懐古趣味音源ガイド    其四拾伍

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705 jyake01 2000

Merica Merica/Donella del Monaco

ベネチア移民、マルカ・トレヴィジャーナの口伝トラッドを下にした歌曲集。バックはバイオリンとかチェロとかピアノとか。全然ポップじゃないですが、もちろん歌うのはソプラノ・オペラ歌手、ドネッラ・デル・モナコというわけで耽美です。余韻と透明感の織り成す美学です。けっこういい年のはずで、確かに昔の張りはないかもしれないが、そこはプロ、喜怒も哀楽も一切合財含めた表現力は圧倒的なものがある。ここ何作かはスリーブに画家の絵を使っているようですが、これはオルランド・ドナディ(Orlando Donadi)という人の「Figure」という絵みたい。これがまた絶妙な透明感で耽美。

706 jyake02 1977

Floating anarchy 1977/Planet Gong

何もつかないGongが打楽器フュージョンをしていた頃、創始者デビッド・アレンはジリ・スマイス(昔はギリ・スミスだったけど、どこの人だい?)と共にパンクしていたのだ。ライブなんですがいきなりカマンベール・イレクトリックか!と思わせるオープニングからスペースパンク。Here & Nowとかいうパンク楽団と合体したのがPlanet Gongというらしいですが、ヒレッジ風ギターにブレイク風シンセと三部作の頃とあんまり変わりません。どういうこっちゃ? 畳み掛ける怒涛のリズムがパンクといえばパンクだし、後半のボコボコしたベースはパンクっぽく疾走しているか。ほとんど全編のバックを効果音的に流れるすぺいす・ゐすぱぁのあはーん声のイカレた感じも最高で、実際イカレてるとしか思えないわ。

707 jyake03 1977

Rockpommel's land/Grobschnitt

最近認識を改めつつあるグロープシュニット。私の耳はただの飾りだったらしい。1stの次に聴いたのがこれで、「おぃおぃ、ふぁんたじぃかよ」とすかっり印象が狂ってしまったのが不運だった。もともと古典的なSF本なんかは面白がっていた時期もあったのだが、アニメにしてもゲームにしてもファンタジィの世界観にはどうにも浸れない。設定を憶えなくちゃならんという手続きが面倒臭くてスタートに至れないのだ。しかし、最近のブームを見ていると正直空恐ろしくなることもあるなぁ、というわけで中身の内容はよくわからんのだが、もともとドサ廻りのサーカスみたいな職人興行なわけだから、すべてひっくるめてなんぼの世界なのだ。“B”などと言ってごめんなさい。コミック楽団みたいなところも含めて、最近ようやく味がわかりました。物凄いプロ意識の塊、極上のエンターテイメントなのだ。Eroc(ヨアヒム・ハインツ・エーリッヒ)のドラムだってテクをひけらかすわけじゃないけど、とんでもなく巧いし、ビール腹禿げ(Wildschwein=野豚くん)の歌だってギター弾きながらのくせして、曲に合わせて七変化しちゃって参った。これがまた想像を絶するような可愛い声で歌うのだ。ライブで観たらそれだけで爆笑ものだ。

708 jyake04-1

jyake04-2

jyake04-3
1994
1995
1996

Vrooom+Thrak+THRaKaTTak/King crimson

うむぅ。エイドリアン・ブリュウも黙って楽器を弾いておれば良いのだが、歌が入るとその天真爛漫な脳天気さに萎える。80年代を通過した分だいぶ慣れてきたとは思うんだが。上はリハーサルだそうで30分ほどのミニアルバム。中はそれを元に水増しされたフルアルバム、下はその“Thrak”の8ヶ所でのライブと、アイディア一個で三倍おいしい。最後まで付き合うなんてわたしも律儀なお人好しだ。『Vrooom』が内容的にいちばん良いもんで、次はもっと良いに違いないという期待を抱かせる仕掛けになっているのだなぁ。それぞれから適当に抽出して上手く組み合わせて74分乃至は80分にまとめれば、ばっちり90年代くりむぞんの出来上がり。80年代三部作に比べて落ちるわけではないけれど、情報も行き渡ってきたし、「くりむぞん」以外にも良いのたくさんあるじゃない、ってとこですか。とか言っているうちにまた新しいのが出たらしいですが、あんまりくだらないこと書いてるとそのうち殺されるかも、へへ。

709 jyake05 1970

Earth and fire/Earth and fire

1stだけどボーナストラック9曲入りで倍に膨れ上がっておる。当時、日本でもシングルが出ていたそうだが、確かに聞いたことあるような気がしないでもない。というわけで、年代物なありがちなサイケ風ビートポップと片づけることも出来るのだが、まだあまりハイトーンになっていないカーフマンのボーカルと、怒濤のメロトロンが星の数ほどある中から抜け出した最大の売りですか。既に次作を思わせる凝った展開や構成を髣髴とさせる曲からフォークっぽいものまでごった煮ですが、特有の冷湿なメロトロンは「Memories」や「アムステルダムの少年兵;Song of the marching children(Single version)」で怒涛の全開。この頃ははっきり言って歌謡曲並みのポップ・グループという雰囲気と形態、売り方なのだが、その落差がまた凄いのだ。

