懐古趣味音源ガイド    其参拾弐

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497 jyake01 1982

The sky's gone out/Bauhaus

尖鋭で神経症的なエキセントリックさとダークで単調なモノローグが支配する救いの無さは今となっては少々辛いか。形式は既に完全に解体されて、部品だけがゴロゴロと転がっているような薄ら寒さすら感じられる。パンクの終焉としては正に正当で正確な幕引きだ。ぽっかりといつも通る道端に空いた暗闇。すぽっと穴に落ち込んだような静謐で深遠な奥行きが、一つの頂点に立っていることをあまねく示しているだろう。って、当時も今も真面目に聞いていたわけではなかったみたいで、ゴシック云々とかポジティブ・パンクだとかは実にふざけたことに最近得た知識なのだ。コアじゃなくてすまぬのぅ。CDは後ろの方がボーナストラックになっていて、シングルとしてリリースされたものが収録されているんですが、ここは少し元気なようだ。

498 jyake02 1973

Arbeit macht frei/area

なんでタイトルがドイツ語なのだ? という疑問の行き着く先はやはりここであったか。当時、中欧各所に点在しSS(SchutzStaffel)によって管理運営されていた絶滅収容所の鉄の門扉や構内のゲートに飄々と掲げられた標語「労働は解放をなす」のようです。アラビア語系の女性のモノローグで始まる1stアルバム。でもってユニゾンがビシバシに決まりまくった超絶エレクトロニック・インプロ・ジャズ・ロック。変拍子の応酬です。それがまた洗練ではなくて、こう土俗というか裸足なのだ。ヨーロッパ人は靴を履かない人間を土人と言って蔑んだりするんですが、彼等は正にその土人です。東地中海の土民がパワーで西欧を捻じ曲げきった野蛮と驀進。乾いた埃がもうもう。喋る楽器、ストラトスの歌は歌唱じゃなくて完全に謡い。そうそう、デメトリオ・ストラトスさんはエジプト系のギリシャ人だそうです。

499 jyake03 1981

Rage in Eden/Ultravox

「北の宿」か「津軽海峡冬景色」と言われても反論できない独特の空気感とマイナー調の節回しで埋め尽されておるぞ。『Vienna』の華々しい若々しさはすっかり影を潜めて、暗い叙情性だけがうろうろと底の方を流れています。ミディアムテンポの曲が多いのも特徴か。エレポップ特有のピコピコちゃらちゃらしたお手軽さはすっかり失せて、ファッションとしてのヨーロッパ風味もすっかりなくなった。代わりに前面に出てきたのはvox>声>言葉>言語>意志>思想みたいなコミュニケーション指向。オブラートに包まれて意味不明な部分が多いけれど、物事を「正実」に「精確」に考えれば、臭いものや醜いものに蓋をしても何ら負の部分が無くなるわけじゃないように、希望に満ちた陽のあたる部分だけを歩いてゆけるわけではないのは自明だ。まだまだ引き返せる時代だったのに。

500 jyake04 1973

Le cimetiere des arlequins/Ange

ローパス・フィルタで高周波数帯域をすっぱりカットしちゃったような妙な録音の仕方をしてますがワザとだろうか? 独特のアンジュ・オルガンの音が響き渡る2作目ですが、暗く沈み込んだような曲調と、デカンの粘っこいボーカルというか大道芸人風語りは既に全開。弾けるような抑揚はまだなくて、ずるっと足を引き摺るような歯切れの悪さはあるなぁ。それにしても、妙に中世的な暗黒というか後進性みたいな災厄と因習を一身に背負ったかのような、無骨でごりごりした無知蒙昧な「暗さ」には恐れ入る。ボーカルの音圧よりもベースの方が大きくてかなり低音側が強調されているのも独特の効果を出してるのだが、どよんとした不定形さに浸っているといつのまにか底なし沼に引き込まれていくようよ、いやん。

501 jyake05 1972

Bare tree/Fleetwood mac

何枚目かは知らないがこの前後が実は好みな天の邪鬼。コテコテのブルーズでもないし、後のお間抜けなアメリカンでもないのはこの時期だけ。一般的には全然評価されてない(どころか無視されてるな)みたいだが、ボブ・ウェルチ(Bob Welch)の洗練されたメロディ・メイカーとしての才能は素晴らしい、と思うのだ。花開くのはパンク張りのParisやソロになってからだけれど、ポップで明るめの流れるような曲調とタイトで都会的な洗練は朽ちかかった巨艦に最新鋭の艤装を施したようなもの、だったはずなのだが。スリーブのように霧に霞む木々の間を漂うような音の時代もあったなんて今更、たぶん誰も知らないんだろう。

502 jyake06 1986

Victorialand/Cocteau twins

耽溺的なまでの耽美と霞の彼方にゆらゆらと浮かぶような残響が柔らかい。ほとんど地声で歌っていないエリザベス・フレイザの声はたぶん天上の声って言うのだろう。実際には唯の一度も聞いたことはないけれど。春の陽だまりで揺りかごに揺られているが如き母性的な逃避感覚。うつらうつらと起きているのだか眠っているのか定かではないどっちつかずの平衡状態にふっと感じた草の匂い。アジア風に言えば桃源郷だ。ゴシックの暗い森に迷い冷湿な泥濘に足を捕られ、見切った現実の向こうに信じることができたのは、唯一桃の花咲く春の隠れ里だったということか。見つけてしまった時のコツは戻ってこないことです、竜宮と同じで。

