ホーム > サイトマップ > 医療 > 医療関係論文 > 高血圧症薬物療法の変遷


高血圧症薬物療法の変遷

 開業医31年間のまとめ

2004.11.11. 掲載
このページの最後へ

目次
 1.はじめに
 2.降圧薬の分類(本邦発売順)
 3.1995年9月処方の降圧薬
 4.2004年9月処方の降圧薬
 5.95年と04年の処方降圧薬の比較
 6.各国高血圧管理ガイドライン
 7.今日の治療指針にみる34年間の降圧療法の変遷
 8.まとめ


1.はじめに

開業20年を記念するアカデミックなまとめとして、20年間の紹介患者の分析を行い、それを学会発表した後、学会誌に内科開業20年間における紹介患者の分析のタイトルで投稿しました。開業31年の記念として、もちろん、その後11年間の紹介患者データを加えて分析をする予定ではいますが、これには新しい視点がなく、焼き直しの感じは否めません。

そこで、今回は過去に診療を行ってきた疾患の中で、代表的なものについて、31年間の変遷をまとめてみようと考えました。今から20年前の1984年に当院の年間疾病統計をレセプトコンピュータから取り出し分析したことがあります。その中で、一番多い疾患は急性上気道炎で月平均245件でしたが、その次は高血圧症で130件、あとは、慢性胃炎の120件、急性気管枝炎の111件、慢性肝炎の54件と続きます。

そこで、慢性疾患として最も診療件数の多い「高血圧症」を31年間の診療の代表疾患に選びました。そして高血圧症の薬物治療に的を絞り、その変遷をまとめてみようと考えました。今から約10年前に、二つの大手製薬メーカーの営業所で「内科医院での高血圧症の薬物療法」というテーマの講演を行ったことがあり、その時にまとめた95年9月分の降圧薬の処方データが残っています。これと本年(04年)9月分の降圧薬処方データと比較することで、降圧療法の変遷を具体的に検討することができます。

また、私は開業する2年前から今日の治療指針を購入して診療の参考にしてきました。1991年にCD−ROM版が出るまでは隔年で、それ以降は毎年購入し、それを全て所持しています。毎年ほぼ同じ基準で刊行されてきたこの「今日の治療指針」で取り上げられた降圧薬を調べることで、わが国の標準的降圧療法の変遷を知ることができます。このような資料は恐らく誰もお持ちにならないでしょう。

降圧薬の分類についても、そのグループの最初の薬剤がわが国で発売された順に番号を付けて並べました。このような並べ方も余り見かけませんが、降圧薬の変遷を調べるには、こちらの方が分かり易く便利です。


2.降圧薬の分類(本邦発売順)

高血圧症の治療薬を本邦での発売順に並べてみると、下記のようになります。末梢性交感神経抑制薬のレセルピンと血管拡張薬のアプレゾリンが発売されたのは1954年、私が医学部に入学する前年でした。1960年代の降圧薬の主流であったサイアザイド系利尿薬の中で、最初に登場したのがダイクロトライドです。これが発売された1958年は医学部学生で、栄養学の須田教授が「製薬会社の宣伝に乗せられて、この薬の薬理を知らずに使っていると、低カリウム血症になる」とその発生メカニズムを解説し、警告されたのを思い出します。

アルドメット以降現在使われている降圧薬のすべては、私が医師となってから発売されたものばかりです。4.交感神経末端遮断薬のイスメリンを除いては、開業してからすべてのタイプの降圧薬を使ってきました。そういうわけで、私の世代の医師は、ほとんどの降圧薬を経験することができました。

 1.末梢性交感神経抑制薬 レセルピン    1954年
 2.血管拡張薬      アプレゾリン   1954年
 3.サイアザイド系利尿薬 ダイクロトライド 1958年
 4.交感神経末端遮断薬  イスメリン    1960年
 5.中枢性交感神経抑制薬 アルドメット   1962年
 6.K保持性利尿薬    アルダクトンA  1963年
 7.ループ系利尿薬    ラシックス    1965年
 8.β遮断薬       インデラル    1966年
 9.Ca拮抗薬      ヘルベッサー   1974年
   Ca拮抗薬      アダラート    1975年
10.α遮断薬       ミニプレス    1981年
11.ACE阻害薬     カプトリル    1982年
   ACE阻害薬     レニベース    1986年
12.AII受容体拮抗薬   ニューロタン   1998年

3.1995年9月処方の降圧薬

このデータは95年10月19日に藤沢薬品工業の営業所で「内科医院での高血圧症の薬物療法」というテーマの講演を行った時に作ったものです。大学や病院の先生の講義だけでなく、開業医師の降圧治療の実際を知りたい、という要望から実現したのでした。

    薬剤名         1日量   月使用量 月投薬人数  同左比率
 3.サイアザイド系利尿薬              (18人)  4.4%
    フルイトラン 2mg    1T    322T  12人       
    ナトリックス 1mg    1T    154T   6人       

 5.中枢性交感神経抑制薬               (5人)  1.2%
    ワイテンス 2mg     2T    266T   5人       

 6.K保持性利尿薬                 (37人)  9.0%
    アルダクトンA 25mg  1T   1032T  37人       

 7.ループ系利尿薬                  (3人)  0.7%
    ラシックス 40mg    1T     79T   3人       

 8.β遮断薬                     (55人) 13.3%
    アプロバ−ル 25mg   3C    842C  10人       
    インデラル  20mg   3T     42T   1人       
    ベ−タ−プレッシン10mg 2T     84T   2人       
    ナディック 30mg    1T    566T  20人       
    セロケン 40mg     3T    280T   3人       
    テノ−ミン 50mg    1T    378T  14人       
    アルマ−ル 10mg    2T    224T   4人       
    ア−チスト 20mg    1T     28T   1人       

 9.Ca拮抗薬                  (152人) 36.9%
    アダラート 10mg    3C    146C   2人       
    アダラートL 10mg   2T    112T   2人       
    アダラ−トL 20mg   2T    672T  12人       
    バイミカード 5mg    1T    238T   9人       
    バイロテンシン 10mg  1T    546T  20人       
    ニバジール 4mg     2T    462T   8人       
    コニール 4mg      1T    833T  30人       
    アムロジン 5mg     1T    686T  25人       
    ペルジピン 20mg    3T   2772T  33人       
    ペルジピンLA 40mg  2T     84T   2人       
    ヘルベッサ− 30mg   3T    672T   8人       
    ヘルベッサ−R 100mg 1C     28C   1人       

10.α遮断薬                    (107人) 26.0%
    ミニプレス 1mg     1T     28T   1人       
    カルデナリン 1mg    1T   2968T 106人       

11.ACE阻害薬                  (35人)  8.5%
    レニベース 5mg     1T    798T  29人       
    チバセン 5mg      1T     28T   1人       
    タナトリル 5mg     1T    140T   5人       

                 延投薬 人数 合計(412名) 100.0%
       全患者数:1040名  高血圧症患者数:310名  (29.8%)
                高血圧症患者1人当りの降圧薬の種類 1.3剤


図1.1995年9月処方の降圧薬

1995年9月の全患者数は1040名で、そのうち高血圧症の患者は310名でした。これは全患者の約30%を占めます。また、高血圧症の患者一人当たりの降圧薬の種類は1.3剤でした。

降圧薬の種類を大別すると、図1のように、9.Ca拮抗薬が最も多く36.9%、次いで10.α遮断薬の26.0%、8.β遮断薬の13.3%、6.K保持性利尿薬の9.0%、11.ACE阻害薬の8.5%、3.サイアザイド系利尿薬の4.4%と続きます。

Ca拮抗薬は降圧作用が強い反面、顔面紅潮や頭痛の副作用もかなりあり、使い難い場合がありました。ペルジピンの処方が多いのは、降圧作用がマイルドで血圧を下げ過ぎないこと、フラッシングなどの副作用が少ないことによります。しかし、コニールが発売されると、十分な降圧作用があるのに副作用が非常に少なく、1日1回の服用なのでコンプライアンスが良いため、こちらへの処方が増えて行きました。そして、93年にアムロジン(ノルバスク)が発売されると、副作用はコニールと同じくらい少なく、半減期が降圧剤の中で一番長く36時間有効であることなどのメリットがあり、急速に処方が増えて行きました。

