人口の推計 Population
作成者  BON
更新日  2004/02/08

 ここでは人口の推計と,そのためのデータなどについてとりまとめました。

人口推計の方法
 水道で使用する人口推計の方法。時系列分析とコーホート法の2種類について使用される可能性があります。
自然増減人口
 人口の推移を素直に推計するための方法について。
社会増減人口
 素直な推計ではうまくいかないときの加減のしかたについて。
コーホート法
 長期人口予測の手法。さまざまなシミュレーションが可能ですが,水道事業程度の範囲には向きません。

【参考】
 ここの情報は,基本的認識に対して,「市町村人口推計マニュアル」石川 昌著等を参考に追記しました。


人口推計の方法

1)人口推計の一般論

 人口推計方法の種類を,資料では以下のように分類しています。

 このうち水道でよく使用されるのは前2者です。

2)世帯推計の一般論

 人口を把握する目的で検討する場合に併せて世帯数の情報が必要になることは比較的多いです。世帯の分類は以下のようになっています。

 世帯数の推計方法は,前出と同様に以下のようなものがあります。

3)水道にとっての人口推計

 人口の推計は,行政区域内人口,給水区域内人口,給水人口の推計などの基礎的資料となります。つまり各種の需要予測のうちもっとも基本的なフレーム値といえるでしょう。

 このうち,水道事業を展開する上でもっとも重要な指標は給水人口です。給水人口は,行政区域内人口を推計し,このうち給水区域内の住人口(給水区域内人口)を算定,行政目標としての意図を含みながら普及率を設定し,これらを乗じて給水人口を算定するのが一般的です。

 また,水理計算との整合性を考え,もっと別の区切りで人口の推移について検討する方法もあります。(詳細は企業秘密(^o^))

 人口の問題を扱うページについて紹介します。

【国立社会保障・人口問題研究所】
 人国の施策の基本となる人口問題を扱う研究所。国レベルの計画はこちらから。

4)一般的な人口推計手法

 人口の推計の手法には目的別にいくつかありますが,もっとも一般的なのは,時系列分析による自然増減人口に社会増減人口を加減して計算する方法です。このほか,特に長期的な予測が必要な場合などで,コーホート法を使用する場合がありますが,あまりお勧めしません。

1 時系列分析 2 コーホート法 3 その他
 人口を時系列量とみなして,直接推計するします。水道では10年程度の実績値を用いるのが普通です。  人口を,男女別の5歳群に分け,出生率や死亡率,移動率などを乗じてシミュレートすることで人口の変化を算出する方法です。  団地などで分譲面積に世帯あたり人口の計画値を使用するなど,小規模な事業では推計を行わない場合もあります。
 計算が簡単で,短期予測によく用いられます。水道計画の計画期間程度であれば十分な精度があります。  長期分析に使用します。死亡率や出生率など,社会情勢の変化をシミュレートできます。また,年齢世代の構成を見ることができ,所得予想などとの連携も可能です。  もっともらしく数字をひねくるより,えいやっと決めたほうがうまくいくような場合は実は存在します。
 社会構造の変化や開発行為など,地域を取り巻く情勢に変化が生じた場合に予測値にずれが生じやすくなります。このため,社会増減人口の概念を用いてこれを補正することが多くなります。  パラメータに仮定が多く,地域間の移動を測定しにくいので地域の分析には向きません。また,コーホートを構成する5年単位のデータでは水道の計画用としてはちょっと粗すぎます。  こういうやり方はいいかげんであるとして,認可などで認めてもらえない危険性が大きいのであります。部分的に必要な場合にとどめましょう。

【備考】


自然増減人口

1)自然増減人口とは

 自然増減人口とは,社会増減人口に対比する用語ですが,生誕,死亡による人口変化だけではなく,転出,転入も含む概念です。社会的に大きなインパクトがあるような開発行為などを除いた人口分,という意味で使用します。自然増減人口の概念には社会構造に大きな変化を受けていないという前提条件を含んでいるため,時系列分析との相性がよいといえましょう。

