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パート1:小和瀬川支流中ノ又沢〜明通沢〜ヤセノ沢源流C1
 6月中旬、5名のパーティを組み、秋田最標高のイワナを追う八幡平・源流の山旅・・・4日間のうち3日間は沢歩きに終始したが、ナメが続く清冽な水の旅、標高1000m〜1200mに群れる岩魚、湿原に咲く高山植物、八幡平稜線から望むパノラマ・・・「山を立体的に歩いた」という実感が心の底から湧き上がる山旅だった。(写真は雪煙が舞う明通沢源流)

 コース・・・小和瀬川支流中ノ又沢・タチノクチ沢合流点車止め(520m)〜691m二又〜明通沢〜1030mコル〜ヤセノ沢源流二又985m下流C1(1泊)〜ヤセノ沢下降〜825m滝ノ沢合流点〜730m大深沢本流〜障子倉沢出合〜898m関東沢出合〜関東沢遡行〜1010m二又C2(2泊)〜標高1000m以上に生息する岩魚・源流調査〜右の沢〜八瀬森湿原・八瀬森山荘〜八瀬森1230m〜曲崎山1334m〜1085mコル〜スズノマタ沢下降〜691m二又〜520m車止め。(数値は標高を示す)
 玉川・小和瀬川支流中ノ又沢・・・標高520mの車止めから右岸の山道を辿ったが、アップダウンが激しく、途中から沢へ降りる。上流で発電取水され、水はほとんど流れていないナメ床を歩く。左手から大倉沢が出合うとまもなく取水堰堤だ。ここでは全量取水され、下流には一滴の水も流れていない。人目につかない奥とは言え、チョロチョロと力のない流れに取り残された岩魚たちが可哀想だった。取水堰堤を越えると、一転、清冽な流れがナメ滝シャワーとなって落走し、噴出す汗も吹き飛ぶほど快適、快適だった。
 沢を歩いて気分がいいのは、何と言っても清冽な水がシャワーとなって流れるナメ床、ナメ滝だ。中ノ又沢は、舗装道路と呼びたいようなナメが連続している。

 山の頂上から俯瞰すれば、簡単に山の外観をつかむことができる。だが沢は、未知の扉が連なり、源流まで歩き続けない限り全容は見えない。だからこそ、常に神秘的な雰囲気を感じながら奥へ奥へと入ってみたくなる。清冽な流れに黒い影・岩魚でも群れていようものなら、無上の喜びを与えてくれる。それが沢登り・山釣りの最大の魅力と言えるだろう。
 左からナメ滝となって合流する小沢、もうすぐ明通沢だ。初めて訪れる沢は、未知の魅力に溢れている。手強い滝やゴルジュが連続していないだろうか・・・なかば怖いような、好奇心に満ちた想像を巡らす。この地に立てば、眠っていた冒険心がいきなり起き上がるから不思議だ。
 明通沢に入るとブナの森も深くなり、薄暗い。時々黒い影が岩の下から走る。岩魚だ。その度に遡行者を喜ばせてくれる。
 左:ナメ滝の突き出した岩にびっしり生えた苔 右:清冽な流れとダイモンジソウの若葉
 明通沢源流部は、流れに点在する大岩が、見事な苔に覆われ、まるで苔生すマリモのように膨らんでいる。これぞ日本庭園の原点・水と緑滴る渓を歩く旅人は、幸福感に満ち溢れる。
 ブナの森にすっぽり包まれた小沢、流れの飛瀑と清冽な水が滴り落ちる岩には、ミズゴケ、シメリゴケ、タニゴケ、ダイモンジソウの分厚い鮮緑のマットに包まれている。岩魚は、こんな細い流れにも落人のように生きていた。
 ズダヤクシュ・・・登山道沿いに群れて咲く地味な花だが、源流部の沢沿いに生えていた。喘息によく効く薬草で、喘息を長野県では「ズダ」と呼ぶ。  明通沢は、困難な滝やゴルジュは皆無だった。流れが細くなると、雪煙が舞うSBが現れ、だんだん神秘的な雰囲気が漂ってくる。
 まだ分厚いSBをゆく。斜面には、シラネアオイが群生。いよいよ源頭も近い。目指すは、正面上に見える1030mのコルだ。
 サンカヨウ・・・高山帯の沢沿いに咲く。日本海側の多雪地に多く、雪解けと同時に花を咲かせる。透き通るような白花が美しい。 キヌガサソウ・・・亜高山帯の谷沿いに群生する。和名は、輪状に広がる大きな葉を、貴人にかざした衣笠に例えたもの。
 1030mコルを越えると笹薮。その笹薮でタケノコを採りながら進むとヤセノ沢源流だ。こんな細い流れにも岩魚の稚魚がたくさん泳いでいたのにはビックリ。  ツキノワグマの糞・・・タケノコを食べた痕跡がはっきり残っていた。消化しないタケノコの節の部分がはっきり見える。熊は、タケノコの皮を剥き、丸ごと食べているにちがいない。
 オサバグサ・・・葉はシダのような独特な形をし、純白の可憐な花を下向きに咲かせる。日本特産の1属1種の貴重な花。多雪は、極端な寒さと乾燥からオサバグサを守り、今日まで細々と生き続けることを可能にしたと言われる。  こんな細い流れでも、岩魚があちこちで走った。だがサイズは、1年魚から2年魚と小さいものばかり。穏やかな源流部は、岩魚の種沢に違いない。産卵に適した場所も確かに多かった。産卵期に来ると、素晴らしい産卵シーンが撮れるだろう。
 標高985m二又の淵で群れていた岩魚。20匹ほどの群れをつくって上流から下流、下流から上流へと泳ぎ回るシーンは圧巻だった。これだから沢歩きはやめられない。産卵期になると腹部が赤くなるウグイのように、ここの岩魚の腹部も全て赤く染まっているように見えた。泳ぐ岩魚の腹部をよくご覧ください。撮影しようと近づいても逃げる様子もみせず、悠然と泳ぐ姿にまたまた圧倒された。これがあの人影を恐れる神経質な岩魚か、と疑いたくなった。
 ヤセ(八瀬)ノ沢源流部に生息する独特の個体・岩魚・・・腹部の濃い柿色と口紅を塗ったような口に注目。とにかく口から腹部、尾ビレに至るまで柿色〜橙色が異様に濃く一際鮮明なのが特徴だ。体が反射して橙色の斑点が不鮮明になってしまったが、実は側線の上部1〜2列が橙色の斑点を持つ珍しい個体だ。ニッコウイワナは、側線より下に橙色の斑点、上は白い斑点というのが一般的だが、この定義から言えば、ニッコウイワナとは明らかに異なる個体ということができる。
 頭部から側線にかけて、白い斑点は細かく星屑を散りばめたように全身を彩り、実に美しい。同じ岩魚でも、それぞれの水系に生息する岩魚の遺伝子は異なるということが、この個体からも容易に推察することができる。
 アオモリトドマツが林立する右岸の高台をC1とする。今夜の岩魚は5人でわずか3匹。三枚におろした後、コロモをたっぷり付けてフライパンで揚げているのが柴田君。今夜はタケノコ汁と焼きタケノコ、岩魚のムニエルがメイン料理。疲れた体に酒は超特急で駆け巡り、シュラフに潜れば奈落の底に落ちたように眠った。明日はどんなドラマが待ち受けているのだろうか・・・。

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