懐古趣味音源ガイド    其四拾八

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753 jyake01 1996

Fragments/Agitation free

74年11月14日のベルリンでの再編ラストライブ3曲にスタジオテイク1曲を加えたもの。CD-ROM版もあるらしいがこれは普通のオーディオCD。90年代の発掘物だそうです。決して良い録音ではないのだが、延々と続くインプロは野趣に富んだもの。基本的に歌無しのフリースタイル・ジャズロックとでも言えば良いんでしょうか、類例を知らないもので表現がわからん。有名どころで言えばルツ・ウルブリッヒにミヒャエル・ヘーニッヒ、古くはタンジェリン・ドリームのクリストフ・フランケが在籍していたりして、それなりの風格と斬新性はベルリン御三家(他はアシュラとタンジェリン)の中でも引けを取らない。強力なリズム隊とウルブリヒの妙にリリカルで官能的なギター、ヘーニッヒのテクノロジカルなキーボードが特質ですか。地味だけれど味があって好みだ。

754 jyake02 1984

Tocsin/Xmal Deutschland

ポスト・パンク? だかゴシックなんだろうが音の処理における4AD的な透明感がいっそう強まった2ndにしてラスト。ボーナスにシングル「Incubus Succubus II」の2曲入り。薄ら寒くて虚ろな倦怠感丸出しのドイツ語のボーカルがふらふらと漂う。女性ボーカルですがこういう歌い方の人はあまりいないな。ついでにキーボードとギターも女性でベースだけ男だったのに加え、ドラムが男に変わったようだ。残念ながら上手いというレベルには達していないのだが、北ドイツ(ハンブルクの出だそうで)の冷え冷えとした湿気を具現したかのような雰囲気がたまらない。食品の類に“冷暗所に保存してください”ってよく書かれているでしょう。で、さて、その冷暗所はどこかなと考えたりするんですが、そんなときに頭の中に聞こえてきてしまう。

755 jyake03 1974

In camera/Peter Hammill

ナルシストなハミルです。重い。音が重いというのではないのだが(いや、重い方だとは思うけど)提示されるものはシリアスで暗くて美しい。かなり目立つシンセサイザとメロトロンも重い。よくわからないがラストのサウンド・コラージュも重くて暗い。総じてかなり凝ったつくりで隙がない。この人の場合、アコースティックに迫られるほうが身に迫るものがあるのだなぁ。この時期立て続けに完成度の高いリリースが連続しますが、私の拙い英語力では正直ハミルはほんの上っ面しかわからんので辛い。だからハミル(とVDGG)を書くのはいつも非常に苦労するのです。

756 jyake04 1974

La casa del lago/Saint just

サン・ジュストの2nd。もこもこしたベースラインと憑かれたように歌うアラン・ソレンティの姉妹だそうなジェイン・ソレンティの透明なソプラノ、バロック風のバイオリンによる電化室内楽。基盤がどっちかというとサイケ・フォークだったり民族調ロックだったりするんで、オプス・アヴァントラのような極度にクラシカルな前衛性は薄いかもしれないが、意外にお洒落でクールな曲調なのだ。しかし自分で書いておきながら“クラシカルな前衛”って何よ? って思ったぞ。ソレンティのボーカルはそれほど前に出てくるような録音のされかたではないのだが、狂的なまでの疾走感は圧倒的だし、微妙に外れた(した)センスが脳梁をぶち切ったような病的な雰囲気を醸し出している。右目と左目で違うものを見ているような違和感が気持ち悪いようで気持ち良い。Saint justはロベスピエールと共に処刑されたサン・ジュスト(Louis Antoine Leon de Saint-Just 1767~1794)からきているんだろうが、よくわからん。

