懐古趣味音源ガイド    其参拾壱

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481 jyake01 1979

Inner space/Can

ソロが売れちゃって離脱状態のホルガー・チュカイのいないオリジナルCANの最終作(か?)。音楽的には『Saw delight』あたりの延長線上です。重い割には多少緊張感が薄れたのったりした曲調と、Reebop Kwaku Baahのエスニックなパーカッションに絡むエレクトロニクスが心地良い感触。かつての混沌とした目くるめく陶酔感は期待できないものの、整理されて綺麗にかっちりまとまった音には成った。「Ping-Pong」ではホントにピンポンだけしてるし、ラストは「Can-Can」、「Can Be」ってフレンチ・カンカンだねぇ。女の人が横並びで足上げて踊るヤツ。文明堂の「カステラ一番電話は二番…」という方が有名か。アヴァン・ガルドの行きつく先がカンカンってのもオツです。

482 jyake02
ATRANTIC
82639-2
1973

Houses of the holy/Led Zeppelin

六角形の柱状摂理は北アイルランドのGiant's Causewayですね。聖なる館というのはその近くのDunluce Castleを指しているようだ。内ジャケの写真はそんな雰囲気だが、もちろん確証はない。バラエティに富んだ曲調が禍して一般受けはしないみたいだが、逆に私にとっては好みだったりした四作目。「The rain song」とか最高じゃない? 偶には1曲ぐらいならレゲエだっていいじゃないか。キーボードも使うしアコースティックな曲調も結構あるからスタイルとしてはHR/HMじゃないのだろうが、程よいバランスが堪えられない。個人的にゼッペリンと云うと漫画「エロイカより愛をこめて」に出てくるボーナムさんや守銭奴君のイメージが強くて、どうにもコミカルになってしまってすまん。

483 jyake03 1992

The big picture/David Cross

それなりに今風(といっても10年前だけど)の音に仕上がっているソロ2作目。なかなか緊張感のあるアップテンポの曲が多くてクロス先生のバイオリンもセンス良く決まっております。少し線は細いけれど重いし結構変拍子もびしばしで、意識してるなぁ。今回は楽団編成でボーカルまで入っていて、おまけにそれがジョン・ウェットン風だったりするのだけど、これは少しやり過ぎ。主役はバイオリンなのだし個人的には歌無しで全然かまいません。いろいろな要素は含まれているんだろうけれど、所謂、民族風でもクラシック趣味でもないバイオリンということで楽しめます。バラード風の曲なんか聞き込むと味があって、随分上手くなったなぁと感慨深いものがあります。

484 jyake04 1971

Every good boy deserves favour/The Moody Blues

先鋭過ぎず、平凡過ぎずあくまでも中庸の道を行く初期の終わりに近いアルバム。かなり売れたらしい。興味を持ち始めた頃には既に終わっていたはずなので、まとめて70年代中頃に聞いた記憶がある。その中でも、かなり密度の高いまとまりの良さが印象に残っています。熱くもならず、冷ややかにもならない穏やかな楽曲の数々。メロディラインの美しさと絶妙な奥行き感が独特の優美な空間をつくりあげる。ロマンティックというか歌謡曲張りのとても甘めの味付けが好みの分かれ目かもしれない。個人的には、実は根が軟弱なせいかとてもお似合い、特にピンダー(Mike Pinder)の曲が好きなのでした。

485 jyake05 1972

Zeit/Tangerine Dream

当時はLP2枚組、各面20分弱で4曲構成という3作目にして大作。メンバーもエドガー・フローゼにクリス・フランケ(Chris Franke)、ペーター・バウマン(Peter Baumann)という3人でキーボード弾いちゃうもん体制が確立して、安定した環境が整った。当時としては圧倒的に画期的だったわけですが、今聞くとエレクトロニクスを多用したシンセ・ミュージックっていうよりは、起承転結はもちろん、メロディ無し、リズム無しの催眠誘導に近い瞑想音響って雰囲気です。シーケンサによるビート感はまったく無いし、アンビエントでない音響でいっぱいの無調音楽。イメージ的にはかなり暗い感じだけど、上下左右の無い不思議な奥行き感が気持ち良い。ポポル・ヴフ(Popol Vuh)のフロリアン・フリッケがゲストでシンセサイザを弾いてるそうですが、どれだかわからん。

486 jyake06 1972

The silent corner and empty stage/Peter Hammill

VDGGをバックに謳い上げるソロ3作目ですが、内容的にはハミルの比重が少し高いけれどVDGGそのもの。リアルタイムで初めて聞いたハミルということもあるかもしれないが、非常に思い入れが深くて今でも一番好みだったりする。心(というものがあるならば)の最深部までどうしようもなくひたひたと沁み渡ってくるような、悩ましいまでの存在と実存。展開も構成もメロディもリズムも歌詞も曲もなんだかどうでも良くなってしまう、そこまで思わせる何かがぎっしりと詰まっている。本質そのものが本質的に美しい。目くらまし? 変幻自在? 核そのもの。そこにそのままのかたちが放り出されていて、内容に関しては何も言うことはない。ハミルの歌詞に関しては公式サイトにすべてがあります。基本的に解釈すべきではないでしょう。どのみち難しいし。

