懐古趣味音源ガイド    其参拾九

top > index > (0-9,a-g : h-o : p-z,あ-ん

609 jyake01 1972

Malesch/Agitation Free

おぉ、埋もれておったぞ。タンジェリン・ドリーム、アシュ・ラ・テンペルと共にほぼ同時期60年代末にベルリンで産声を上げた御三家といって良いと思う。短命過ぎて三者のうちでは最も無名ですが、質的には最先端であっただろう。90年代後半に再編されて新盤が出ています。70年代前半、当時ですらまったく見かけず入手困難を極めていた上に中身に関する情報がまったく無いという完璧にお手上げ状態だった。今はだいぶましになったようだ。当時手に入っていたならいろんなことが変っていただろうと思わせる。今でもかなり悔しかったりするのだなぁ。ほとんど即興と思われる砂の迷宮。重くタイトに響くベースと乾いたドラム、鈴の音にコーランが響く。全編歌無しで、ドラマチックとは縁遠いのだが、まったく飽きのこない緊張感と音響センス、変幻自在なリズムとどれをとっても超一級品じゃないか。この明るく乾いた明晰なまでの寂漠感は誰にも真似ができない。円環の如く終りは始りに繋がり、やはり目眩く迷宮に囚われたまま出口のない堂々巡り。

ちなみにタイトルはアラビア語で“マレーシュ”。「許せ、気にするな、悪い、わざとじゃないよ」「神の思し召し」といった意味らしい。

610 jyake02 1987

Private parts & pieces part VII "Slow waves,soft stars"/Anthony Phillips

まだ少し早い夏の宵にふさわしい冷涼と静謐。気持良いくらい透明な氷。半分程がアナログ・シンセによる即興ものという構成。ARP2600による独特な冷たくて柔らかい音色にほんのり包まれる。けっこうボリューム上げていてもするっといつの間にか後ろに回られているような主張の無さ(いや、まぁ、無いってのとは違うんだが)が見事です。「Ice flight」なるウミツバメやアホウドリになって氷の上を滑空する組曲の冷やっこい切れそうなまでの美しさ。検索かければ公式Webもあるし、日本語じゃないけど今年のインスト曲ではベストアルバムだ等とけっこう評価が高くて面白い。私も思うにはそんなにBGMという気はしないのだが。他に、ガルシアとの共作共演ものに加え、ドラムマシンも導入した(らしい)音作りでほんの少しだけ派手に聴こえないこともない。

611 jyake03 1985

Ignite the seven cannons/Felt

キーボードが加わってギター楽団風の色合が薄れた。クールでシャープな現代性とメランコリックでふわっと浮くような耽美性がエロティックに美しく絡み合う。Feltはフェルトでそのまま私達が普通に言うところのフエルトなわけだが、肌理の細かいあの微妙な肌触りそのままを髣髴とさせる触覚性の音です。インスト曲もいくつか入っていて、演奏も随分こなれてきたというか、素人臭さがなくなって流れるような華麗さまで出てきた。敢えて古臭い(オルガンみたいな)雰囲気を出しているようなキーボードと相まって、この妙な懐かしさはなんだ? 縁側で爺さんの昔話を聞いているようだ。プロデュースはコクトー・ツインズのガスリー。

612 jyake04 1976

Letzte Tage-Letzte Nächte/Popol Vuh

少し前に顔役でもあったフロリアン・フリッケさんも死んでしまったそうです。ユニット名はそのまま古代マヤの宇宙観と人間観を書いた神話を16世紀頃に文字にした文献の名称ですが、日本語訳本では「ポポル・ブフ」と表記されています。高校生の頃学校のペントハウスの上でひなたぼっこしながら読んだ記憶がありますが、もうほとんど憶えていない。別に愛読していたわけではありません。比較的メロディもリズムもはっきりしたエスニック風民族音楽という趣ですか。短い曲が多い。微妙な単調さと短調さがアコースティックな奥行きと相まって絶妙でしょう。電気も使っているし、久々にドラム入りだし朝鮮人女性ボーカルもいい味だしてます。複数のギターの捩じれたようで清々しい絡み合いが如何にもポップとは程遠くて美しい。