α遮断薬が2番目に処方が多く、降圧薬の26%を占めていることを不思議に思われるかも分かりません。α遮断薬は代謝に悪影響を及ぼさず脂質代謝を改善する降圧薬というメリットを掲げて登場したのですが、ミニプレスは起立性低血圧を起こすので使いづらい印象を持っていました。しかし、これが前立腺肥大症に有効であることが分かり、高齢の前立腺肥大症の患者に使ってみると、前立腺肥大症に有効で、起立性低血圧はほとんど起こらないことを経験しました。これがきっかけとなり、処方をするようになったのです。

そして、ミニプレスの副作用を少なくしたカルデナリンが発売されると、積極的に処方を増やして行きました。この対象は、軽症の高血圧症、前立腺肥大症を伴うもの、糖尿病や痛風などの代謝異常の合併症のある場合でした。高血圧症の患者の26%に、これを処方してきましたが、その間に起立性低血圧症を起こしたのは、服用法を間違えた1名だけでした。そう言うわけで、使い難いと思われていたα遮断薬を、自信を持って処方するようになりなりました。

β遮断薬として最初に発売されたインデラルは適応が不整脈で、心臓手術後の不整脈にシングルショットで使われて、急性心不全で死亡した症例をいくつか見てきました。開業した頃から、適応症が高血圧症にまで広がりましたが、心不全をきたし易いのではないかという漠然とした不安とか、喘息には禁忌であることなどから、最初は使いづらい薬でした。そのほか、ISA(+)、ISA(−)の差異を問題としたりで、理屈が先走っていて、使ってみようという意欲が湧かなかったように覚えています。

その後、セロケン(ロプレソール)というβ1 選択性のβ遮断薬が登場し、呼吸器疾患のある患者にも使い易くなりました。しかし、89年12月に大手製薬メーカーから夢の降圧薬とのキャッチフレーズで登場したαβ遮断薬のジレバロンに死亡例が発生したため、8ヶ月後には発売中止に追い込まれるなど、降圧薬としてのβ遮断薬に、あまり良い印象を持てなかった時期でした。

K保持性利尿薬の処方が9.0%というのも珍しいかも分かりません。女性には特発性浮腫、月経前浮腫などがよく見られます。そのような患者を含めて、軽症の高血圧症の治療にアルダクトンAを処方することが多く、そのためにK保持性利尿薬の処方が多いのだと思います。この薬は降圧薬としては男性に処方することはありません。それは、これを服用した多くの男性に女性乳房という副作用が現われるからです。

ACE阻害薬として最初に発売されたカプトリルは、それほど使わなかったように覚えています。次に発売されたレニーベースは1日1回の服用で良く、降圧作用が強すぎることもなく、合併症のある場合や老人にも安全に使用できることから、一時は降圧薬の中でCa拮抗薬に匹敵するほど多く処方してきました。

発売されて数年間は、ACE阻害薬の心筋保護作用も「空咳」の副作用もまだ知られてませんでした。その後、心臓移植しか方法がないとされていた特発性心筋症の患者に、これが有効だったことを知り、この薬の有用性を再認識しました。しかし、「空咳」を起こしやすいという副作用を知ってしまうと、副作用がほとんどなく、降圧作用が強力なコニールやアムロジンを第一選択薬として処方し、それで降圧効果が不足する場合に、このACE阻害薬を追加するように変わって行き、処方量が減って行きました。

サイアザイド系利尿薬の処方が4.4%と少ないのも普通ではないかも分かりません。私が開業をした約30年前から10年近くの間、サイアザイド系利尿薬は降圧薬の主流でした。それが斜陽になったのは、Ca拮抗薬β遮断薬α遮断薬ACE阻害薬など次々と新しい降圧薬が開発され発売されてきたことが最大の理由だと思います。

その他サイアザイド系利尿薬には、代謝異常を引き起こす可能性があり、糖尿病や高尿酸血症の合併症のある高血圧症には使えないことも大きく影響しています。どちらも年々増加し続けている疾患で、これに使えない、あるいはこの疾患を誘発する恐れがあると言われると、処方をためらうようになりました。

この薬には嫌な副作用の現われることがまれにあり、その一つは光線過敏症(日光皮膚炎)で、2例経験しました。もう一つは、男性の性機能低下で、ある患者に指摘されて変薬した経験があります。これらが積み重なって、サイアザイド系利尿薬の処方が少なくなったのだろうと思っています。

以上が1995年9月に私が処方した降圧薬の分析とその解説です。


4.2004年9月処方の降圧薬

95年の降圧薬のデータが残っていましたので、それと比較検討できるように、今年の同じ月の降圧薬の処方データをまとめてみました。ほぼ10年で降圧薬の処方はどのように変わったのかを知ることは、私自身にとっても興味があるテーマでした。

    薬剤名         1日量    月使用量 月投薬人数  同左比率
 3.サイアザイド系利尿薬              (36人)  6.9%
    フルイトラン 2mg    1T    200T   7人       
    ナトリックス 1mg    1T    735T  26人       
    ノルモナール 15mg   1T     90T   3人       

 5.中枢性交感神経抑制薬               (1人)  0.2%
    ワイテンス 2mg     1T     28T   1人       

 6.K保持性利尿薬                 (43人)  8.3%
    アルダクトンA 25mg  1T   1208T  43人       

 7.ループ系利尿薬                  (9人)  1.7%
    ラシックス 40mg    1T    112T   4人       
          20mg    1T    142T   5人       

 8.β遮断薬                     (61人) 11.7%
    インデラル 20mg    3T     90T   1人       
    ナディック 30mg    1T    147T   5人       
    テノ−ミン 50mg    1T    812T  29人       
          25mg    1T    432T  15人       
    アルマ−ル 10mg    2T    432T   7人       
           5mg    2T     56T   1人       
    ア−チスト 20mg    1T     71T   2人       
    メインテート 5mg    1T     28T   1人       

 9.Ca拮抗薬                  (272人) 52.3%
    アダラートL 10mg   2T    100T   2人       
    アダラ−トL 20mg   2T    158T   3人       
    アダラ−トCR 20mg  1T     58T   2人       
    バイロテンシン 10mg  1T     86T   3人       
    ニバジール 4mg     2T     30T   1人       
          2mg     2T    126T   2人       
    コニール  4mg     1T    454T  16人       
    アムロジン 5mg     1T   6319T 226人       
    ペルジピン 20mg    3T    426T   5人       
    ペルジピンLA 40mg  2T       T   0人       
    ヘルベッサ− 30mg   3T    140T   2人       
    ヘルベッサ−R 100mg 1C    236C   8人       
    ランデル 20mg     2T     84T   1人       
    カルスロット 20mg   1T     30T   1人       

10.α遮断薬                     (37人)  7.1%
    カルデナリン 1mg    1T   1036T  37人       

11.ACE阻害薬                  (48人)  9.3%
      レニベース 5mg   1T    218T   8人       
      タナトリル 5mg   1T   1109T  40人       

12.AII受容体拮抗薬(ARB)           (13人)  2.5%
    ニューロタン 50mg   1T    172T   6人       
    ブロプレス 8mg     1T    182T   7人       

                  延べ投薬人数 合計(520名)100.0%
        全患者数:843名   高血圧症患者数:315名 (37.4%)
                 高血圧症患者1人当りの降圧薬の種類 1.7剤


図2.2004年9月処方の降圧薬

2004年9月の全患者数は843名で、そのうち高血圧症の患者は315名でした。これは全患者の約37%を占めます。また、高血圧症の患者一人当たりの降圧薬の種類は1.7剤でした。

降圧薬の種類を大別すると、図2のように、9.Ca拮抗薬が最も多く52.3%、次いで8.β遮断薬の11.7%、11.ACE阻害薬の9.3%、6.K保持性利尿薬の8.3%、10.α遮断薬の7.1%、3.サイアザイド系利尿薬の4.4%、12.AII受容体拮抗薬の2.5%と続きます。

