JMAI 2000

インターネットで選ぶ日本ミステリー大賞 2000
Japan Mystery Award on Internet 2000

鈴木芳樹
(ライター 実行委員メンバー)
e-mail yoshiki@suzuki.email.ne.jp
Home Page http://www.asahi-net.or.jp/~qy4y-szk/

タイトル 著者名 投票得点
ハサミ男 殊能将之著 +5点
珍しく冒頭の数ページを立ち読みしただけで、「お、これは当たりだぞ」と直観でわかった本。結果は大正解。「あのトリック」を使ったミステリのもっともスマートな例として、歴史に残る可能性すらある。決して大袈裟じゃなくって。随所にマニアックな仕掛けをほどこしながらも読者層を限定することのない、こなれた語り口がなんといっても心地よい。ワカモノの作文にはもう付き合ってられんよ。
百器徒然袋−雨 京極夏彦著 +4点
そろそろ目も当てられない駄作を書いてもおかしくないのに(そのほうがむしろ健全)、作品を追うごとにうまくなっているとはいかがなものか。ぎりぎりまで読者に事件の全容を垣間見させず、最後の最後にカタストロフィーを演出する手際の良さは、もはや前人未到の境地。ものすごい作家と同世代を生きているのですね、われわれは。
カニスの血を嗣ぐ 浅暮三文著 +2点
「メフィスト賞作家の文章は生硬で小説以前」という偏見は、この作品と『ハサミ男』によって打ち砕かれた。ごめんなさい。枠組みは正統的なハードボイルドでありながら、「匂い」を前面に持ってきたことで醸し出される奇想と妖気は、そこに収まり切ることがない。ふたむかし前のトリッキーな国産SFが好きなひとにもお勧め、と思うのは、山田正紀が推薦文を書いているからかな。
盤上の敵 北村薫著 +2点
北村薫はイヤな奴である。「イヤな奴」では語感が悪いというのであれば、「『悪意』に対する感受性がひと一倍研ぎ澄まされている表現者」と言い換えてもよい。いわゆる「日常の謎」派と北村薫とを分かつ最大の要因は、この感受性の多寡にこそある。ゆえに本作は異色作でも何でもない。作者の資質からすれば、いつかは当然書かれるべき作品だったのである。
法月綸太郎の新冒険 法月綸太郎著 +1点
転げ落ちる寸前で「厳粛な綱渡り」を続けているような、ひりひりした語り口の初期作品を愛する者にとって、この成熟っぷりはいささか意外。それがちょっと淋しいような……。でも、オトナになったじゃないか、法月。書けば書けるじゃないか、法月。そして、来世紀までにはぜひ長篇を!

[あなたが選ぶ日本ミステリー大賞特別賞]
特別賞名 講談社ばっかってのもアレで賞
受賞作、受賞者等 坪内祐三『靖国』
授賞理由 番外中の番外だけど、きわめてミステリ的な興趣に富むノンフィクション。政治的な側面ばかりが語られがちな「靖国」という不毛な土地へ、歴史的な広がりと豊かさを持たせようとする著者の手付きは、まさしく優秀な探偵のそれ。教科書が教えないナントカなんぞを読んでモノを考えてるつもりになるんだったら、こっちを読むように。

[その他書きたいこと(総評、感想等)]
別にこういう本しか読まないってわけじゃない。ただ99年に読んだ本から、「ミステリとは言えないもの」、「99年刊行じゃないもの」、「つうか小説じゃないもの」を除くと、講談社の作品しか残らなかったのだ。ホントは田中雄二『電子音楽・イン・ジャパン』(アスペクト)と隆慶一郎の諸作品こそが、去年の収穫だったんだけどね。
カニス』や『ハサミ男』のように、主人公がマスコミ業界から脱落していく作品が印象に残ったのは、自分の境遇とどこかしら重なりあうものがあったからかもしれない。10年前に新保博久が新本格第一世代に対して向けた、「30代の男性が描けていない」という批判に、この歳になってようやくうなずけるようになったり。
ともあれ「知らずに買ったダサい本」(筒井康隆)と出喰わさずに済んだ程度には、千世紀最後の年の読書生活は幸せでありました。

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