613 jyake05 1999

Surrender/Chemical Brothers

う~む、端正でクール、恰好良い。音を加えていくタイプでここまで端正に聞かせるのは珍しい。サービスし過ぎの感もあるけれど、コンパクトで、変化に富んで、きらびやかで、かわいくて、やわらかくて、くすんでいる。ゲストも含めてけっこうボーカル曲が多いのが印象的です。ブレイクビーツ・テクノ(意味も意義もない分類だな)を代表するユニットですが、スローな耽美系というかビート感のないとろ~んとしたフォーク調の曲も気怠くてとても美しい。音に対するこだわりとか組合わせのセンスには定評があるのだろうが、非常に緻密でディテールのある音になっている。感心ゝ。アヴァン・ガルドな斬新さという部分はそれ程感じないが、突っ込んでいく方向性みたいなものは的確だし冴え渡っていると思う。

614 jyake06 1994

Give out but don't give up/Primal Scream

メンフィス(どこだそりゃ?)かぶれのスクリーム。若気の至りっていうのは世界共通なんでしょうか。U2から古くはボウイまで(もっと古いのは知らない)、かつて辿った道かという感もありますが、必ずといっていいほどかぶれるものが続きます。そのままかぶれつづけてしまう唯のお馬鹿も多いですが、そんなわけで明るく楽しくソウルフルで、あるいはヘタァっとかクタッ~とかかったるそうです。本質的にこの手のレイドバックものは踊れてお気楽で気持イ~のかもしれないが、ショウ・ビジネスしてるロック楽団みたいな感じがしてリズムは単調だしツマンナイ。曲によって出来の善し悪しが激しくて、お猿でも踊らせるようなフヌケたノリのものはいただけないのぅ。かったるそうに歌ってるのなんかとても良いのだけど、間抜けなラッパと如何にもって感じの黒人バッキング・ボーカル入ると興醒めだ。あぁぁあ~。まぁ、これ1枚だけだから、一時の気の迷いで本当良かった。

615 jyake07 1974

Mirage/Camel

2作目くらいでしたか、結構ヒットしていました。この頃はちょっと長めの曲をやる(ちょっと語弊はあるが)ギター楽団っていう趣でした。キーボードがどうにも地味で目立たなかった。でも、アンディ・ワードだっけ? ドラムがこれまた地味なんだが上品で気に入っていた記憶がある。この後、段々とアレンジ中心になる気がするのだけれど、この頃はインプロも結構入っていて伸び伸びしてると思う。「Lady fantasy」か? 少年達が必ず弾きたがるフレーズが満載でした。当時キャメルは銀座まで行かなきゃ手に入らない……っていうのは煙草の話。キャメルは渋くて好みじゃなかったけど、ゴールドやパステル色のソブラニを買いに行ったものだ。何年か前にすっぱり止めてしまったので、すっかり縁は切れましたが当時のLPを引っ張り出すと煙草臭い。ヤニで茶色く変色してるのは今見ると嫌だなぁ。

616 jyake08 1970

Moving waves/Focus

オランダ国外では72年のリリースだそうです。初めて聴いたのは74年かな、日本で出たのは3rdよりも後かほぼ同じ頃だった気がする。同じギター楽団(本当は全然違うけれど)でもヤン・アッカーマン(Jan Akkerman)は恐ろしくダイナミックでナチュラルな弾き方をする。音楽的素養も歴史的背景も違うのだろうが、キャメルとは本質的な部分が随分違うと思う。アッカーマンはおそらくリュートでも弾いている方が楽しいのかもしれないなぁ。内容的にもR&Bとは程遠いし、ジャズよりもバロック寄りではあるけれど特に難解とも感じずポップです。有名なのは「Hocus Pocus」だけど、それはこのアルバムの中でも(というかFocusとしても)かなり異質な部類だ。ティイス・ファン・レール(Thijis van Leer)のヨーデルや声楽曲みたいな歌い方の取込み方も面白いが、非常に浪漫主義的でかつ構築主義的な楽曲の美しさと構成、円熟したテクニックは見事としか言いようがない。