710 jyake06 1979

Manifesto/Roxy music

75年頃に実質解散状態に陥っていたものを、ブライアン・フェリィの主導の下に復活した再編第一作。イントロの長さが実に格好良いじゃないか。5分30秒の一曲目、ボーカルが入るの2分30秒なんだよねぇ。前期にみられたわざと崩したような安っぽいところは薄れてコンパクトに、かつファンキィにまとまった。非常に格好良いし、聴きやすいし、質も高いのだが不思議と無視されてしまうのは面白い。妙に人工的なインテリ臭さが敬遠されるのだろうか。あるいは凝った音が不自然過ぎて敬遠されるのか、未だによくわからない。彼女の笑顔を見ながら、ビールかジンを手にまったりするには最高の音楽であるぞよっと。そういえば、80年代のニュー・ロマンティックスに与えた影響も多大なものがあると思われる。

711 jyake07 1978

David Gilmour/David Gilmour

ギルモアの1stソロ。『Animals』の後だと思いますが、気持ちが良いくらいあっさりした自然な感じに仕上がっている。ピンク・フロイドでの苦労が偲ばれますね。ピンク・フロイドは重過ぎて方向転換が効かなかったけれど、外の空気に触れる機会の多かったギルモアはいろいろ感じるものがあったのだろう。そんな場合ソロは鬱憤晴らしみたいになるのだろうが、ここでのギルモアは非常に抑制された硬質なトーンでクールです。ブルーズ丸出しだけどドラマチックじゃないし、ねちっこい感はなくて乾いたリリカルさが清々しくも美しい。冒頭「Mihalis」だっけ、サラサラヘアに陽が透けてきらめいているようなギターに負けた。

712 jyake08 1978

Dire straits/Dire straits

プリズム(Prism)と同じく新しい時代の夜明けを感じさせてくれたギターもの。探したけれど無いから買ってしまったわい。もう、めちゃくちゃ懐かしいです。何もかかっていないナチュラル・トーンのギターとめちゃ渋いおっさん声に痺れた女の子は多かったでしょう。実際、「貸してあげるから聴いてみ」とか言われたのがきっかけだった。針を落として一曲目、もう目からうろこが落ちるとはこのことを言うのだ。裏も表もなく出てくる音がすべてみたいな潔さに感銘を受けたものだ。のりの良い16ビートにかぶさる2本のギターが奏でる簡潔なリズムとメロディの気持ち良いこと。「ジャケットも良いでしょ」と言われて、もう一度唸ってしまった。抜けるような空の透明な秋の日でした。

713 jyake09 1978

Adventure/Television

あまり評判の良くなかった2ndにしてオリジナルのラスト。1stが薬のやり過ぎだろうってシリアスさにのたうっていたのに対し、明るくてほわんとかったるそうだからか。中華風まであって芸風は広がったし、実は高いテンションも巧く隠されてとても高度になったのだ。せつないまでのてろてろ感に呑まれてしまうと、手放せない逸品になってしまうのです。金も設備もテクも何もないけれど、少しオブラートに包まれた才気だけが煌いてる儚さに心底惚れました。「テレビジョン=NYぱんく」という図式からみれば、全然パンクじゃないじゃんってのが不評の主因だろうが、ジャンル(つまり形式)ってのはホントくだらねぇなということに気づかせてくれた一枚。

714 jyake10 1978

U.K/U.K

鳴り物入りで登場した世間的には傑作なのか。でも既に最後の恐竜みたいなもんだった。この1st以外は後(Asiaとか)を含めて知りません。ウェットンにブルフォードときて、ホルズワースにジョブソンとくりゃ中身は想像通り、ええぢゃないか、ええぢゃないか。でも頭無しで大丈夫かい? と心配した通りの残骸でした。水と油の組み合わせにしては高質でほどよいポップさ加減。でも形式には浸れるけれど、最早、先進性の欠けらも感じられないオールド・ファッションド。気張れば気張るほど滑稽にしかみえなかった。一人、ジョブソンだけ若いせいか音が華麗で軽くて浮き上がっていたけれど、それは彼の感覚だけが新しかったから。同じ頃、上記4つ等とまったく同時に聴いていたわけで余計そう感じたのかもしれない。セピアに変色した中世宗教画にうんざりした人が印象派に飛びついたようなものだけど。音楽的には転機のきっかけ(要は転向だな、見切りをつけたとも云う)を与えてくれたレコードだったが、人間的にも思いっきり悦楽化と享楽化への転機だった頃でなかなか思い出深いものがある。

715 jyake11 1972

Neu!/Neu!

