懐古趣味音源ガイド    其参拾伍

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545 jyake01 1970

If I could do it all over again,I'd do it all over you/Caravan

ヘイスティングス兄弟(叔父と甥か?)+シンクレア兄弟(本当は従兄弟?)+R・コフランという同族企業というか町工場のような構成で作られた2作目。カンタベリィを代表する二人の唄歌いがいるのに相対的にボーカルの比重が低いので次の『灰桃地』ほどポップではないが、ひねくれたサイケ・ジャズ風のアンサンブルの上に軽やかに乗る上品でトラッドな香りのボーカルが、後のキャラバンらしさを完全に確立しています。聴き所はやはり後半のメドレだと思うが、デイブ・シンクレアのオルガンのソロが郷愁をそそりまっせ、旦那ぁ。年代物だから音の分離が悪いし(本当にステレオか?)ドラムの音がえらく軽いのですが、ローストビーフサンドをつまみに黒ビールでもやりながら、乾いたウィットを楽しむで候。

546 jyake02 1986

Staring at the sea・The singles/The Cure

一応シングル集という形の全17曲。LPのタイトルは『Standing on a beach』 どっちもいいじゃん。でも、ディジタル・マスターだっていうのに音悪いじゃん。どこの爺さんか知らないがジャケに惚れたのが見え見えな一枚。でも、もともとキュア好きだから。ロバート・スミスの線の細いエキセントリックで甲高い喋くり系ボーカルと意外にもディテールまで丹念に作り込まれた音。モンティ・パイソンみたいな少しブラックでコミカルな悲哀も侮り難い。こういうそこはかとなく演劇的な感覚は日本では(何をおちょくってるのかわからないから)受けない。当時も今もちっとも売れないキュアでした。2000年の『血の花』がラストになるようだ。

547 jyake03 1971

Fourth/Soft Machine

エルトン・ディーン(Elton Dean)の加入と共に急速にもこもこ感が薄れる正規4作目。エルトン・ディーンは元々キース・ティペットと一緒にやっていたカンタベリィ・ジャズの人だから、当然の如くジャズに急接近する。叙情派サイケ・ポップの面影は一掃され、ワイアット(Robert Wyatt)最後のアルバムでもある。ロイ・バビントン(Roy Babbington)、マーク・チャリグ(Mark Charig)、アラン・スキッドモア(Alan Skidmore)、ニック・エバンズ(Nick Evans)にキャラバンのジミ・ヘイスティングスまで、というダブルベースに管楽器隊を加えればもう音の方は想像がつくというもの。超絶なインプロビゼイションの応酬とシャープで切れまくった高質密ジャズロック。ラトリッジはリフに徹してるけど全体を制御統制する冷徹な刻み。歌無しだけどワイアットのインプロもなかなか趣があっていいなぁ。固定ファンだっていそうなワイアットのボーカルをあっさり「無し」にできるところなんか、実はかなり凄い。「ワワワワ~」としか言わない前川清がおる“くうる五”みたいだぞ。

548 jyake04 1994

My iron lung/Radiohead

たまには若者に人気のレディヘなど。トム・ヨークあたりでちょいと検索して信者たちの熱い想いをご覧下され。一時、某BBSでプロモ・ビデオ撮影中に溺死との報が流れていましたが、今度はどういう伝説が出来るのかなと思いながら3週間ほど信じていました。これは1stと2ndの間に出たミニアルバムのようです。古いだけに若々しいというか、ロックしてるというかギター楽団してますねぇ。まぁ、信者を増やすには形式も大事です。テクニカルな芽は二葉が開いたぐらいですが、歌に寄り掛かり過ぎとはいえ形骸を捨て去る意欲は既に見てとれるかも。そういえばトム・ヨークの声が誰かに似ていると思いつつ、思い出そうと努力していたのだが、ボケ始めたせいか3ヶ月ぐらい前に唐突に思いついて、またすぐ忘れた。で、それ以来また思い出そうとしてるんだが、今のところどうもダメだな。有耶無耶の迷宮。

