懐古趣味音源ガイド    其弐拾八

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433 jyake01 1980

Un peu de l'âme des bandirs/Aksak Maboul

ベルギーのレーベル(というかアンチ・レーベルとでもいうべきか)、クラムド・ディスク(Crammed Disk)のマール・オランデールのプロジェクト。正直言ってこの附近は難しくてよくわかりません。ヘンリー・カウと欧州チェンバー系が合体して「既成」を破壊してる感じ~、と言って逃げよう。タンゴとかトルコ系とかロンドとか……とかを素材に驚異的な緊張感の下で刻まれてゆく音の彫刻のよう。“Aksak”はルーマニア語? で「跛」の意。2拍子と3拍子を組み合わせて変幻していく非相称的な舞踏系のリズム(東欧民族音楽に多いらしい)のことをアクサク・リズムと称するそうです。“maboul”はフランス語で「気違いの、左巻きの」の意。う~む、一段とアヴァン・ガルドです。

434 jyake02 1973

Parsifal/I Pooh

ミラノの歌謡曲とまではいかないけれど、とても明るくほのぼのとしたポップ・シンフォ。10分の大曲「Parsifal」が有名なのでしょうが、ちょっと大袈裟過ぎるなぁ。ワグナーの遺作にも同名のオペラがあったけれど関係あるのかどうかはまったく不詳です。3作目ぐらいで(たぶん生の)オーケストレイションを使っているのですが、短い曲の方がつぼが押さえられて個人的には好みです。洗練されて土臭さのかけらもないけれど、メロディは如何にもカンツォーネな泣きが入って極めて甘い。

435 jyake03 2000

Music:Response/Chemical Brothers

今や日本においても知らない方がオカシイぐらい超人気だそうで、あるわあるわ、ちょいと検索しただけで星の数ほどヒットします。もちろん私は実際、見事なくらいほとんど何も知りません。アンダーワールド(Underworld)よりもずっと動的な舞踏音楽ですが、他人のWebを見ていてつくづく別世界というか場違い(私がね)だと感じました。はぁ(嘆息)。これはアメリカ仕様のミニアルバムみたいで、ライブが2曲追加されて、ついでにエンハンスドCDになっているんでコンピュータで見るとQuicktimeが起動してビデオが見れちゃいます。情けないほどちびっちゃい画面ですが。でも、できれば「あのさぁ、悪いんだけどQuicktimeをちーと貸してくんろ?」ぐらい聞いて欲しいものです。Linux機に入れると8曲目で「うに?」って戸惑ってしまうので終わりにしていいよって、解放してあげます。ご苦労さん。

436 jyake04 1975

-------/Malicorne

フランスのラディカル・トラッド、マリコルヌのおそらく2作目と思われますが、タイトルがないんでよくはわからん。識別時の通称は「木の家」。どうにも民謡系にも疎いんですが、これはものすごく渋い。かなり有名みたいですが、この頃は硬質なトラッド。ノルマンディ民謡や中世の歌曲をモチーフにした、冷湿な哀感が特徴です。ごっつい感じのフランス語のだみ声のボーカルと、高くも透明感もないけれど実に素朴な女性ボーカルと古楽器のコンビネーションが見事です。とはいっても古式怱然としてるわけではなくて、自分達の音を創り出そうという意欲に溢れているし、事実とても質の高い先進的な内容。類型的でないリズムと音の切れがとても良い。薔薇の季節の到来を祝う? ア・カペラとかぞくぞくします。

437 jyake05 1969

Renaissance first/Renaissance

時代物ですがびっくりするほど斬新な1st。どこかに書いた『Prologue』以降のルネサンスとはメンバーが全員違うのですね。こちらは年齢的にも大人向け。関りはもちろんあるのだけれど、オリジナル・ルネサンスとでも云えばよいのか。新生ルネサンスが『Prologue』でスタートして以降はIllusionと名前が変わります。複雑な歴史に関しては検索エンジン(おぉ!こんなにあるとは思わなかった)で調べた方が早いです。とても腕達者なせいもあるのでしょうが、アレンジよりも即興風に流れてしまうところ、そして何にもまして地味(弱いかな)だけど味のあるジェイン・レルフ(Jane Relf)の幽かな声が好みです。兄者(Keith Relf)が出張っていて表に出てくる曲は少ないのだけど、まぁ、兄者はその道の実力者だから。もう一つ、かなりクラシカル(あるいはジャズ系)なピアノ、ハープシコードも決定的な印象を与えます。ここまで前に出て弾きまくるのは前にも後にもあまり例がない。10年程活動して(Keith Relfは志し半ばで急逝しますが)消滅したようですが、2001年に瞬間的に復活しています。