487 jyake07 1993

Midnight sun/Maggie Reilly

タイトル曲は80年代中頃のドイツのエレポ、フバート・カー(Hubert Kah)の曲のカバー。ソロ2作目ですが前作同様にドイツで作られたようでフバート・カーやエニグマのプロデューサ(kemmler/Cretu)あたりの名前もちらほら。鈴が転がるような声は健在ですが、テンポのゆったりした曲が多くて情緒的だが平凡。どうにも歌と演奏って感じに小さくまとまってしまっている。どちらかというとトラッド向きの声質だと思うのだが、落ちついて大人っぽく歌うよりも、アップテンポで可愛いっぽく歌った方が圧倒的に魅力的です。音の処理はとても洗練されていて夢見心地。確かに今風なのだけど、この人の魅力を最大限に引き出すには、やはり器楽のなかでボーカルを一つの楽器として、アンサンブルとして聴かせる方向性が必要なのではないかとつくづく思う次第であります。

488 jyake08 1971

St. Radigunds/Spirogyra

瑞々しさと優しさと同居する、とても硬質な透明感のある向こう側が透けて見えそうな音が見事なデビュー・アルバム。なんか今じゃバーバラ・ガスキンが一番有名になってしまったけれど、ここでの主役はマーティン・コックラム(Martin Cockerham)という人。不思議な味のあるボーカル(カエル声ともいう)とほとんど聞こえない控えめなアコースティック・ギターが印象的。ガスキンとのデュエットもいいですが、メロディを奏でるバイオリンないしピアノが格調高く美しい硬質な曲調の特徴です。基本的にはフォークというかトラッドなんだけれどVCS3まで持ち出す意気込みは凄い。

489 jyake09 1979

The return of the durutti column/The Durutti Column

繊細で触ると壊れそうなガラス細工のように組み上げられた音像。リズムマシンかシンプルなベース、ドラムだけをバックにふわふわとナチュラルなトーンのエレクトリックギターが奏でる独特の世界は正に音のスケッチのよう。冒頭の「Sketch for Summer」は衝撃的でした。ヴィニ・ライリィ(Vini Reilly)の一人ユニットとしてスタートしたこれが1stアルバム。内省的で繊細でリリカルな感性丸出しですが、ただポーンと放り出された飾り気の無い単音は雨に濡れたマンホールのように美しい。うっかりしてると通り過ぎてしまうけれど、はっとして立ち止まらせるさりげない魅力に溢れている。

490 jyake10 1974

Pierrot Lunaire/Pierrot Lunaire

マルチ・バカテク・トリオ編成でほとんどドラムレスですが妙にリズミカルな流れるような曲調が見事な一作目。一見、ちょっとエキゾティックなアコースティックを多用したトラッド風の音や優雅なクラシック風の展開と思いきや、完璧にジャンルを超越して繰り広げられる濃密な世界に圧倒されます。「Pierrot Lunaire」は現代音楽のシェーンベルク(1874-1951 無調音楽というか12音音楽の創始者)の「月につかれたピエロ」から取ったんでしょう。結構ボーカルも入っているのだけど、所謂イタリア臭いところはまったくなくて、日光というよりは月光浴という雰囲気。2作目『グドルン』のようなコントラストの高い硬質な切れ味は無いけれど、柔らかい月の光に朧気ながら浮かび上がる“かたち”が儚くも美しい。キーボード弾いているアルテュロ・スタルテリ(Arturo Stalteri)は、今では現代音楽系のピアニストとして大成してしまいました。

491 jyake11 1986

Macalla/Clannad

裏ジャケの写真が面白い。おそらくアイルランド西部の辺境な海岸のようですが、直径20~30cm位の白くて均一な丸い石で埋め尽されていて、5人の人間がてんでばらばらにお腹のところに、その石を抱えてるわけ。まるで卵でも抱えているような感じ。石の卵といえば「球形の季節」(恩田陸のメタ本)か。東北の小都市の旧市街でひっそりと流行する石の卵のおまじない。石を対象としたアニミズムというか呪物信仰。音の方はもちろんホラーじゃなくて、美しくも淋しくて何よりも力強いアイリッシュ・ポップ。トラッドというよりは純粋にポップです。ケルト言語であるゲール語で歌っているのは1曲だけ。「In a lifetime」は、U2のボノとのデュエットで有名です。