757 jyake05 1974

Midnight mushrumps/Gryphone

どうも進まないと思ったらすっかりやる気の失せたこの頃。そんな時にはやはりグリフォンですか。この世俗と完璧に切れた音に浸っていると、気力の有無なんて正直どうでも良いわな。イントロの音が微かに鳴り始めると世界の色が変わる。曇っていた視界が一気に広がるようだ。古楽器アンサンブルによる滲み出るような味と、恐ろしくメリハリの効いたシャープでテクニカルな演奏のバランスは正に超一流で唸らずにはいられない。前半の組曲の研ぎ澄まされたような切れ味と緻密さはセンスの良いアレンジと相まって高い完成度を誇るし、澄みきったリコーダに導かれるラストの小曲の驚異的なアンサンブルも正確無比に情熱的だ。夾雑物を排除した圧倒的な透明感と可愛らしいメロディが美しい秀作です。

758 jyake06 1973

Future legends/Fruupp

フループの1stです。そのわりにはいかにもマイナーなフループ節が満載な演歌です。露骨な民族調は無いしむしろ消そうとしている気もするのだが、マイナー調だが暖かめなところも特質か。かなり大胆に使いまわしているバロック室内楽風の弦楽器の露出度の高さはびっくりするぐらいだし、ストリングズのアレンジも自前でやっているようだし、ちょっと落ち着きが無いほど場面展開が多いところなどやる気満々、非常に意欲的です。洗練とは縁が無い無骨さとあんまり上手くないのが玉に瑕なのだが、荒っぽい中にも小節の効いたメロディが光る。湿っぽいボーカルと固めのリケンバカーみたいなベースの音、オーボエのうら寂しい音色にはぐっと来るものがありまする。

759 jyake07 1998

Mythos/Mythos (Canada)

0212aのミュートスとは同名の上タイトルまで同じだがあちらは70年代ドイツ、こっちは90年代後期のカナダもの。ミソス乃至はミトスと読むんだろう。路線としてはエニグマ、デレリウムあたりのリリカル・ミステリアスといった感じだろう。少しアコースティックな生音入れたりして差別化を図っているのだろうが、あまりオリジナリティは感じない。美しくも悲しい民族風のメロディと途方もなく拡散する空間がとても気持ちよいのだが、女性ボーカルの使い方や全体のほの暗い雰囲気はエニグマに近い。どうもカナダではこの頃こういうのが流行っていたらしいねぇ。特に追っかけているというわけではなくて、ジャケ買い(裏の説明は読んだけど)したら思った通りだったよ、と変なところに満足してみました。

760 jyake08 1991

Pure/Midge Ure

3作目のソロアルバム。Ultravox時代のエレクトロな影もすっかりなくなって、とてもストレートでシンプルな音になりました。アイリッシュ民謡ポップとでもいえばいいか、一段と民族色も強まったか。まぁ、時代が違うけれど前述のフループとは正反対のアプローチ。相変わらずメロディ・メイカーとしての才能は絶好調、油が乗り切っています。真摯な姿勢には打たれるものがあるが歌詞が年齢の割には少し青いかもしれない。あまりにもストレートだとちょっと辺りを見まわして、どぎまぎしてしまうよ。ラストのワルツ「Tumbling down」がいちばん好みに合う。

761 jyake09 1972

Cluster II/Cluster

Cのクラスターの二枚目。さすがにこの時分のものになると良いのか悪いのか、なんとも言いがたいものがある。平たく言えばよくわからんということです。それなりの音圧があるし比較的短めの曲になっておるのでシュトックハウゼンみたいにいつのまにか寝てしまうことはないが、聴くというよりはシャワーみたいに浴びるのが適切だと思われる。無調な音響で埋め尽くされておるので刺激的な展開などはほぼ皆無だが、一応曲としての構成はありそう。電子音楽初期のものにしては穏やかに耳に馴染む音とループで構成されているので、かえって安っぽい印象を免れている。そのあたりは先見の明があったのだろう。

762 jyake10 1976

Stratosfear/Tangerine dream

はて、参ったな。というのが初聴の感想。当時、冨田勲らがシンセサイザでクラシックの曲をアレンジして、ど派手にパフォーマンスしていたりしたのだが、正直この人は何を勘違いしているのだろうとしか思えなかった。その手の「シンセ=新しい」みたいな世の流れに乗って、ちょうど同時期に出た『Stratosfear(“浪漫”とかいう逆立ちしても荒唐無稽な邦題が付いていた)』も同列に扱われちゃって、女の子にまで結構ブレイクしていた。おかげで(借りてテープに録れるから)LP買わずに済んだのはラッキィ(他のが買えるから)。まぁ、結果的にアナログの方が音の質感が良いという現実を目の当たりにするとアンラッキィ、と云うのが現在の結論。

