めて単調で延々とループするリズムの上を乾燥した音と歌という概念からは程遠いムーニィのボーカルが駆け巡る。デビュー前から妙に枯れた先鋭さと押さえが利いた引き気味の情熱が伝わってくる時代背景から浮き上がった一枚。いや、非常に先進的という意味です。

815 jyake15 1999

Venexia de oro/Donella del Monaco

アンドレア・ザンツォット(Andrea Zanzotto 1921~)の詩をテクストに黄金のヴェネツィア(音楽の都といわれた17、8世紀のことらしい)を謳い上げた近作。自作曲にロッシーニ等クラシック、及びトラッドからなる全15曲。相変わらずの余韻と耽美が堪能できます。3分ほどの短い小品ばかりですが、オプス・アヴァントラのティソッコとの共作も含めてシンプルながらも凝ったアレンジが見事。最近気づいたのだが、こういう構成というか豊穣な音空間はイタリアものに独特なのではないかと思う。派手でも刺激的でもないが音楽の持つ力を再認識させてくれるのでした。

ドナディ(Orlando Donadi)の絵は「サン・ジョルジョ(島)の前の仮面」というタイトルですが無言の静謐さが醸しだす空気感が恐い。

816 jyake16 1971

Klopfzeichen/Kluster

CのClusterの原型になったユニットでCluster+コンラート・シュニッツラー(Conrad Schnitzler)という三人組でした。一応、これが1stですが後に発覚した事実によれば同日に2nd『Zwei-Osterei』も録音されていて一年後くらいに発表されています。もともと金がないために教会の資金提供を受けて製作されたそうで、LPの片面には「朗読(説教かな?)」を入れる事が条件だったそうです。ドイツ語だからさっぱりわからんが、シュニッツラー曰く、わからないほうが絶対良いそう。既にエンジニアにプランクの名前が見えるし、中身はインダストリアルなインプロビゼーションの応酬で著しく一般性には欠けるが、保守的な教会がよく出してくれたよなぁと変なところに感心したわ。元々、ヨゼフ・ボイス(Joseph Beuys;カブレた人も多いことでしょう)の一番弟子だったそうで、パフォーマンス系の(とんでもない)活動がこの先も続いていくのだが、同時期にタンジェリン・ドリームで1stを製作していたりもする。

CDは当時のマスターが既に存在しておらず、最良のコピーからディジタル・マスターされたらしい。けっこう音の粒立ちが鮮明で良いリマスターだと思います。

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最終更新日 2003/04/04