懐古趣味音源ガイド    其四拾参

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673 jyake01 1977

Maledetti/Area

どんどんアヴァンギャルドに傾倒するアレア。ディメトリオ・ストラトスのわけのわからない意図不明なる呟きから始まるカオス。有為から意味を剥ぎ取って無効化していくような過程が生々しい。混沌と超絶の絶頂は2年後の死期を予感させるようだ。既に社会状況は悪化の一途を辿り回復不能であることは自明だったのだろう。その辺りの事情に関しては塩野七生『イタリア共産党讃歌』でも読んでください。フリー・ジャズを突き抜けてしまった先はアナーキーな純粋カオスなのか。一方で民族音楽への傾倒もいっそう拍車がかかり、アレンジを生かしているところはより緻密で柔らかく優しい。

674 jyake02 1987

Within the realm of dying sun/Dead Can Dance

既にポップとは完全に縁が切れたかに思える3作目。エレクトロニクスとクラシカルな生楽器のアンサンブルにしっとりとかぶさる暗鬱でこの世のものとは思えない美しい声と声。頽廃と異端。中世だったら間違いなく焚刑でしょう。聴いていると骨の髄まで染み渡るように同化していけるのは固有振動数が近いからだろうか。こう途方も無い坂道をひたすら落ちていくような止めどもない暗さ。決して黒くはないのだが、見渡しても何も見えない真っ白な闇でしょうか。確か最初に聴いたデッド・カン・ダンスですが、その名の通り死者に命を吹き込んで踊らせるかの如く生気が感じられぬ。音が鳴り終わった途端、コテっと転がる人形の踊り。同じ天上の声でも死人の声であり、お迎えの声なのだ。

675 jyake03 1977

Animals/Pink floyd

「Dog」の原曲は「You've gotta be crazy(おまえ発狂)」、「Sheep」は「Raving and drooling(乱心よだれ)」とか言って『Dark side of the moon』が出た直後のライブで盛んに演奏されていたらしい。良い曲だから当然次のアルバムに入ると思っていたら何故だか「Crazy diamond+α」になってしまった。私が持っている唯一のブートはこのおそらくカセットで隠し録りされたと思われる当時の「新曲」だ。どちらもムーディで暗く重いアレンジで、後に正規LPになって出てきたときには非常にタイトで攻撃的になっていたけれど、それは時代が動いたということだろう。個人的には74年頃のアレンジの方が地を這うように暗く、ギルモアのギターも神懸かり的に輝いていた気がする。全盛期(もう少し後か)ということもあったのだろう。前作から少し傾向が変わったことに加え、年齢的にも興味を失いつつあったのか『Animals』正規盤が出てもどうにも触手が動かなかった。現代版「鳥獣戯画」で割り切ってしまう紋切り型の啓蒙が鼻についたということかもしれない。実際いつまでたっても買って来ないので、呆れた弟がしびれを切らして買って来た憶えがある。ラッキー!、というのは25年前の話。

676 jyake04 1994

Warped by success/China Crisis

消え去ったものと思われていた頃に5年ぶりくらいで出た結果的にはやっぱり実質ラスト。こしゃまっくれた明るさは、穏やかでゆったりしたものになった。エレポップというより当初のアコースティックな路線に戻ったよう。10年もやってれば大人になるのは当たり前だけど、円熟だけで生き残っていくのは難しいだろう。まったりとした良い味は出ているのだが昔のファンにしか受けないよなぁ。昔のファンをしている私にとってはそれで十分です。事実は小説より奇なりだけど、現実は想いもしないことが平気で起きていて、そんな突拍子もないことを目前にすれば本の向こうやCDの中に封印された非日常も色褪せて見えてくるものだ。動画やゲームが隆盛の時代に在っては抽象度の高いメディアは苦戦せざるを得ないけれど、近づく努力を怠ると失うものも大きいと思うのだがなぁ。

677 jyake05 1974

Refugee/Refugee

キース・エマーソン(ELPの)に逃げられたナイス(Nice)が連れて来たのがパトリック・モラツ(Patrick Moraz)で、ナイスを再現しようとしたらモラツさん、さっさとイエスに逃げてしまい踏み台にされただけってとこですか。一人だけ宇宙人のように見えますが(右端の人)、音の方はいたってまともでバリバリの変拍子の上を縦横無尽に駆け巡る超絶キーボード。この人にしかできない部分も多いのだろうが、上手過ぎるというか妙に掴みどころの無いところが特徴だ。ナイス自体のことは自慢じゃないがほとんど知らないので偉そうなことは言えないが、元祖キーボードトリオとしてはエッグ(Egg)がお手本にするくらい有名だったわけだ。総じてせわしないところは音数が多過ぎることにあるような気がするのだが、起死回生を頼んで気負って作ったのかなぁ。既にベテランの域に達しているはずなのに落ち着きがない。

