懐古趣味音源ガイド    其参拾参

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513 jyake01 1971

Aqualung/Jethro tull

全盛期(個人的には次作の『Thick as a brick』か)直前のジェスロ・タルです。トラッドとブルーズを根っこにイアン・アンダーソンのエキセントリックなフルートとボーカルが踊りまくる。非常にアクが強いのか(そんなこともないと思うけど)好き嫌いがはっきり分かれるみたいですが、中身は上質で意外にも枯れた上品な味わいだ。このスタイルは後のイタリアもの等にもかなり影響を与えてます。寓話風のペーソスに溢れた(おそらく文学的な)歌詞と節回しの効いた唄が、強力で変幻自在のアンサンブルに乗って突進したりゆったりと停滞したり。所々で垣間見えてしまうというか、滲み出てきてしまうリリカルでロマンティックな素性が(隠してる? つもりみたいだが)美しい。

514 jyake02 1990

Out of water/Peter Hammill

メカニカルな80年代を抜けて90年代の幕開けは回帰的な印象でスタートです。というか音響的な処理が一層高度になって、自然に聞こえるようになっただけかもしれない。深みのあるクリアな音響は分解能が高いのかボーカルが映える。音の形態はいろいろだけれど、相変わらず重厚な世界と研ぎ澄まされた美を垣間見せてくれる。ユニットのギタリストであるFury(ジョン・エリス)によるジャケは三重県二見町の夫婦岩です。岩を結ぶ注連縄は室町時代には既にあったとか。厳密にはこの岩と注連縄が鳥居を形成していて沖合い650mの海中にある沖の石というところに神が居るそうです。岩の間から日の出が見れるのは夏至の前後1週間程だそう。「No moon in the water」という暗く美しい曲もいいですが、冬至には夫婦岩の間から月が昇るそうです。もっとも薄暮に満月は確率的に僅少です。

515 jyake03 1970

Air conditioning/Curved air

少しけばいクラブのママ風お姉さんソーニャ・クリスティーナの色っぽい声が堪能できる1st。歌い方も少しワイルドだけど優美に春めいた雅っぽさもあるかも。でも本当はダリル・ウェイのバイオリンとフランシス・モンクマンの何でもできちゃうマルチさが要なのは誰でも知っている通り。「ビバルディ」とかインストの曲におけるウェイの超絶バイオリンは恐ろしいまで研ぎ澄まされていて、圧倒的な存在感。とても30年以上前のものとは思えない。曲作りのセンスが類型的でないところも特筆すべきか。意欲的過ぎちゃってまとまりには欠けるが、エレガンスと鋭角的なアンサンブルのバランスが絶妙で、すっと転調される展開はかなり先鋭的だし先進的だなと思い直しておるところ。

516 jyake04 1991

Return of the sea monkeys/The Reegs

分解してしまったカメレオンズの二人のギタリスト+αのユニット。カメレオンズ自体が最近また復活したみたいですが、詳細は調べてないから不明でござる。シングルのコンピレイションみたいですが、KinksとかVelvet Undergroundのカバーも入っています。全般的にギターものというよりはキーボード(特にソリーナ)が目立っていたり、ノイジーなギターが聞けたりとかカメレオンズとは多少雰囲気は違うかもしれない。抒情派ネオサイケって言うみたいですがそうなのか、知らなかったわい。音響的な奥行き感とメロディの美しさは相変わらず見事だけど、少し弛緩したかったるそうに刻まれるリズムが心地好くて郷愁を誘う。

517 jyake05 1979

Medina Azahara/Medina Azahara

たまにはスペインものなど。哀愁のハード・プログ・フュージョン、堂々の1st。安っぽくて薄っぺらいキーボードの上を跳ね回る牛追い唄風のアンダルシア・弩哀愁の甲高いボーカルと、でろでろと早弾きしまくるギターがめちゃくちゃ格好良い。リズムなんか田舎の割には結構工夫してて楽しめます。朗々と伸びきったボーカルがいつの間にかシンセやギターの音になってサビを奏でるという展開が好きみたいですが、メロディの美しさは(恥ずかしいくらいスペイン演歌だけど)超一級品です。暑苦しくならないでラフで乾いたリリカルさみたいなところもお国柄でしょう。ちなみにメディナ・アサアラ(Medina Azahara)は10世紀にカリフ王朝のアブデラマン3世によって、コルドバ郊外に建てられた大宮殿跡だそうです。こういうのに限って、必死に探しているのだがどうにも入手困難で全部聴きたいのに聴けないという不条理。え? 探すところが違ってたりして?

