懐古趣味音源ガイド    其参拾六

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561 jyake01 1970

Egg/Egg

初期カンタベリィのトリオ、エッグの1stアルバム。類い稀なけったいさは置いておいて、ほんの1分30秒の小品「僕がピアノを弾こうとしたら、みんなが笑った……」に惚れ込みました。ピアノの和音とトーンジェネレイタの織り成す一瞬の美学。バッハも良いし他の変拍子ごりごりの曲も凄いのだがこれには負けたわ。キーボード・トリオというよりもオルガン・トリオってところですが、適当にクラシックからパクリながらも完璧に消化しきった音です。完成度は2作目に譲るけど面白みには溢れている。一般的にはデイブ・スチュワートの評価が高いですが、個人的にはモント・キャンベルとクライブ・ブルックスのリズム隊も素晴らしいと思う。この時期にここまでやった精神的な貪欲さを絶賛しておこう。エッグ以外で歌ってるのを聴いた記憶がないのだがキャンベルのボーカルも結構良いと思う。ナイス(Nice)やELPとの比較で語られることも多いみたいだが、その手の頭悪そうな体育会系強腕肉体派と一緒にしてはいけんね。

562 jyake02 1983

Sunburst and snowblind,Head over heels/Cocteau Twins

2ndアルバム『Head over heels』とシングル『Sunburst and snowblind』のカップリングCDということです。ボーカル・パートの重ね録りはあるけれど、まだ裏声全開には至らない過渡期の一枚+α。エコーのかかったギターが遠くの方でキラキラ鳴っていたり、後の「らしさ」はここで確立されたと言ってもいいでしょう。基本はダークで不定な感触ですが、微かな光明と華やかさが、やっぱり華やかさを加えたアレンジと一体になって耽美な空気感をかたちづくる。独特のメロディの美しさが前面に打ち出されたのもこのあたりからか、後に名前を残す曲も多かったりする。

563 jyake03 1976

801 live/801

ロクシィ・ミュージックの中断期にフィル・マンザネラが組織したライブ・プロジェクト。マッチング・モールのビル・マコーミック(Bill MacCormick)、フランシス・モンクマンにサイモン・フィリップスとお馴染みの職人連合に、紅一点というか、え? マンザネラはどこよ? とばかりに全面的に前面に立ちはだかるイーノ(Eno)という組み合わせはいつものパターン。曲はマンザネラとイーノの曲を演じていますが、やっぱりイーノの方が目立つわ。おそらくブライアン・フェリィがいないロクシィって言っておけば的を得て妙ってところですか。けっこう熱くなってる部分もあるのだけど、自分を見失わないクールな冷徹さみたいなものが青光りしていて気持ち良い。

564 jyake04 1997

Shleep/Robert Wyatt

90年代の締め括りは少し元気のよい曲で始まる。前回のSoft Machine 4のジャケ(左側の小さい人だけど)にも写っていたワイアットですが、もうすっかり髭のお爺さんだ。いきなりというか、やっぱり前述のイーノとの共作で始まる(すぐわかる、イーノが絡むと)奇妙に明るくて少し悲しい音。マンザネラのスタジオで録音されたみたいですが、ほっとするような手作り感が見事です。決して技術的に素朴というわけではないけれど、さりげなく余裕のある感触。中身(あるいは言葉は)はかなり反語的で辛辣だったりもするのですが。今となってはこの手のものはすっかり希少価値になってしまって、捜し出すのもなかなか難しい。変な世の中になったものだ。Chikako Satoのバイオリンをフィーチャした「Maryan」とか、ツバメの巣立ちとか既に失って久しい季節感をくすぐる世界が繰り広げられている。