Ca拮抗薬が処方降圧薬の過半数を占めていますが、その83%がアムロジンです。降圧作用が適度に強く、副作用は少なく、1日1回の服用のためコンプライアンスが良く、半減期が降圧剤の中で一番長く36時間有効であることから、1日飲み忘れても大きな影響が出ないなどのメリットがあり、エビデンスも次々と報告され、急速に処方が増えました。他のCa拮抗薬は頻脈型の高血圧症に使うヘルベッサーRを除けば、過去のつながりで使っているものばかりになってしまいました。

β遮断薬にもCa拮抗薬と同じ傾向が見られ、β1 選択性で1日1回投与のテノーミンがβ遮断薬全体の72%を占めています。β1 非選択性の遮断薬は淘汰される運命にあると思われますが、β1 選択性遮断薬として最初に登場したセロケン(ロプレソール)も、1日3回服用というデメリットのために使わなくなって来ました。

ACE阻害薬は、心血管系に障害のある高血圧症にも有効であるというエビデンスが次々と報告され、Ca拮抗薬、β遮断薬に次いで、処方が多くなってきました。しかし、「空咳」の副作用が気になるので、ACE阻害薬の中で一番「空咳」の出現が少ないといわれているタナトリルの処方が83%を占め、ここでも1日1回服用で副作用の少ない薬を選択する傾向が見られます。

K保持性利尿薬の処方は9年前より少し減りましたが、それでも8.3%あります。最近この薬の心不全に対する有用性が報告され、再評価されています。

α遮断薬は9年前には2番目に処方が多く、降圧薬の26%を占めていましたが、今回は7%に減り、順位も第5位に後退しました。その大きな理由は、降圧作用が弱いこともありますが、後で述べるALLHATと呼ばれる降圧薬の比較試験で、心不全をもたらす危険があるとの理由から試験の途中で対象から外されたとことを知った影響が大きいと思います。このα遮断薬の減少分をCa拮抗薬が埋めた形となり、Ca拮抗薬の圧勝となってしまいました。

サイアザイド系利尿薬の処方が4.4%から6.9%に増えています。これはALLHATで、サイアザイド系利尿薬の有効性が報告されたこと、それに基づいたJNC7 2003というアメリカの降圧薬のガイドラインで、ただ一つの第1選択薬とされたことに少しは影響を受けているかも分かりません。

もっとも、9年前はサイアザイド系利尿薬の中の7割弱をフルイトランが占めていましたが、今回はその7割強がナトリックスに変わっています。ナトリックスはサイアザイド系類似薬に分類され、純粋のサイアザイド系利尿薬ではないため、副作用がより少ないのではないかとの期待があったことも関係しているかも分かりません。

以上が2004年9月に私が処方した降圧薬の分析とその解説です。


5.95年と04年の処方降圧薬の比較

9年間で私の降圧薬の処方がどのように変わったかを比較検討してみました。

                 1995年      2004年  
--------------------------------------------------------------------------
 3.サイアザイド系利尿薬 18人( 4.4%)  36人( 6.9%)
   フルイトラン      12人          7人       
   ナトリックス       6人         26人       
   ノルモナール       0人          3人       

 5.中枢性交感神経抑制薬  5人( 1.2%)   1人( 0.2%)
   ワイテンス        5人          1人       

 6.K保持性利尿薬    37人( 9.0%)  43人( 8.3%)
   アルダクトンA 1   37人         43人       

 7.ループ系利尿薬     3人( 0.7%)   9人( 1.7%)
   ラシックス40      3人          4人       
        20      0人          5人       

 8.β遮断薬        55人(13.3%)  61人(11.7%)
   アプロバ−ル      10人          0人       
   インデラル        1人          1人       
   ベ−タプレッシン     2人          0人       
   ナディック       20人          5人       
   セロケン         3人          0人       
   テノ−ミン50     14人         29人       
        25      0人         15人       
   アルマ−ル10      4人          7人       
         5      0人          1人       
   ア−チスト        1人          2人       
   メインテート       0人          1人       

 9.Ca拮抗薬     152人(36.9%) 272人(52.3%)
   アダラート        2人          0人       
   アダラートL10     2人          2人       
        L20    12人          3人       
   アダラ−トCR      0人          2人       
   バイミカード       9人          0人       
   バイロテンシン     20人          3人       
   ニバジール4       8人          1人       
        2       0人          2人       
   コニール        30人         16人       
   アムロジン       25人        226人       
   ペルジピン       33人          5人       
   ペルジピンLA      2人          0人       
   カルスロット       0人          1人       
   ヘルベッサ−       8人          2人       
   ヘルベッサ−R      1人          8人       

10.α遮断薬       107人(26.0%)  37人( 7.1%)
   ミニプレス        1人          0人       
   カルデナリン     106人         37人       

11.ACE阻害薬     35人( 8.5%)  48人( 9.3%)
   レニベース       29人          8人       
   チバセン         1人          0人       
   タナトリル        5人         40人       

12.ARB         0人( 0.0%)  13人( 2.5%)
   ニューロタン 50    0人          6人       
   ブロプレス        0人          7人       
--------------------------------------------------------------------------
合計延べ人数       412人        520人       

全患者数        1040人        843人       
高血圧症患者数      310人(29.8%) 315人(37.4%)
1人当りの降圧薬の種類   1.3         1.7       

全患者数は9年間で1040人から843人に減少していますが、高血圧症の患者数は310人が315名とほとんど変わりありません。その結果、全体に占める高血圧症の患者の割合も29.8%から37.4%に増加しています。全患者数が2割近く減っているのは、老人の1割負担、健保本人の3割負担、不況などの影響を受けて、風邪などの簡単な病気での受診が減ったことが一番大きく影響していると思います。それに対して、高血圧症などの投薬を必要とする慢性疾患の場合は、受診抑制が少ないのではないかと考えました。

高血圧症の患者一人当たりの降圧薬の種類が1.3剤から1.7剤に増えているのは、高血圧症の程度が進んでいることのほかに、単剤投与で量を増やすよりも多剤投与の方が副作用などの面から好ましいとする最近の傾向に影響されているのかも分かりません。


図3.95年と04年の処方降圧薬の比較

降圧薬の種類別に比較してみると、図3のように、9.Ca拮抗薬は9年前も処方が最も多かったのが、更に増えて52.3%を占めていること、10.α遮断薬が大幅に減り5位となったこと、そのほかは微増微減で、12.ARBが新に加わったことが9年前との違いです。


6.各国の高血圧管理ガイドライン

最近連続して各国の高血圧症治療のガイドラインが発表されました。その内の降圧薬についての各ガイドラインでの違いを簡単に説明します。

1.WHOのガイドライン(1999年)
  WHO/ISH 1999(世界保健機関/国際高血圧学会)高血圧管理ガイドライン
  Ca拮抗薬、ACE阻害薬、ARB、利尿薬、β遮断薬、α遮断薬の6薬剤が
  高血圧治療における第一選択薬

2.日本のガイドライン(2000年)
  JSH 2000(日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン)
  Ca拮抗薬、ACE阻害薬、ARB、利尿薬、β遮断薬、α遮断薬の6薬剤が
  高血圧治療における第一選択薬

3.アメリカのガイドライン(2003年)
  JNC7 2003(高血圧の予防・発見・診断・治療に関する米国合同委員会の第7次報告)
  第一選択薬として利尿薬を投与し、160/100mmHg以上であれば利尿薬と他の薬剤を
  併用する。
  ただし、α1遮断剤は除かれ、K保持性利尿薬は心不全、心筋梗塞後の心不全に有効
  とする。

4.ヨーロッパのガイドライン(2003年)
  ESH 2003(欧州高血圧学会高血圧管理ガイドライン)
  Ca拮抗薬、ACE阻害薬、ARB、利尿薬、β遮断薬、α1遮断剤の6薬剤が
  高血圧治療における第一選択薬