主旋律などという概念が初めて導入されたことに対する賛否両論は聞き飽きた。パフォーマンスのための音楽でないことは自明であるのだが、あんまり難しいこと考えるのも面倒臭くなり始めた年頃で、日溜りのベッドにひっくり返って乾いた空気とそこはかとなく漂う芳香にまったりしながら聞くには最高だったかもしれない。今聞くと結構音圧のレベル差が大きい。小さいほうに合わせているとかなりぎょっとたまげたりするんでBGMにはしにくい。音の使い方も意識的にエグ目にしているところがあるような気がする。

763 jyake11 2001

Movimento/Madredeus

久々のマドレデウス。テレーザ・サルゲイロ(Teresa Salgueiro)なるちょっと丸めで透明で可愛い感じの女性ボーカルと、クラシックギター2本+クラシックベースギター+シンセという五人組。サルゲイロ以外は皆黒スーツの立派なおじさんです。トータル77分22秒、全16曲とお買い得でした。豪華ブックレット付きで歌詞も英語対訳付きと実に助かります。非常に穏やかな楽曲を淡々と、あるいは切々と謳い上げる幽かな声が素朴で叙景的です。でしゃばらないシンセが非常に効果的できれいに音の隙間を埋めているような満たされた感覚が気持ち良い。

764 jyake12 1990

Carved in sand/The mission

三枚目くらいですか。段々明るくなって灰汁が抜けてきた。皆が求めていたのはその灰汁だから当然人気は落ち目。結局、いろいろ工夫は凝らしているのだが、ハッセイの技量と器量に対してリズムの単調さが救い難く思えてしまう。しかしながら、ハッセイは唄が上手い。数少ないちゃんと謳える人だと思う。歌謡曲だといっても全然おかしくない曲と華麗なメロディ。ア・カペラもどき「Grapes of wrath」まであって感激です。もちろんスタインベックの「怒りの葡萄」ですが、シンセと幽かに鳴る単音のピアノだけをバックに誇り高く謳い上げる。歌詞もイイ! のだが長いのだ。そのうち。ゴシックとスタインベック? と考えるとフ~ンと唸ってしまうが、世の中結局何も変わらねぇってことなんでしょう。

765 jyake13 1971

"Dedicated to you,but you weren't listening"/The Keith Tippett Group

ジャズはわかんねぇよ、といって逃げたいのだが、構成はラトリッジのいないソフト・マシーンと言えないこともない。キース・ティペット・グループは『Poseidon』『Lizard』でクリムゾンに貢献していたし、カンタベリ・ジャズのいつもの面子に加え、ロバート・ワイアット、フィル・ハワードにロイ・バビントンと音の方は聞かなくても想像がつくでしょう。比較的アンサンブル重視なので聴きやすいという部分もあるのだが、緻密な緊張感とクールな躍動感が疾走しておりまする。それに加えこのジャケとても格好良い。思わず手に取ってしまう。

766 jyake14 1988

Once around the world/It bites

行儀が良いのだろうか、型に嵌まり過ぎ。あるいはちょっとお洒落だけれど一皮めくると古臭い。ギターはギターにしか聞こえないし、ストリングシンセはストリングシンセ、歌は歌にしか聞こえん。ロックあるいはポップというジャンルから逸脱しないように、キチンと購買対象を見据えた音ではありますか。だから産業ロックっていうのか。売れるというのは本当は真理なのだが、よくわからないもの(こと)は取り敢えず信じるという人間の盲点を突いた情報操作と、プラグマティズム教育の本質的欠陥(逆に見れば大成功という)に起因する判断力の欠如がまかり通ると必ずしもそうは言えない。