565 jyake05
Elkar KD-4011
1980

Ezekiel/Itoiz

バスク・ローカルな味わいが絶妙な湿り気をもたらすセカンド・アルバム。ブラスとフルート、バイオリンの醸し出す民族風で土臭い味わいとタイトなリズムとギターによるロックっぽいアレンジが溶け合って、素朴で柔らかくて甘い感触が素晴らしい。フアン・カルロス・ペレス? の中音域が豊かな暖かめのボーカルも良い。もっともゲストのイツィアール(Itziar(女))のボーカルも何とも言えない気品と柔らかさで至高の一品です。何でまたこんなヨーロッパのド辺境に関心を持つのか不思議なのだが、位置付け的にはアイヌや沖縄の民謡と似たようなもの。臭いものと矛盾を押しつけるには恰好の異民族なわけだ。どっちもまったく言葉がわからないけれど遺伝子の塩基配列を揺さぶるような音じゃないか。

566 jyake06 1982

The anvil/Visage

勢いが翳り始めた2作目。事実この後すぐにウルトラヴォクス組が離脱して風前の灯状態に陥ったような気がした。一世を風靡したニュー・ロマンティックの仕掛人だの夜の帝王云々に関しては特に興味はない(というか知らない)のだが、消費のために造られたムーブメントは廃れるのも早いということだ。ビジュアル系の名に違わず音の方も視覚的ですが、ジャケの雰囲気とは反対に前作の少しダークでリリカルな雰囲気は明るく力強いノリに置き換えられたかもしれない。リズムが際だって、よりダンサブルに、霧の中で逢ってはならぬ人に鉢合わせするようなミステリアスな感触が漂う。個人的にはファンクっぽい女性コーラスが入ったエレポップ風味の強いダンスナンバーよりも、「Horseman」みたいな優美でメランコリックな感覚が好みなんです。プロモビデオじゃクフ王のピラミッドの前で踊ってたなぁ。

567 jyake07 1978

Mauro Pagani/Mauro Pagani

ライブで「Celebration」ばかり要求されることに疲れたパガーニ先生の1stソロ。アレアの全面的なバックアップの下に展開される東地中海系サラセン民族音楽です。虚飾の欠けらも無い恐ろしく正直で素直な音である、と同時に研ぎ澄まされたセンスの切れ味は鋭い。おそらく「フツーですが、何か?」と言わんばかりのアレア・リズム隊による超絶変拍子の上を駆け巡るバイオリンの音色は、アングロサクソンものとは明らかに違う匂いがする。テレーザ・デ・シオの歌とブズーキの響き、篠笛、手拍子、そんなものが混然として幽かな土臭い匂いを放っている。世評もものすごく高いですが、これに関しては確かに私自身も言葉が無い。最近はほとんど忘れかけた頃に、ぽつんぽつんと映画のサントラか何かのCDが出ているようですが、もう足を洗ってしまったのだろうか。寂しいかぎりです。

568 jyake08 1992

Blind/The Sundays

いきなりキューピーちゃんが怖いおそらく2作目。何故か人気が無いのはどうしてかいな。ハリエット・ウィラー(Hariettt Weeler)もとっても可愛いのになぁ。スリーブに写真が全く無いとこにも問題があるのだろうが、敢えて避けてるようなところはあるようだ。Webでもかなり探さないとまともな写真はありません。顔でやってるわけじゃないからその姿勢はとても高く評価するのだが、そういうもんかの。むしろ寡作過ぎる方が問題か。これは楽団編成になってアレンジが少しロックっぽくなった気がする。音響的にも処理に手が込んできたし、ギターもコクトー・ツインズみたいなとこがあったりして全体のスケール感が一回り大きくなった。地声自体がとても綺麗だから、ボーカルはあんまり重ねたりエコーを掛けたりしてない自然な響きがとても気持ち良い。

569 jyake09 1975

Heaven and hell/Vangelis

アフロディーテズ・チャイルドのキーボード弾き、バンゲリス・パパタナシュゥによるユニット。イエスに入るとか入らないとか話題になってましたが、出張ボーカルはイエスのジョン・アンダースン。コンポーザとしての才能と、ありとあらゆる楽器を演奏できるプレイヤとしてのスキルが堪能できます。シンセサイザを大々的にフィーチャしたという意味でも有名なのかもしれない。一般的には映画「ブレードランナー」のサントラあたりで不動の地位を築いたようですが、その辺りというか80年代以降は逆にまったく知らんわ。非常にスリリングでリズミカルな密度の高い構成でトータル43分全一曲といっても良いのだけど、ダレずに聴かせるところは凄い。当時としてはある意味非常に珍しい音使いだったということか。地獄の章のわらわらと湧き出るような音のおぞましさが良いよなぁ。