以上過去4年間で4種類の高血圧症治療ガイドラインが公表されましたが、その内のアメリカのガイドラインが他の3つのガイドラインと大きく異なっています。それは、1)サイアザイド系利尿薬を第1選択薬とし、中等症以上の高血圧症ではじめて他剤を併用するとしたこと。2)冠動脈疾患の高リスクや糖尿病にもサイアザイド系利尿薬適応としていること。3)α遮断剤を脂質代謝異常、糖尿病、前立腺肥大症のある場合にも適応外としていること。4)K保持性利尿薬を心筋梗塞や心不全の適応としていること。5)ハイリスク病態のすべてにACE阻害薬を適応としていること。6)Ca拮抗薬は冠動脈疾患のハイリスクと糖尿病という2つの病態にのみ推奨していることです。

日本の医療はアメリカの医療の影響を受けやすいので、日本の高血圧症の治療ガイドラインもこれからはサイアザイド系利尿薬重視に変わっていくかも分かりません。しかし、糖尿病や高尿酸血症(痛風)のある高血圧症にサイアザイド系利尿薬を使うようなことはないと思います。

Ca拮抗薬はわが国では最も多く使われている降圧薬ですが、それは日本人の場合に降圧効果が極めて良好であることと、日本人には冠動脈攣縮性狭心症が多く、これにはCa拮抗薬が最も有効であることが関係していると考えられ、Ca拮抗薬の使用頻度はそれほど減らないのではないかと考えられます。

ACE阻害薬AII受容体拮抗薬(ARB)のようなR-A系抑制薬は、糖尿病や腎疾患を合併した高血圧症に対して今後ますます多く使われるのではないかと予想されますが、薬価の高い薬の多いことが問題です。

2002年12月に報告されたALLHAT(Antihypertensive and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial)で、心不全の発症が有意に高いとの中間解析結果から、α遮断薬は倫理上の問題で比較試験から外されました。これに基づいてアメリカのガイドラインでは、α遮断薬を脂質代謝異常、糖尿病、前立腺肥大症のある場合にも適応外としていますが、これには異論が多くあると思われ、将来この薬剤が消えていく運命にあるのか否か定かではありません。

以上のように今後のわが国での降圧薬の使われ方について予想してみましたが、日本の新しい高血圧治療ガイドライン(JSH2004)試案が先月発表されましたので、その概要をまとめておきます。

5.日本のガイドライン(JSH2004)試案
日本高血圧学会は、2004年10月9日に、第27回日本高血圧学会総会において新しい高血圧治療ガイドライン(JSH2004:Japanese Society of Hypertension Guidelines for the Management of Hypertension 2004)試案を発表しました。2004年12月に最終版として冊子刊行が予定されているようです。

第一選択薬はJSH2000と同じ6種類が挙げられていますが、利尿薬「二剤併用で降圧不十分な場合」に追加が指示され、事実上併用薬との位置づけになっていて、アメリカには倣わなかったようです。ただし、利尿薬「脳血管疾患後」「腎不全(ループ利尿薬)」が新たな適応となり少し評価を高めたと言えるでしょう。α遮断薬の適応からは「糖尿病」が削除されました。

レニン・アンジオテンシン(R-A)系抑制薬(ARBとACE阻害薬)の適応として、これまで「軽度の腎障害」とされていたものが「腎障害」に改訂され、評価が高まりましたが、ACE阻害薬「気管支過敏性を高めるので注意」とされ「空咳がみられた場合はアンジオテンシンII受容体拮抗薬に変更する」ことが勧められています。

結論として、降圧薬についてはアメリカのガイドラインの影響は少なく、利尿剤の評価をやや高めたこと、α遮断薬の評価をやや低めたことくらいです。その他、(R-A)系抑制薬の評価を高めたことを含めて、今回の改訂はリーズナブルであると思いました。


7.今日の治療指針にみる34年間の降圧療法の変遷

私は開業する2年前から「今日の治療指針」を購入し診療の参考にしてきました。1991年にCD−ROM版が出るまでは隔年で、それ以降は毎年購入し、それを全て所持しています。「今日の治療指針」は毎年ほぼ同じ基準で刊行されて来ましたので、ここで取り上げられた降圧薬を調べることによって、わが国の標準的降圧療法の変遷を知ることができます。それを以下の形式で順次列挙いたします。降圧薬の種類については、先の当院処方降圧薬の分析と同じように、本邦発売順に番号を付けて並べました。

<出版西暦年>執筆者名
 1.末梢性交感神経抑制薬 商品名
 2.血管拡張薬      商品名
 3.サイアザイド系利尿薬 商品名
 4.交感神経末端遮断薬  商品名
 5.中枢性交感神経抑制薬 商品名
 6.K保持性利尿薬    商品名
 7.ループ系利尿薬    商品名
 8.β遮断薬       商品名
 9.Ca拮抗薬      商品名
10.α遮断薬       商品名
11.ACE阻害薬     商品名
12.ARB        商品名

この作業をしながら、歴代の執筆者の名前や昔の降圧薬の商品名を懐かしく思い出しました。また、新しいタイプの降圧薬が標準的に使われ始めた年を見て、降圧薬の進歩、医療の進歩を改めて認識しました。ふり返ってみれば、過去31年間は、医療界だけではなくすべての分野で、また、日本だけでなく世界的な規模で、未曾有の変化のあった歳月でした。その時代に生きて、多くのことを経験できた幸せを思います。

<1971>木村 武
 1.末梢性交感神経抑制薬 レセルピン、アポプロン
 2.血管拡張薬      アプレゾリン
 3.サイアザイド系利尿薬 フルイトラン他
 4.交感神経末端遮断薬  イスメリン、ベタニドール
 5.中枢性交感神経抑制薬 アルドメット
 6.K保持性利尿薬    アルダクトンA

<1973>安田寿一
 1.末梢性交感神経抑制薬 レセルピン
 2.血管拡張薬      アプレゾリン
 3.サイアザイド系利尿薬 ダイクロトライド、レニーズ、フルイトイラン
 4.交感神経末端遮断薬  イスメリン、ベタニドール
 5.中枢性交感神経抑制薬 カタプレス、アルドメット
 7.ループ系利尿薬    ラシックス
 8.●β遮断薬      インデラル(初登場)

<1975>野村岳而
 1.末梢性交感神経抑制薬 レセルピン
 2.血管拡張薬      アプレゾリン
 3.サイアザイド系利尿薬 フルイトラン、ハイグロトン
 4.交感神経末端遮断薬  イスメリン、ベタニドール
 5.中枢性交感神経抑制薬 アルドメット、カタプレス
 7.ループ系利尿薬    ラシックス
 8.β遮断薬       カルビスケン

<1977>宮原光夫
 1.末梢性交感神経抑制薬 レセルピン
 2.血管拡張薬      アプレゾリン、アピラコール
 3.サイアザイド系利尿薬 サイアザイド剤
 4.交感神経末端遮断薬  イスメリン、ベタニドール
 5.中枢性交感神経抑制薬 アルドメット、カタプレス
 6.カリウム保持性利尿薬 アルダクトンA
 7.ループ系利尿薬    ラシックス
 8.β遮断薬       インデラル

<1979>佐藤辰男
 1.末梢性交感神経抑制薬 レセルピン
 2.血管拡張薬      アプレゾリン、アピラコール
 3.サイアザイド系利尿薬 サイアザイド剤
 4.交感神経末端遮断薬  イスメリン、ベタニドール
 5.中枢性交感神経抑制薬 アルドメット、カタプレス
 6.K保持性利尿薬    アルダクトンA
 7.ループ系利尿薬    ラシックス
 8.β遮断薬       インデラル
 9●Ca拮抗薬      ヘルベッサー、アダラート(初登場)

<1981>尾前照雄
 1.末梢性交感神経抑制薬 レセルピン
 2.血管拡張薬      アプレゾリン
 3.サイアザイド系利尿薬 ナビドレックス、フルイトラン、ダイクロトライド
 4.交感神経末端遮断薬  イスメリン、ベタニドール
 5.中枢性交感神経抑制薬 アルドメット、カタプレス
 7.ループ系利尿薬    ラシックス
 8.β遮断薬       インデラル、カルビスケン
 9.Ca拮抗薬      アダラート