503 jyake07 1970

The end of an ear/Robert Wyatt

『耳の終焉』と題されたソフト・マシン在籍時の一応1stソロアルバム。これからの音楽は耳で聞くんじゃないよって意味か。直後にマッチング・モール(Matching Mole)で一緒になるデビッド・シンクレア(David Sinclair)、カンタベリージャズのエルトン・ディーン(Elton Dean)、その他よく見るジャズ畑の人達とのセッション風、かなりフリージャズっぽいアヴァン・ガルド。ポップ・シンガーとしての仕事じゃないよと書いてある通り、伸び伸び好き放題やってます。多重録音のスキャットで始まり、切れ目無く続いて行く音の中に、すっぱり切り込むように確信犯的なフレーズが紛れ込んでくる。どこまで原型を留めているのかは知らないが、Gil Evans(ジャズ方面の人)のカバー曲以外は、知り合いの名前を適当に折り込んで捧げたおフザケた曲名が付いてます。

504 jyake08 1984

Unforgettable fire/U2

U2というと「Sunday bloody Sunday」っていうのが通り相場だったと思うのだが、このあたりが変曲点だったのかもしれない。まぁ、その後を見ていると『War』こそがU2だともまったく思わないけれどネ。取り敢えずUKという眼前の強大な抑圧から逃れるには大西洋を越えたアメリカを頼らざるを得ないってことなのか。というわけで何だかすっかり西向きの内容になってます。前半はプロデュースのイーノによる入れ知恵風のギターリフが気持ち良い。切れ味の良い刺し身包丁のようなリフだな。いろんな意味で新しい音を探して消化しようという意欲に溢れているようだ。個人的にこういうアプローチは好きだし尚且つ進歩が無いのは嫌いだから、聞いてはいないけれど90年代ものにも波長が合うかもしれない。一転して後半は少し気だるい上に気持ちは新大陸って感じです。

505 jyake09 1978

Ludwig/Wapassou

ここでいうルートヴィヒは彼の有名なババリアのルートヴィヒII世(1845-1881)、生き様としてバロックを体現し自他殺不明の不慮の溺死? を遂げた芸術至上主義で名高い方を指す。映画(ビスコンティの)で見たけど鍾乳洞の地下宮殿で、地底湖に白鳥を放して小舟を浮かべて一人で遊んでるシーンはぞくぞくするほど美しい。ワパスーの基本的な構成は所謂チェンバー系とは異なるリズムレス・エレクトリック室内楽です。キーボード、バイオリン、ギターにエンジニア+ライトショウという取り合わせ。万華鏡か王朝絵巻きでも見ているようなロマンティックな華麗さが印象的です。もっとも派手派手とは正反対の非常に素人臭いというか、地味な音のタペストリといった感触が濃厚である。ある意味とても女性的というか、小体な可愛らしさが美しいのだけれど、こういった極度に耽美的な指向性みたいなものは時間を越えて響いてくるものがあるように思う。

506 jyake10 1982

Five miles out/Mike Oldfield

前が『QE2』で次が『Crises』という脂が乗り切った時期の非常に密度の濃い1枚。前後に跨がる長編「Taurus」の第II部も緊密な緊張感とバグパイプ+マギィ・ライリィと言う事なしでしょう。緩急自在のタイトな仕上がりで25分を突っ走る。後半の小品の出来もバラエティに富んで楽しい。「Orabidoo」はオルゴールのような細く可愛らしい音色からエスニックなリズムとメランコリックなギターとシンセのアンサンブルへ変遷していく。「5 miles out」はオールドフィールドとライリィのデュエット。小気味良いほど格好良い曲だけど、嵐に巻き込まれた飛行機が墜落していく歌。吸い込まれるようなライリィの声が聞けます。フェイド・アウトで終わるところが大きく不満だ。

507 jyake11 1975

Forever blowing bubbles/Clearlight

シリーユ・ブルドー(Cyrille Verdeaux)のプロジェクトから楽団編成になった最初の1枚(だと思う)。シャボン玉をテーマにしたトータルアルバムですが、構成や展開がいかにもフランス風で華やかで少し湿っぽい。ブルドーのピアノが全編に渡って鳴り響きますが派手じゃありません。むしろ少しこもった感じで眠いような曇った感じ。不思議なほど類型的ではないフレーズを弾きまくっていますが、バックに徹してるってとこですか。それなりに緊張感のある展開ですが流麗でコケティッシュな流れが可愛くも美しい。ブリジット・ロワが歌う「ナルシスとゴルトムント」やゲストのデビッド・クロスのバイオリンもなかなかツボを心得た素晴らしい演奏のように思う。
公式webには結構mp3も置いてある。しかし音楽系のWeb(だけじゃないのか、最近は)ってFlashとか好きだねぇ。やったら凝りまくっていて重いんで必要な情報を探すのが大変なんだわ。

