懐古趣味音源ガイド    其四拾壱

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641 jyake01 1972

Seventh sojourn/Moody Blues

既にこの時点でそれなりの年齢だったと思われるが、彼等なりのヒューマニズムを根源としたある種の諦観に辿りついた7作目。これにてクラシック・ムーディーズは幕を閉じる。品の良い優美な楽曲は隅から隅まで文句のつけようのない脅威的な完成度を誇る。個人的には「Children x3」と甲乙付け難いが、やっぱり一番好きかなぁ。何とも言い難いこの絶妙な深み、聴くことの幸せとはこれを言うのだろう。陰鬱で優美で艶やかで悲しい。60年代末期の未成熟な(あるいは夢のあった)社会状況の中ではそれなりに物議を醸したこともあったらしいが、彼等が辿りついた「私はただの歌うたい」という至極単純明解な結論は、「アーティスト」なんぞを標榜し始めたら困るなぁと思っていただけに大人で良かった。

642 jyake02 2001

Exciter/Depeche Mode

DMもあっという間に20年選手です。線が細くてナイーブな印象もごつくて逞しく変化した。もっとも反復するリズムと遠くで鳴っているようなシンセ音にふわりとかぶさるような沈静したボーカルは歌っているのか呟いているのか。昔は表面の水っぽい瑞々しさしか見えなかったが皮膚と肉を支える骨格が透けて見えてきた。それだけ余分なものが削ぎ落とされてきたということなんだろうが、夜の海を漂う流木の如く鄙びて枯れた味わいが暑苦しい日常を蒙昧に沈静化させるようだ。もともとすっぽりと影に嵌まって動かないような暗い安定感があるのですが、嵌まり込むと抜け出せない癖になる吸引力が如何なく発揮されておりんす。

643 jyake03 1973

Tabernakel/Jan Akkerman

レンブラントの肖像画かと思いきやアカーマンご本人のようです。いきなりリュートの小曲で始まって、およよ、中世ものかと思わせますが、全体としてはそうでもないか。フォーカスのギタリストとしてがあまりにも有名ですが、結構地道にソロも出しているようです。バロックに対する傾倒も顕著ですが電気を使わない古典楽器の扱いとアレンジも見事です。ほとんどが中世の古典をアレンジしたものですが、「王の館」とかフォーカスの曲のバロック・アレンジ等もあってそれなりに変化に富んでおりまする。しかし電気を使わないと恐ろしく理知的な演奏をする人なのだなぁ。

644 jyake04 1983

Sweet dreams/Eurythmics

二作目だと思いましたが、まだポップな華やかさには程遠い重くて暗めのリズムが支配的。あるいはアンビエントですらもあったりもする。音響的には明らかにカン(Can)を思わせるというか、その影響下にあることは自明だ。生音はおそらくほとんど無いような気がしますが、ループする浮遊感が独特。レノックスのボーカルも前に出て来て歌い上げちゃうというよりは背景にぴったり嵌まった陰画のような味わいでバランスが良いと思う。もっとも、もともと中音域の豊かな熟した感じの声質だからこの方向性が合っていたとは思えない。全体としてはピコピコなエレポップというよりも、とろんとした地味で仄暗いアンビエント・テクノとしての一枚。

645 jyake05 1973

Still/Pete Sinfield

実はクリムゾン以後、関係者でその後最も(名実共に)成功したのはシンフィールドであったのだそうだ。誰だか疎くて知らないのだが、彼が提供した歌詞が連続してヒットして最早作詞家として押しも押されぬ存在に昇りつめたとか。勿論内容的には昔の衒学趣味というか、聴いたことも見たこともない単語を紡ぎ出す前衛は姿、形もないそうですが、それはそれで仕方がないことか。良きにつけ悪しきにつけ最初で最後の唯一のソロアルバム。絶対的な弱さが遺漏無く発揮された稀に見るプライベイトな音のつづら織り。ここまで繊細で感受性が豊かな人は同性としては信じられない気もする。音楽的にはちっとも上手くはないけれど、独特の世界観を見事に表現しているという意味では良いのだろう。イグアナらしき牙の生えた怪獣の口にぽっかりと嵌まり込んだ光輝く少女というコンセプトは『毒蛇に飲みこまれんとする雲雀の舌』に少し似ている気がするのだが、どうなのだろう。

しかし、まぁ、今見るとHMVとかの予約オーダで初CD化される『Earthbound』と『USA』が2位と3位なのだ。びっくりだわい。30年も経ってCD化されてそんなに売れそうというのも話題にならないところで凄いことなのかもしれない。しかし、何を期待してるのだろう?

