4月4日 世界の名作が目の前に!フィレンツェの感動。
■昨日の夜遅く、テレビを見ていると、ローマ法王・パウロ二世の顔写真とともに、1920.5.18〜2005.4.2という数字が表示された。言葉の通じない報道の生存期間の表示が、容態の深刻さが伝えられていた法王の死を告げていた。翌朝、フィレンツェの市内観光に出かけた私は、あちこちで「法王死去」を伝える号外を受け取ることになった。そして法王の死は、私たちのツアーにも大きな影響を及ぼすことになる。
■8時30分、有名な絵画「受胎告知」を所蔵するサン・マルコ美術館を訪れる。開館直後の館内は人影もまばらである。かっては修道院であった美術館の薄暗い廊下の両側は修道僧たちの居室跡が並んでいる。廊下を突き当たり右にある階段で2階に向う。階段途中で目を見張った。正面の壁にいきなり見覚えのある絵画が目に飛び込んできたのだ。「受胎告知」の生の画がまぎれもなくそこにある。誰もいない何の囲みもない場所に世界の名画が無造作に飾られている。絵画そのものの感動以前に、目の前の手に触れることすら可能な名画との距離の近さに感動を覚えてしまう。
■サン・マルコ美術館のすぐ南にアカデミア美術館がある。所蔵のミケランジェロの代表作「ダヴィデ像」は見逃せない作品である。入口と思われる付近の様子がおかしい。「どうも休館のようですね」一人旅の若い日本人女性が気さくに声を掛けてきた。危険の匂いの全くない親子3人連れの日本人観光客という値踏みでの行動に違いない。ダヴィデ像を見学できなかったことの悔いを残しながら次の目的地に向う他なかった。
■アカデミア美術館から少し寄り道をして中央市場に向った。早くもお土産の下見というわけだ。中央市場は、正方形に近い広大な建物の中にある2層の店舗である。生鮮食品だけでなく菓子、雑貨、日用衣料、地元の特産品等を販売する様々の店舗が軒を並べている。
 とあるお土産用物産店で店員とおぼしき二人の若い東洋人女性を見かける。私達を見つけるや「いらっしゃいませ」と声をかけてくる。日本語だ。聞けばフィレンツェの美術学校に留学中の日本人学生のアルバイトだという。
 「地元の皆さんもいつも利用している店ですから安心できるお値段です」「まとめて買っていただければお安くします」。なかなかのセールストークである。生ハム、リゾットの真空パック、チョコレート等々。言葉が通じる安心感もあり、ついついまとめ買いをしてしまう。翌日、娘は中央駅のキオスクで同じチョコレートのもっと安い価格を見つけてガックリしていた。もっともリゾットの調理方法なども日本語で懇切丁寧に教えてもらったのだから付加価値は十分ついている。
■ホテルに戻り、土産物を部屋に置いてから再び観光に。主な見所は半径1km以内におさまってしまう広さがこうした行動を可能にする。
■ホテルベランダからも眺められたサン・ロレンツォ教会を見学。中世フィレェンツェの権力者にしてルネサンス文化の一大スポンサーであったメディチ家の菩提寺である。教会の中に足を踏み入れるとそこはドーム状の広大な空間である。天井を覆うイエス・キリストを中心とした壮大な絵巻物が、見る者を思わず厳粛な気持ちにさせてしまう。
■すぐ南の広場にフィェンツェのシンボルであるドゥオーモがある。大理石の幾何学模様で覆われた大聖堂である。隣接して繊細なレリーフで飾られた芸術性の高いジョットの鐘楼が建っている。
■ドゥオーモ広場を300mばかり南に行くとバルジェッロ国立博物館がある。多くの彫刻に囲まれた美しい空間を演出する中庭のベンチで、歴史の深みを感じながら癒しのひと時を過ごす。2階の展示室では「文庫版・ローマ人の物語」の毎巻のカバー写真を飾る古代ローマのコインの数々が展示されていた。
■バルジェッロ国立博物館の南にはシニョリーア広場がある。広場を見下ろすようにフィェンツェ共和国政庁舎であるヴェッキオ宮が建っている。ヴェッキオ宮のすぐ南をアルノ川がフィレンツェの中心を東西に貫ぬくように流れている。アルノ川沿いに東に向い川沿いに振り返ると、ヴェッキオ橋を正面にした美しい景色が堪能できる。ヴェッキオ橋の両側には彫金細工や宝石店がぎっしりと建ち並び、押し寄せる観光客で歩行もままならない。混雑をものともせず母娘のショッピングがスタート。父親の辛抱の限界が近づく頃、ようやく娘はペンダントトップを手にしていた。
■アルノ川の南の小高い丘にミケランジェロ広場がある。展望台から望む光景の美しさに息を呑む。ドゥオーモを中心に左右に広がるフィレンツェの全貌がこの光景の中に凝縮されている。
 ところでミケランジェロ広場では偶然の出会に驚かされた。朝、アカデミア美術館で声を掛けてきた日本の女の子と再会したのである。奇遇に驚き合いながら、絶好の撮影スポットでのシャッター交換をして別れた。
■時刻は既に午後1時を回っている。朝からの休む間もない観光めぐりで疲労と空腹は覆いがたい。「地球の歩き方」のお勧めガイドのレストランに向う。目指すは「ホット・ポット」という「本書提示で10%の読者割引マーク」のついたシニョリーア広場近くの店。入口を入ると左側に様々な料理がカウンターに沿って並んでいる。ランチをオーダーしカウンターのバイキング形式の料理を選ぶ。ラザニア、フライドポテト、野菜入り玉子焼き、茄子とミンチの炒め物、海鮮サラダ、生ビール、ミネラルウォーターと思い思いに選択。それぞれの料理を自由に味わえるところが良い。自分の好みの料理で味も大満足。勘定の時、「地球の歩き方」を提示すると「オーケー、オーケー」と笑顔で10%オフの処理をして貰えた。ということでお勘定は締めて約35ユーロ、一人当たり約1700円というお安さだった。
■午後2時過ぎ、レストランから約200m東のトルナブオーニ通りに向う。フィレンツェ随一のブランドショップ街である。ここからは母娘のゴールデンタイムとなる。出番のない父親はひたすら時間の経過を待つばかりで語るべきものは何もない。
■午後4時15分、ようやくショッピングを終えた一行は、ホテルに到着。部屋に入るとシャワーで汗を流しベッドに横になる。歩きつかれた体は、いつの間にかまどろみを深い眠りに変えてしまっていた。
 ふと目覚めたのは午後7時過ぎだった。物音にパートナー達も起きだしてくる。ディナーに出かける予定だったがもはやその気力はない。ホテル向いの中央駅構内のフードコートの軽食で済ませることにした。
軽食を済ませ、ホテルに戻り再びベッドに。
■明日は、今回のツアーでの楽しみのひとつである「ユーロスター」でのローマへの移動日だ。海外での鉄道の旅は、マレー鉄道韓国セマウル号についで3度目になる。過去の2度の列車体験は思い出深いものだった。今回の旅ではどんな体験を運んでくれるのだろう。
 万歩計は3.3万歩という記録的なカウントを示していた。午後10時30分、ガイドブックで明日からのローマ観光の見どころをチェックしながら眠りに落ちた。

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