戦争・犯罪・テロ War & Crime
作成者  BON
更新日  2003/12/22

 ここには,戦争やテロ,犯罪被害などについてまとめます。以前は「人災」として事故と一緒にまとめていたのですが,「Terrorist Attack in Sep.」によってテロ関係情報が増えたために分離した結果生まれたページです。

 中世までと異なり,現代における戦争は悲惨な行為ですし賛成しかねます。しかし,テロは悲惨なうえに卑怯な行為ですので戦争よりもずっと強く非難されるべきと考えます。テロリストの逆恨みを受けないで済むような行動をとることは必要ですが,万一の場合について考えておく必要性もまた重要でしょう。「由らしむべし,知らしむからず」で済む問題ではないはずです。

戦争・テロ
 人為的破壊行為への対処について。
戦争・テロ−事例集
 戦争やテロによる被害のほか,アメリカの「9月攻撃」事件関連も多数。

【参考】
炭疽菌関係情報を追加。対応策について追記。


戦争・テロ

(1)行政指導

 自衛隊のイラク派遣論議をなどをきっかけに,テロの脅威への対応の必要性を認識し,対策について真剣に論議する雰囲気が我が国においても急速に高まってきました。「備えないことが安全を確保するための手段である」なんて,訳のわからん理屈がまかり通っていた時代を考えると,随分と日本も成熟してきたんだなぁ,との感慨を持ちます。

 水道に関する危機管理対応については,国などから以下のような内容について備えるように指導がなされていますので,そのアウトラインを整理してみましょう。

1)事件発生に備えた事前対処

2)貯水槽設置者への注意喚起

3)情報収集,連絡体制の確立

4)事後対処能力

【備考】


(2)水道施設の破壊

1)軍事目標としての水道施設

 直接人に向かって爆弾を落とすことは軍人にとっても心理的に負担で,後でPTSDなどの深刻な影響を受けることが少なくない(もっとも,最近のテロリストはこの辺まで科学的に対処して治療してしまうらしいとも)のですが,少なくとも施設の破壊の場合はこのようなくびきがありません。このため,人を殺害するよりインフラの破壊を図る方が破壊者にとっても心理的に容易で受け入れやすい傾向があります。

 このため,水道施設は戦争時には重要な攻撃対象の一つになりますし,テロリストにとっては十分に効果的な標的になります。実際に水源地域の占領と水道施設の破壊の修復が停戦の主たる原因になったケースもあるようです。(事例集参照)先の世界大戦も,市民生活に非常に重要な役割を果たしており,その供給地点が集中しているという特徴があることから,水道施設はしばしば攻撃目標になりました。最近でも,いわゆる湾岸戦争の際,イラクの浄水施設は誘導ミサイルによって真っ先に破壊されたとのことです。

 中でも,ダムは,その建設に費用と時間を要し,経済的影響が大きく,洪水による2次被害を引き起こすことから,重要拠点として厳重な防御網が引かれていました。戦時中のダムは,爆撃機が攻撃しにくいような曲がりくねった山間の場所に設置されていた,という話も聞いたことがあります。また,東京都の山口調整池では,戦時中,耐弾層と言われる石積みの層が約2mの高さで積まれており,高射砲台の設置,ハザードマップの作成などの対策がとられていました。実際,イギリスの第2次世界大戦当時の3大傑作軍用機のひとつに数えられる「ランカスター爆撃機」には「ダムバスター」と呼ばれるダム攻撃専用仕様があり,水面を跳ねて目標に達するスピニング弾によるダム破壊任務を敢行,この攻撃は英国では英雄伝として語り継がれているそうです。

 このほか,水道施設が非意図的にテロの被害に会うケースもまれにあるようで,爆弾テロによって埋設された水道管が破損漏水したケースが報道されていました。(事例集参照)

2)水道施設の攻撃は許されるか

 水の確保を滞らせることは非戦闘員たる市民生活に多大な影響を与えます。このような行為は戦時中であっても当然許容されるべきではありません。国際法的には,ジュネーブ協定で禁止されているとのことですが,ソースは調査中です。

【備考】


(3)水源汚染

 水源汚染のうち,毒物による汚染は事故でしばしば起こることから,魚を使ったモニタリングなどの対応事例があるなど,ある程度の対応がされています。また,水源において魚の大量死が発生するなどすることも多く,検出も比較的容易です。これに対して,特に心配なのが微生物によるテロです。ここでは,炭疽菌テロをイメージし,各種対応関連の情報を掲載します。

1)行政のテロ対策方針

 実は,米国では,「Sep. Attacks」よりも以前から水道施設がテロの標的とされる懸念が一部で認識されていました。事件以降,米国から送られてくる情報には,テロ対策関連がかならずなにか入るようになってきています。また,日経コンストラクションの02年02月08日号に,浄水場への毒物投入リスクについての特集がありました。

 日本でも,2001年10月11日,福田官房長官は,衆院国際テロリズム防止特別委員会にて,米国のテロや炭疽(たんそ)菌の事件を受けて,生物・化学兵器テロへの対応を強化する方針を表明しましたが,このなかで,水道への混入防止も明確に打ち出されています。 関連情報は以下のサイトに一通りそろっています。

「国内の緊急テロ対策関係」ホームページ【厚生労働省】
 水道関連もここに掲載されています。

2)水道システムの微生物テロ耐性

 微生物テロに対し,現在の水道技術でどの程度対処できるかが気になるところですが,水道産業新聞011025,摂南大の金子先生の提言にこのあたりの分析が掲載されておりますのでこれを参考に考察してみます。

