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孫がことばを習得する過程

2011.11.21. 掲載
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私は昔からことばへの興味が強かった。自分のウエブサイト「中之島のBOW」に掲載している記事を分類したカテゴリーのトップが「ことば」であり、このカテゴリーに属する記事が一番多い。その中でも、「心に生きることば」は、私の人生哲学である。その中には、「ことば」という項目も作っている。

人間を定義するホモ・サピエンスの最大の特徴がことばを使うことであることに異論はあるまい。人はどのようにしてことばを習得していくのか、興味を持つ人も少なくないであろう。幸運にも、私は孫の成長を3年間観察することができ、その一つとして言語についての観察記録を持つことができた。

孫の成長記録は、成長過程で見られる行動を生データとして記録し、それをカテゴリーで分類し、さらにその下位のカテゴリーで細分する方法で記録を行った。そのカテゴリーは、予め決めて置いたものではなく、行動記録に合うものを発現順(時系列順)に作っていったが、最終的には14個となった。

14のカテゴリーの中で、言語だけは、生データからの直接の記録ではなく、残り13のカテゴリーに分類した記録の中から、言語に関わるものを抜き出して記録する方法をとった。言語は、何らかの状況の中で使われるものであり、言語だけで存在することはないからである。

孫の成長記録の「言語」関連の多くは、ビデオ記録を再生して、そこから孫の喋る通りのことばを文字化して記録した。他のカテゴリーに分類される記録と比べて、言語ではビデオ記録からの文字化が特に重要で、テープレコーダーやICレコーダーによる音声記録は、映像がない分、文字化するのに手間がかかる。また、筆記ではとうてい正確な書き取りはできない。

孫が言語を習得する過程で見られる言語特性を、発現順に、1.意味不明語、2.通常の単語、3.かけ声、4.説明がいる単語、5.身体言語、6.オーム返しことば、7.複数語文、8.歌詞の8種に分類した。

言語特性と生活年齢との関係をまとめて図示したのが図1である。



図1.生活年齢と言語特性

意味不明語を話しはじめたのは、0歳4ヶ月からで、「アーアーアー」などが何を表わそうとしているのかは分からなかったが、1歳7ヶ月で終わった。

通常の単語意味不明語に2ヶ月遅れて、0歳6ヶ月に「ママ」で始まり、成長にしたがってどんどん語彙数を増やし続けた。

通常の単語で面白いのは、「ママ」を0歳6ヶ月、「パパ」を0歳7ヶ月で話したのに対して、祖父の「ボウボウ」は1歳0ヶ月、祖母の「グランマ」は1歳6ヶ月という事実である。「グランマ」は「ボウボウ」に6ヶ月も遅れている。

「グランマ」をはじめて話せた時の孫は、よほど嬉しかったのだろう、何度も「グランマ」「は〜い」、「グランマ」「は〜い」をくり返していた。それは傍で見ていて、驚喜という状態だった。この「ボウボウ」は言えても「グランマ」を言えなかったということから、一つの仮説を思いつく。

仮説1:
こどもが、簡単なことばは話せるのに、すこし複雑なことばになると話せないのは、聴覚器官、発声器官、両者の連携のいずれか、あるいは全部が発達途上にあることを示している。

かけ声は0歳7ヶ月、からだを前へ進める際の「エエー」から始まった。からだを動かそうとする時に自然といくつかの発声をするようになり、2歳6ヶ月ころから、あまり聞かれなくなったが、それから後も必要な時には発している。

説明がいる単語は、0歳9ヶ月から現れ、2歳1ヶ月からは姿を消した。この説明がいる単語も、ことばを習得する過程について示唆することが多い。

例えば、孫の1歳の誕生日に乾杯をした。それからあと、乾杯をするたびに、孫もお茶のパックを持ち上げて真似をし「バイヤー!」と言うが、「カンパーイ!」は、しばらく言えなかった。