508 jyake12 1992

Experience/Prodigy

プロディジィの1st。この頃は高速ブレイクビーツ・テクノと云うらしい。意味は聞かないで下さいな、知らんって。こてこてのクラウトテクノを知っているならば、テクノというよりは舞踏音楽に近い。おそらく100%打ち込みによる怒濤の疾走感はすばらしいが、バスドラにあたる音が意外にワンパターン。って打ち込みだからか。そういえば何年か前MODに嵌まって面白がってあちこち聞いていた頃、明らかにコンピュータで出来ることと出来ないことがあるなとは思ったけれど、相変わらずその辺の制約が無いとは言えないようだ。個人的には歳の割にはまったく抵抗感はないのだけど、最近のモノほど尖っていないからむしろ聞き易いかもしれない。何故か最後の1曲だけライブで人声も入っているし生っぽい雰囲気がありあり。

509 jyake13 1967

Jet-propelled photographs/Soft Machine

デビッド・アレン(Daevid Allen)在籍時の唯一の音源として97年に発売された掘り出し物。後の様々な曲(なんと「Moon in June」も)の原曲というか、本質はあまり変わらない気もするが、一応この時期には出来あがっていたというわけです。アレンはギターでクレジットされてますがエヤーズ(Kevin Ayers)と共にどうも存在感が薄い。この後、イギリスに入国できなくなったアレンを失い、ソフト・マシンはこの先の10年をギター無しで乗り切ることになる。ちなみにタイトルの「Jet-propelled photographs」は後のエヤーズの2ndソロ『Shooting at the moon』のタイトル曲の原曲。もっともボーカルはワイアット(Robert Wyatt)でエヤーズは後ろでコーラスしているだけです。この時期のワイアットはアクセル全開という感じで歌にドラムに大活躍な上に、ポップで少し甘めの味わいが素晴らしい。

510 jyake14 1981

Still/Joy division

別テイク+アウトテイク集+ライブで構成されたCD2枚組。最近は1枚で売られてるような気がした。だって時間的には1枚に入るわけ。アウトテイクの方はイアン・カーティスが生きていたらおそらく出ないはずのもの(今なら間違いなく出るだろう)。当時のLPは限定版で出ていたそうだ。ライブの方はほとんど神懸かりのような圧倒的なまでの存在感があります。蝋燭が燃えつきる最後の瞬間のようだ。ドラムがかなり前目に聞こえるように録られていて格好いいぞ。間違っちゃうのはご愛嬌というか微笑ましいが、スタジオものより音の密度が低くて、どうしようもなく虚ろな響きが良いのではなかろうか。恐ろしく格好良いけれど、聞いてて楽しくなるような音じゃないし、並みの暗さじゃないんだが、染み渡るような伝染力があるように思う、この乾ききった黒い荒涼には。でも、闇があるからこそ光は明るく輝くのだろう。

511 jyake15
Repertoire
PMS 7096-WP
1978
1998

Solar music-live/Grobschnitt

原曲は75年頃にリリースされてます。これは78年にリリースされたライブ盤にLPでは収録しきれずにカットされたアンコールの部分13分を加えたリマスタ仕様のライブ盤CDです。時期によって節操も無くコロコロと音楽性が変わるのがグロープシュニットの特徴なんですが、ここではB級コミック・ライブ楽団の面目躍進、お面は被るわ、変な儀式はやってるわ、ステージで裸火は振り回すわ、花火は上げるわで消防のおじさんが見たら目を廻しそう。エロックというパジャマか囚人服の変態コミックオヤジがドラム叩きながら仕切っているようですが、外見がドイツ版のGongみたいな雰囲気に対して、音自体は実際かなり格好良いしまとも。ちょっとずれたような格調とこってりした濃厚さが身上です。アンコールを除くと60分に近い全1曲って流れですが、是非見たかったと思わせる緊張感と異様なまでの盛り上がりは凄い。最後の方でアコーディオン? 弾いてるとこなんか迂闊にも感激しちゃいました。

512 jyake16 2001

Elementi/Le Orme

万物の四元素だから例の「風・地・水(雨)・火」です。何故か「水」じゃなくて「雨」なんだが。どういう巡り合わせか知りませんが、ジャケの絵はなんとジェネシスの不気味なジャケ絵を描いていたポール・ホワイトヘッド(Paul Whitehead)です。基本的には前作の延長線上の音ですが、とても端正というか正統?的なのだ。奇を衒ったとこもないし、こけおどしもない。抑揚も押さえられていて恐ろしくバランスが良い。予定調和的に嵌まりきっていないとは言わないが、ターリャピエトラさんのたおやかな声が聞けるから許そう。二人のキーボードはピアノ系とオルガン系に分担になったようです。人が変わったせいもあるのかもっこり感が無くなって余計端正になったように思う。バイオリンと生ピアノのソロが淡々清楚に美しい。

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最終更新日 2003/11/23