438 jyake06 1990

MCMXC a.D./Enigma

“エニグマ”は戦中ドイツで使われていた著名な暗号機の名前。グレゴリオ聖歌のハウス版で一躍有名になりましたが、「欲望の原理」とかSade(サド侯爵)とかどちらかというとかなり冒涜的ではないのかな? SadeをSadなどと誤解してないか? 「サド ディ モワ、サド ドンヌ モワ」って「サドは私に言った、サドは私に与えた」って意味じゃないか? そんなこと教会の前で言ったら殺されるかもしれないぞ。「Mea-culpa」も罪を認めてごめんなさいっていうよりは、あんたのためには背徳してやるって感じじゃないかなぁ。ふわっとした気持ちの良さはまったくその通りですが、こういうのをヒーリングとして扱うのもそれなりに面白いでしょう。グレゴリオ聖歌の部分がパクリだというのは有名な話みたいですが、他にもあちこちで、アフロディーテズ・チャイルドの『666』の音がサンプリングで使われてます。他にもBlack Sabbathの1stの雨音など。しかしパクられたグレゴリオ聖歌を歌っていた人達の心境はどうだったんでしょう? 神を称えて歌ったつもりが、あまり称えてないCDとしてヒットしちゃったわけだからなぁ。

439 jyake07 1971

Alpha Centauri/Tangerine Dream

たぶん、これをもって一つの時代が始まったなどと言うと少し大袈裟か。前作が既成の音楽というか個性のぶつかり合いの混沌に踏み止まっていたのに対し、ここでは最早リズムもないしメロディもない、音だけが構成と偶然にしたがって発音していく、一つの新しい形態が完成したといえるでしょう。ようやく、所謂シンセサイザ特有の音が聞こえたりもするのですが、決してメインの楽器ではなくて普通の楽器が普通に使われてます。現代音楽からの影響は大きいのでしょうが、かなりロマンチックだったりして無頓着に甘い部分があるのも事実。だから(でも)壮厳で単調で気持ちよくて抽象的な音響。当時のLP1~4枚目はドイツのOhr(オール:耳の意。日本では東芝)というレーベルから出てましたが、再発CDは現在Castleというところのリマスターです。これがまたジャケは表だけを使い回すは、曲の頭をちょん切るわでサイテーの仕上がりです。スリーブのアートワークは首領であるエドガー・フローゼ自身によるものですが、これは秀逸なセンス。でもLPのジャケってこうだったかな? 周囲の黒枠と右上の白文字はなかったと思います。

440 jyake08 1985

A secret wish/Propaganda

70年代クラウト系とはうって変わったダンサブルなビートでデビューしたプロパガンダの1作目。「ドクタ・マブーゼ(Dr.Mabuse)」に代表される戦前風の怪奇趣味と非人間的な無機質な機械性をアピールしてましたが、この辺は当時のZTT(イギリスのかなり変わったインディ・レーベル、日本のエージェンシィとかプロダクションみたい)に依る安っぽくて類型的で胡散臭い販促にしか思えませんでした。造られたイメージを演じきれないドイツ的生真面目さみたいなものが見えてしまって、なんか痛々しかったぞ。冷徹な単調さがとても心地良いユニットでしたが、取って付けたような感じが否めなくて上手くはない。特に御二人の女性はプロっぽくない。素人臭さで親近感を演出ってことなのだろうか。音楽的にはラルフ・デルパーというライブには出ない銀行のアナリストが二足のわらじで仕切っていたようですが、隠しても隠しきれないどよんとした冷湿さを称賛したい。