646 jyake06 1993

Taxi/Bryan Ferry

ほとんど原曲がわからないまでに弄って凝りまくったカバー集。若い頃の豚骨らーめんのスープに浮いている脂のようなぎらぎらしたこってり系の野心は枯れてきたけれど、はぐれ雲のような浮遊感と少し一般常識とはずれた、うっかりすると滑稽なダンディさは健在だ。この人が歌うとみんな蕩けるような夜の歌になってしまうところが、独特の才能というか特質です。内スリーブにはフランス風のファッション雑誌から抜け出してきたようなモノクロ写真がてんこ盛り。どこだか知らないけど良さげなところじゃないか。こういうわけのわからなさが自意識過剰なのかキッチュなのかは知らんけど、実際受けているのだろうか。個人的に思うには見映えも音楽も一般的な女性受けするものとは違うような気がする。奇声をあげてクネっているのをみても、おじさんである私は面白いと思うし、もっとやれやれって煽りたくなるけど、女の人がどう見ているかはかなり違う気がするの。それでもこの路線を踏襲し続ける頑固一徹は計算済みなんだろうが素晴らしいぞ。

647 jyake07 1974

The prince of heaven's eyes/Fruupp

一応ファンタジー風のトータル・アルバムという構成だけど、ほのぼのと牧歌的ながらも流れるように自然な展開が気持ち良い3作目。途中、もうジェネシスそのものみたいな展開があって笑えます。LPのA面ラストからB面頭にかけての口笛が好きで昔よく聴いたわ。4作目の洗練とどちらをとるか甲乙つけ難いけれど、まったりとしたフループらしさはこっちだねぇ。

見えなくて申し訳ないけど見開き内ジャケ全面の「何も無い風景写真」がすべてを表しているのだろう。曇り空となだらかな石の山、こびりついた緑と鈍く光る水面、見渡す限りそれだけ。人為の欠けらも気配すらもない光景。こういう光景を見ていると、昔、ヨーロッパ人の自然観は箱庭的で支配欲に満ちていると思ったのだが、最近はむしろ逆なのではないかと思えてしまう。自然に同化して生きてきたはずの私達の祖先から、今の私達は何を受け継いだ(あるいは受け継がなかった)のだろう。様々な局面における無為の有意化というか、人跡を付けなきゃ気が済まないという行為は無為に対する本質的な恐怖の裏返しなのだろうか。無為と人為の境界が無いのか、認識したくないのかは不明だが、それがどんな自然にも徹底的に日常を持ち込まずにはおれないということなら、どうにも勘弁してほしいものだねぇ。夏場に出歩くことはもう久しくありませんが、何も無い場所に出会えることもすっかり無くなってしまった。

648 jyake08 1985

Melanchólia/Matia Bazar

少し有名に成りかけていた、いきなり「Ti sento」で始まる中期の作。ダンサブルでアントネッラ・ルジェーロのボーカルも絶対絶叫しないハイトーンで伸びまくりです。しかしこのサビのセンスは恐ろしいまでに研ぎ澄まされているよなぁ。もともと曲作りは恐ろしく有能というか達者な方達ですがここに来て一気に花開いた感がありまする。質を上げるためには自分を殺せるみたいなプロっぽ過ぎるところが強いて言えば面白みに欠けるところ。もっと奔放なアレンジで聴いてみたかった気がする。超絶エレポップ色は薄まって一般的には聴き易い歌ものの印象が強くなって来て、もったいないと思うのはわたしだけか。

649 jyake09 1973

Fall of Hyperion/Robert John Godfrey

イーニドを遡ること数年、『アエリ・ファエリ』の頃を更にアヴァン・ガルドにしたような緻密さと、ポップとは完璧に無縁な表現主義現代音楽の逸品。クリストファー・ルイスなる人のボーカルがほぼ全曲に入ってますが、これがまた尋常ではないの。一応カリスマ・レーベルだし、プロデュースはエッグ(Egg)のプロデュースもしてたニール・スレイブン(Neil Slaven)だったりするのだがジャンルは著しく超越しています、彼岸まで。生ピアノとメロトロンをバックにちょっと他に例を知らない歌唱法で爛熟した頽廃を演ずる。パーカッションはティンパニだったり、曲構成がマーラーかヴァグナーか、ってなものでもう想像をすっかり越えたところで完熟してしまっています。まだ若いのに。後にイーニドでやっていることはこの概念の楽団風の展開であり、ポップ風解釈なのかもしれない。

650 jyake10 1986

The first chapter/The Mission

1st以前のインディーズ時代のシングル音源をまとめたコンピ盤。曲が足らない分はニール・ヤングとパティ・スミスのカバーで穴埋めされていたりする。典型的なゴシックですが若々しさがなんか雰囲気を邪魔しているような気がするのぅ。呪術風のボーカルとキラキラと煌めいてしまう曲調のアンバランスが最大の魅力ですが、ウェイン・ハッセイ(の曲)って押さえても押さえても華やかさみたいなものが出てきてしまうように思える。エルドリッチの影響もあるのだろうが、変にためないで普通に歌うときっととっても綺麗に歌える人なんだろう。そういうのも聴いてみたいぞ。90年代はぱっとしないまま崩壊したそうで、お決まりのように最近また復活したようですが、まだ聴いていないので良いのか否か不詳だ。

