懐古趣味音源ガイド    其弐拾九

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449 jyake01 1971

Illusion/Renaissance

ジェイン・レルフの美声が堪能できるおそらく2作目ですが、当時はドイツでのみ発売された曰く付きのアルバム。制作途中に空中分解してしまったようで、1曲だけまったく別の楽団の曲が入っています。プロデュースもしているキース・レルフが連れて来たその楽団のメンバー中に第2期ルネサンスのマイケル・ダンフォードの名前が見えます。そんなこともあったせいか全体としてはおよそまとまりの無い出来です。キース・レルフが一歩引いた感があるのですが、同じヤードバーズ組のマッカーティは溢れる才能でもって素晴らしい曲を書いています。それがレルフ兄妹のボーカルと相まって、柔らかくてリリカルで上品な感触。クラシカルなピアノも前作以上に前に出てきて、方向性は決まったかなという雰囲気。いやぁ、実は第2期ルネサンスよりも素朴な情感がたまらなくて、個人的にはこちらに軍配を上げたい。

450 jyake02 1982

Garlands/Cocteau Twins

1stですが85年くらいに買った4ADのCDはボーナストラック満載で倍ぐらいに膨らんでます。ダークで単調、パンクな攻撃性と、後の絶頂期とはかなり印象が異なります。エリザベス・フレイザの声も夢見てうるうる系どころかほとんど地声。ほんのちょっとだけビブラートしています。同じ4ADのデッド・カン・ダンスの1stと同じポリシーで製作されている気がするので、この辺り雰囲気は4ADのアイヴォ(Ivo)に依るところが大きかったのかもしれない。フレイザの声は地声より裏声の方が綺麗なことに気づいて、ほの暗くて単調なリズムマシンが虚ろに響くコンテンポラリ・ゴシック・パンクは次の次『Treasure』あたりで大化けする。

451 jyake03 1976

Corte dei Miracoli/Corte dei Miracoli

遅れてきた抒情派イタリア・シンフォ。実はかなり好みである。時期的にもいろんな成果を取り入れて聴かせどころを押さえた内容に成っているでしょう。ダブルキーボードによる典型的なイタリアものですが、ストリング・シンセの洪水と意外にねちっこくないボーカルが心地好い。けっこうアップテンポの凝った展開が多いのだけれど、全体を通してとても涼しげなゆったりとした哀愁すら感じられるところがおもしろい。ベネチアの干潟(コモ湖でもいいけど)などで夏だけど冷たい海風に吹かれて、海面から立ち上る霧を満月が照らしているようなイメージですか。今となっては遥かな昔。他に正規音源があるという話も聞かないのでこれ一作でポシャッたんでしょう。

452 jyake04 1968

The cheerful insanity of Giles, Giles and Fripp/Giles, Giles and Fripp

タイトルに合わせて笑っているのかどうかは知らんが、フリップ御大が首を傾げて笑っているという貴重なジャケ写真です。60年代後半に録りためたものを妙なナレーションを入れてトータル・アルバム風にみせたものらしいですが、お馬鹿っぽくて面白いけど、あまり効果があるとは思えない。昔は1年後に出るCrimsonの1stとのあまりの違いに「なんじゃ? これは」という感じでまともに聴いた記憶もないのですが、所々でメロトロンは聞こえるし、インプロビゼイションしている曲まであって著しく曲によって出来が異なっている。メンバーのクレジット等もどうもかなり端折って書かれているようだ。これ、歌ってるのはピーター・ジャイルズかなぁ? ほのぼのとした良い声しているじゃない。曲もいいしトラッド風とかクリスマス・ソングみたいのもあったりして楽しいと思う。歳くったってことか。もう1枚、ピーター・ジャイルズの蔵出し音源がリリースされています。

453 jyake05 1996

Missing pieces/National Health

ヘルスは70年代後半に3枚のLP正規盤を出していて、90年頃にこの3枚をまとめた2CDの『Complete』が出ています。で、この『Missing pieces』はその名の通りそれらに含まれていないものをまとめたもの。特にモント・キャンベルとビル・ブルフォード在籍時の音源が大量に含まれているという、好きな人にとっては実に貴重なもの。デイブ・スチュアートとアラン・ゴウエンのダブルキーボードを始めとして、ギター弾きはフィル・リーにフィル・ミラー、おまけにスティーブ・ヒレジまでオールスター総出演。半分に当たる6曲がモント・キャンベルによるものですが、コンテンポラリへの傾倒もさることながら冴え渡った複雑怪奇な曲を書いている。こういうのがなんでもかんでもリリースされて良い時代になったものだ。デイブ・スチュアート自身による笑える曲目解説と元メンバーの近況報告付き。