<1983>藤井 潤
 1.末梢性交感神経抑制薬 レセルピン
 2.血管拡張薬      アプレゾリン
 3.サイアザイド系利尿薬 フルイトラン、ダイクロトライド
 5.中枢性交感神経抑制薬 アルドメット、カタプレス
 7.ループ系利尿薬    ラシックス
 8.β遮断薬       カルビスケン、ミケラン、インデラル
 9.Ca拮抗薬      アダラート

<1985>梶原長雄
 2.血管拡張薬      ブテラジン
 3.サイアザイド系利尿薬 フルイトラン
 5.中枢性交感神経抑制薬 アルドメット
 7.ループ系利尿薬    ラシックス
 8.β遮断薬       アセタノール、インデラル、トランデート、ミケラン
 9.Ca拮抗薬      アダラート、ヘルベッサー、ペルジピン
10●α遮断薬       ミニプレス(初登場)
11●ACE阻害薬     カプトリル(初登場)

<1988>増山善明
 3.サイアザイド系利尿薬 フルイトラン、ダイクロトライド
 5.中枢性交感神経抑制薬 アルドメット、カタプレス、ワイテンス
 7.ループ系利尿薬    ラシックス
 8.β遮断薬       インデラル、テノーミン、アルマール、ミケラン
 9.Ca拮抗薬      ヘルベッサー、ペルジピン
10.α遮断薬       ミニプレス、デタントール
11.ACE阻害薬     カプトリル、レニベース

<1990>荒川規矩男
 3.サイアザイド系利尿薬 バイカロン、ナビドレックス
 5.中枢性交感神経抑制薬 アルドメット
 8.β遮断薬       テノーミン、ロプレソール、セタプリル
 9.Ca拮抗薬      アダラートL、ペルジピンLA、ペルジピン、ニバジール
10.α遮断薬       ミニプレス、デタントール
11.ACE阻害薬     カプトリルR、レニベース、アデカット

<1991>飯村 攻
 3.サイアザイド系利尿薬 フルイトラン
 5.中枢性交感神経抑制薬 アルドメット
 6.K保持性利尿薬    アルダクトンA、ジウセルピン
 7.ループ系利尿薬    ラシックス
 8.β遮断薬       セロケン、テノーミン、インデラル
 9.Ca拮抗薬      アダラートL、ヘルベッサー、バイミカード、バイロテンシン
              ペルジピンLA
10.α遮断薬       ミニプレス
11.ACE阻害薬     レニベース、カプトリル

<1992>柊山幸志郎
 2.血管拡張薬      アプレゾリン
 3.サイアザイド系利尿薬 ナトリックス、フルイトラン
 6.K保持性利尿薬    アルダクトンA
 7.ループ系利尿薬    ラシックス
 8.β遮断薬       テノーミン、ロプレソール、ミケラン、セロケン、インデラル
 9.Ca拮抗薬      バイロテンシン、アダラートL、ペルジピン
              ニバジール、ヘルベッサー
10.α遮断薬       カルデナリン、バソメット
11.ACE阻害薬     アデカット、レニベース、カプトリル

<1993>道場信孝
 3.サイアザイド系利尿薬 フルイトラン
 5.中枢性交感神経抑制薬 カタプレス、ワイテンス
 7.ループ系利尿薬    ラシックス
 8.β遮断薬       メインテート、テノーミン、セロケン、アルマール、セクトラール
 9.Ca拮抗薬      バイロテンシン、ペルジピンLA、ニバジル、アダラートL
  .           バイミカード、アダラート、コニール、ヘルベッサー
10.α遮断薬       カルデナリン
11.ACE阻害薬     インヒベース、カプトリルR、アデカット、ロンゲス、カプトリル
              レニベース

<1994>松岡博昭
 3.サイアザイド系利尿薬 ナトリックス、フルイトラン
 5.中枢性交感神経抑制薬 アルドメット
 6.K保持性利尿薬    アルダクトンA
 7.ループ系利尿薬    ラシックス
 8.β遮断薬       テノーミン、メインテート、ロプレソール
 9.Ca拮抗薬      カルスロット、バイロテンシン、アダラートL、ペルジピン
              ヘルベッサー
10.α遮断薬       カルデナリン
11.ACE阻害薬     レニベース、アデカット、セタプリル、カプトプリル

<1995>久代登志男
 2.血管拡張薬      カドラール
 3.サイアザイド系利尿薬 フルイトラン
 7.ループ系利尿薬    ラシックス
 8.β遮断薬       テノーミン、サンドノーム、セレクトール
 9.Ca拮抗薬      ノルバスク、アムロジン、ヒポカ
 1.α遮断薬       カルデナリン、デタントール
11.ACE阻害薬     インヒベース、カプトリルR、ロンゲス、レニベース

<1996>道場信孝
 3.サイアザイド系利尿薬 フルイトラン
 5.中枢性交感神経抑制薬 ワイテンス
 7.ループ系利尿薬    ラシックス
 8.β遮断薬       メインテート、アセタノール、テノーミン、インデラル、セロケン
  .           アルマール
 9.Ca拮抗薬      ランデル、ペルジピンLA、ニバジール、アダラートL、アムロジン
              コニール、アダラート、ノルバスク、ヘルベッサー
10.α遮断薬       カルデナリン
11.ACE阻害薬     ノバロック、カプトリルR、アデカット、ロンゲス、レニベース

<1997>杤久保修
 3.サイアザイド系利尿薬 フルイトラン
 5.中枢性交感神経抑制薬 カタプレス
 7.ループ系利尿薬    ラシックス
 8.β遮断薬       ローガン、ケルロング、セレクトール、ゼストリル
 9.Ca拮抗薬      コニール、カルスロット、バイロテンシン、アムロジン
  .           ヒポカ、ペルジピンLA、ニバジール、ヘルベッサーR
10.α遮断薬       カルデナリン、デタントールR、バソメット
11.ACE阻害薬     タナトリル、インヒベース、エースコール、チバセン

<1998>関 顯
 3.サイアザイド系利尿薬 フルイトラン
 7.ループ系利尿薬    オイテンシン
 8.β遮断薬       テノーミン、セロケンL、アーチスト
 9.Ca拮抗薬      アムロジン、アダラートL、ペルジピンLA、ニバジール
10.α遮断薬       カルデナリン、デタントール
11.ACE阻害薬     エースコール、レニベース

<1999>島田和幸
 3.サイアザイド系利尿薬 フルイトラン
 5.中枢性交感神経抑制薬 アルドメット
 6.カリウム保持性利尿薬 アルダクトンA
 7.ループ系利尿薬    ラシックス
 8.β遮断薬       テノーミン
 9.Ca拮抗薬      ニバジール、アダラートL、アムロジン、コニール、カルスロット
              スプレンジール
10.α遮断薬       カルデナリン
11.ACE阻害薬     レニベース、インヒベース、ロンゲス、エースコール、アデカット

<2000>藤田敏郎
 3.サイアザイド系利尿薬 フルイトラン
 5.中枢性交感神経抑制薬 アルドメット
 7.ループ系利尿薬    オイテンシン
 8.β遮断薬       テノーミン、アーチスト
 9.Ca拮抗薬      ノルバスク、アダラートCR、カルスロット、コニール
  .           ペルジピンLA
10.α遮断薬       カルデナリン
11.ACE阻害薬     エースコール、タナトリル、コバシル
12●ARB        ニューロタン(初登場)

<2001>島本和明
 3.サイアザイド系利尿薬 フルイトラン
 5.中枢性交感神経抑制薬 アルドメット
 6.K保持性利尿薬    アルダクトンA
 7.ループ系利尿薬    ラシックス
 8.β遮断薬       アーチスト、ローガン、トランデート、テノーミン
 9.Ca拮抗薬      アムロジン、コニール、ニバジール、ペルジピンLA
              アダラートCR
10.α遮断薬       カルデナリン
11.ACE阻害薬     レニベース、インヒベース、アデカット、エースコール、オドリック
              コバシル、コナン
12.ARB        ニューロタン、ブロプレス