 なお,個別の計画では,当該の事業分の統計データを使用します。データの収集については資料収集のページを参考にしてください。

資料収集
 収集資料のリストと統計データを読むときの注意点について。

2)時系列分析

 時系列分析は,人口のほか原単位などの推計に使用します。別ページに掲載しました。

時系列分析
 人口や需要量などを推計するためのもっともポピュラーな手法。

【備考】


社会増減人口

1)社会増減人口とは

 過去の実績の推移に脈絡のない開発行為や工場移転などが見こまれる場合,その影響を別途加算や削減しなければならなくなります。特に,団地や開発行為によって人口が増える分について,社会増人口といいます。また,ダムの移転や区画整理のように,その地域の住人口が減少することが明らかな場合,これを社会減人口として計上します。

2)社会増減人口を計上するケース

 水資源計画や広域的事業計画など,全体計画が大規模で,地域を広域的な視点で捉える必要がある場合では,域内での開発行為は従来行われている事業のひとつに過ぎず,実績の推移に対して脈絡がないとは言えない場合が多くなります。また,開発行為による人口などの移動も域内で発生する可能性が高くなるでしょう。このような場合は社会増分を加算することは適当ではないと考えられます。

 しかし,水道事業体単位で計画する場合や,さらに狭い地域範囲を対象とする場合(送配水施設計画など)においては,開発計画によるインフラの整備や家屋の増加に応じた施設を用意することが必要であり,影響分を社会増加算分として取り扱う必然性が生ずるでしょう。

3)社会増減人口の算定例

 社会増減人口を計上する場合,その取り扱いは認可申請などでも過剰かどうかの見極めが行われます。これは争点になりやすいので,必然性について十分検討することが必要でしょう。

 下図は,住人口の飽和度を検討した事例の一つです。もっとも開発が進んだ地域と開発の進んでいない地域の人口の偏在を人口密度で分析し,開発区域の社会増人口の算出に応用しました。この例では,ヘクタール(100m×100m)あたり62人とでています。

 また,開発区域の計画がすでに策定済みで分譲人口が想定されている場合,この分の施設能力を用意するのが通常です。

4)転入率

 新たな開発行為によって人口の増加を見こむ場合,開発行為による転入者の人数を把握すると同時に,その人口の増分が域内の移動であるのか域外からの転入によるのか,を把握することが必要とされています。

 人口の変化が域内からであれば,その分の増減人口は社会増分から差し引くことが求められます。(開発行為によって確実に住宅は増えるので,これを根拠として人口推移を検討することも可能かと提案したこともありますが,認めてもらえませんでした)この,域外からの転入者の開発人口に対する比率を転入率と称します。

 転入率は,未完成の開発事業に対して今後明らかになる想定の数字ですので,近隣の開発事業などから想定するよりありません。筆者の調査した経験では,30%〜70%とばらつきが大きく,場所や条件で全く異なることがわかります。標準的な値はないといえるでしょう。


コーホート法

(1)計算方法

 国立社会保障・人口問題研究所では,戦前から我国の将来人口の推計を行っていますが,その方法は要因別推計法を用いている点で一貫しています。特に最近の推計では,いわゆるコーホート(同時出生集団)要因法が用いられています。

 コーホート法の流れは以下のようになります。

 

 まず,推計の出発点となる基準年次(10月1日)の男女年齢各歳別人口が必要です。この基準人口から翌年10月1日人口を推計するために,満1歳〜90歳以上の男女別人口については,例えば,基準年次に満10歳の人口に対して男女別将来生命表における10歳→11歳の生残率を乗じ,さらに10歳>11歳の域外人口移動数を調整して,翌年10月1日の満11歳人口を求めるようにします。

