懐古趣味音源ガイド    其四拾弐

top > index > (0-9,a-g : h-o : p-z,あ-ん

657 jyake01 1974

Harmonia/Harmonia

ハルモニアといえば最近は分譲マンションやら建売住宅の名前になっていて、こそっと笑えるお国柄です。昔、ハルモニアを聞きながら育った方達のネーミングかもしれません。と言うのはもちろん大嘘です。だって、がんがん開発、もりもり利益みたいな上昇指向とは正反対というか、思いっきり諦めきったような自然でオーソドックスな姿勢だから。このきらきらと輝く光の量子のような音は影の無い明晰さと空虚で捉えどころがない無為さを併せ持つ。Cのクラスタ+ノイのミヒャエル・ロータという仮設ユニットで産み落とされた波動音楽から量子音楽への転換点か。冷やしたCDを冷やしたCDプレイヤで聴くと音がよい。冬に聴くと音が良いのはそのせいか。冷やした部屋で明るく凍りついたハルモニアの音。雪の華のようだとも思えるし、枯木にあたる冬の陽とも思えるか。祟高な芸術性とも手近な情感とも無縁なそこはかとなさは、現代の「わびさび」に最も近いかもしれない。

658 jyake02 1979

Unknown pleasures/Joy Division

あまり新人とは思えない1st。アルバムとしては寄せ集めって感じでテンションが上がりそうで上がらないもどかしさを感じます。中身の方は次作『Closer』ほどのドツボ感はないけれど、いきなり瑞々しいほどの虚ろで沈痛な絶望感でいっぱいです。希望のかけらを認識できない真摯さと結果としての諦観はとても誠実だと思うのだが、見ざる言わざる聞かざるってのも優れた処方箋だと思うのだがの。三猿は東照宮の厩の欄間象嵌彫刻ですが、この手のコンセプトはアングロ・サクソンとは一番縁遠いのでしょう。彼等にとって縁遠いということは私にとっては非常に身近なわけで、おりしも三無い運動を展開中です。日夜、世間や社会の動きとか、他人の思惑から無縁であり続けようと(おそらく無駄な)努力をしていると、それなりに心が平穏に沈静していきます。センサーの感度を下げて、脳に入る情報を意識的に制限することによって人工的な無知蒙昧状態を作りだすと、底の見えない海中をゆるゆると沈降していくような静謐な質密感で満たされて感覚がより一層抽象化されていくようです。

こんなものを引っ張り出してきて聴いているっていうのも、同時性の拒否というか現在の事象からの逃避傾向なんでしょうねぇ。

659 jyake03 1996

Moseley shoals/Ocean Colour Scene

同じく瑞々しさだけで後は何もいらないかと思わせる2枚目くらいか。時代が違うから暗くはならないけどねぇ。若い。ビートルズやストーンズ等60年代ビート・ポップの再来だそうですが、30年くらい経つとだいたい流行は一巡するようです。少しづつイングランド・ローカルな独自性も見えてくるのだが、スローテンポのアコースティックな感じの曲は特に良い。醒めているのだけど粘っこい渋さが個性ですか。ちなみにcolourで検索すると2110件、これは良いとして、おもしろいのはcolorでも435件ヒットすることです。敢えてわかってやっていることならかまわないんですが、ちょとびっくり。確かにCSSでcolourって書いても無視されちゃうけどさ、それとこれとは話が別だわ。

660 jyake04 1974

No title/Adriano Monteduro,Reale accademia di musica

RAMの2ndとかいわれてますが、あるいは…として売ろうとしたと思われますが、やっぱりアドリアーノ・モンテデューロなる歌もの系の人のソロでしょう。RAMといったって二人しか参加してないのだし。そんなわけでRAMの1stを期待すると思いっきり外します。でも騙されたつもりで聴いてみれば、そんな思惑も戦略もどうでも良くなる出来映えであることも確かではあるか。うむむ、曲のこなれ具合なんか本家よりも良いかもしれない。ねちっこくならないさっぱりとした暖かみが印象的ですが、レアーレのピアノ、ドラムはもとよりモンテデューロも加えたアンサンブルは素人臭さ(或いはポップ系)の感じられない極めて高質なものです。透明感のあるやさしい陽光と匂いたつような春の香りがぷんぷん。季節はずれだけどさ。