454 jyake06 1985

The gift/Midge Ure

まだウルトラヴォクスは解体していなかったと思うが、ソロ1作目。メロディ・メイカーとしての才能が如何なく発揮された勿体ないくらいとても質の高いアルバム。シャープな冷やっこさには欠けるけど、基本的にはウルトラヴォクスそのもの。全体を通した曲の構成などはもうそのものといって良いでしょう。詳しいことは何も知らないけれど、心意気は熱血なのだろう、おそらく。基本的な部分はエレポップ路線を踏襲しているわけですが、滲み出てしまう心意気はスコットランド人の血なのだろう。

455 jyake07 1971

Space shanty/Khan

直後にゴング、今じゃ、システム7(System7)と渡り歩くことになるスティーブ・ヒレジ(Steeve Hillage)のユニット。もともとはエッグ(Egg)のギターを担うはずが既にエッグはなく、逆にデイブ・スチュアート(Dave Stewart)が参加しているカーン唯一のレコード。なんだか気紛れで感覚的な人だなという印象(俺だけか)が強いのですが、意外や意外、ここでは曲も書いてるし抑制されたアンサンブル重視のスタイルです。ディストーションとエコーのかかったギターシンセのような独特な音色はこの当時からの芸だったようです。デイブ・スチュアートが出会ってすぐにギターを捨ててキーボードに転向するほど、ガキの頃から腕が確かなのはその通り。ちょっとほにゃってしているけれど、歌まで歌って(結構旨い)伸び伸びと楽しそう。

456 jyake08 1972

Three friends/Gentle Giant

“Three”がシャルマン三兄弟を表しているのかどうかは知らないが、やっぱり超絶技巧な3作目。ここまで息が合うとやはり兄弟だからと言わざるを得ないのか。メロディとリズムが同じ拍子でないところばかりなのだが、なぜこうも感動的なのだろう? 特にラスト、フェイドアウトが残念だが、まさに圧倒的なまでの高揚感に包まれる。コード進行(というか12音階全部使っていないか?)がかなり特異で、リリカルというイメージに欠けるせいか、日本ではとてもマイナーな扱いでした。Midge Ureの曲は一度聴くと口ずさめるほどメロディが頭に入ってしまいますが、GGはまったく逆。何度聴いても憶えない。聴けばすぐわかる極めて個性的なGGの楽曲ですが、おかげでいつ聴いても新鮮だ。ブルーズでもない、ロックンロールでもない、クラシックでもない、ジャズでもない、トラッドでもない一体根っこはどこにあるのか、摩訶不思議なオリジナリティを絶賛しよう。

457 jyake09 1983

The final cut/Pink Floyd

名義はフロイドだが実態はウォーターズのソロである最終作のようなもの。“Japan as No.1”などとおだてられ、すっかりその気になったおじさん達が金に飽かせて買いまくっていたんでしょうか? 随分と皮肉られているようですが、個人的には薩長と結託してクーデタを起こして政権転覆を図った(本当に転覆したじゃないか!)方がよっぽど罪は重いだろうと思う。自分のやったことは完璧に棚に上げて、他を堂々と非難できるのがアングロ・サクソン特有の無恥感覚ですが、最近はどこも似たりよったりか。実は『Wall』を持っていなくて(カセットテープならあるな、一応)その幕引きである『Final cut』を語れるのか? という気もするが平気平気。だってこっちの方が断然良いもの。いろいろ凝っているようで素晴らしく音が良いというのは置いておいても、この時点で終わりにしようとしたことは遅すぎたとも思うが実に正しい。

458 jyake10 1977

Jester/Machiabel

ベルギーのマキャベル、二作目。緻密でクールなアンサンブルがタイトだが重量級の変拍子の上を駆け巡る。歌詞が英語で大陸的な雰囲気はほとんどないのだけれど、妙に無国籍な音に仕上がっています。非常に勘どころというかツボを押さえたテクと聴かせどころをわきまえた構成で、聴き込むほどに味の出る渋さ。可愛らしいエレピのリフと少し高めのボーカルが少しポップでフランス風のこしゃまっくれた華やかさを醸し出していると思う。エキセントリックな要素はないけれど、フランス語で歌えば意外にモナリザあたりに近いかもしれない。

459 jyake11 2000

Live;Everything,everything/Underworld

コンピュータ時代におけるライブがどうあればいいのか正直言ってわからない。見世物興行以外の意味で、聴衆の前で楽器を弾いて見せる時代は既に終わっているのは自明だ。1980年代において既に、Kraftwerkは直立不動でポケコンを叩いて聴衆の不興をかったし、Faustは最初から最後まで卓球をやり続けて呆気にとられた。レコードをライブで完全に再現するのは70年代にPink Floydあたりがやり尽くした。打ち込んで作った楽曲を実際に人間が演奏してみせるのが今のライブなのかどうかは知りませんが、けっこう生音が聞こえて困惑する。口パクじゃないのは当然としても、個人的にはどうせなら全然別バージョンにしてもらった方が良いなぁ。そうすれば、倍楽しめる。