<2002>松岡博昭
 3.サイアザイド系利尿薬 ナトリックス、フルイトラン
 5.中枢性交感神経抑制薬 アルドメット
 7.ループ系利尿薬    オイテンシン
 8.β遮断薬       アーチスト
 9.Ca拮抗薬      ノルバスク、アダラートCR、コニール、ニバジール
10.α遮断薬       カルデナリン
11.ACE阻害薬     タナトリル、レニベース、エースコール、コバシル
12.ARB        ニューロタン、ブロプレス

<2003>今井 潤
 3.サイアザイド系利尿薬 ナトリックス、フルイトラン
 6.K保持性利尿薬    アルダクトンA
 7.ループ系利尿薬    ラシックス、オイテンシン
 8.β遮断薬       テノーミン、メインテート、アーチスト
 9.Ca拮抗薬      ノルバスク、アムロジン、コニール、アテレック、ランデル
  .           ニバジール、カルスロット、ヒポカ、スプレンジール
              ヘルベッサーR
10.α遮断薬       カルデナリン
11.ACE阻害薬     コバシル、タナトリル、コナン、オドリック、レニベース、
              エースコール
12.ARB        ディオバン、ニューロタン、ブロプレス

<2004>瀧下修一
 3.サイアザイド系利尿薬 フルイトラン、ナトリックス
 7.ループ系利尿薬    ラシックス
 8.β遮断薬       テノーミン
 9.Ca拮抗薬      ノルバスク、アダラートCR、バイロテンシン
10.α遮断薬       カルデナリン
11.ACE阻害薬     エースコール、レニベース、タナトリル、コバシル
12.ARB        ブロプレス、ディオバン、ニューロタン

「今日の治療指針」の1971年版から2004年版までの間で、取り上げられた降圧薬についてまとめてみました。それを大きく分けて、<現在記載されなくなった降圧薬>、<現在も記載されている降圧薬>、<特種な場合に限り現在も記載されている降圧薬>の3種類としました。12種類の降圧薬の内の4種類は現在記載されていません。現在も繁用されているのは6種類で、残りの2種類は特殊なケースで使われることが多い薬です。

<記載されなくなった降圧薬>
1)1983年より記載されなくなった薬剤  4.交感神経末端遮断薬 
2)1985年      〃        1.末梢性交感神経抑制薬
3)1996年      〃        2.血管拡張薬     
4)2003年      〃        5.中枢性交感神経抑制薬

<現在も記載されている降圧薬>
1)1971年より現在も記載されている薬剤 3.サイアザイド系利尿薬
2)1973年      〃        8.β遮断薬      
3)1979年      〃        9.Ca拮抗薬     
4)1985年      〃       10.α遮断薬     
5)           〃       11.ACE阻害薬    
6)2000年      〃       12.ARB       

<特種な場合に限り現在も記載されている降圧薬>
1)1971年より    〃        6.K保持性利尿薬   
2)1973年より    〃        7.ループ系利尿薬   

この「今日の治療指針」に掲載された降圧薬と私の31年間の臨床経験を合わせて、12種類の降圧薬の使われ方の変遷をふり返ってみることにします。

1.末梢性交感神経抑制薬
臨床的に有用な降圧薬として最初に発売されたのが、末梢性交感神経抑制薬のレセルピンと血管拡張薬のアプレゾリンで、いずれ1954年、私が医学部に入学する1年前のことでした。その内のレセルピンはローウォルフィア製剤に属し、私が開業した1973年頃も、サイアザイド系利尿剤とともに当時の降圧薬の双璧を占めていました。

ローウォルフィア製剤の中で、セルシナミンSをよく処方したのを覚えています。急速に血圧を下げたい時にはアポプロンを皮下注射をするのがルーティーンとなっていました。このローウォルフィア製剤の副作用では鼻閉、下痢便秘が起こり易いことのほかに、うつ状態を引き起こし易いことで、新しいタイプの降圧薬が現われてくると、次第に使われなくなりました。「今日の治療指針」では末梢性交感神経抑制薬は1985年より記載がありません。

ローウォルフィア製剤は単剤で用いられることのほか、他のタイプの降圧薬との合剤として用いられることも多く、ダイクロトライドSやエシドライなどがその代表でした。これについては後で述べます。

2.血管拡張薬
血管拡張薬の内のアプレゾリンは、頻脈とか顔面紅潮などの副作用が強く、単剤ではあまり使われることがなかった薬です。この副作用を減らすためにローウォルフィア製剤と合剤にした製剤が使われ、その代表がエシドライでした。これはアプレゾリンとレセルピンに加えて、サイアザイド系利尿薬のダイクロトライドという3種の降圧薬を混ぜ合わせたもので、1剤で十分な降圧効果が得られて副作用も少なく、よく処方しました。

しかし、ローウォルフィア製剤の抑うつ作用から、自殺する者が出てくるようになって処方が減り、それに伴ってこれを含む合剤のエシドライもまた処方が減って行きました。

その他の血管拡張薬としては、アピラコールを単独で使ったことがありますが、これもまた、頭痛や顔面紅潮をきたし易く、処方しなくなりました。「今日の治療指針」では血管拡張薬は1996年より記載がなくなっています。

3.サイアザイド系利尿薬
サイアザイド系利尿薬として、最初に発売されたのはダイクロトライドで1958年、当時私は医学部4回生でした。以来現在に至るまで、サイアザイド系利尿薬は常に代表的な降圧薬として存在してきましたが、特に60年代はサイアザイド系利尿薬の時代でした。

開業当初はダイクロトライドを使いましたが、その内にフルイトランを一番多く処方するようになりました。さくら色をした花びら型のこの錠剤は、降圧薬の代名詞に近い存在でした。この頃は容量依存的な処方が多く、1錠で効果がなければ2錠、3錠と増量して降圧を図ろうとしていました。

もちろん、2種類以上の降圧薬を組み合わせて、それぞれの薬剤の副作用を減らし、降圧効果を高めようとする薬剤もありました。ダイクロトライドSはダイクロトライドとレセルピンを組み合わせた合剤、エシドライはダイクロトライドとレセルピンとアプレゾリンの合剤でした。しかし、レセルピンの副作用として重篤なうつ状態を引き起こすことがあることが分かって来ると、これらの合剤も消えて行きました。

70年代に入ってβ遮断薬、Ca拮抗薬など新しいタイプの降圧薬が登場してくると、サイアザイド系利尿薬のいろいろな副作用が大きく取り上げられるようになり、徐々に処方が減って行きました。副作用としての低カリウム血症は、発売当初から言われていましたが、糖代謝、尿酸代謝などに悪影響を及ぼすことが知られるようになったことが大きく影響しました。

最近になって、このサイアザイド系利尿薬が再評価されるようになったきっかけは、2002年12月に報告されたALLHAT(Antihypertensive and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial)の成績です。それに基づき、2003年のアメリカの高血圧症治療のガイドラインでは、高血圧症治療の第一選択薬として利尿薬のみが指定されました。

このALLHATで使われたサイアザイド系利尿薬はダイクロトライドでしたが、その用量がわが国の標準量の4分の1から2分の1の低用量であることが注目されています。このような低用量でも十分に降圧効果があり、そのため副作用の発現が少ないのかも分かりません。かって、わが国ではサイアザイド系利尿薬の降圧効果を用量依存的に求めていたことが、この薬による副作用の発現を高めていた可能性は十分考えられます。

4.交感神経末端遮断薬
1960年に交感神経末端遮断薬としてイスメリンが発売されましたが、降圧効果が非常に強力で、起立性低血圧から失神発作を起こすことがあり、ほとんど普及しなかった降圧薬です。「今日の治療指針」では、12種の降圧薬の中で一番早く1983年から記載がなくなっています。

5.中枢性交感神経抑制薬
中枢性交感神経抑制薬の一つであるアルドメットは、私が医師となった1962年に発売されました。これは降圧作用がサイアザイド系利尿薬よりも強く、腎障害のある場合にも使えるなどの理由から、かなりよく処方しました。しかし、副作用として肝毒性が知られるようなって処方は減り、ACE阻害薬やARBのように腎障害にも適応のある降圧薬が登場してきたことにより、「今日の治療指針」では、2003年から記載がなくなっています。