617 jyake09 1973

Hergestridge/Mike Oldfield

評価の高い2作に挟まれて、随分と地味な扱いをされることが多いソロ2作目。質的には前作よりも圧倒的にこなれてます。というか格段の進歩を遂げています。不自然な展開がなくて、アレンジもゆったりとした余裕と落ち着きに満ちていて、ベッドフォード(David Bedford)の名前がクレジットされていることとも大きく関りがあるのでしょう。少なくとも初期のオールドフィールドはホールワールド(Wholeworld)人脈の影響を抜きに語ることはできない。全編を通したアイリッシュで牧歌的味わいと現代音楽的な先進性がうまく溶け合った非都会的な叙景描写が素晴らしい。“Hergest Ridge”はウェールズに近い丘陵地帯を指す実在の地名だそうです。

オリジナルのマスターが無いとかで、CDは異なるアレンジでリミックスされているらしく、かなり違って聞こえるそうだ。敢えて良くない(らしい)ものを買う趣味もないんで聴いたわけではないのですが。

618 jyake10 1969

In the court of the Crimson King/King Crimson

さてと、メロトロンものを四発ほど。ま、単なるくくりなんですが。タイトルで検索すると日本語Webだけで1370件も(しか、か)ヒットするわい。その道の好事家や信者には絶大な評価を与えられています。まぁ、聴く人が増えるというのはいろんな意味で喜ばしいことかもしれない。どうでもいいけど。そんな私も遥かな大昔にLPを買った記憶がありますが、売っ払っていないところをみるとそれなりの敬意は表しているみたい。でも敢えてCDの類(フリップが後から弄り廻した音源やコンピだのブートは勿論買わない)は買ってはいない。他に欲しいのたくさんあるし、やっぱり今更なぁという感が否めないから。本当は面倒だからさっさと書いておけば良かったんだろうが、何故かこういう順番になってしまった。

前身であるGiles,Giles & Frippをモチーフにピーター・シンフィールドが書いたレシピを下にイアン・マクドナルドが仕上げたものって感じでしょうか。グレッグ・レイクは最初から外様のようにしか思えませんでした。LP A面の硬直的な完璧さに比べB面はMaCdonald & Gilesの1stアルバムって雰囲気で柔らかい。マクドナルド? のメロトロンは非情(出血しそうなくらい)に硬質で、この時点ですら、もはやストリングズを模したものではないでしょう。そこが他の凡百との差であることも確かでしょう。シンフィールドの恐ろしくペダンティックな歌詞も当時の(今もか)音楽というか歌にまつわる環境の常識を完全に逸脱しているでしょう。そんな中で個人的に一番感銘を受けたのはマイケル・ジャイルズのパーカッションでした。歴史の狭間にひっそりと咲いた徒花というか、一瞬垣間見た光明ですか、といって切り上げよう。

619 jyake11 1975

Hoelderlin/Hoelderlin

ウムラウトも止めて、Traumも取って、歌詞も英語になって新生ヘルダーリンは復活した。ジャケ絵の水彩がちょっとクレモニーニみたいで好きだ。これは75年にコニー・プランクのスタジオで録音されたもの。プランクは既に故人ですが本当に歴史の立役者といってもおかしくない黒子です。オランダ人の女性ボーカルもいなくなってアコースティックな透明感は無くなりました。代りに程よくアレンジされたダイナミックなスピード感が充実してきました。ビオラとメロトロンの絡みはもとより、今一緊張感には欠けるけれどクリムゾンばりの変拍子まであって笑えます。ヨーロッパの片田舎に人知れず咲いた隠花植物という意味ではオザンナの『パレポリ』あたりと似た位置付けかもしれない。根底に覗くロマンテックな歌物トラッドとメランコリックで仄暗いアンサンブルのバランスが美しい。

620 jyake12 1972

Morning/Wind

70代フォーク風のアコースティック・ギターにかぶさる甲高く歌い上げちゃうボーカルと冷やっこいメロトロンのアンバランスが不思議な肌触り。イタリアものみたいな雰囲気があるのだが、5人全員ドイツ人のようだし、英詩だしノートも全部英語なのが凄い違和感。いや、面白いという意味ですが。一応2ndアルバムみたいですが1stは見た事もないです。非常にツボにはまったメロトロンの使い方なので、私もそうですが、フリークな人にも外せないでしょう。どこまで意図してやったことなのかは知らないですが、妙にキャッチーでポップな明るさと冷やっこさのアンバランスが面白い。CDはボーナス・トラックが付いてますが、かなり古そうな曲でありがちなビート楽団しています。