661 jyake05 1988

Organ works/Johann Sebastian Bach

言わずと知れた偉人(1685~1750)。八橋検校と同時代の人ですが別に意味はないです。記憶の底に微かに残っていた「フーガ in G マイナ」を聴きたいがために買った気がする。フーガと名が付くだけで膨大な曲があるようで探すのが大変だった。う~んBWVっていう番号で憶えれば良いのでしょうが、そこに思い至ったのは買った後だ。そういえばモーツァルトとかベートーベンも全部番号で特定できるように管理されているって中学校で習ったか。一応オルガンワークだからすべてパイプオルガンによる演奏ですが、バッハの曲はハープシコードや歌入りもかなり多いです。ついでにパイプオルガン=荘重ってイメージがありますが可愛くてシンプルなものもたくさんあります。「フーガ in G マイナ」なんかはその典型だと思いますが。もっとも楽器としてのパイプオルガンは電気的な増幅ができないので、音圧を確保するために伽藍を必要としたという意味で究極的なアナログ楽器です。空間容積や人の入り具合で、あるいは気温や湿度でかなり音が変わったことでしょう。まぁ、それはそのまま宗教的な洗脳装置でもあった(ある)わけですが、確かにEmacsでばこばこ文字を打ち込みながらぱそこんで聴いてあげるとちっとも敬虔にはならんです。

662 jyake06 1975

Tardo pede in magiam versus/Jacula

なんじゃこれは? とバッハが聞いたら怒りそうだ。キーボードがパイプオルガン (乃至はハープシコード)なのでスタジオに持ってくるってわけにはいかないだろうから、パイプオルガンのパートだけ差し替えたんだろうか。スリーブは死人食らいだし、淫靡で扇情的な女性ボーカルと降霊術でもやってるかのような語り、荘重なパイプオルガンによる冒涜暗黒系こけおどしもの。キリスト教異端派ってグノーシスとか、カタリ派とかカバラとか黒い聖母とかの神秘主義系やヘルメス哲学を指すのかと思っていたら最近はずいぶん違うらしい。薄っぺらくなったものです。(お笑い) 同様にこのヤクラ、狙いに反して「薄っぺらい」というのが巷の評ではありますが、ディテールも申し分ないし雰囲気は濃い目にでていると思います。中程のワルツや「黒魔術の夜」なんかはクラシカルでかつリリカルな黄泉の国に迷いこんような静謐さが美しい。もちろんラストは怒涛のパイプオルガンの洪水で締めくくり。

663 jyake07 1992

Classic album & single tracks 1969-1980/Kevin Ayers

ベストとは思えないベスト盤+シングルコンピの廉価盤。内側の解説はアメリカ人みたいだがそれなりに端的でわかりやすい。エヤーズは3種類の歌を書いた。酔っ払って書いたもの、飲みながら書いたもの、二日酔いで書いたもの、の3種類だそうで。良いところを突いています。もともとマレーシア生まれ? だそうで、この微妙に南国風のかったるさが往々にして評価の分かれ目になるようです。南国って熟したマンゴーとよくわからない輸入ビールを片手に日がな一日寝っ転がっていられる人なら極楽だし、ど下手なタクシーの運転に苛々しなければ尚、過ごしやすい。ソフト・マシンにいたということが生涯付きまとう人ではあるが、それだけでは計れないけったいさを秘めた人でもある。マイク・ラトリッジやデビッド・ベッドフォードが助っ人に来る人なんてそうそういないと思うしなぁ。シングルコンピという面もあるんで、かなりぬるめの選曲になってますが特質は出ている気もして怖い。