651 jyake11 1970

On the shore/Trees

あまりにも有名なヒプノシスのデザインによる「水撒き少女」ジャケットはかなり鮮明に記憶に残っていた。当時は何故だか日本盤のLPが出ていた。もちろんまったく情報の無かった当時はジャケだけでは子供の買えるものではなかったです、はい。聴いたのはかなり後になってからですが、まぁ、当時聴いていたとしてもまったく味がわからなかっただろうから良しとしよう。前作よりも少しポップで凝った味わいですが、トラッドと自作曲が半々というのは変わらず。どちらも類い稀な瑞々しい暗鬱さとセンスの良いアレンジを基盤とした電化民謡です。どうにも記憶が混濁しているせいか具体的になんだと聞かれても困るのだが、大正から昭和にかけての歌謡に感ずる郷愁みたいなものと同じ感慨を抱くのだ。

652 jyake12 1990

A different kind of weather/The Dream Aacademy

プロデュースがデビッド・ギルモアにアントニィ・ムーア? アコースティックな爽やかさが売りのわりには妙な選択だわい。レアード・クロウズ(Nick Laird-Clowes)なる人物の野心が強すぎてワンマン(そう)だから、他の人は嫌気さしちゃったんでしょうか。元々アンバランスな構成自体が(人目を惹くためという)意図したものに見えてしまうのは私だけか(そうそう)。結果的には1stの「Life in the northen town」一曲で終わってしまったユニットでしたが、中身はこの3作目にしてラストが一番良い。ダイナミックな音響的な素性の良さみたいなものがとても素直に、かつきちんと整理されて的確な容で呈示されていると思う。

653 jyake13 1978

National health/National health

「揺りかごから墓場まで」国民保険の第一作はその名の通り病院のお見舞いシーンでスタートだ。もちろん、誰もが思った通りまったくと言って良いほど話題にすらならず、当然の如く売れなかった。ぐちゃぐちゃで把握するのが大変なほど紆余曲折があった後に、ハットフィールズ組にギルガメッシュのニール・マレイを加え、ゲストだけどアラン・ゴウエンがエレピを弾いて、ノーセッツのアマンダ・パーソンズが歌うという形で落ちついたようです。緻密で精密で、メランコリックな上にシニカルだけどテクニックを感じさせないレベルにまで昇華された正に型にはまらない音そのもの。当時バージンレコードに「オールド・ファッションド」で「オリジナリティに欠ける」と言われてレコードを出すことを拒否されたとデイブ・スチュワートが語っていますが、そう言い切った方もなんか凄いなぁ。まぁ、他との比較はできないし意味が無いでしょう。個人的にはゴウエンの耽美的なまでに突き詰めた音がとりわけ心に迫ると思う。

654 jyake14 1995

The battle of Hastings/Caravan

『Back to front』以降転業してたキャラヴァンの13年振りの復活作。仕切っているのはパイ・ヘイスティングス。タイトルとの関連はなんだろう。リチャード・シンクレアと本家争いをしている頃だったのだろうか。中身は時代にふさわしいのか否かよくわからないが、非常にポップです。メロディラインなんぞ歌謡曲としても十分通用する出来映え。曲も短いし展開もシンプルだし、「パイ(市場のね)が小さいことは十分わかっている」と自ら語るほど置かれている立場の認識は鋭い。でも13年分の怨念を晴らすかのように、伸び伸びと気持ち良さそうに歌っています。中高年楽団にありがちな妙に構えたところのない自然体も個人的にとても心地良い。末永く新作を作って欲しいものです。

655 jyake15 1980

Orchestral Manoeuvres in the Dark/Orchestral Manoeuvres in the Dark

妙に安っぽくてペラペラののりが素気無い1stアルバム。ユーリズミックス(Eurythmics)のコニー・プランク直系風に対してOMDはクラフトヴェルク・オマージュなのかなぁ。元を辿れば同じだけれど。始めはとろんとしておりますが、年を重ねるにつれだんだんダンサブルに、華麗になるのはこの年代に非常に特徴的なものだろう。1stだから他聞に漏れずしっかりアナーキーに黄昏ています。音の使い方がクラウトよりもストイックじゃないから、エレポップとはいえかなり質感は異なる。1950年代のポップ・ミュージックの興隆期のような未分類な無分別さというか、安酒場(通じないか)のジューク・ボクスのような紛い物臭さが横溢しているのですが、懐かしいような悲しいようなかったるいような気配がもぞもぞと心をくすぐるのだ。

656 jyake16 1971

Relics/Pink Floyd

「プログ」の語源になったという意味で中身よりも有名か。それまではサイケだのアート(何じゃ? そりゃ)とか称されておりましたが、ここで「プログレッシブ(progressive)」なる呼称が登場してこれ以降「プログ(レ)」という表現が定着しました。勿論、日本盤のたすきに書かれていたコピーが語源だそう(現存してないんで確認できませんが)だから考えたのはおそらく東芝の日本人でしょう。それが今では世界的にも通用したりして、実に的を得ていて面白い。これこそ本当の和製英語じゃないか。コンピ盤ですが、初期のシングル曲に「ユージン」のスタジオテイク、青臭い「ジュリア」、「絵の具箱」に加え、珍しくのたうつように頽廃してる「Binding my time」等、未発表の楽曲が聞けるという意味で貴重なアルバムです。最近のCDは知りませんが、「アーノルド・レーン」や「エミリィ」はモノラルです、なんと。

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最終更新日 2002/08/13