マーズ・アタック! ★★☆
(Mars Attacks!)

1996 US
監督:ティム・バートン
出演:ジャック・ニコルソン、グレン・クローズ、アネット・ベニング、ピアース・ブロスナン



<一口プロット解説>
緑の光線を放つ火星人達が、地球を侵略しにやってくる。
<雷小僧のコメント>
アメリカという国は面白い国で、何やら随分とアメリカ万歳的な側面があるその傍らでケタケタとその傾向を自ら皮肉っているようなところがあるのですね。最近の映画で言えばアメリカ万歳は「インデペンデンス・デイ」(1996)でケタケタがこの「マーズ・アタック!」です。そういえば火星人の声がなにやらケタケタと笑っているようではありませんか。そもそも今更火星に火星人などいないことくらいどんな子供でも知っているにもかかわらず、アルファケンタウリ星人でもなくアンドロメダ星人でもなく火星人の襲来などとオーソン・ウエルズですらびっくらするようなことを臆面もなく言ってのけるところがすごいではないですか。そういえば、「インデペンデンス・デイ」があちらで公開された時、ビル・プルマン演じる大統領が一席ぶった後(しかし、この特徴がないのが特徴になっているような俳優のビル・プルマン演じる大統領の言うことにそんなに説得力があるのかなどと、私目などは首をかしげる他はないのですが)これから円盤の迎撃に出撃するぞというシーンで大歓声があがったそうですが、この「マーズ・アタック!」はそういう国威発揚的というか愛国者的情熱におもいきり水をかけるのですね。たとえば、ある兵士がわざわざアメリカ国旗をつかんで、緑色の光線を放つ銃を持つ火星人達に「I surrender(降伏します)」といった後、その銃でローストにされてしまうシーンがあるのですが、アメリカのシンボルの一つであるアメリカ国旗を持って降伏しますなどというセリフを吐いた奴はアメリカ映画史上初なのではないでしょうか。また、思いっきりマヌケなアメリカ大統領を演じるジャック・ニコルソンの存在があります。「アメリカン・プレジデント」(1995)のレビューにも書いたのですが、アメリカ大統領には単に政治家であるという範疇を越えてこれがアメリカであるというような象徴的な価値が強く付帯しているわけですが、そういうアメリカ大統領の存在を茶化すようなマヌケ且つ無能な大統領をわざわざ登場させるわけです。また最後の結末がまたすごい。シルビア・シドニー演じるおばあちゃんの聞いているレコードを聞いて火星人どもがバタバタ死んでいくなどというのは、大気のバクテリアが宇宙人たちを殺生して地球が救われるというあのジョージ・パル製作の「宇宙戦争」(1953)以来の快挙ではないでしょうか。要するに愛国者的ヒロイズムにチョロリとベロを出して何やら肩すかしを食わすような結末になっているわけです。
というわけで、この映画は徹底したパロディ映画なのですが、1つ感心するのは、実に特殊効果が有効に使われているなということです。私目はどうも最近のSFXだとか何とかいう特殊効果満載の映画を見ていると、内容の貧弱さの方が余計に目立ってしまうケースの方が多いように思われるのですが、この映画であるとか「MIB」(1997)等のようないわゆるパロディ的な映画の方がそれが有効に機能しているように思えて仕方がありません。何やら特殊効果を通して遊びの精神がここかしこに感じられて実に面白いのですね。それからわざわざ安っぽそうに見せかけられた火星人が、何やら火星人というのはいかにもこういうものであるというクリーシェに充ちたような火星人であるのが非常に嬉しい限りです。一言で言えばこの映画は、斜に構えて思い切り楽しむのが一番面白いような映画であり、逆説的なのですがまだアメリカにも批判的な健全さがあるなということを窺い知ることが出来るように思います。
それからやはりキャストの豪華さに触れないわけにはいかないでしょうね。最近は、多分出演料が高騰している為か、昔のたとえば、「史上最大の作戦」(1962)だとか「大脱走」(1963)だとかいったようなオールスターキャスト映画が80年代以降ほとんどなくなってしまいました。ロバート・アルトマンの映画がそう言えないこともないのですが、ほとんどの俳優はいわゆるカメオ(ちょい役)で出ているだけなので本当のオールスターキャスト映画とは言い難いでしょうこの「マーズ・アタック!」には、珍しくジャック・ニコルソン、グレン・クローズを筆頭にマイケル・J・フォックス、アネット・ベニング、ピアース・ブロスナン等の俳優がずらりと並ぶのですが、注意されている方は気付かれていると思いますが、ロッド・スタイガー(この人は比較的若いころから老け役が多いのでまだ生きているのかという印象があります。あのルメットの「質屋」(1965)はなかなか強烈でした。)、ジム・ブラウン(リー・マービンの出ていた戦争映画の秀作「特攻大作戦」(1967)に出ていました)、ジョー・ドン・ベイカーらの古参や、極めつけは30年代(昭和ではありませんよ。1930年代です)に活躍していたシルビア・シドニー(車椅子に乗っている婆様で半分あの世にいってるから助ける必要がないとジョー・ドン・ベイカーに言われてしまう人です。最近亡くなられました)が始終ニコニコして登場していることでしょう。30年代の悲劇のヒロインと言われた人が、90年代も後半のおマヌ映画に最初から最後迄ニコニコして出演しているというのは、確かに世紀末が近付いているなという何よりの証拠となるでしょう。何を言っているのか分からなくなってきましたが、これはこの映画のせいです。

2000/09/01 by 雷小僧
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