549 jyake05 1977

Gone to earth/Barclay James Harvest

懐かしいBJH。BJHが懐かしいんじゃなくて「懐かしい音」なのです。いつ聴いたんだかか憶えていないぐらい遥かな昔からそこにあったような。年端もいかぬ頃、時間が経つのも忘れ、夢中になって遊んでいるうちにすっかり陽が傾いて「お~い、帰るぞぅ~」と呼びに来る親父の声ような、記憶の底に封印された音ですか。えらく昔からやってるし全部知っているわけではないのだが、穏やかでとろけるような音塊は視界が効かない霧の井戸の底に封じ込められたようだ。この時代には珍しく生オケなんか使っていますが、基本はフォークな上質なポップです。「貧乏人のムーディ・ブルーズ(Poor man's Moody Blues)」なんちゅう曲まであったりしてムーディ・ブルーズをアコースティックにした感じと言ってしまっても言い過ぎではない。ちなみにオーケストラ・アレンジは曼荼羅楽団のデイブ・ロール。

550 jyake06 1979

Farewell,farewell/Fairport Convention

FCといえばやはりウクレレおじさんです。これは一応当時はラストツアーだったライブですがのりのりの半電化民謡です。初期にはサンディ・デニィ(Sandy Denny)がいたりしました。おそらくひっくるめれば軽く50枚を越えるアルバムが出ているはずです。作者不詳の口承に近い伝承を研究し、再解釈して電化したアレンジでもって再構成するみたいな技の元祖といっていいでしょう。枝分かれの先にスティールアイ・スパン(Steeleye Span)とかがあったりするわけだし。まぁ、それだけではないのだけど、耳なし芳一が電気琵琶で「ベベベン~ベン、ギオンショウジャの~鐘のこえ~」って平家物語やるようなもの。でも耳なし芳一が広まったのは小泉八雲のおかげだし、小泉八雲はラフカディオ・ハーンだし、ハーンが使った原典は江戸時代の「臥遊奇談」というそうだが、ハーンはイギリス人? だし、いやぁ、めぐるめぐる。文章にしろ音楽にしろ瞬間的にはブレイクスルーに見えたとしても、人間が創る以上、あるいは人間が受け取る以上、過去を内包しないものなどあり得ない。作者のオリジナリティと歴史や環境が育んだものに明確な境界線は引けないのだ。だからすべての創造は同時に剽窃であり得るわけで、FCの音はFCにしか創れないが、それを創ったのがいつ? どこの? 誰か? ということに本質的な意味は無い。著作権という概念がとことん嘘臭いのはそこに理由があると思う。

551 jyake07 1973

1998:La storia di sabazio/Triade

このジャケぴかぴかの金色だもんでそのままだと反射しちゃってスキャンができない。折り紙の金色のような少し浅めの安っぽい金色ですが、しょうがないトレペを掛けて誤魔化しました。所謂ELPに代表されるキーボード・トリオという編成ですが、中身は現代音楽とほんの少しイタリア臭い歌入りの小品がいくつか。非常に地味ですがグランドピアノの奏でる旋律は斬新で美しい。ちょっと畸形な展開が新鮮です。後半の小品「Espressione」は多彩で表現力豊かなピアノと素朴なボーカルのアンサンブルが珠玉の名品にふさわしい。淡々とクールな音はイタものにしてはとても珍しい。

サバツィオは最初の存在
それは善
その後、地上に現れた
チェザレ(シーザー)からヒトラーに至るパラノイアの権力者が
すべてをだめにした
サバツィオはいまだいたるところにある
深遠なる権者は
六つの目でこの世をみている

ふむふむ、千手観音みたいなもんか。

552 jyake08 1972

Per... un mondo di cristallo/Raccomandata Ricevuta Ritorno

最初の印象は、お!「パレポリ」みたいだな、ってところですがこっちの方が先なのです。ラコマンダータ・リチェヴュタ・リトルノの唯一作。略称RRRは到着返信付き書留郵便の意。意味わからん。オザンナの野卑な混濁感は無いし、野太いというよりはクールで繊細なのですが、ちょっと狂的なまでのエキセントリックさが特徴か。気候の良い海辺かなんかで半年ほど転地療養をお薦めしたい。ダイナミックな躍動感はオザンナほどではないが、テクもバックグラウンドの素養も冷たく上品かもしれない。意外にアコースティックでクリアな雰囲気とハイトーンのボーカルが、突然貫入してくる現代音楽にメッタ差しにあってるような崩壊感覚が不条理を極める。水晶化した終末論風のトータルアルバムですが、目まぐるしいほど曲調が展開していくと同時に、ドラマティックにシンフォしなくてよろしいのではないかと。