570 jyake10 1991

Cutting both ways/Phil Miller

渋い。85、6年頃に録り貯めたものをまとめたもののようで、ミラーのユニットであるイン・カフーツものとスチュワート・ガスキンとのコラボレイションで構成されてます。ミラー自身、マッチング・モール、ハットフィールズ、ヘルスとカンタベリの裏の王道を歩んできたような人だし、廻りを固めるのはすっかり無毛なソフト・マシンOBのヒュー・ホパー、エルトン・ディーン、ギルガメッシュのピート・レマーに元同僚のピップ・パイルと相変わらずの身内ばかり。リードをとるのはレマーのシンセかディーンの管楽器が主体で、あんまり目立たないのが相変わらずのミラーのギターだ。長くて複雑で緻密で難しい曲を淡々とこなしていく比較的クリアなジャズ寄りの音ですが、演ずることが楽しくて仕方がないという雰囲気がありありと伝わります。内スリーブのライブの写真を見ると、皆さん楽譜見ながら吹いたり弾いたりしていてちょっと異質です。このあたりもカンタベリィ系の独特の位置付けを表していると云えるでしょう。ガスキンの声が一曲だけちょこっと入ってるみたいですが、全曲歌無しのおそろしく一般性には欠ける内容なんでしょうが、おそろしく良質な音源です。いやぁ、こういうのを知っていて本当に良かったわ。

571 jyake11 1972

Blue oyster cult/Blue Oyster Cult

元祖ヘビメタだそうなBOCの1st。3作目の『Secret Treaties』が発売された頃、周囲で静かな話題を呼んでいたが、1st、2ndは確か後追いで発売された記憶がある。勿論当時はヘビメタという言葉すら無い時代だし、今聴くとどこがヘビメタよっ? って感覚ですが、言葉の意味はコロコロ変わるものだ。タイトでクールでコンパクトなリズムとメロディアスでやたら文学的な曲調が特徴です。特に「5月の最後の日」の残酷な結末にはメロメロです。密教的な暗黒オカルト趣味のオブラートに包まれてますが、根はひどく真面目そう。5作目くらいの『タロットがどうたら~』でメジャーに成ってた記憶があるが、不幸にして丁度! そこから先は全く聴いていない。ある時点でまったく興味を失うというのはありがちな事ですが、まぁ、金が廻ればそのうち聴いてみようか。

572 jyake12 1985

Misplaced childhood/Marillion

初期3部作の3作目。この後Fishが抜けて、残りはジェネシスと同じ道を辿るのだ。悪い意味だけじゃないけれど灰汁は抜けてしまう。さて、初期の終わりの代表作、曲の出来が素晴らしい上に、Fishのボーカルも自然で演奏力もバランスよくまとまった。中身はそれなりに政治的だし、ラストの決意表明も心を打つものがある。年甲斐もなく少し感動してしまった。一応10曲なんだが、切れ目無しで続いていくんで、どこで切れているのかプレイヤと睨めっこしてないとわからんです。1曲の中でもコロコロ展開が変わっていくんでどっちにしてもあまり意味はないですが。個人的にFishのメロドラマ風というか中間小説の域に達している歌詞はお子様にはわからんだろうが、絶妙だと思う。それだけでも有り余る価値のある完成度です。結局、ジグソーの残り1ピースは見つかったんだろうか。

573 jyake13 1969

In and out of Focus/Focus

まだそこはかとなくビート・グループの香りすら残る1st。でも一方では粗削りながらも後を予感させる展開もあったりして、若々しい新鮮さが良い。典型的なクラシックへの傾倒はこの時点で既にアッカーマンの曲に顕著だけれど、所謂コーラスしちゃうサイケっぽいボーカル・ナンバー等もあったりして少しびっくりします。でも「Anonymus」のインプロや、「House of the King」のフルートなどはクラシックとジャズが入り乱れた怪しい魅力でいっぱいだし、10分弱に及ぶ「Focus」の歌無しバージョンの泣きのギターは後の十八番です。リズム隊の二人は複雑な経緯を辿って次作ではすっかり入れ替わってますが、歌まで歌ったりしてここではそれなりに活躍してるみたい。