6.K保持性利尿薬
K保持性利尿薬のアルダクトンAが発売されたのは1963年で、医師となって1年目でした。その頃からサイアザイド系利尿薬の副作用である低カリウム血症を気にしていました。と言うのは、心不全に対してジギタリスと利尿剤を投与しますが、低カリウム血症ではジギタリス中毒を引き起こすからです。それを避けるためにカリウム製剤を投与しますが、アルダクトンAを加えると、その必要がなくなり、利尿効果は増すため、一石二鳥となります。

そう思って繁用しましたが、長くこれを投与していると男性の場合は副作用として「女性乳房」が高頻度に出現することを経験するようになり、男性への処方は減りました。

それに対して、女性には特発性浮腫、月経前浮腫などがよく見られます。そのような患者を含めて軽症の高血圧症の治療には、マイルドな降圧作用のアルダクトンAが重宝します。そのためにK保持性利尿薬の処方を多く行ってきました。最近、このアルダクトンAが心不全に対して突然死を含む生命予後の改善に有効であるとの報告があり、これを処方する理由付けが一つ増えました。

7.ループ系利尿薬
ループ系利尿薬のラシックスが発売されたのは1965年で、この年に2年間の出張勤務を終えて大学に帰局しました。ちょうど心臓外科が発展し始めた時期で、術後管理にこの強力な利尿作用のあるラシックスは欠かせない薬剤の一つとなりました。腎不全を伴う高血圧症の場合にもラシックスは有効なので、利尿と降圧を兼ねて使われます。ラシックスは利尿作用の発現が速効的で、持続時間が短いので利尿調節がし易いという特徴があり、利尿剤としては使い易いのですが、これを降圧剤として使う場合は、それが欠点となります。そこで、これに持続性を持たせて作られた製剤がオイテンシンです。

8.β遮断薬
β遮断薬のインデラルが発売されたのは1966年で、適応は不整脈と狭心症でした。心臓手術後の危険な不整脈に対してシングルショットで静脈注射された直後に心停止を来たした症例を何例か知っています。

β遮断薬が降圧薬として発売されたのはカルビスケンが最初で1972年のことでした。その翌年1973年に私は開業しましたが、その年にインデラルがβ遮断薬として「今日の治療指針」に初めて掲載されました。β遮断薬を降圧薬に使うということは、大学での不整脈治療の印象から、最初は危険に思いましたが、臨床使用例が増えるにつれて、徐々に不安は消えて行きました。

このカルビスケンは、内因性の交感神経刺激作用(ISA)があることをセールスポイントにしていました。この作用があれば、心臓の機能低下を防いだり、手足の冷えの副作用が軽減できるというのです。これによってISAを持たないインデラルとの差別化を図ったのでしょう。この薬理作用の違いから、降圧薬としての使い方の違いを、高血圧症治療の専門家が繰り返し理屈っぽく説明してくれました。しかし、実際問題として、臨床上あまり差異は認められなかったというのが、これらを使ってきた臨床医の大方の感想だと思います。

β遮断薬の特性の違いはβ1選択性かβ1非選択性かでも行われました。β1選択性であれば心臓にだけ選択的に作用し、気管支への影響が比較的少ないというのです。β遮断薬が広く使われるようになり、その有用性は認められて行きましたが、一番問題となるは気管支に対する影響で、喘息を誘発するという副作用でした。その副作用が少ないのは重要なメリットであり、こちらは積極的に受け入れられました。それがセロケン(ロプレッソール)とかテノーミンです。

β遮断薬でのもう一つの差別化は、1日1回服薬か1日3回服薬か、という血中濃度持続時間の問題でした。降圧薬の服薬コンプライアンスから言って、1日1回服薬が望ましいという流れは徐々に高まり、現在では、ほとんどの降圧薬が1日1回服薬となっています。ナディックは1986年に発売され、1日1回服薬の最初のβ遮断薬だったと覚えています。テノーミンはβ1選択性であり、しかも1日1回服薬だったので、セロケン(ロプレッソール)は、これに取って代わられて行きました。

β遮断薬にはα遮断作用を持つものがあり、αβ遮断薬と呼ばれています。α遮断作用というのは、血管にあるα受容体を遮断して血管を広げ、その結果、血圧を下げます。それに対して本来のβ遮断作用というのは、心臓にあるβ受容体を遮断して心臓の拍動をおさえ、血圧を下げます。αβ遮断薬はこのα遮断作用とβ遮断作用の比が1:8であるものが多いようです。

このようにβ遮断薬は、細かな特性の違いを製薬会社は自社の製品の優位性を競うために使い、学者は細かい使い分けをいろいろ唱えてくれるので、降圧薬の中で一番複雑かつ難解な薬、となってしまいました。しかし、臨床使用上は、それらによる違いは少なく、β1選択性と1日1回服用くらいが有用な特性だと思います。現在私が処方しているβ遮断薬は、下記の通りすべてISAマイナスで、β1非選択、β1選択、αβ遮断薬がそれぞれ2種類です。

インデラル        β1非選択:ISA-
ナディック        β1非選択:ISA-
テノーミン        β1選択: ISA-
メインテート       β1選択: ISA-
アルマール  αβ遮断薬  β1非選択:ISA-
アーチスト  αβ遮断薬  β1非選択:ISA-

最後に医療現場から消えて行ったβ遮断薬について書き留めておきます。その一つは「アプロバール」という黄緑色のカプセルです。これは不整脈治療薬として1970年に発売されました。その黄緑色のカプセルを、リーゼやセレナールなどの軽い抗不安薬と一緒に頓服的に服薬すると、頻脈性の不整脈や期外収縮の患者に驚くほど効果がありました。しかし、どういう事情からか10年ばかり前に販売が中止されました。これは残しておいて欲しかった薬の一つです。

もう一つの忘れられないβ遮断薬は「ジレバロン」というαβ遮断薬です。某大手製薬メーカーの販売部長が、記者会見で夢の降圧薬と大見得を切って89年12月に販売したのですが、スペインかどこかで死亡例が出て、発売1年足らずの1990年8月に製造中止となりました。夕刊に記事が出る1時間前に、その会社の社員が報告に来ました。その説明を聞くや否や、ジレバロンを投薬している患者10数名の家へ家内を訪問させ、事情を説明して代替の降圧薬と交換してきました。

なぜそこまでしたかと言うと、それまでに採用した新薬が死亡を含む重篤な副作用のために販売中止となり、それを新聞報道ではじめて知った患者に不信感を抱かせてしまった苦い経験が何回かあったからです。そして、このジレバロン販売中止事件を最後に、新薬は原則として発売から1年以内は使わないという方針を決めたのでした。

9.Ca拮抗薬
今や降圧薬の中心的存在であるCa拮抗薬が最初に発売されたのは、ヘルベッサーが開業の翌年の1974年、アダラートはさらにその翌年の1975年で、いずれも抗狭心症薬として発売されました。アダラートの発売に先立って西ドイツから直接航空郵便のダイレクトメールが届いた時には、はじめての経験で驚いたことを覚えています。「今日の治療指針」に掲載されたのは、いずれも1979年です。

ヘルベッサーを処方すると、かなり強く血圧が下がるという臨床経験があって、そこから下がりにくい高血圧症の症例にヘルベッサーを加えてみるということが行われました。そう言うわけで、Ca拮抗薬の降圧作用は、最初は医師仲間の口コミで広がり、その後で認知されました。β遮断薬が最初は抗狭心症薬、抗不整脈薬として発売され、臨床使用されている途中で降圧作用が発見されて、適応症に高血圧症が追加されたことと合わせて、薬剤の効能や適応を考える上で面白い現象だと思います。

Ca拮抗薬は、心筋収縮抑制や徐脈作用があるワソランやヘルベッサーと、脈拍を増加させる傾向のあるジヒドロピリジン系薬剤に大別されるだけで、β遮断薬のような細かな特性の違いはなく、臨床的に使い易い薬です。