518 jyake06 1975

España,año 75/Granada

スペインものをもう一つ、グラナダ2ndはボーカル無しのジャズ・ロック・エスパニョル。カルロス・カルカモのマンドリンやらハープシコードが哀愁を誘います。マカロニ・ウェスタンでも見てるようだ、って今時誰にも通じないか。ところどころカンタベリィものを思わせる展開なんぞもあったりするのですが、ラストの曲のような民族調の曲調にこそ類い稀な趣があって良いのではないでしょうか。歌無し故に地味で引っ込んだ印象を与えてしまうグラナダですが、偏向したアンサンブルの独特な味わいが枯れたメロディと相まって、乾ききった白壁に飛び散った鮮血のようにくらくらするほど鮮烈なコントラスト。視覚を刺激する音のように思う。

519 jyake07 1975

Minorisa/Fusioon

も一つおまけ。FusioonというのはFusiónから来ていると思うのだが、フシオンだからフュージョンかと思いきや、アヴァン・ガルドな音のコラージュばりばりの複合稠密雑多混沌音楽だった。スペインとはいってもカタルーニャ出身のようで、泣きのメロディが皆無とは言わないものの、シャープで洗練された目まぐるしさ。脈絡の無いフレーズがひょっこりと手術台の上の雨傘とミシンの出会いを演出するんでしょうか。歌というよりは妙な掛け声と所々で顔を出すおもちゃのような不思議なフレーズが、かなりのテクでもってコロコロと展開されていく様は万華鏡のよう、というと当たり前過ぎて面白くないが、万華鏡かと思っておると、いきなり哀愁になったりして裏をかかれるのだ。タイトル曲は10分程の曲ですが、数十秒から1分くらいの曲をずろずろとコラージュしたような構成で、突然割り込んでくる鐘の音がシュール(レアリスティック)で清冽な印象を刻みます。

520 jyake08 1985

Youthquake/Dead or alive

う~む、若いのぅ。結構ヒットしていた日本風に言えばユーロビートもの。今聴くと思ったよりズンドコあるいはブンチャカしていて重ったるい。当時はしゃきしゃきキラキラしたイメージを持っていたんだが。今ふり返ると、大人の洗練された煌びやかさというよりは、サイケなパワーとぷんぷんする青臭い若気で押し捲っていて可愛いくらいだ。とは言いつつも音はかなり計算され尽くした打ち込み。虚無的な声はまだしもピート・バーンズの顔には興味がないもんで、関心はやはりSAW(Stock,Aitken and Waterman)というバックのプロデュース・チームに行き着くか。当時としてはそのダイナミックな躍動感を実現した画期的なプログラミングをもてはやされたものだ。派手できらびやか、重厚でかつ美しい音響が鮮明なイメージとして頭に残ってしまっています。

521 jyake09 1971

Asylum/Cressida

ヴァーティゴ・レーベルの時代物ブリット。クレシダの2作目だが1作目は持ってない(後注:最近300円で購入)。形態的には正統派オルガン・ロックだが、曲によっては生オーケストラ入れたりとか凝った意気込みは感じられる。アンサンブルはクラシカルな味わいもあるものの、基本はジャズです。その辺がいちばん特徴的かもしれない。少し線が細い声ですが歌謡曲のようにゆったりとメロディを歌うボーカルは、ベガーズ・オペラあたりと似てるかもしれないが、柔らかい声質がオルガンにマッチして上品な雰囲気。いろいろと手を入れている割には、全体を通して品の良い渋さというか奥行きのある地味さが基調です。

522 jyake10 1987

Broken records-the singles/Dave Stewart,Barbara Gaskin

バーバラ・ガスキンとユニットを組んでNo.1ヒットを飛ばしたスチュアート・ガスキンものの6枚のシングルを集めた編集アルバム。5、60年代のカバーものとオリジナルが半々といったところ。特異なセンスと上質で凝った音作りはカンタベリィの名に恥じないかなり捻くれたポップ。カバーの方は原曲の選曲が渋いのなんの。ペギー・リーにビング・クロスビーからXTCのパートリッジまで。ガスキンのクリアで硬質な声もなんだかほわんとしちゃって優しそうで情感たっぷりです。歳のせいかな。ちなみにBroken recordというのはスチュワートが自前で作ったレーベルで、マネージメントはSoft Machineのジョン・マーシャル(John Marshall)だそうです。

523 jyake11 1978

Weißes Gold/Stern-combo Meißen

シャープでクールな質感は旧東独とは思えない切れ味。新古典主義風のかっちりとした型は見て取れるものの、洗練の度合いは決して引けをとらない。タイトルの白い金というのは、白磁のことなのだろう。1708年にマイセン窯で白磁を発明して、その技法の秘密を守るため32歳で殺された錬金術師ベドガーの生涯をテーマにした朗読入りのトータルアルバム。グループ名は「マイセンの連星」とでもいう意味なのか。磁器は東洋と西洋でそれぞれ独自に製作法が開発された。ちなみに中国で磁器が作られたのはそれより遥かな大昔、唐代には大量生産体制が確立していたそうです。ついでに言及すると、日本で最初の磁器は1616年、現在の佐賀県有田の鍋島藩において、秀吉の朝鮮出兵で戦争そっちのけで各藩が争って拉致してきた朝鮮人陶工の一人、李参平が有田泉山で陶石を発見して焼いた白磁です。