678 jyake06a
(独盤)
KLINGKLANG
CDP 564-7 46131 2
 
jyake06b
(英盤)
1978

Die Mensch Maschine/Man machine/Kraftwerk

うむぅ、ロシア構成主義風のこのデザイン、赤と黒ならスタンダールだと言い訳できそうだが、これを見ているとヒムラー(Heinrich Himler 1900~1945)の黒と銀、レーム(Ernst Roehm 1887~1934)の赤と茶を思い起こすのはわたしだけか。如何にもって民族風で好きだよなぁ。地なのか受け狙いなのかはわかりません。TEEよりは少しミニマルっぽい雰囲気と黄昏た感がありますが、テクノ・ポップの集大成的完成品といえるだろう。テクノロジィでここまで作れますってのは、逆に、音にも慣れて違和感が無くなれば無くなるほど、ふつうの曲をコンピュータと電子楽器でやったらこうなりましたと聞こえてしまうこともなくはない。所謂ロボットを作ろうとするとついうっかり人型にしたりとか、結局犬になっちゃうとか、マシン本来の機能適性にあった形を創造しようとしない愚鈍なテクノロジィになってしまうのは嫌だ。マシンにはマシンの道理があって然るべきだろう。

679 jyake07 1979

Grosses Wasser/Cluster

いやぁ、すごいジャケのデザインです。タイトルは「大海」という意味ですがこの削り尽くした簡潔さはやっぱり日常を通り越した茫漠とした虚無です。「いっちゃいました」の一言で片付けようか。ディータ・メビウスにハンス・ヨアヒム・ローデリウスなる二人のおじさんが辿りついたところは演歌に童謡であったか。おまけにタンジェリン・ドリームのペータ・バウマンまで加わって、よってたかって繰り広げる進化と退化。へなちょこなリズムにへなちょこなメロディ。虚飾と情緒を際限なく捨象した彼方にみえたものは、老若男女を問わず人間の持つ根源的な音感だけなのだろう。言葉ではこれまた究極的に言い表し難い。足すことも引くこともできない、この極限的なへなちょこ感は他では味わえない、どうあがいても割り切れない素数のようだ。

680 jyake08 1984

Discovery/Mike Oldfield

マギー・ライリィの歌う「To France」で幕開け。いきなり蕩けそうに美しい。英語の歌は語感が尖った感じになりがちで疲れるんだけれど、この人の声なら何も言うことはないか。ほとんど歌もののポップなアルバムで、かつてのファンからは随分と嘆かれたそうですが曲も音も派手過ぎず地味過ぎずで良いのではないでしょうかと安直に思っております。オールドフィールドの曲作りも少しアイリッシュで少しミニマル。円熟した境地を余すところなく聞けます。

Virginの再発HDCDは新品でも1500円弱で入手できるんでコスト的には良いのだが、スリーブがどうしようもなくちゃちい。中はいんちきだし、外装もシボ加工されたLPの再現は無理としても、ど素人がスキャンしたようなしょうもない画像には恐れ入ったわい。顔ジャケだからどうでもいいんだけどさ。

681 jyake09 1975

Ruth is stranger than Richard/Robert Wyatt

より内省的になった気もするが意外に聴きやすい2ndソロ。Side Richardと題された前半は、かの牛の親分フレッド・フリス(Fred Frith)のピアノとワイアットのスキャットがユニゾンする静謐でリリカルで美しいジャズ・コラボレーション。Side Ruthなる後半はちょっとファンキィでユーモラス。前作に通づるものもあるか。穏やかな才気が音符になって零れ落ちていくようだ。前作『Rockbottom』より冷湿な絶望感は薄れて、いっそう流麗(陰鬱か)に洗練された感がありますが、個人的にかなり抉られた記憶がある。今思えばほんの瞬間なのだが、経験的に初心だったのか、やたら感度が高い時期だったこともあるのか、歓喜と後悔と諦観が入り混じった背後で通奏低音のように聞こえていた音楽だった。あぁ、秋の長雨にもぴったりだ。

682 jyake10 1991

An eye for the main chance/Rosetta stone

ゴシックの正統なる嫡子でもあった1st。今やもっぱらデジタルビートです。もちろん当時はゴシックのゴの字も知らずに買っていたと思われる。この手のものをゴシックと言うことがわかったのは本当に最近の事だ。最近はwww.allmusic.comとかで勉強しておりますが、こりゃ便利だわい。styleとかrelatedで追っかけていけば偶に笑えるのもありますが概ね納得したりして。同業のミッションの引きもあったようだが、タイトル曲のストリングズなどかなり独自で格好良い。で、マダム・レイザ(Madame Razor)ってどの人ですか? 4人なのに写真は3人分しか無いし、女性はいないように見えるし妙だ。どこかの地下の穴蔵のようなやたらと暗い店で買った記憶があるのだが、いったいどこだったのだろう? 真夏だというに目が慣れるのに時間がかかるほど暗くてエアコンがびんびんに効いていたことしか憶えていない。