574 jyake14 1973

Tapes/Faust

何でも有りの3作目にして最高か? 偶然は恐ろしい。だって偶然だそうで。が、ファウストの真髄はここにある。ヴュンメ(Wümme)とかいうど田舎で人間を捨てて共同体してたころに、2年に渡って録り溜めた実録生テープを編集しただけのものみたいですが。GSS9に強襲されて全員逮捕! されたのもこの時期か。英Virginと契約したものの一向にやる気が出なくて、怒ったVirginが勝手に発売した廉価盤という話もあったかな。最近のリマスタには曲名が付いているらしいが、これにはまったくもって何も無い。(CDには26ヶ所にインデックスが入っているけれど)tapes全一曲でござる。環境音、ライブ?、フォーク、酔っぱらい唄、シャンソン、ノイズ、ワンコードのインプロ、会話、食事、電話、チェンソー、エンジン、ごった煮。カット、ペイスト、コピー、コラージュ、逆回転、43分46秒の不連続な白昼夢。形式は完膚なまでに破壊し尽くされて、残骸の断面が廃墟の如くきらきらと輝く様はぞっとするほど美しい。こころを揺さぶられます。

575 jyake15 1990

Amarok/Mike Oldfield

雨に滲むスリーブも『オマドーン』を連想させる60分1曲の大作。ディジタル・レコーディングならではのSN比とダイナミック・レンジを生かしきった、かなり強烈な音づくりに最初はびっくりした。『オマドーン』的な牧歌風叙情性というよりは、基調となるトラッドと縦横無尽にクロスして刺し違えるような鋭角的なトーンのギター(シンセ?)とアフリカンなリズムが印象的な叙事詩です。235の部分によって精密に構築された構成だそうですが、地味な割には刺激的な音使いで一般的な意味では受けは悪そうだ。しかしながら、とっつきは悪い? みたいだが緻密なリズムと寓意が冴えてます。私のはオランダ盤のCDですが「このレコードは健康を害して難聴のとんまになる恐れがある。そのような状態に陥ったら直ちに医師に相談すること。」という注意書きまであって、なるほどと感心しました。ラストのジャネット・ブラウンによるマーガレット・サッチャーの物まねの意味深で皮肉っぽい語りが『オマドーン』のホースバックの代わりになるようです。それに対する返歌(なんだよな、多分)はコーサ語(南アの現地語)で歌われているみたいです。

「光り輝く全能者がやって来て、立ちあがるのだ、死に逝く我らの前に」

576 jyake16 1976

Wind and wuthering/Genesis

ジェネシスのラストアルバムです。え? まぁ、そういうことで。これの前も含めてまぁ、形骸化した残骸シンフォみたいなもんですか、綺麗だけど。いや、残骸だから綺麗なのかな。次の2枚組ライブは1枚目の後半で、次作の『3人残った』はA面の真ん中くらいまで聴いてるうちに寝てしまい、そのまま放っておいたら早く返せと言われて貸してくれた人に返しました。おかげで内容は全く憶えていませんが、薄っぺらいストリング・シンセと出涸らしのような捻りの無さに、さすがに年齢的に辛くなってきたなと思ったことだけを憶えています。この辺は初期のエキセントリックさが無くなって、典型的な美麗シンフォしてた頃だから内容は少しづつ薄まりつつあるとしても、人気は上がり始めた頃です。冷やっこくて、少し残酷で、あくまでも美しい流れるような曲調は見事だし、トラッド風の上品な香りも英国趣味でいっぱい。アントニィ・フィリップスから正統派英国趣味を受け継いだのがスティーブ・ハケットだったのがよくわかる。

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最終更新日 2003/06/05