664 jyake08 1975

Scheherazade and other stories/Renaissance

『燃ゆる灰』のトラッド指向がクラシック風の大作指向に置き換わった2期の4作目。まぁ、洋の東西を問わず不詳なんだが、カバーバージョンがヒットしたらしく、かなり有名らしい「Ocean gypsy」に代表されるコンパクトで品の良いポップさ加減は万人に認められるところではあるか。アニー・ハズラムにしては珍しいのだが、唸る寸前で止めているところなんてかなり色っぽい。もともと学校で習うような正統的な歌い方をする(しかできない)人なので、その特性を上手く捉え、より映えるような曲作りができるようになってきたとも言えるでしょうか。付け入る隙の無い技巧的な完成度の高さと素朴な可愛らしさのバランスが上手く取れています。曲によってボーカルの定位や音量も細かく変えて音響的にも美しく聞きやすいし上質です。

665 jyake09 1969

Yes/Yes

おっと、これはアメリカ盤です。何の取得も無い過疎の寒村で赤貧に喘いでいた当時は一円でも廉い方を買っておったのです。もちろん今でも状況が変わったというわけではないので、遺伝子改良家畜用雑穀等で飢えをしのぐありさまです。とうもろこしの缶詰も遺伝子改良品が入らなくなってから? 暴騰しましたが、生の皮付きも一本100円近くするじゃないか。粟とか稗でできたおにぎりなんぞも高いですが、もろこしなんぞ米が食えない時に食うものだった時代が懐かしい。(注;これは嘘。もろこしはもちろん、粟も稗も無くて芋だと) 「無知を生む貧乏が憎い」と言ったのは永山某でしたか。環境決定論はそれなりに真だとは思いますが憎んでも腹は減るんで安価な流出カドミ汚染米でも食べませうか。贅沢は癖になるけれど貧困も思いのほか浸れるものだ。

イエスの最初の3枚はシャープで荘重というよりは、可愛らしいポップさとキャッチーなメロディが取柄なので古臭いオルガンの音が意外に映えたりする。ジョン・アンダースンの声も実は昔から全然変わっていない気がするのはわたしだけだろうか。短い曲ばかりですが、既にイエスとしか思えない力の入った斬新な趣向が楽しめます。

666 jyake10 1992

U.F.Orb/Orb

何をもってテクノたるのか、テクノの定義はわからん。っていうかジャンルの定義ってどのみち意味不明だ。小学校からやり直せ? はぁ、すいません。で、ビート感もある(曲)にはあるのだがスペイシな空間音像が未来を予感させる(た)出世作。斬新の意味すら当時とは同じではあり得ないのだから、テクノという表現も罪なものだ。時代によって内容はかなり変遷を遂げることになるけれど、別世界というか別宇宙で見たこともない生物がヒキヒキと這い廻っているような異音がスピーカの底からてろてろと洩れてくるようでひたすら妙です。音のつながりが絶妙に希薄で美しいミニマル・アンビエント。うう~む、この音響的な立体感が気持ち良いのだろう。

667 jyake11 1977

Magic is a child/Nektar

タイトル曲のハープシコードが印象的な中期の作。メロディアスだし短くてポップに聞こえるがこれがまた中々どうして難しいことをさりげなくやっておるのだ。展開と転調が結構独特なところがあって、いかにもなネクター節を聴かせてくれるわい。何故か(男だけど)ハイトーンボーカル兼チャキチャキのカッティングギターのロイ・アルブライトン(Roye Albrighton)がおらぬのだが、迷う事無きネクターであるところが面白い。ご他聞に漏れず近年復活しておりますが、元々時代を感じさせない不思議な展開と怒涛の疾走感があったから、意外に違和感は無さそうだ。

668 jyake12 1981

Mysterious dream/Living life

イタリアものですが詳細不明。一応2ndアルバムで、かつラストみたいです。昔日本盤が出ていましたが、その当時ですら1stは見たことも聞いたこともない。現在はMellow Records からCDが出ていますが、一口コメントには犯罪的に過小評価されていると書いてあります。ふ~ん。だいたい15ユーロくらいなのでけっこう廉いのだ。もっともECサイトじゃなくて欲しい人はメイルを送れってあるんですが、英語で良いんだろうか? むむぅ、決済が面倒じゃの。このところ何ヶ月前の為替を反映してるのか、先読みをしているのか知らないがECサイトが円安で参った。輸出産業が崩壊しようが失業者が溢れようがどうでも良いんだが、自国の通貨が弱くなると小躍りして喜ぶ見下げ果てた国民性を何とかしてくださいよ。