683 jyake11 1978

La vieille que l'on brûla/Ripaille

リパーユ唯一(おそらく)の再発CDで未発表の2ndからボーナス3曲入り。テクニカルな端正さはカンタベリかジェントル・ジャイアント張りだが、アコースティックでテアトリカルな如何にもフランス臭いこしゃまっくれた彩りも併せ持つ。古楽器を持ち出してグリフォンを思わせる中世風の展開をしたりもするが、ドラマチックに盛り上がるというよりは、淡々とした可愛らしさと素っ気無さ、それでいて隅々まで行き届いた丁寧さが特徴です。後追いかもしれないし、先駆者としての冴えも感じられないかもしれないが、なんでもアングロサクソン一辺倒の世の中で首根っこを押さえられつつも無駄なあがきをする(した、か)心意気を評価しよう。幻の2ndは出ないんですかね? 出ないんでしょうね。

684 jyake12 1974

Contrappunti/Le Orme

初期オルメの集大成とも言えるスタジオ盤4作目(ビート時代があるんで本当は違うらしいが)。不安なメロディを奏でるオルガンの後をピアノが追っかけて、怒濤のキーボードアンサンブルに突入していくところなんか非常に構築的です。勿論、ターリャピエトラの歌が始まれば静と動は一転する。この落差があまりにも見事なのだ。ELPの影響を否定するつもりはないけれど、根底にあるバロックとカンツォーネの表象はオルメ独自のものです。今まではプロデューサとしてクレジットされていた四人目のオルメ、レベルベリ(Gian-piero Reverberi)がピアノとしてメンバー・クレジットになって4人編成になったようですが、その結果か展開とキーボードパートが現代音楽風の非常に緻密なアレンジになっています。変拍子も結構決まってるし一皮むけて上手くなったよなぁ、と思わせる一枚。

685 jyake13 1985

Tiny Dynamine・Echoes in a shallow bay/Cocteau Twins

4曲入のシングルを二つ合わせたカップリングCD。今聴くと裏声率も低いし思ったよりダークで冷やっこい。以前よりはずっと声が柔らかく色っぽくなってきたとは思いますが、まだ天上の声っていうほどではない気もする。もっともアレンジはバリエーションが増えて少し彩り豊かになった。ドラムマシンの使用は相変わらずです。次作ビクトリアランドは(おそらく)南極なのだが音感がどうにも暖かいのでここに一つの溝があるのかもしれない。漸く、CD化されていなかった一部のシングル集も出て、多分すべての曲を聴くことができるようになったみたいだから、一つ落ち着いて出直してみますか。

686 jyake14 1975

L'araignée-mal/Atoll

リシャール・オーベール(Richard Aubert)のバイオリンを中心に据えたインスト部分の比重が高い2作目。世評も最も高いそうだ。ボーカルが自信なさげだし若干地味で弱いのだが、緩急とダイナミックな展開が高い次元で融合した硬質なリリシズムが見事だと思う。一曲目の冒頭から一気に包み込まれるように引き込まれていく緊張感も類稀なセンス無くしては不可能だろう。別に関係は無いけれど「私が邪悪な蜘蛛」などと返されてしまうと、その前に「あなたが―――蜘蛛だったのですね」と言っておきたくなります。

MUSEAのCDには「Cazzotte N°1」のライブがボーナストラックで入っていますが、怒涛のインプロ大会になっちゃっています。バイオリンは既におらず、ベヤがバイオリンのパートをギターで弾いております。代わりにゲストでサックスを入れていたりしているのですが、こういうのを聴くとフランスの○○という宣伝呼称とは正反対な芸人だと思われる。

687 jyake15 1995

Indescribable night/Kate St. John

巧いのか上手くないのかさっぱりわからなかった元ドリーム・アカデミィのお姉さんでしたが、歳相応になりました。さすがに今はいればいいよってわけにはいかないでしょうが、相変わらず上手いのか下手なのかよくわからん凛とした素人臭さが味であることも確かでしょう。子守り歌から大人向けまでいろいろですが、品の良い柔らかさがタイトル通り少し濃密な夜を現わしています。元々、オーボエを主としたリードのある管楽器が守備範囲の人ですが、ちょっと掠れたような声で歌も歌ってます。さすがに曲作りとあまりというか決してポップでない演奏は聴きどころを押さえたものです。

688 jyake16 1973

Papillon/Latte e Miele

パピヨンと言えば蝶のことだが最近じゃ犬の品種を指すらしい。ぐぐるで検索していたらなんだか気持ちが悪くなってしまった。映画のパピヨンと元になったアンリ・シャリエールの自伝小説のパピヨンしか知らないのはすっかり時代遅れってことか。もっとも、吉原「パピヨン」には笑えました。で、ラッテ・エ・ミエーレは同年に公開された映画のパピヨンを題材にしたようです。まぁ、当時見た記憶があるのだがなかなか印象的な映画だった。海を越えていける蝶を見ているシーンは子供心にも重かったわい。いきなりELPを思わせるキーボード・アンサンブルですが、ボーカル入る頃にはもうすっかりクラシック。室内楽顔負けの艶やかさとカンツォーネな柔らかくて頼りないボーカルが特徴ですか。ジェノバ出身の非常に若いグループですが意欲にテクが追いつかない部分はあるかも。オルメと同じでそんなところはまったく気にならないものを持っているのだけれどライブは大変だっただろうなぁ。内ジャケはライブの写真なのだが、3人じゃめちゃくちゃ忙しいだろう。

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最終更新日 2002/09/15