553 jyake09 1975

Cherry five/Cherry Five

ダリオ・アルジェント監督の一連の映画、マカロニ・ゲログロ・スプラッタのサントラで有名なGoblinの前身。サスピリアとかが有名か。女の子は可愛いのだが、血だらけで肉が食えなくなります。闇の黒、躰の白、血の赤と三色で構成された色彩美。グロさ加減はそのうちゴブリン(Goblin)でも書く時にしよう。全部英詩だし、スリリングで疾走感に溢れた音はどちらかというとブリットものかと思わんばかりの英国趣味です。「ドリアン・グレイの肖像」なんていう曲もあったりして、実はチェリィ・ファイブの前身が「ドリアン・グレイの肖像」という名だったらしい。「ドリアン~」はオスカー・ワイルドのオカルト・デカダン小説ですが、音の方はお耽美で退廃的という感じはまったくない。メロトロンも良いのだけど、ピアノやハープシコードの速弾きと手数の多いドラム速打ちユニゾンが凄いんすけど。

554 jyake10 1977

Konzerte/Novalis

専任ボーカルのフレート・ミュルペク初見参の初期のライブ。以前と以後では結構印象変わります。以前の3作は長編大作もあるし、夢見心地のドイツ表現派や象徴主義を彷彿とさせる北ドイツ海沿い系(何だそりゃ?)。ただしヘタレ。以後はコンパクトで歌ものが主体のかちっとまとまったポップス。ノヴァーリスの詩も使わなくなりますが、メランコリックな湿度は全体を通してそれなりにあるようです。これは初期のライブってことで選曲も良いし、60分を越える時間はLPの限界を越えてるような気もするが、CDがあるかは知らない。「Sommerabend」と「Wunderschatze」は部分的にスタジオ盤と同じ人が歌ってるみたいです。全体のアレンジはスタジオとほとんど変わらないけど(インプロ出来そうにないし)、ミュルペクさんはフルート吹いてたりもするんでパート的には少し楽になったようだ。ドイツ的謹厳実直の鏡のような、岩塩鉱の坑道の岩肌のようなびしっとした構築美(を目指したんだろう)。

555 jyake11 1996

Private parts & pieces part IX "Dragonfly dreams"/Anthony Phillips

PPPも9作目(10が出ているけれど、まさか11は出てないだろうな)を数え、20年以上に渡っているというのもなかなか凄いことだの。本当に世襲貴族(の本家当代とは考え難いが)なのかどうかは知らないが、どう考えても売れているとは思えないシリーズを出し続けていけるというのはもっと凄いことだ。今回はキーボードの少しアンビエント風とか、ボーカル入りの曲などもあったりしていつになくバラエティに富んでいます。アコースティック・ギターを中心にした小品という線は基本的に変わらないですが、う~む、こういう曲も完璧な上品さでもって演じられるのねと感嘆。上品と言っても慇懃無礼というほどではなく、穏やかでほわっとした温もりが感じられるところが特徴的です。

556 jyake12 1993

Prison of the rhythm - the remixes/The Golden Palominos

「律動の監獄」オリジナルとリミックス4曲のEPみたいなCD。個人的には「はちきれそうな美しさmix」が色っぽくて良い。鐘の音とロリ・カースン(Lori Carson)の儚くてあぶない喘ぎ声のバランスが絶妙です。基本的にはパーカッションのアントン・フィア(Anton Fier)とベースのビル・ラズウェル(Bill Laswell)によるプロジェクト・チームのようなスタイルで不定期にやっているような様子。Webを漁っても資料が極端に少なくて(特に日本語になってるものは)何もわからない。主要人物はニューヨーク・アンダーグラウンドの末裔みたいですが、ロリ・カースンは公式Webもあるソングライターな人で、次作の『Pure』と当作に参加していたらしい。80年代前半にはピーター・ブレグヴァド(Peter Blegvad)も居たりしたけれど中期以降は急速にディジタル・ビートに傾倒していくようだ。90年代は暗黒のディジタル・ビートの上をクリアで官能的なボイスがふわふわと浮遊する夢心地。でも、正直言うと最初買ったときは「Golden Earing」と間違えただけなんだよねぇ。禍転じて福になったから止められない。

