4月3日 中世との出合い・・・サンジミニャーノとシェナの旅
■今日は、娘が事前にネット予約していたオプショナルツアー「サンジミニャーノ&シェナの旅」の日だ。ホテル横にあったChangeの看板の店で両替する。1万円換算で53.9ユーロしかない。1ユーロ約186円のレートである。この時、「街の両替商が最もレートが悪い」というガイドブックの記事を思い出したが後の祭りだった。
■ツアー集合場所に向っていた時、いきなり後方から馬のひずめの音が近づく。観光用の馬車だった。さしずめ日本の観光地の人力車のイタリア版といったところ。
 事前に送られていた地図を見ながら集合場所を探すが、なかなか見つからない。集合時間が近づいてくる。定期バスの運転手やらホテルのドアマンに尋ね回ってようやく辿り着く。観光バスはほぼ満席で最後列付近の座席に着席。
■ところでこのツアーは英語ツアーである。この日の「サンジミニャーノ&シェナの旅」の現地ツアーには日本語ツアーがなく、やむなく英語ツアーを予約したとの娘の弁。従って、車内のツアー客の殆どはは欧米人である。マッいいか。語学留学をめざす娘にとってもいい体験の筈。
 定刻の9時に出発。ツアーガイドは20代の若者である。彼が話すイタリアン英語は、ネイティブでない分、我々にはかえって聞きやすい。
■10時、最初の訪問地であるサンジミニャーノに到着。駐車場から5分程歩いた所で、いかにも中世の都市国家の城壁と城門とおぼしき建造物が現れる。
■城門をくぐるとそこは中世のたたずまいが広がっている。石畳のメインストリートの両側を石やレンガ造りの家屋が建ち並ぶ様は、街並み全体がテーマパークであるかのような錯覚を覚えさせる。とはいえここは紛れもなく何百年も以前から続く住民たちの生活空間そのものだ。
■視線の先に高くそびえるいくつかの塔が目に入る。ここは「美しき塔の街」と呼ばれている。しばらく歩くと街の中心であるチステルナ広場に出る。広場の中心には街の大切な水源である井戸がある。目抜き通りを更に進むと城壁の出口に至る。そこで私たちは目の前に広がるトスカーナ地方の牧歌的で美しい光景を目にすることになる。
■来た道を折り返し街の中心の広場で寛ぐ。民家から出てきた老婦人に連れられたかわいい飼い犬が私たちの傍で戯れていた。多くの観光客に交じって生活する住民たちの息づかいが伝わる。広場の周囲を観光客相手の土産物店やカフェが軒を並べる。カフェの一角で買ったばかりのジェラードを味わった。
■1時間半程の滞在だったサンジミニャーノを後にし、次の目的地シェナに向う。途中で車中からサンジミニャーノの全景を目にした。
■1時間程でシェナに到着。車中で予約していたツアー客たちはレストランに向う。お品書きはトスカーナの郷土料理とのこと。テーブルでは同じツアーのアメリカ人母娘と相席になった。やり手のキャリアウーマン風の娘さんは、さっそく隣席の同世代の娘に話しかける。英語勉強中の娘も何とか受け答えしている。注文のキャンティーワイン届き杯を重ねるうち、俄然強気になったオジサンは無謀にもブロークンイングリッシュで娘たちの会話に割って入り、娘たちのツーショットも撮った。英語ツアーでの楽しい予期せぬ展開だった。
■シェナの現地ガイドは、40代のオバサンだった。サングラスに革ジャンといういでたちで時にオーバーなアクションを交えて繰り出される抑揚の効いた流暢な英語ガイドは、顧客を惹きつけてやまない。もっとも約3名の日本人顧客がその内容を殆ど理解していないことを彼女は知る由もない。
トスカーナの古都シェナの中心は、カンポ広場と呼ばれる広大な扇型の広場だ。真っ青な大空を切り裂くようにそびえるレンガ造りの鐘楼「マンジャの塔」が広場を見下ろすように建っている。広場の右手の石畳の階段を登ってシェナのシンボルともいえるドゥオーモに向う。手前のドゥオーモ付属美術館では中世の様々な彫刻や絵画を鑑賞した。
 イタリアのゴチック建設の代表的建造物であるドゥオーモのスケールの大きさには言葉がない。外壁の随所に大理石の聖人たちの彫刻が施され、それ自体が厳粛な宗教絵巻であるかのようだ。中学生の頃の美術史の教材の世界が、今私の目の前に広がっている。
■午後4時30分、シェナの4時間程の観光を終えて帰路に着く。初めて英語ガイドツアーを体験した。当然ながらツアー客の殆どは英語圏の出身者である。ツアーの行動様式には日本人ツアーにはないパターンがある。ガイドをはじめメンバーたちは、団体行動という意識は殆ど持ち合わせていないように見える。観光スポット毎に次の集合時間と集合場所を確認することがガイドと参加者の唯一の約束事のようだ。その間の行動は全く自由である。陽気なイタリアーノのガイドは、参加者の中の好みのレディーとしきりとコミュニケーションしている。彼はバスの出発時点ですら参加者の人数確認もしない。結局、彼らは自己責任を旨とする狩猟民族の伝統を脈々と受け継いでいるということなのか。
■午後6時前にフィレンツェに到着。ホテルに一旦戻ってから夕食に出かける。あらかじめ「地球の歩き方」でチェックしておいた店「ガルバルディー」が目指す店だ。ガイドブックの地図を見ながら徘徊していると大勢の人でごった返す「屋台通り」に出くわす。Tシャツ、革製品、スカーフ、雑貨、アクセサリー等が所狭しと並べられている。母と娘の足を止めさせるには十分な仕掛けである。あちこちの屋台を物色しながら、娘は15ユーロのスカーフを手にしていた。
■ようやく中央市場広場の一角にあるガルバルディーに辿り着く。オープンテラスのテーブルに席を取る。ここで「地球の歩き方」の「日本語メニューマーク」が役立つことになる。「魚と貝のリゾット」「トマトとチーズのサラダ」「牛の脛肉の煮込み」「デザート(チーズケーキ、パンナコッタ)」をオーダー。もちろんビール付きである。お勘定は締めて44ユーロで1人あたり約2000円とリーズナブル。

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