タイトル |
著者名 |
投票得点 |
『クール・キャンデー』 |
若竹七海著 |
+4点 |
祥伝社文庫書き下ろし作品のひとつ. 読み出して楽しげで若竹七海さんらしい文章だなと思って読み進めて, 最後の一行で愕然としました. さすが若竹七海. 最後の最後でとんでもないことをやらかしてくれます. この終わりで私は呆然としてしまった. 若竹七海さんはこういう毒の強さがいいな.
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『鬼を斬る』 |
藤木稟著 |
+4点 |
藤木稟と言えば『陀吉尼の紡ぐ糸』で鮮烈なデビューを果たし, 京極さんと同じような世界を描く作家. この作品も舞台を現代ではなく明治に設定し, どちらかというと暗い世界を描き出している. 鬼による神隠し, そして白骨死体と村人は暗い. しかし, 対照的に立花は逆に明るい. なぜなら, 監査役は別に見てるだけでいい. にも関わらず料理は豪華. 酒も飲める. 誰だって明るくもなろうというもの. 監査役という立場を謳歌する立花の楽しげな様子. だがそれだけに鬼という存在が極立っている. そして, 立花にも起こる怪異. 自分が鬼かもしれないと思う立花の思いはどういうものだったのだろう. まさか, 自分が子供を殺し食べたのか?気も狂いそうな恐怖だろう. 恐い.
この作品は中編という長さを見事に使い切った傑作. 人物がきちっと描かれており, 立花に感情移入してしまうと最後で唖然とさせられる. 驚きの結末.
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『なつこ、孤島に囚われ。』 |
西澤保彦著 |
0点 |
息抜きがてらにちょっと軽目な本をと読んでみましたが, 西澤さんらしくない. 斬新でとんでもない設定でありながらもかちっと決めてくれるものを期待してたんですけど, , ,
この本は百合作家である森奈津子が誘拐される話. 中には牧野修などの作家が実名で登場して, 会話文がなかなか面白い. しかし, 多くは森奈津子の妄想で占められてます. だけど, 思わず笑ってしまう.
くだらないと思いながらも笑ってしまう自分ちょっとくやしい. ちょこっと読むにはいいけれど, もっとしっかりとしたミステリを求めてると腰がくだけてしまう. しかし, これはちょっとなぁ. .
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『海底密室』 |
三雲岳斗著 |
+5点 |
小説的には森博嗣さん, それも犀川シリーズの理系ミステリに近い.
タイトル通り密室物. 連続して起きる密室下での怪死事件. 海底に存在する研究施設という設定もさることながら, 火の気のない密室下での焼死死体, 二重の密室下での撲殺死体と謎においても引き付けられる. なぜ?誰が?というミステリならではの楽しみがある. そして, トリックもまたすごい. 焼死死体に関しては遊はもう少し早く気付いてもよかったのではと思うけれど, ,
そして, この小説でもうひとつの核となっているのが孤独だろう. 海底の中という閉鎖空間で暮らし, 研究しているにも関わらず大した交流もない研究者たち. しかし, 現代の私たちにも同じような状況はあるだろう. 「人は誰もが孤独. 一緒に暮らせばその人のことがわかるなんてことは嘘だ」. 近くにいるから, 遠くにいるから. . . そんなことは意味はないのかもしれない. 近くで一緒に暮らせば本当にその人のことがわかるのか. . . この問いがさくっと心を突いてくる.
文句なく面白いし, 謎を解くというだけで終わっていないのもいい. しかし, 携帯情報端末に宿る人格という設定がおざなりすぎないか. それに関しては『M.G.H.楽園の鏡像』を読めばわかるんだろうか.
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『火蛾』 |
古泉迦十著 |
+5点 |
これはすごいかも. . . ミステリというよりも, アリーの修行の様子や修行での苦悩が主に描かれ, どんどん引き込まれていく. とても新人とは思えない出来. うぅむ, すごい.
アリーは修行をし, 多くの文献を読んだ優秀な行者である. しかし, 街で出会った導師に導かれ今までの修行で得た知識ががらがらと崩れてゆく. 今まで得た知識, 今まで行った修行. それらが意味をなさなくなる. 混乱. 苦悩.
宗教なんてよくわからないけれど, それでも, そういった悩みや苦悩が実にうまく描かれ, 古泉迦十の世界へと誘われる. そして, ネタバレになるので書けないけれども, その悩みと殺人, 哀しき結末がうまく呼応し, 非常に完成度の高い作品になっています.
私からすれば, 宗教に対する病的なこだわりというのは受けつけない部分もあったけれども, 面白かった
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