仮説2:
こどもは、ある時期までは、意味は分かっていても、聞こえている通りに正しく話すことはできない。

仮説3:
こどもが、ある時期から、聞こえている通りに話すことができるのは、成長とともに聴覚器官、発声器官、両者の連携が発達していくことを示している。

仮説4:
こどもの、聴覚器官、発声器官、両者の連携の発達は、2歳1ヶ月頃に完了する。

身体言語のうち、指さしは0歳10ヶ月から出現し、1歳3ヶ月ころからはあまり目立たなくなった。これは、通常の単語の語彙数が増え、指さしを使う必要が減ってきたことを表わしているのだろう。そのほかの身体言語のバイバイとか飛び跳ねて喜びを表現するのは、その後も変わらず続いた。

仮説5:
こどもは、1歳3ヶ月頃には、指さしが不要になる量の通常の単語を身につけている。

オーム返しことばは、大人が話した直後に、同じことばをオームのように真似をしてくり返す動作を言う。これは0歳11ヶ月から始まり、1歳7ヶ月まで続いた。この特性も、ことば習得の過程を示唆するところが多い。

オーム返しことばは、孫にとって新鮮に聞こえることばを聞いた時に発することが多かった。例えば、「シャンパーン」と言った途端に「シャンパーン」と言う。1歳0ヶ月から通常の単語は急増するが、このオーム返しことばが関係していると思われる。1歳5ヶ月〜1歳6ヶ月には、孫は「コレナンダ?」「アレハ、ナンダ?」と頻繁に尋ね、その返事を聞いてオーム返しすることが多かった。

仮説6:
こどもは、大人の話した単語が新鮮に聞こえる場合、オーム返しでそれをくり返す。

仮説7:
こどもは、知らない興味のある物を見た時に「コレナンダ?」と尋ね、その答えをオーム返しでくり返す。

仮説8:
こどもにとって、1歳5ヶ月頃は、目につく物の名前に強く関心を持つ時期である。

複数語文を話すようになるのは1歳3ヶ月からで、これは日増しに増えて行った。最初「ボウボウ、アイタイ」と言ったのが、1歳6ヶ月には「タイヨウガ、カクレテシマッタネー」と言い、その翌月には「タイヨウガ、カクレテシマッタネエ、サンポ、イケナクナッタネエ」と因果関係まで話せるようになる。

2歳3ヶ月の祖母との会話を「かえるさん」のタイトルで、記事にしている。

2歳の最後(2歳11ヶ月)には、「パトカーハ、キイロデ、ナカニ、ハイッテハ、イケマセント、イイマス。パトカーガ、キイロデ、ハイッタラ、ドウスルノカナア?」とまで話せるようになった。

「タイヨウガ、カクレテシマッタネー」は祖父の私が話したことばの「オーム返しことば」で覚えたのだが、このことばは、孫にはよほど新鮮に聞こえたようで、何度も何度も嬉しそうにくりかえしていた。興味があることを何度も反復するというのも、孫の行動の特徴の一つである。ここから、もう一つの仮説が浮かぶ。

仮説9:
こどもは、興味がある新鮮なことばを、何度も反復する。

面白いのは、複数語文を話すようになった時期と歌を歌うようになった時期が重なることで、1歳3ヶ月には「キラキラ星」の「キラキラヒカル、オソラノホシヨ、マバタキシテハ、ミンナヲミテル」と歌っている。もちろん、歌詞の内容はほとんど分からず、丸暗記だろうが、それを楽しんで歌っていた。両親や祖父母が、驚き、感心してほめるのでよけいに嬉しかったのだろう。

この長い複数語文歌詞を歌うことも、複数語文の発達に影響がありそうだ。また、<2歳5月>から「ナンデ?」を何度も発するようになり、それは今も続いている。この原因や理由を知りたいという欲求も、複数語文の発達に影響がありそうに思う。