492 jyake12 1969

Joy of a toy/Kevin Ayers

いきなり「Joy of a toy continued」で始まる1stソロ。「Joy of a toy」はソフト・マシンの1stに入っていた曲です。もちろんバックは全面的にソフト・マシンです。どういうこっちゃ? アレンジとピアノは後にエヤーズのバック楽団であるホールワールド(Whole world=全世界)でアコーディオンまで弾いてしまう現代音楽家デビッド・ベドフォード(David Bedford)です。多分コルネットやサックス吹いたり、メロトロン弾いてるのも「あの人」だったり「この人」だったりするんでしょう。よってたかって助っ人したくなるような、実に不思議な方です。内容的にはソフト・マシンの1stの延長線上、より明るくポップでサイケ、革新的いかれダダ・ポップというとこですが、少し明るくて暢気でのほほんでふわふわと牧歌的。しかし、まだ若いのだけど、この強烈な個性とオリジナリティには感服します。シド・バレット(Syd Barrett)に似ているものを感じる。

493 jyake13 1983

Commuters/Dagmar Krause • Harold Schellinx • Ronald Heiloo

アート・ベアーズ(Art Bears)とアイスラーものの中間に位置する17分で10曲入りのミニ・アルバム。2000年くらいに再発されて入手可能になった模様。Ronald HeilooのピアノをバックにHarold Schellinxの詩を独唱するという、かなりアヴァン・ガルドな内容。Schellinxはオランダの情報論理学(って何よ?説明読んでもわからんわい)の先生、Heilooも同じくオランダの現代音楽系のピアニストなのかな? 詳細は不明だ。非常に音数が少ない12音音楽とでも云えば良いのでしょうか。ダグマーの声は冴え渡って突き抜けていますが、特異で異質ではある。曲が難しすぎて格好良いのだが、そこはそれ、情報論理学だから感情移入とは対極的な音楽です。

494 jyake14 1973

Photos of ghosts/Premiata Forneria Marconi

ピート・シンフィールド(Pete Sinfield)のプロデュースによるワールド・デビュー盤。英詩もSinfield先生だったかも。英米ものでなくても一世を風靡できるという稀有な例でした。曲はイタリア盤の1st、2ndアルバムから選曲されたものですが、アレンジは圧倒的に洗練されています。繊細さと雄大さ、静と動、陽と陰がめくるめくコントラストをもって淘々と流れてゆくのだ。いきなりフランコ・ムシーダのクラシックギターで始まるイントロにパガーニ先生のフルートがかぶさって、バイオリンとピアノ、パーカッションの怒涛のアンサンブルに突入するという、当時としては「聞いたことのない音楽」だった。この1曲目「River of life」だけでもう圧倒されちゃって声も出なかった憶えがあります。英語盤2枚目の「甦る世界」と共にほぼリアルタイムで聞いたわけですが、周辺でも文句無しに絶賛されてました。これを聞かずして「聞く喜び」は語れないだろうというほどに。本質的な部分での素養というかセンスみたいなものが、なんだか根底から全然違うんだということが子供心にも痛切に感じられた、まったく真似の出来ない秀作。

495 jyake15 1980

Die Kleinen und Die Bösen/Deutsch Amerikanische Freundschaft

DAFの2nd。前半はコニー・プランクスタジオでのスタジオテイク、後半はライブだそうだ。内容は3作目以降の花が飛んでるような可愛さの欠けらもないミニマル・アヴァン・ガルド。エレクトロニクスによるノイズとパーカッションにおよそ歌唱とは程遠い人声。ピン一本抜くと音楽でなくなる寸前。で、CCCP(昔懐かしソ連を表すキリル文字)による金銀銅独占に鎌と槌がクロスする赤旗がどう関係してるのかわかりません。「東は長続き」だの「愉快な長靴でポーランドを行進」だのWW2以後の良識的な価値観を愚弄しているようだ。ライブの方は物凄いエネルギが迸っちゃっているのですが、なんか完全に壊れちゃっていて、たまげてるんだかついて行けないのか知りませんがえらく静まり返ってます。

496 jyake16 1973

Mekanik Destruktiw Kommandoh/Magma

ジャズっぽい部分が少し薄れて所謂典型的なマグマの音楽が完成された3作目。前代未聞の強迫重量オペラ(って言うの? わからん)の完成です。このM.D.K、いろいろなバージョンがあるようですが、これがオリジナルなのでしょうか。SN比は悪いけどCD(Mekanik Kommandoh)のものより荒々しくてマグマらしい。執拗に繰り返されるリズムと混声発声は新興いんちき宗教の祭典さながら。パラノイアを通り越しています。重くて暗いがネガティブな曲調が無いのがマグマの特徴でもあるのだが、前向きに突進してくる音です。録音はあまり良くないのだがヤニク・トップのベースとヴァンデールのパーカッションによる機械化殲滅部隊(注;正確ではない)は、トランス状態のコバイア語混声合唱とブラスを背負って怒涛の進撃。脳が沸騰します。

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最終更新日 2003/03/03