557 jyake13 1973

Ringo/Ringo Starr

生き残りも二人になってしまった久々のビートルズ人脈。認知率何%をもって流行らないとするかは難しいが、この辺は知らない(忘れてるか)人もいそうだから良いだろうという判断。ビートルズ関連は数枚しか残っていないのだが、その中の1枚、スター最初のソロアルバム。エキセントリックな他の方々に比べ一番大人だなと思っていましたが地味だよなぁ。これは結構ヒットしたと思ったけれど、内容も高質なポップスになっておりまする。暖か目の妙な愛嬌が特質です。ビートルズの残りのお三方も適宜サポートしているし、すわ! 再結成か、とか騒がれていたのも憶えてます。おそろしく古い話ですが。個人的にビートルズ以外で最初にリアルタイムで、かつ主体的に聴いた洋楽として思い出深い。

558 jyake14 1984

Grace under pressure/Rush

少し流行ってたみたいだが、軽くなったラッシュなど。冷やっこい疾走感が夏向きで気持ち良い10枚目くらいのアルバム。古いCDのせいかこもっちゃって音が悪い。すきっと抜けるのがラッシュの良いところなのに。ほぼ5分の曲が8曲とポップ化を意識した構成。キーボードというかストリング系のシンセの音が考え無しに安っぽいのが玉に瑕だが、リズムは相変わらずタイトで変拍子でよろしい。ギターも音色がワンパターンで前の方がずっと良かった気がするが、この辺(グランジっていうのでせうか?)は世間の要請か。ある意味とてもプロっぽい人達だから、時流の見極めも見事だ。次はどうすっかねェと暗中模索の真っ只中という雰囲気だが次作『Power windows』でそれなりに結実するからまぁ、いいか。

559 jyake15 1973

Atem/Tangerine Dream

前作『Zeit』の延長線上ですが完成度はぐっと上がっています。楽曲にメリハリがついたし展開構造がそれなりに構成されたものになったようだ。太鼓や人声も加わって音色のバリエーションも増えた。もっともラストに向かって盛り上がるような展開を期待してはいけませんが。ラストの居合い抜きか合気道の稽古でもしてるような小品のメロトロンとドラムの果たし合いも好きなんだが、やっぱりタイトル曲の大作「atem」でしょうか。土俗宗教のような太鼓が鳴り響く中をうねるメロトロンがジャングルの夜明けのようだにゃ。段々盛り上がると見せておいて、いっこうに上り詰めないどころかどよんと有耶無耶にして、いつの間にか消えて行くところなんか最高です。「あれぇ?あれ?おわちゃったよ~」って。ちなみにジャケの中央の赤ん坊はエドガ・フローゼの息子でジェロームというそうですが、今じゃ親子で一緒にやってるそうです。いやまぁ、聞いた話ですが。

560 jyake16 1967

Chelsea girl/Nico

ベルベット・アンダーグラウンドを追い出された? ニコの1stソロ。曲を提供しているのはルー・リード、ジョン・ケイルは言うに及ばず、デビュー前のジャクソン・ブラウンにボブ・ディランまで。バイオリン独奏、弦楽四重奏、ギターのアルペジオ、フルートだけ、ベースもドラムも無い粒よりの音の上をニコの極北のボーカルが虚ろに響きわたる。感情が抜け落ちた極度に音域の狭い単調な地声で、朗々と詠う。一所懸命元気に歌おうとしているみたいだけれど、やり場の無い憎悪とやりきれない絶望が透けて見える。単調なぽつんぽつんとした単音の積み重なりはとても美しい、が、残るのはあまりにも救いの無い染み渡るような遣り切れなさだけ。抗し難いマイナスの磁場、蟻地獄の底にあるものを何故見据えようとしないのか。

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最終更新日 2002/05/09