LPと同じ変形八つ折りスリーブで再発されたノイの1st。非常に良い状態でリマスタされていることもあり、内容を含めてとても30年前のものとは思えません。いきなり10分に及ぶハンマービート(アパッチ)で始まるのだが、タイトで締まったビートと右スピーカで刻まれるワウのかかったギターが気持ち良い。当時はかなり変態なイメージで捉えていた気がするのだが、ようやく聴く耳が追いついたってとこでしょう。テクノだけでなくノイズやアンビエント、インダストリアルの源流もここにあるといって良い革新的な内容。クラウス・ディンガ+ミヒャエル・ロータという二人ユニットですが、エンジニアとしてのコニー・プランクも含めてこの才気と先進には感服いたします。誰か早く乗り越えてくださいよ。

ラストの子守唄を歌っているうちに寝てしまうようなポヨンとしたヘタレ感など確信犯でやってるんだろうが、もう絶妙。言葉が無いとはこれをいうのだ。

716 jyake12 1973

Remember the future/Nektar

A、B面通しで全一曲と、プログしてます。妙に甲高いボーカルと非常に独特なネクター節が満喫できる初期の大作です。『Recycled』のようなリズミカルでダイナミックなスピード感あふれるループというよりはイギリス風の正統。メロディアスで重厚、キーボードがハモンド・オルガン中心なもんで温かみが勝りますか。なかなか重ったるいのだが、こちょこちょ目まぐるしくリズムを変えたりしてダレないようにしてるなど苦労はしてます。盛り上がりそうなとこで盛り上がらないとこなど実にネクターらしい。アルブライトンのカッティング・ギターもあまり目立たなくて、ベースとオルガンによる初期ブリットが基調なのでした。

717 jyake13 1992

All shall be well/Virginia Astley

牧歌風田園子守唄。いつの間にかガキができたみたいで一緒に歌っております。ガキはいるけど旦那はいないみたいで、なんか暗い歌が多いんですが「この先はうまくいくさ」ってタイトルをつけています。歌は非常に暗いんですが曲はきれいだし声も美しい。ケイト・セント・ジョンの木管楽器もとても良い味を出していて、少しほっとします。通り雨に洗われた風景のような楽曲が淡々と続きます。イギリスの田舎は看板もないし、コンビニもないし、自販機もないし、パチンコ屋もないし、道は100年前のままだけど標識だけはちゃんとあって安心です。まぁ、羊のほうがなんかエラソーだけど。

718 jyake14 1982

The draughtman's contract/Michael Nyman

グリーナウェィ(Peter Greenaway)の長編映画第一作「画家の契約(英国式庭園殺人事件)」のサントラ。ナイマンにとっても出世作になったもの。映画の舞台が17世紀末期ということもあって、同時代の作曲家パーセル(Henry Purcell 1659~1695)を下敷きにしたバロック調のナイマン節である。画家が構図器を対象に向けるときに鳴り響く弦楽器は風景(と肉体もか)を制圧するのだ。主人の留守中に12枚の絵を描き、報酬はその間の寝食と妻自身という契約をその妻当人と公証人立会いで結んだ画家が落ちていく罠。途中からは娘とも同じ契約を結ぶわ、主人は死体になってるは、銅像は動くわ、庭園は途方もなく美しいわ、駄洒落と語呂合わせは連発するわ、直喩と隠喩が乱れ飛んで、ほとんど消化不良です。描かれた12枚の絵に紛れ込んだ“あってはならないもの”がトリックになっているのだが、ぜんぜんわからんって。説明しようなんて気もないみたいですが。グリーナウェィに関してはあちこちで言及されているので敢えて書くことはないのだが、映画館で観るよりもビデオなりDVDがお薦め。一回観ただけじゃ(5回見ても)さっぱりわからん。

719 jyake15 1971

The north star grassman and the ravens/Sandy Denny

フェアポート・コンベンションの2nd、3rdあたりで歌っていたTrad界の重鎮ですが、ヤードバーズ、ストローブスあたりと何らかの関係があったらしい。既に故人です。さすがにこの辺りになると正直いって手が廻らない。フェアポートを聴いていて、このやたらと存在感のあるボーカルは誰だろうというのがきっかけですか。ソロとしての2作目のようですが、全11曲中トラッドは一曲のみ。あとはオリジナルの電化民謡です。可愛いながらも一本芯の通った逞しさと、何ともいえない寂しさを合わせ持った実に不思議な声を聴いていると、隙間が満たされていくような充実感とやっぱり嵌まらないような寂寞感を感じるものだ。

720 jyake16 1972

Fifth/Soft machine

なんか真っ黒にしか見えないと思うけれど、目を凝らすとでかでかとつや消し黒の地に艶あり黒で5って書いてあります。「4」のワイアットの代わりに前半をフィル・ハワード(Phil Howard)、後半をジョン・マーシャル(John Marshall)が担っておると。管楽器がエルトン・ディーン一人になったせいかラトリッジの冷徹さがいちばん目立つアルバムだったりするのだ。インプロというよりはコンパクトなアレンジ重視の緻密さが特徴です。たぶんソフトマシンの歴史の中でも、最も地味で静謐なアルバムだろう。研ぎ澄まされた緊張感とラトリッジの18番たるあの独特に変調されたオルガンの音が底無しの深遠から湧き上がってくる。「6」以降はカール・ジェンキンスの影響もあってミニマルに傾倒していくことを考えると、最もソフト・マシンらしい? 内容と完成度を誇る。

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最終更新日 2002/11/07