タイトル |
著者名 |
投票得点 |
『ハサミ男』 |
殊能将之著 |
+5点 |
珍しく冒頭の数ページを立ち読みしただけで、「お、これは当たりだぞ」と直観でわかった本。結果は大正解。「あのトリック」を使ったミステリのもっともスマートな例として、歴史に残る可能性すらある。決して大袈裟じゃなくって。随所にマニアックな仕掛けをほどこしながらも読者層を限定することのない、こなれた語り口がなんといっても心地よい。ワカモノの作文にはもう付き合ってられんよ。 |
『百器徒然袋−雨』 |
京極夏彦著 |
+4点 |
そろそろ目も当てられない駄作を書いてもおかしくないのに(そのほうがむしろ健全)、作品を追うごとにうまくなっているとはいかがなものか。ぎりぎりまで読者に事件の全容を垣間見させず、最後の最後にカタストロフィーを演出する手際の良さは、もはや前人未到の境地。ものすごい作家と同世代を生きているのですね、われわれは。 |
『カニスの血を嗣ぐ』 |
浅暮三文著 |
+2点 |
「メフィスト賞作家の文章は生硬で小説以前」という偏見は、この作品と『ハサミ男』によって打ち砕かれた。ごめんなさい。枠組みは正統的なハードボイルドでありながら、「匂い」を前面に持ってきたことで醸し出される奇想と妖気は、そこに収まり切ることがない。ふたむかし前のトリッキーな国産SFが好きなひとにもお勧め、と思うのは、山田正紀が推薦文を書いているからかな。 |
『盤上の敵』 |
北村薫著 |
+2点 |
北村薫はイヤな奴である。「イヤな奴」では語感が悪いというのであれば、「『悪意』に対する感受性がひと一倍研ぎ澄まされている表現者」と言い換えてもよい。いわゆる「日常の謎」派と北村薫とを分かつ最大の要因は、この感受性の多寡にこそある。ゆえに本作は異色作でも何でもない。作者の資質からすれば、いつかは当然書かれるべき作品だったのである。 |
『法月綸太郎の新冒険』 |
法月綸太郎著 |
+1点 |
転げ落ちる寸前で「厳粛な綱渡り」を続けているような、ひりひりした語り口の初期作品を愛する者にとって、この成熟っぷりはいささか意外。それがちょっと淋しいような……。でも、オトナになったじゃないか、法月。書けば書けるじゃないか、法月。そして、来世紀までにはぜひ長篇を! |