重厚なオーケストレイションとダブルキーボードによる不思議な味わいのシンセの効果音が、如何にもドイツっぽい重厚でロマンティックなアンサンブルを盛り上げてます。ちなみにエッチングの美しいジャケは西独盤で東独盤は違うようです。

524 jyake12 1991

As is/Holger Hiller

ノイエ・ドイッチェ・ヴェレと言われてもわからんわからん。このあたりは不詳な上にほとんど何も考えずに買っています。ジャケは透明のぺらビニール一枚で、どうでも良さげに印刷されてCDの円盤が透けて見えます。テクノなんだろうけれど、コラージュというか断片的な音のテープ操作によるつづら織り。えぐい音使いはないのでメロディがどうたらとか、リズムが云々とか言わなければ意外に聴き易いし気持ち良い。もっとも、徹底の仕方はドイツものとして当然徹底的なので、軟弱に日向ったりはしません。かわいらしい単音の集合は紛い物のプラスチックの宝石を床にぶちまけたようなチープな耀きでいっぱい。

525 jyake13 1987

The ideal copy/Wire

第2期ワイアの一枚目だったかな、かっちょいいです。初期のパンクを期待した人には大はずれ。もっとも10年経ってもパンクやってたら信用できないよなぁ。もっともこの世には10年経たなきゃできないこともたくさんあるけど。打ち込みを多用した覚醒したリズムとシニカルな無機質臭が漂うところなど第1期とはまったくの別人ですが、こっちの方が遥かに良いじゃないの。なんだかエレポップみたいな雰囲気があったり、メロディが綺麗でうっかりするとリリカルだったりするのですが、この辺は才能だよなぁ。過剰な要素を剥ぎとって解体された音が、てんでばらばらに宙を舞っているような奇妙な感覚は言葉では言い表し難い。

526 jyake14 1975

Paris/Paris

で、パリ。パリス? か。何を思ったかフリートウッド・マックを抜けたボブ・ウェルチが、ジェスロ・タルかどっかのベースと組んででっち上げた偽ニューウェイブ。ってニューウェイヴにはまだ少し早いから。無国籍で無機質で格好良いけれど全然売れなかったらしい。私(騙されて)買いましたが。この人ハイトーンな良い声(軟弱とも言う)してるけど、いかんせん多少細いんでHR/HM系としては致命的です。ヨーロッパ仕込みのエレガンスとドライでソリッド、カシャカシャ、コキコキ、ガッションガッションって壊れていそうな高密度でハードボイルドしてます。有機物の介在を認めていないかのようにカリカリに乾燥していている割には、隙間無くみっしりと埋め込まれた音が虚ろに漂っている、あまり前例の無い不思議なバランスが見事です。当時はピンと来なかったけれど、おそらくずいぶん今風の感覚で作られた音みたいに聞こえます。

527 jyake15 1999

Radio Londra live/Aldo Tagliepietra

オルメのおっさん。バック楽団を従えて、6弦ベースを手に歌いまくっております。どうもラヂオ・ロンドラというクラブだかTVかラジオの公開録音のような92年頃のライブだと思うのですが、よくわからん。拍手がパチパチって聞こえるし、お下品な歓声も口笛も聞こえないので、ちょっと勝手の違う高級感が漂っています。曲は80年代のソロアルバムから採ったオリジナルのようですが、3人の女性コーラスまで付いたオルメというよりも乗り乗りのポップというか歌謡曲です。が、しかしこれがまた良いのだわ。オルメの曲のボーカル部分だけ抜き出して凝縮して起承転結をつけたような質の高いアンサンブルと、たおやかな歌。う~む、カッコ良い。中年の魅力で一杯な最近の愛聴盤です。現オルメのミケーレ・ボン(Michele Bon)がキーボード弾いてます。

528 jyake16 1978

Wet dream/Richard Wright

おぉ、懐かしや。買った頃は毎日聴いていた気がするぞ。勃興するニュー・ウェイヴの影でオールド・ウェイヴの代表選手のような扱いを受けていたピンク・フロイドのキーボードの初ソロアルバム。全10曲、歌無し6曲と良いバランスです。淡々と流れるように奏でられる音は、水面を揺らす光のよう。フランコ・フォンタナの写真のようなジャケと相まって美しくも儚い夢をみようというのか。『アニマルズ』以降あまり目立たない存在になってしまったのは、これを聴くとさもありなんってところです。淡く朧げな色彩感で統一された脆弱でナイーヴな感覚が手に取るように見て取れる。「Summer '68」の世界なわけだ。アコースティック・ピアノの音が当時のフロイドでは聞けなくなってしまった音です。まるでギルモアのようなギターはギルモアの黒子、スノウィ・ホワイト(Snowy White)です。

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最終更新日 2002/12/24