441 jyake09 1975

Godbluff/Van der Graaf Generator

復活第1作。楽団としての技量とハミルの歌が絶妙のコンビネーションをみせています。かなりタイトで重量級のリズムとキーボード、サックスの織り成すダークで独特のアンサンブルが静謐でかつ強烈です。囁き声から絶叫まで、ハミルの歌も絶好調というかその説得力には凄味すら感じられる。ハミルがソロでもやり始めた後だけに、楽団向きのものとソロ向きのものが巧く区分されて来たような気がします。音にも歌にも虚飾を徹底的に排した生身の情念に対峙するには、実は結構パワーが必要だもんでイージーリスニングできないという部分でとても損している部分はあるだろう。熱いのか冷たいのか自分でもよくわからないんだが、血の滾るエネルギィの音。

442 jyake10 1969

2/Soft Machine

エヤーズ(Kevin Ayers)がマジョルカに逃げたためベースにワイアット(Wyatt)の子供の頃からの友達、ヒュー・ホッパー(Hugh Hopper)を加えた2作目。長くても6分、短いのは9秒などという全17曲です。とはいっても切れ目が無いので、まぁ、そんなことはどうでもいいのか。ライブで演奏すると曲間で聴衆が反応するわけですが、ソフト・マシンの場合はあまりにも聴衆の期待を裏切るため、曲間は静まり返るか、ブーイングかどちらかだったそうで。そんな聴衆の反応が怖くて開発されたのが最初から最後まで途切れることなく演奏し続ける、「やっちゃったもん勝ちよ」みたいな手法だそうで、それをそのままレコードでも再現したそうです。本当かよ? いろいろな部分がいろいろと常識的ではなくて、ダダといえばそうなのかもしれん。マイク・ラトリッジが意外にピアノ弾いている曲が多くてちょっと面食らったりするけど、とても密度が濃い初期カンタベリィを代表する傑作。

443 jyake11 1982

Private parts & pieces III “Antiques”/Anthony Phillips

Private parts & pieces シリーズの3作目はアルゼンチンのギタリスト、エンリケ・ベロ・ガルシアとの共演のようです。このギター小品集(長いのもあるし、電気使っているのもあるけど)もそろそろ10作くらいになりますか、全然目立たないけれど息の長いシリーズです。とても上品なイングランド趣味というかそのものなのだけれど、同じジェネシス出身のハケット(Steve Hackett)とも雰囲気が似ているところがあります。ハケットのポップなセンスに対してずっとクラシックというか、トラッドというか地味ですが12弦ギターの響きがとても心地良い。82年当時、戦中なのか戦後なのか憶えていませんが、罪もなく? 死んでいった両国の人々に捧げられています。

444 jyake12 1970

The polite force/Egg

こよなく好みなエッグの二作目であり、実質的な最終作。ちっとも売れないどころか、危うくリリースされないところだったらしく、モント・キャンベルさんは業界と世間に絶望してフレンチホルンの勉強をするため音楽学校に入ったらしい。変わってますな。もちろん後のハットフィールズやナショナル・ヘルスの原型としても完成度は逸品でしょう。正直言って、いったい何拍子なのかさっぱりわからんこの驚異的に複雑怪奇なリズムと転調は何だろう? 1stはクラシックからの借物的部分が見え隠れしていたけれど、ここに来てのオリジナリティの確立は完璧に近い。デイブ・スチュアートのキーボードは結構熱いのだけど乗れない(踊れない)ことは請け合えます。「Contrasong(“反歌”とでも言うべきか)」というのはやっぱり強烈な皮肉というか、勝ち目のない抵抗なんでしょう。

445 jyake13 1972

Suite per una donna assolutamente relativa/I Dik Dik

録音が悪いせいか音がこもりますが、それが気にならないほどの内容を誇るミラノのポップ・グループ、ディク・ディクの突然変異作。響きの強いピアノと絡むようなメロトロンに依るカンツォーネ・シンフォ。トータル・アルバム構成ですが、60年代からやっているポップ・グループにしてはかなりアヴァン・ガルドな展開があって面白い。アナログ・シンセも結構目立ったりして「おやっ?」という雰囲気で音の間合いが立体的です。ゲストが弾いているみたいな話もあるそうですが、確かに他のレコードはほとんど演歌ポップス。でもまぁ、みんな経験豊かそうなおじさんばかりだし、ちょっとなんだか流行っているみたいだから“青っぽく”やってみたらできちゃったんだけど「どぅ?」って感じか。もちろん次に来る台詞は「やっぱりムツカシイことは合わないみたい」。空は青いしオレンジは旨い。