ジヒドロピリジン系のアダラートの降圧作用は強力で、カプセルの端を鋏で切って、中の液体を舌下へ垂らすだけで急速に強力な降圧が得られるため、著しい高血圧の緊急療法として繁用されてきました。それ以前なら、アポプロンを注射するより手段がなかったのが、このアダラート舌下投与で、それ以上の降圧効果が得られるので重宝しました。特に経口摂取のできない意識ない患者や嚥下の困難な患者に対して有効な手段と考えられました。

しかし、この舌下投与に対しては、2002年9月にアダラートの使用上の注意が改訂され「速効性を期待した本剤の舌下投与(カプセルをかみ砕いた後、口中に含むか又はのみこませること)は、過度の降圧や反射性頻脈をきたすことがあるので、用いないこと。」が加えらえました。

Ca拮抗薬の副作用で一番困ったのは顔面紅潮です。午前中に診察した酒好きの患者が真っ赤な顔をしているので、「朝から酒を飲んで診察に来てもらって困る」と注意したところ、「血圧の薬を飲むといつもこんな顔になるのです」と答えられ、参ってしまいました。それから、この副作用の少ない薬を真剣に検討するようになりました。

その一つはペルジピンで、最初は脳血流改善薬として発売され、次いで降圧薬としても広く使われるようになりました。この薬の降圧作用はかなり弱く、また、顔面紅潮を来たすことがほとんどないので、軽症の高血圧症に使いやすい薬でした。

降圧作用が強く、しかも、顔面紅潮の副作用が非常に少ない薬として、最初に登場したのがコニールです。私はいち早くこれを採用し、一時期はこれがCa拮抗薬の5割近くを占めたことがありました。しかし、1993年にアムロジン(ノルバスク)が発売されると、降圧剤の中で血中濃度の半減期が最も長く36時間であるため、顔面紅潮の副作用がより少なく、こちらへ処方が傾斜していきました。2004年9月の当院の処方を見ると、Ca拮抗薬の83%をアムロジンが占めています。

顔面紅潮と違って、歯科医からの指摘で知ったCa拮抗薬の副作用もあります。中年女性が歯肉が腫れたので歯科を受診したところCa拮抗薬の副作用と指摘され、変薬で腫れが消えた例や、義歯の調整が難しいので変薬を求められた例があります。この「歯肉の肥厚」という副作用は、能書には確かに記載されていますが、これまでに経験したことのないもので、良い勉強になりました。

10.α遮断薬
最初のα遮断薬としてミニプレスが発売されたのは1981年でした。セールスポイントは「代謝に悪影響を及ぼさず脂質代謝を改善する」という特性でしたが、起立性低血圧を起こし易いと言うことなので使用する気持になれずにいました。

ところが、ある老人の頻発する期外収縮に対して、リスモダンを使用して抑えることができたのですが、排尿困難を来たして困惑した時に、ミニプレスの使用を思いつきました。その頃、星ヶ丘厚生年金病院の泌尿器科で、前立腺肥大症に対してミニプレスを試験的に使って有効であるという情報を入手していたので、泥縄式でこれを使ってみたのです。使ってみると、危惧していた起立性低血圧を起こすことなく、排尿困難を改善することができました。これがきっかけとなり、少しづつ処方を増やしていきましたが、起立性低血圧は滅多に起こらないことを経験しました。「今日の治療指針」に掲載された最初のα遮断薬はミニプレスで、1985年版です。

ミニプレスの副作用を少なくしたカルデナリンが発売されると、積極的に処方をするようになり、1995年9月には、処方した降圧薬の26%をカルデナリンが占めるまでになりました。この対象は、軽症の高血圧症、前立腺肥大症を伴うもの、糖尿病や痛風などの代謝異常の合併症のある場合でした。

しかし、α遮断薬を起立性低血圧を起こさない量で使った場合、降圧作用が弱いことと、ALLHATと呼ばれる降圧薬の比較試験の途中で、心不全をもたらす危険があるとの理由により対象から外されたことを知って、自然と処方が減って行きました。2004年9月の当院の処方では降圧薬の7%にまで減っています。

2003年のアメリカの高血圧治療ガイドライン(JNC7 2003)では、このα1遮断剤を脂質代謝異常、糖尿病、前立腺肥大症のある場合にも適応外としていますが、2004年10月に発表された、日本の新しい高血圧治療ガイドライン試案では、糖尿病は除かれましたが、脂質代謝異常、前立腺肥大症のある場合はこれまで通り適応としているようです。

11.ACE阻害薬
ACE阻害薬として最初に発売されたのはカプトリルで、1982年のことでした。これはR−A系抑制薬として理論的に興味を持たれましたが、その割には臨床的にあまり使われず、「今日の治療指針」に掲載されたのは1985年が最初でした。

ACE阻害薬が本格的に使われるようになったのはレニベースからで、1986年に発売され、「今日の治療指針」での掲載は1988年です。レニベースは1日1回服用のlong actingタイプであったこと、降圧作用が強すぎないこと、特別な禁忌となる疾患もなく、中年から老人まで安全に使えることから、急速に普及していきました。当院でも高血圧症の新患の大部分にこれを処方した記憶があります。

ACE阻害薬に優れた心肥大抑制退縮効果があることを鮮明に教えてくれたTV放映がありました。何年か前に心臓移植以外に助かる方法はないとTVで紹介された特発性心筋症の患者が、元気な姿で再びTVに登場し、心臓移植を受けずACE阻害薬を服薬することでここまで回復したとの説明があったのです。それまでにもACE阻害薬の心肥大抑制退縮効果を文献で知ってはいましたが、この映像はインパクトがあり、頭に刻み込まれました。

しかし、そのような新しいメリットが見つかった反面、「空咳」という副作用も新しく見つかり、ACE阻害薬の処方を減らすことになりました。発売当初の能書にはこの副作用の記載がなく、広く使われるようになって発見されたのでした。

高血圧症で治療中の老婦人が頑固な咳を訴えて来院されたことがありました。診察をしても所見がなく、その頃ACE阻害薬による「空咳」が話題になっていましたので、「何時から咳が出るようになりましたか?」とお尋ねすると、1年ほど前からだと言われます。それはちょうどレニベースを投薬した時に一致するのです。これだ〜!と思いました。そして、知らずに長い間「空咳」でこの方を苦しめて来たことを申し訳なく思いました。

このACE阻害薬による「空咳」は中年女性に多いという報告を読み、中年女性への投薬を控えるようになりました。また、ACE阻害薬の中で一番「空咳」の発生頻度が低いと言われるタナトリルを処方することが多くなりました。

12.ARB(AII受容体拮抗薬)
「空咳」のないR−A系抑制薬として期待されながら製品化が遅れ、1998年に最初のARBとしてニューロタンが発売されました。ACE阻害薬の発売から遅れること16年となります。これは「空咳」の副作用がない他は、ACE阻害薬とほぼ同じ特性ですが、降圧作用が少し弱いように思います。

1999年には国産のARBであるブロプレスが発売され、2000年にディオバン、2002年にミカルディスが発売されました。心肥大、心不全、糖尿病、腎障害などにも有効で、禁忌となる疾患が少ないこのARBは、将来的にもっと多く使われる可能性があります。「今日の治療指針」への最初の掲載は2000年のニューロタンでした。


8.まとめ

内科開業医が診療する慢性疾患の中で最も頻度の高い「高血圧症」を、私の31年間の診療を代表する疾病として選び、その薬物療法の変遷を、1)「当院の処方降圧薬」の9年間隔での比較、2)1971年から2004年までに「今日の治療指針」に掲載された降圧薬の変遷という二つの観点から分析してみました。

ほとんどすべての降圧薬について、その登場の時から使われ方の変遷を見聞きし、実際に使っても来ましたので、高血圧症薬物治療の歩みをまとめられたのではないかと思っています。このまとめを、31年の間、かけがえのない戦友として、共に働いてきた妻経子に贈ります。


<2004.11.11.>

ホーム > サイトマップ > 医療 > 医療関係論文 > 高血圧症薬物療法の変遷   このページのトップへ