621 jyake13 1971

Spring/Spring

小さくてわからないだろうけれど、スリーブの写真は滔々と流れる春の小川。堰を作る樹の根にゴミと一緒にひっかかったのはバッキンガム宮殿の衛兵の死体です。折返しになっているんで見えないけれど下流側は鮮血に染まっています。凄いセンスだな、と思ったらキーフでした。粗削りながらもアンサンブルは質密だし、リズムも斬新というか工夫があって良いかも。60年代ビート・ポップの残り香もほのかに漂うが、複数? のメロトロンの圧倒的な音圧に平伏しませう。普通の楽器よりも、ちょっと遅れて立ち上がるメロトロンの特性を実に上手く使った良い例です。メロトロンの音色はとても柔らかめで淡い感触でピッチも安定しています。音質も湿気が多い感じで硬質ではない。同時期のVertigo系に通ずるフォークっぽい歌物の部分がけっこうあるのだが、そのあたりは如何にも純英国風の田舎風でのどかで上品な感じ。

622 jyake14 1985

Brothers in arms/Dire Straits

毛色が違い過ぎて自分でも面喰ってしまうぞ。言われる前に言っておこう。85年頃はCDはまだクラシックが中心でポップ系は数えるほどしか出ていなかった。CD化自体が日本先行だったもので輸入CDは尚更少なかったのだ。そんな頃にポツリポツリと発売され始めたものの1枚だった気がする。で、CDで発売されるのはこの手の売れ線筋(海外で売れたもの)のものが多かったわけ。後にも先にもこれ1枚しかないもの(1stは持ってた気がすんだがなぁ。後注:今は殆どある)で、記憶の彼方を掘起こすようでどうこう言うのはおこがましい気もするが、妙にけだるくて大人っぽくなってしまった後期のアルバムです。アメリカ受けを狙ったところがミエミエで軽くてスカスカしてるわい。特におめでたさは感じない程度にふやけているし、重くてデロデロしてるのは季節柄暑苦しいので、浪曲みたいな軽妙さはお茶の友ってとこですかい。マーク・ノップラ(Marc Knopfler)の典型的なワンマン・ギター楽団だけど「おれがおれが」的な押付がましさはまったく無いので、暑苦しい感じはしない。

623 jyake15 1986

Skin/Peter Hammill

発売時期や生産国によって収録曲が違うようだ。うちのは86年製DATEのドイツ盤で「Painting by numbers」のextended versionが入っておりんす。少し元気なのもあったりしますが総じて相変らず暗め。ゴシック・パンク張りの鋭い切れ味と絶妙でダークなもやもや感が同居してます。なんか復活VDGGって感じのノリで(ニック・ポター以外だけど)元メンバーが勢揃い。歌物が中心だし、比較的生音を使っているようですが、かなり加工された人工的な音に仕上っています。前に出てくるポスト・パンクでアグレッシブなリズムが力強くシャープだ。この後は確か90年位までMIDIで弾き語りに突入する。

624 jyake16 1971

H to He who am the only one/Van der Graaf Generator

「水素がヘリウムになる」ことが唯一であるということは、恒星における初期段階の核融合が根源であって、それがそのまま彼等の「神」とやらの否定に繋がってるのかどうかまでは勿論知らない。あの「Killer」が入っている三作目ですが、スピード感溢れるアンサンブルに完成度の高い展開と構成、ハミルの歌も力強さを増した。ほの暗い重量感に富んだどうしようもなく異形な路線はこのあたりで固まったような気がする。厳かというか祟高なまでのパワーという意味では隔絶された存在だ。VDGGはそのマイナーさ加減も含めて、剥き出しの暗部をストレートに晒されているような、見たくないけど目が逸らせないみたいな、病み付きになる魅力を放っている。

index
最終更新日 2006/08/01