 現在の浄水処理のうち除濁プロセスは一定の効果を持ちますが,炭疽菌の芽胞は小さく膜処理でも十分でない可能性があります。そして困ったことに,芽胞の状態では塩素消毒のみならず煮沸を含む各種の消毒では殺すことができず,糞便性や汚染性の指標である一般細菌や大腸菌群の検査では処理状態を把握することができないうえに,魚を利用したセンサーなどでも検出できない,と指摘されています。

 炭疽菌の性質についていただいた範囲の情報を掲載します。

 このようなテロ兵器として優れた性質があるために微生物テロに使用されるのであって,たとえ炭疽菌に有効な消毒剤があったとしても,これに依存する対策では不充分であろうと思われますし,人為的にテロ用の微生物を作ることも可能な時代になっています。

 ただし,炭疽菌は発症するためにある程度まとまった濃度が必要とされ,水源汚染に必要な濃度を与えるだけの病原体を投入するためにはタンクローリークラスの車両が必要で,パトロールが続いている現在は実際問題として難しく,郵便テロなど他の方法の方が有効であるとされています。米国のEPA長官がこの点を指摘して危険は大きくないと主張しています。また,水系への投入で想定されるのは腸炭疽であり,適切な治療さえ受ければほぼ死亡に至るケースはないとの話もテレビでやってました。

 しかし,高濃度投入することは現実には難しいものの,投入された病原体が水塊のまま流出する可能性は残る,との指摘も金子先生の提言には紹介されていますし,発症のために必要な数についても現在知見の更新が進められている状況(皮肉にも,今回のテロが多くのノウハウを提供しているのが現実)です。

 現状でとれる対策としては,このあたりに解決の糸口を求めるしかなさそうです。現状の水道技術で炭疽菌被害を予防するための手法として,とりあえず以下の3点を提案します。是非ご意見ください。

 特に時間分散は,非常に短期かつ検出不可能な汚染に対してのみ有効な方法であってこれまで意図的に行っているケースがあるとは思えません。テロ対策として新たに考えられる方法でしょう。

3)維持管理システムへのテロ

 水道ネットワークの管理は,以前は専用電話回線を利用してぽちぽちとやってたのですが,インターネットを利用したシステムもようやく導入が進んできました。値段が1:10くらい安い(はず)のが売りなわけですが,なんせだれでもアクセスできる世界のシステムを利用するので,それなりのリスク耐力を有しておくことは絶対に必要です。

 インターネットなどの電気通信ネットワークに対するテロを「サイバーテロ」と呼びます。特に海外では,施設情報の収集や制御をインターネットを介して行う例が多い(もちろん安価なため)のですが,そのリスクについて指摘する声はすくなからずあります。

 ちなみに,オーストラリアでハッカーが水道制御システムを攻撃して河川に未処理の汚水を流し込み,2001年11月に有罪判決を受けている例があるとのことです。(Scanより)

4)危機管理対応

 天然痘やコレラなど,よく知られている通常の微生物を利用したテロであれば,水道の防疫システムは完全に働きます。もともと水道は有圧で配水されるので外部からの進入は発生しにくいようになっていますし,特に日本の水道は(ある意味味を犠牲にしてでも)消毒としての塩素添加が義務付けられており,基準の遵守率も世界一といわれていますから,このようなケースについてはまず問題ありません。

 しかし,水道をターゲットとした犯罪的な微生物汚染,具体的には塩素耐性のある芽胞や人為的に改造された微生物を使用されることまで想定するのであれば,少なくとも現状のままでは,水道の安全確保システムは十分機能しないものと考えられます。

 長期的には,先に示したようなリダンダンシー確保や新たな浄水処理システム,監視システムの研究開発が必要であろうと考えますが,時間的,コスト的な制約は如何ともしがたいほど大きく,技術的対応だけで解決できる可能性が少ない以上,当面の対策としては,意識を高くもち,パトロールを強化するしかないのかもしれません。

 実際,海外,特に発展途上国では,水道施設に関する情報は重要な軍事機密です。浄水場の図面を持ち出したりしようものなら,税関で引っかかって厳しい尋問にさらされますし,現在の情勢ではそれでは済まないかもしれません。(以前経験者が語ってくれました...)日本でも今後このような対応が取られるべきかもしれません。

 また,ニューヨークの水道では,配水池(貯水池かもしれませんが)はオープンでかつろ過などの設備をもっていません。このようななかで貯水池に正体不明の物質が投下される,といった,不安をあおるような事件も発生しています。今回の同時多発テロ以来,ニューヨーク以外の水道水源も含め,非常に厳重な警備が行われるようになってきています。水源保護の観点からですが,日本以外の国では水源地域が立ち入り禁止になっているのが普通です。

 このように,当面採りうる対応策としては,出来るだけの危機管理(別ページに掲載)対策を準備しておき,緊張感を持っておくこと,に集約できます。日本各地でもこのような方針が打ち出され,水源のパトロールなどの取組みが行われていることは十分評価に値することと思います。

【備考】
 金子先生の編著書「水質衛生学」にはリスク管理に関していろいろな知見を紹介されているので,水道技術者でかつ危機管理関係の仕事をされる方は常備されるべき本でしょう。


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