460 jyake12 1974

Blau/Conrad Schnitzler

自主製作ソロアルバム二作目。青の闇。コバルト系の著しく不透明で切っても切っても同じような均質な断面が青を呈している。見開き4ページのブックレットを開くと、それはもう唯、不透明な青一色に塗り込められている。わざわざ冊子を作っておいて中身は青だけ。発する情報も受ける刺激も唯青い。20分弱のオリジナルが2曲に22分を越える曲名不詳、時期不詳のボーナストラック入り。ぞっとするほどの透明感と尖った音にのけ反りそうになりますが、これは凄い。美しいを通り越して凄いとしか言いようがない。これを聴いて気持ち良くなってしまうのは人間としてかなりまずい。タンジェリン・ドリームのオリジナル・メンバーでもあり、Klusterを含めて70年代の電子音楽の蜀明期における立役者。

461 jyake13 1974

Red queen to gryphon three/Gryphon

Gryphon=Griffinで頭が鳥で身体が獅子の怪獣のこと。西洋は部分をすげ替えて合体させるのが好きみたいだ。日本はどっちかというと頭が八つ(八又の大蛇)とか一目小僧とか、規定の数以外が怖いのか。中世音楽を緻密かつ厳密なアンサンブルで完璧に再構成するグリフォン3作目。すべて歌無しの4曲ですがクラムホルンやリコーダ、バスーン等の古今管楽器の演奏力もさることながら、楽曲の完成度の高さには目を見張らせる。グリフォンの場合は雰囲気が○○風というレベルではなくて、調査研究解釈の結果としての完成度を誇る。おまけに熟練の度合が尋常じゃない。稚拙な創造ばかりがもてはやされる中にあって、「熟練無くして創造無し」を身をもって示しているといえよう。「構造改革無くして経済再生はありえない」とかいう、教室の後ろの掃除道具入れに貼ってあるようなつまらない標語とは本質が異なる。

462 jyake14 1969

Rare bird/Rare Bird

ギター無しのダブルキーボードが当時としては多分画期的だったのだろう。「Beautiful scarlet」とか「Sympathy」とか耳に馴染んだ聴き憶えのある曲があって妙な感じなのだが、誰かにカバーされていたのだろうか。「Sympathy」は誰かがコピーしてるのをライブで見た記憶もあるなぁ。これはCDだし入手したのは90年代だし、そんなに有名だったのかといわれるとかなり疑問に思う。ダブルキーボードといっても使用しているのはオルガンとエレクトリック・ピアノだけ。曲はかなりそれっぽく頑張っている印象ですが、ところどころギターが入っているし、ブルーズ風の古式蒼然としたボーカルが時代を感じさせてくれる。弱小カリスマ・レーベル創成期のものらしく、録音が良くなくて残念。

463 jyake15 1991

Sugar tax/Orchestral Manoeuvres in the Dark

忘れた頃に時々買っていたO.M.D、いつのまにか当初の二人ユニットの片割れが抜けていた。とはいってもそれほど変化は無くて90年代なりのダンサブルなリズムと精緻なメロディラインには益々磨きがかかった。もっとも逆に少し眠いような黄昏感は失われ、霧の向こうに正体が現れてしまった。全部聴いてるわけではないですが、新しくなるほど尖がった部分は丸まって、メロディがポップで美しく、声は力強くなっていく。メロディだけなら歌謡曲としても十分通用するグレードだ。おや、懐かしい、Kraftwerkの「Neon lights」のカバーバージョンが聞けます。

464 jyake16 1975

Neu!'75/Neu !

たぶん昨日発売されたばかりといっても通りそうなノイ!。結局のところ、人間の進歩なんていうものは焼き直しと改良の歴史なのか。あまり見かけないと思っていたら、2001年にようやく初期の3枚がリマスタCD化されたようです。ミヒャエル・ローターとクラウス・ディンガーという二人の元Kraftwerk組のユニット+αですが、今となってはテクノより新しい。って、どういうこっちゃ? 人間シーケンサとでもいうべきか? これは3作目ですが音が整理されて意外に聴き易い。それゆえに妙に美しくて少しけだるい。元祖アンビエントとしても秀逸だろう。波の音や風の音にかぶさるボイスとエレピがふわふわとして懐かしい記憶を甦らせるようだ。エンジニアと共同プロデュースにコンラート(コニー)・プランクの名前がクレジットされてます。

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最終更新日 2002/05/24