 0歳人口については,再生産年齢期間(15〜49歳)にある女子人口の基準年次と翌年との平均人口を求め,これに対して仮定された女子の年齢各歳別出生率を乗じてその1年間の出生数を求めます。その出生数を出生性比によって男女児に分離し,出生>0歳の男女別生残率を乗じ,さらに域外人口移動数を調整して翌年10年1日の男女別0歳人口を求めることができます。

 以上の手順を1年ごとに繰り返すことによって,将来の毎年次の男女年齢各歳別人口を推計します。

 この人口を基にして,毎年の各種人口静態指標(例えば,男女年齢別人口構成比,従属人口指数など)を計算します。なお推計の副産物として毎年の出生数,死亡数が推計されますので,普通出産率,普通死亡率,自然増加率などの人口動態指標の計算も可能であることが,コーホート法の特徴です。

【備考】


(2)計算条件の仮定

 コーホート要因法によって将来人口を推計するためには,

  1. 基準人口
  2. 将来についての出生率
  3. 将来についての生残率(生命表)
  4. 将来についての出生性比
  5. 将来についての人口移動率(転入,転出数)

 の5つのデータが必要です。全国ベースの数字については,国立社会保障・人口問題研究所などで手に入ります。しかし,水道のように比較的人口規模の小さい市町村などを対象に推計を行う場合,これらのデータが十分に集まらないのが普通ですし,変化率の特異値の調整や大規模開発行為などによる一時人口移動などについては,これを修正する必要があります。以下に各データについて対応例を示します。

1)基準人口

 基準人口とは,計算の基となる起点の年のコーホート別の人口です。コーホート別のデータは国政調査ごとに集計されているので,各市町についてこれを収集することができます。ただし,年齢不詳人口が計上されている場合がありますので,その年の人口分布の比率で配分し,合計人口を補正することが必要になるでしょう。

2)将来の出生率

 総出生率とは,15〜45歳女子人口に対する出生の比率ですが,これをコーホート分析に使えるようにしたものが合計特殊出生率で,年代あたりの女子の出生率を15〜45歳分合計した数字です。

 将来の出生率については,各市町の基礎データを一定とみなし,国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来人口」の中位推計のデータを使用することが一般的です。市町村別の数字が手に入れば理想的ですが...まあ手に入ることはないでしょう。

 余談ですが,人口増加率と老齢人口比率にはかなり明確な相関があるそうで,老齢人口比率が多い市町村の場合はこれを考慮して計画をすると外れにくくなるでしょう。

3)生残率(生命表)

 生残率とは,あるコーホートについて5年後の生残している割合を示すものです。全国の県別の生残率の仮定が国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来人口」に示されているので,これを使うといいでしょう。

4)出生性比

 以前調査した際には,出生性比の変動はきわめて小さいものとされ105.6で固定されていましたので,この数字を使用した記憶があります。新生児が男児である確率は,これによると105.6/(105.6+100.0)=51%となります。環境ホルモンの影響は今後でてくるんでしょうか...それとも泰山鳴動して鼠一匹なのか...

5)人口移動率(転入,転出数)

 コーホート法が水道事業の推計に使いにくい最大の理由は,この人口移動の扱いにあります。

 人口の移動率については都道府県単位としての移動率が「日本の将来人口」に示されているのですが,市町村によって人口移動が大きくことなるのは当然で,これを各市町に適用するのは無理があります。通常,水道事業の推計単位である市町村単位の人口移動は非常に顕著で,社会移動率の人口変化に与える影響は非常に大きいのが実情です。

 よって,実際の人口移動とコーホート法による閉鎖人口との比率を用い,さらにこれを実績に近づくように補正して使用するなど,何らかの工夫が必要となります。

 各市町の年度ごとの要因別人口移動数(出生,死亡,転入,転出)を男女別に調査し,もっとも最近の5年間のコーホートに対する封鎖人口(域内外の人口移動を見込まない人口)を算出,これとの比率を算出するなどの補正を行うことで,なんとか目的の数字を作りましょう。

【備考】


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