446 jyake14 1970

MaCdonald and Giles/MaCdonald and Giles

ジャイルズ兄弟の味のある素晴らしいリズムセクションとイアン・マクドナルドのコンポーザとしての才能が如何なく発揮された、唯一のアルバム。もちろんプレイヤーとしても超一流であることは間違いない。言われつくしたことだけれど、初期クリムゾンにおける曲の構成とかアレンジはマクドナルドに依るところが大きいのは一目瞭然。もっとも、こういう繊細さ(アッパーミドルとしての矜持もあるだろう)は業界で生き残っていくのには難しいだろうなとも思わせる。ところで、ジャイルズ兄弟は「ポセイドン」以降、まるでこの世に存在しなかったかのように姿が消えてしまった(後注:2000年代になって21世紀楽団やっております)が、何故なのだろう? 稀に誰かのレコードでドラム叩いてたりはあるみたいだが、今以って不思議で仕方がない。マイケル・ジャイルズのパーカッションには目を開かされた思いがあるんですが、ここまで表現力というか表情の豊かなパーカッションは後にも先にもあまり例がない。クリムゾンのアルバムよりもドラムの音が生っぽく録られていて、その圧倒的なまでの存在感(ずんどこ系とは正反対だけど)が堪能できます。

447
JA盤
jyake15

jyake15-2
UK盤
1995

Song of sanctuary/Adiemus

言わずと知れたCM音楽製作会社、ジェンキンズ&ラトリッジ社のプロジェクト。たとえソフト・マシンという過去がなくても、二人共その道のエリートであることは間違い無いようだ。NHKが特番の音楽(って聴いたわけでも見たわけでもないが)を依頼するぐらいだから名も知れ渡っているのでしょう。当初のバージョンは航空会社のCMとして製作されたらしい。初めて聴いたのは2作目ですが予備知識ゼロでUK盤の裏に書かれていた「Karl Jenkins」とジャケのデザインの素晴らしさに惚れて買いました。場末のディスカウント電器店の売り切りコーナーかなんかで埃を被った売れ残りをひっくり返していたとき、ちょっと目に留まってしまったわけです。正直、「なんだ、ソフト・マシンのおっさんやんけ」というのが最初の感想です、はい。中身についてはあちこちでタコができるほど言及されてるんで敢えて書きませんが、20年振りに見た二人の写真は貫禄だわなぁ。

しかし、このジャケは日本盤ですが何でこんなことをするのでせうか? 悲しすぎます。ヒーリングで売ってしまえという馬鹿さ加減丸出し。まぁ、それで(あるいはその方が)売れちゃうところがこの国の救いようの無さを表象してるともいえる。ちなみに国内盤は2作目も「海とイルカ」(おまけに2匹)ですが、ここまでいくと愚の骨頂を通り越して迷惑以外の何物でもない。注意力散漫なときなどうっかり新しいものかと思って買いそうになります。イルカって他の魚を食いまくる害獣だし、食っても美味くないし、フカヒレの代用になるのだろうか? イルカに何を託しているのだろうね?

448 jyake16 1974

The end/Nico

イーノ(Brian Eno)、マンザネラ、ケイル(John Cale)とよくある組み合わせ。地を這うような落ち切った声は健在ですが思ったよりは抑揚があるかもしれない。イーノのシンセサイザがもの凄い効果をあげていて、虚ろな声との相乗効果で輪を掛けたような陰鬱。この世のものとは思えない鳥獣のような鳴き声には表現する言葉を持たない。一方、タイトル曲はあまりにも有名なドアーズのカバー曲。ドアーズのは暗いけどビートが効いて格好良いって印象がありますが、ニコのものはもう立派に死んでおります。音と音の間に思い切り隙間が空いていて、そこには普通余韻があったりするのでしょうが、ここには何も無い。ぽっかりと無が口を開けて待っている。ラストはアウグスツ・ハインリッヒ・ホフマン・フォン・ファラースレーベン作詞の「世界に冠たる独逸」、端的に言えばドイツ国歌です。原曲はハイドン作曲です。「ベルリン空襲は花火のように綺麗だった」と語ったそうだから、本当はドイツ人? いろいろ探したけど諸説が入り乱れ結局よくわからない、謎な人だな。

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最終更新日 2002/12/11