中身は予定調和的で健康的な明るさが鼻につくのだが、この辺は80年代以降のメタルというかプログ・ハードの限界か。むしろそれなりに考えてよくやっている方だとは思う。しかし、上手いのだけれどそのテクを生かす方向が全然違うって。可愛いメロディも埋もれちゃってもったいない気がするがわたしが古いのか。大手になって変節したVirginの入れ知恵なんだろうが、ハードロックとかいう使い古された業態に変拍子と転調いれて、シンセを派手に鳴らしてコーラス入れて、明るくポップに決めれば受けるだろうってのが悲しいなぁ。時代の要請かって言われりゃそうなのだろうが。

比較の対象として適切かどうかはわからないが、同じ頃ドーバーの向かい側でクリスティアン・ベヤがアトールを復活させて89年に『L'océan』出してます。ベヤ以外は新人みたいで決して上手くないし、曲もせいぜい5分と短いのだけれど、変拍子もシンセもコーラスも曲調も展開も全然新鮮。ポップだけどちゃんとプログになっている。プログには何ら感慨はないけれど、この差はなんだろう?

767 jyake15 1978

Chairs missing/Wire

ありあり、ちっともパンクどころか、あっという間にポストパンクしてるワイア2作目。ちなみに次はプログです。形骸化した並みのプログなんぞ鼻にも引っ掛からないわ。更に一気に飛躍して完成の域に達するのは次作『154』ですが、その萌芽は既に看てとれる。評価高過ぎないかという気もしないでもないが、第一期ワイアにおける進化の過程は非常に面白い。希薄なシンセの音はプロデューサのMike Throneに依るもの。控え目だけれど非常に効いている。

どんどん無機的になって、こういう醒めきって冷めきった内容だと受けるという面ではなかなか辛いものがある。インテリなんだから「巨人・大鵬・卵焼き」とか「カレー・ラーメン・ハンバーグ」の法則を知らなかったとは思えないのだが。ギター持たせたってソロなんか絶対取らない(できないともいう)から、集金マシーンの粘着ギターソロ万世な保守層からは既得権を破壊する「ゴミ」扱いされるのだよん。だいたい、別の業界から転身してデビューした時点で全員30過ぎってのが笑わせる。きょうび受けるにゃ、やっぱり小学生か中学生じゃないとだめだろう。

768 jyake16 1993

Second plus/Celeste

メロゥ(Mellow record)のこれまた発掘物。というか、かつてのチェレステのチロ・ペリーノ(Ciro Perrino)がメロゥの関係者らしい。元々、2ndは76年頃録音中にGrogレーベルが倒産したことでお蔵入りになったと聞いた記憶がある。中身は2nd用に録音されたと思われる数曲にデモ音源、未発表音源を加えて編集したもの。1stとはかなり趣が違う曲もある。ベースのワンコードの上を延々とサックスのソロが走ったりとか、アヴァンギャルドなインプロ風の展開には正直びっくりした。ジャズに近いアプローチも新鮮だが、やはりあったあった、至福の瞬間が。ほんの4分弱のライブかデモ音源で音が悪いのだが、2本のフルートとバックのメロトロン、乾いた軽めのドラム、グランドピアノ、バイオリン、テーマを切々と謳いあげるアナログムーグが絶品。

いままであまり書かれていることには興味が無かったのだが、この期に改めて真面目に読んでみた。
 
Giorgio Battaglia(ジョルジオ バタッリャ):Bass
Francesco "BAT" di Masi(フランチェスコ マージ):Drums
Leonardo Lagorio(レオナルド ラゴリオ):Saxes,flute,keyboards
Ciro Perrino(チロ ペリーノ):Mellotron,flute,drums,percussions,vocals
Mariano Schiavolini(マリアーノ スキャヴォリーニ):Guitars,keyboards
 
後三人の微妙な重なり方が音を表してますなぁ。曲は基本的にペリーノが書いているようですが、演奏面でのラゴリオの貢献度はかなり高そうだ。実際、リードを取るのはほとんど管楽器かキーボードです。

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最終更新日 2003/01/04