でもって、イタリア風の熱い部分は薄いのだけどアラビア風の乾いたシャープな耳あたりと、分厚くない音が無国籍で面白い。アバンギャルドな展開と管楽器とパーカッションの絡み、SEを多用するシンセとゆったりとうねるような曲調が暮色の砂丘を越えていくようだ。既に受け入れる土壌は無かったという意味で、中身は別として時代には乗り遅れてしまったな。

669 jyake13 1972

Sandrose/Sandrose

まぁ、結構ツボに嵌まるのだが今更敢えて取り立てるほどのものではないとは思う。フランス人ですが歌詞は全部下手くそな英語。振り絞るように歌う甲高めの生っぽい女性ボーカルで好みは分かれそう。インスト部分のメロトロンとギターの絡み合いあたりが受けた理由でしょうか。とは言っても、聞いたのは88年にMUSEAからCDになって再発されてからで、それまでは頭に「幻の~」って形容詞が付いていました。メロトロンの洪水+女性ボーカルって、実はオランダのEarth & Fireあたりの冷湿さとそっくりなのだが、こちらは長続きしなかったようです。長めの曲をこなすテクもあるしさすがにセンスは良いんだが、歌がカーグマンほど巧くないし声量もない。結果的に方向性がはっきりしないどっちつかずになってしまったということか。

670 jyake14 1980

Never for ever/Kate Bush

順調に年を重ね、円熟味すら感じさせる3作目。比較的トラッド色が強い気がするけれど、いろんな要素を消化しきった上での再構成というか独自性の発露には恐れ入る。どっしり構えた安定感というか破綻の無さは、とても20代の人が創ったとは思えない完成度を誇る。こんなに出来てしまうと次は何をしようか困るんじゃないか? (いや、困ったみたいだけど) おまけに、その完成度は計算されたものではなくてぴったりと填まるところに填まった充実しきった情念なのだ。ところで、ジャケットで蠢く可愛らしい魑魅魍魎たちは彼女のスカートの中から涌いて出てくる。その辺が子宮で歌う女とも言われる由縁なのかどうかは知らないが、突き抜けてしまったような声を聴いていると、安易にさもありなんという気にならんこともない。

671 jyake15 1975

Voyage of the Acolyte/Steve Hackett

ジェネシスが傾きかけた頃に出た1stソロアルバム。ジェネシスのリリカルな中世趣味はアントニィ・フィリップスからこの人に受け継がれたのだろう。アントニィ・フィリップスよりはダイナミックな弾き手ではあるけれど、ほのぼの感は無くて本質はシリアスで暗い。いきなりアップテンポの曲から始まってちょっとびっくりするけれど、ゆったりとしたクラシカルなもの、変拍子ばりばりのもの、長めの中世風とバラエティに富んでおりまする。ラストのサリー・オールドフィールドの透明なソプラノと冷やっこく湿ったキーボード、ギターの絡みが見事です。ギタリストとしては決して弾きまくったりしない地味な印象が強いのだが、でしゃばらずに良い曲を書いています。能ある鷹は爪を隠すということか。

672 jyake16 1988

Answers to nothing/Midge Ure

キリスト教的なヒューマニズムに彩られたソロ2作目。売れた売れないは別として楽曲の出来は前作をはるかに凌駕しているでしょう。(注;前作のソロは現地でそれなりに売れた) リズムが少しコンパクトでファンキィになった。歌ものとしても円熟したけれん味の無さはもういうことはないのです。時期的にはバンドエイド云々の頃でしょうか。自慢じゃないがその辺の話はまったく知りませんが、それなりの現実感に彩られた中身ではあります。ちなみに一曲、ケイト・ブッシュとのデュエットがあって、ピーター・ゲイブリエルとデュエットしてた「Don't give up」を思い出してしまった。どちらもとても良い曲だ。

index
最終更新日 2002/08/30