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2011.09.25. 掲載
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私はものごころついたころから、ものを壊したり作ったりすることが好きで、時間があれば、何かを作ってきた。父はその反対で、ペンと箸以外はうまく使えない人間だったためか、小学4〜5年のころ、父にホモ・ファーベル(工作人)はホモ・サピエンス(知性人)に劣るとよく説教されたのを思い出す。しかし、私はそれをまったく無視して、もの作りを続けてきた。
今から2年10ヶ月前に初孫を授かり、その成長の特徴を14のカテゴリーで分類し、記録している。そのカテゴリーの1つに「作業」があり、工作人的なものが多く含まれ、人間は成長の初期段階から工作人としての特徴を示すことを知った。
これまで、ホモ・ファーベルの出典の詮索などをせず、たとえ、ホモ・サピエンスに劣るとしても、私はホモ・ファーベルとして生きてきたのだが、孫の成長を観察している間に、ホモ・ファーベルは人間の本質的な特徴の1つではないかと思えてきた。
出典を調べて見ると、ベルクソンの「創造的進化」と言う著作に書かれているようだ。そこで岩波文庫の「創造的進化 」(ベルクソン著 真方敬道訳)を購入して、171ページに以下の文章を見つけた。
かりに私たちが思いあがりをさっぱりと脱ぎ捨てることができ、人類を定義するばあいその歴史時代および先史時代が人間や知性のつねにかわらぬ特徴として提示しているものだけに厳密にたよることにするならば、たぶん私たちはホモ・サピエンス(知性人)とは呼ばないでホモ・ファーベル(工作人)と呼んだであろう。つまり、知性とはその本来の振舞いらしいものからみるならば人工物なかんずく道具をつくる道具を製作し、そしてその製作にはてしなく変化をこらす能力なのである。
ちょっと理解しにくい文章だが、簡単に言えば、「人類の歴史を謙虚に見ると、工作人が先であり、知性は人工物、ことに道具をつくる道具を作り、それをさまざまな方法で改良していく能力である」と言っている。父がこのことを知っていたのかどうか分からないが、ホモ・ファーベルがホモ・サピエンスに劣るとベルクソンが言っているのでない。父の説教は、私の工作がうるさくて耳障りなので、それを止めさせるためだったことだけは間違いあるまい。
14のカテゴリーに分類した孫の成長の特徴の中の「作業」というカテゴリーを、さらに以下の33のカテゴリーに細分して記録をとってきた。< 歳 月>はそのカテゴリーの出現時期である。
1.取る <0歳6月>
2.壊す <0歳6月>
3.触る <0歳9月>
4.開け閉めする <0歳10月>
5.めくる <0歳11月>
6.持ち運ぶ <0歳11月>
7.つまむ <1歳0月>
8.にぎる <1歳0月>
9.移動させる <1歳0月>
10.操作する <1歳0月>
11.取り出し戻す <1歳1月>
12.持ちあげる <1歳1月>
13.立てる <1歳1月>
14.拭く <1歳2月>
15.外す <1歳2月>
16.分解組立て <1歳2月>
17.渡す <1歳5月>
18.並べる <1歳6月>
19.肩を叩く <1歳6月>
20.正しい方向で読む <1歳6月>
21.積む <1歳7月>
22.食べさせる <1歳8月>
23.貼る <1歳10月>
24.拾い集める <1歳10月>
25.絵を描く <1歳10月>
26.移す <1歳11月>
27.作る <1歳11月>
28.切る <1歳11月>
29.剥く <2歳1月>
30.やり方を変える <2歳4月>
31.ひもを通す <2歳6月>
32.洗濯を手伝う <2歳6月>
33.分類する <2歳8月>
この中で、13.立てる、 16.分解し組立る、 18.並べる、 21.積む、 23.貼る、 25.絵を描く、 27.作る、 28.切る、30.やり方を変える、 31.ひもを通す、などは工作人的であるが、そのほかの項目も工作人に関係していると思う。「作業」や「工作」という行動が、こどもの成長の非常に早い時期から表れ、時間と共にその程度と量が増すのを観察すると、「作業」や「工作」が人間にとって本質的な特性であると考えざるを得ない。
孫を観察した記録をカテゴリーで分類して整理したが、そのカテゴリーはあくまでもその観察結果にふさわしいものとして考えたもので、先にカテゴリーがあって、それに収めていったものではない。「作業」というカテゴリーも、0歳6ヶ月でそれにふさわしい孫の行動があり、それに対応するものとして作ったものである。
2歳8ヶ月までで、「作業」カテゴリーに分類した生データは165件あり、幼児の成長の重要な特徴の一つであると考えられる。その重要な特徴について「乳幼児心理学」や「発達心理学」では取り上げていないのを知り驚いた。孫を授かってから購入した「乳幼児心理学」4冊、「発達心理学」4冊のいずれにも、まったく書かれていない。机上の学問であればそれでもよいのかもしれないが、実用的学問としては問題であろう。
人間の定義として、ホモ・サピエンス(知性人)、ホモ・フアーベル(工作人)、ホモ・ルーデンス(遊戯人)があることは良く知られている。
孫の成長記録をとることから、「作業」というカテゴリーがホモ・ファーベルに対応し、「言語」がホモ・サピエンス、「遊び」がホモ・ルーデンスというカテゴリーに対応していることが分かった。孫は、爺婆の人間に対する知的好奇心を、刺激してくれる存在だとつくづく思う。
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