仮説10:
こどもは、複数語文を1歳3ヶ月頃から話せるようになる。

仮説11:
こどもが歌を歌うことは、複数語文の発達に関係し、プラスに働く。

仮説12:
原因や理由を知りたいというこどもの欲求は、複数語文の発達に関係し、プラスに働く。

祖母と孫が芝生に寝転ぶ。祖母が「お空きれいね」と言うと、「ホントダ」と即、答えた。これは孫が2歳0ヶ月の会話である。これには、祖母も祖父の私も驚嘆した。このような瞬時の的確な表現の例を他に7データ記録している。この例から、孫の記憶は、そのことばだけでなく、そのことばの発せられた状況(文脈)も一緒に記憶していることが分かる。辞書で単語を覚えるような単純な記憶では決してない。

仮説13:
こどもは、ことばを記憶する際に、そのことばを文脈とともに記憶する。

これは、人がことばをどのように習得するかについて知ったことの中で、いちばん感動した経験である。なんと人間はすばらしい能力を持っていることか! コンピュータではこの真似はできないであろう。

ことばは、何らかの状況の中で使われる。こどもの行動を14のカテゴリーで分けて記録したが、言語を除く13のカテゴリーの中で、言語に関する生データの件数を調べてみた。その結果を多い順から並べると、「知覚」121、「対人」99、「遊び」51、「身体」46、「理解」35、「作業」31、「自我」23、「音楽」19、「感情」13、「運動」12、「気質」6、「学習」5、「鑑賞」4、だった。
「知覚」「対人」「遊び」が上位3を占めている。

仮説14:
こどもは、観察し、他人と交わり、遊ぶ中で、ことばを最も多く習得していく。



仮説という理屈ぽいことばを試しに使ってみたが、普通のことばで以下のようにまとめることもできる。

こどもは、生後3ヶ月頃から、意味の分からないことばをしゃべり始め、6ヶ月頃から「ママ」という通常のことばを話すようになり、ことばの数は日増しに増えていく。9ヶ月頃からは、これと平行して説明が要る正しくないことばを話すようになる。

この説明が要ることばは、2歳1ヶ月頃で終わるが、これは聴く能力や発声する能力、あるいはそれらの連携が充分に発達したためだと思われる。

身体言語の指さしを生後10ヶ月頃から使い始めるが、通常の単語の数が充分多くなると、その助けも要らなくなり、使わなくなる。

生後11ヶ月頃からオーム返しことばが登場する。こどもは、興味あることば、新鮮に感じられることばに即反応し、オーム返しで真似をし、何回もくり返す。このオーム返しとその反復は、こどものことば習得に有効で、1歳0ヶ月頃から通常の単語は急増していく。

複数語文を話せるようになるのは、1歳3ヶ月頃からで、この頃から大人と会話ができるようになり、それは日増しに質、量ともに増していく。

複数語文を話すようになった時期と歌を歌うようになった時期が重なることから、歌を歌うことは複数語文の習得に効果があるのかもしれない。

こどもが瞬時に的確な表現ができることから、こどもはそのことばの発せられた状況(文脈)も一緒に記憶していることが分かる。

ことばを使う頻度の多い状況は、観察している時が最も多く、次いで人との交わりの中、その次は遊んでいる時だった。このような状況がことばの習得に役立っていると思われる。


以上が、孫娘3歳までの成長記録の内、言語に関する概略をエッセイとしてまとめたものである。年内には孫の成長記録をまとめたいと思っているが、膨大なデータなので、その模索練習として、これをまとめた。そのほか「遊び」「作業」「気質」についても、エッセイ形式で既に掲載をしている。

「孫娘3歳までの成長記録」では、ハイパーテキストのメリットを存分に活用し、「概略」「特性分析の結果」「生データ全部」や、それらの細部にも、必要に応じてワンクリックでリンクできる形式にしたいと考えている。


<2011.11.21.>

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