浮気の計算書 ★★☆
(Who's Got the Action?)

1962 US
監督:ダニエル・マン
出演:ディーン・マーチン、ラナ・ターナー、エディ・アルバート、ウォルター・マッソー



<一口プロット解説>
ラナ・ターナーは、旦那のディーン・マーチンが競馬で大金をすっていることを知り、自らノミ屋になってマーチンの散財を諌めようとするが、どういうわけか彼の賭けた馬が勝ち始めてしまう。
<雷小僧のコメント>
主演のラナ・ターナーは、スーザン・ヘイワードとともに1950年代後半を過ぎるとメロドラマのスペシャリストになってしまったような感がありますが、この映画は珍しくコメディです。でも、この「浮気の計算書」を見ていると、彼女はこの分野でも結構いけるのではないかと思えてきますので、何やら晩年(映画キャリア内での晩年という意味です)はほとんどメロドラマにしか出演していないのがちょっと残念ですね。この映画は、プロット解説でも書いたように旦那のディーン・マーチンが競馬にのめり込んで大金をすってしまうのを見て、自ら密かに競馬のノミ屋になってしまうという他愛のないものなのですが、これが意外に見ていて可笑しいのですね。こういう他愛のないコメディ映画というのはストーリー展開がシンプル且つ分かり易く、それでいて途中でダレないことが必要条件になってくるように思われるのですが、その辺りの処理がなかなかうまく出来ているように思います。まず第一に、約95分という時間の設定がいいですね。私目は、どんな種類の映画でも上映時間が90分を割る映画は物足りなさを感じるし、払ったお金が回収出来なかったような気がしてきます(せこーーーーー!)。また、この手のコメディ映画がだらだらと長くなってくると今度は非常に見るのに疲れてきます。そういうわけで、適正な上映時間の設定というのはつまらないことのようで意外にその映画の与える印象に大きな影響を持っているのではないかと思っています。それから人物配置がなかなかこの「浮気の計算書」はいいですね。ディーン・マーチンとラナ・ターナーという何やらそろそろ倦怠期かなと思わせるような夫婦と、マーチンの友人でありながらもターナーに悩みを相談されると断ることの出来ないエディ・アルバート(ターナーに子供のように顎をつつかれてNoとは言えなくなってしまうのですね)、更に競馬のノミ屋シンジケートを牛耳るウォルター・マッソー(ミルクを飲んでいるのがいいですね)、それからこれは後で紹介しますが裁判官なのに競馬にうつつを抜かしているポール・フォードとジョン・マクギヴァーなど可笑しなキャラクターが続々と登場して見る人を飽きさせることがありません。しかも、コメディと言えども皆一流の役者ばかりを揃えているので、何やら見ていて一種の安心感があります。それから、こういうコメディでわけの分からない妙なキャラクターが色々登場してきて、何の為にいるのか分からないような人物がいたりして全体的な印象が極めて散漫になることがままあるのですが(まあそういう映画は他の多くの点に関しても散漫なことが多いのですが)、そういうこともこの映画には概ねなく(概ねと言ったのは、やはりこの映画にもそういう人物は出てくるのですが、全体的なバランスから言えば無視してもよいように思われるからです)、それぞれ必要な箇所に必要なキャラクターが納まっているなという印象があります。
さてところで、この映画をここで取り上げたのは、実はそういうことを述べたかったからではないのですね。勿論、この映画は前節で述べたような意味において、うまく纏まった映画であると言えるし見ていて実に面白いのですが、その程度なら他にもいくらでも(というのはちょっとオーバーですが)紹介したいコメディ映画はあります。では何故この映画をわざわざここに取り上げたかというと、50年代後半から60年代を代表する名脇役(どちらかと言うとコメディ的な要素を持った人達なのですが)で私目が大好きなポール・フォード(3番目の写真の向かって左側)とジョン・マクギヴァー(右側)が揃って出演しているからなのです。この両名の特徴的な点は、その独特なしゃべり方にあります。ポール・フォードは強烈に鼻にかかった声で独特な連続的なリズムで素早くしゃべるし、ジョン・マクギヴァーの方はどちらかと言うと体型に似合わない高い声でこれまたポール・フォードとは全く違った独特なリズムでしゃべります。最近の映画を見ているとこういう俳優さんがほとんどいないのですね。要するにしゃべり方だけで見る人を魅了してしまう俳優さんがです。この両名はまさにしゃべり方だけで見る人に強烈な印象を与えることが出来た俳優さんたちでした。
知らない人の方が多いのではないかと思いますので、ここで少しこの両名の紹介をしておきましょう。ポール・フォードは、映画デビューは極めて遅く40才をはるかに過ぎてからです。彼が有名になったのは、ブロードウエイバージョンと映画バージョンの「八月十五日の茶屋」によってです。映画バージョンの方は恐らく結構知っている人が多いのではないでしょうか。何故なら淀長さんが1シーンだけ出演していたからです。この映画の監督は、「浮気の計算書」と同様ダニエル・マンで、確かエディ・アルバートも出演していたように覚えています。私目は、この映画は随分と前に見て以来見ていないのでよくは覚えていないのですが、ポール・フォードは確かグレン・フォードの上司を演じていたような気がします。ポール・フォードの出演作はその体型故にかほとんどコメディ系の映画ばかりなのですが、私目の好きなものの中では「テキサスの五人の仲間」(1966)でのジョアン・ウッドワードにお金を貸す銀行のマネージャーが実に秀逸でした。またコメディタレントが総集結していたスタンリー・クレイマーの「おかしな、おかしな、おかしな世界」(1963)でも、私目が一番可笑しいと思ったのは、英国なまりを丸出しにしてしゃべるテリー・トーマスとミッキー・ルーニーの乗った飛行機を何とか地上に降ろそうとして悪戦苦闘する管制塔員を演じていたこのポール・フォードです。それから、ジョン・マクギヴァーですがこの人はあちらではシーン・スティーラー(少なくとも自分が出演している箇所だけは主役を食ってしまうような俳優さんのことを言います)として悪名が高く、あの「ティファニーで朝食を」(1961)でティファニーの店員を演じていたおっさんと言えばああ!あの人かと思う人も多いのではないでしょうか。この人もしゃべり方ばかりでなく体型もユニーク(というかずんぐりむっくり)で、コメディ系の映画が多いのですが私目の大好きな「男性の好きなスポーツ」(1964)でも彼の出演箇所ではしっかりとロック・ハドソンを食っていました。その他にも「Bachelor in Paradise」(1961)では「浮気の計算書」にも出演しているラナ・ターナー(そう言えば「Bachelor in Paradise」もコメディでした)やボブ・ホープを、「結婚専科」(1965)では、フランク・シナトラやデボラ・カーを食いまくっていました。ただこの人はポール・フォードとは違ってコメディ以外の映画、たとえば「影なき狙撃者」(1962)や「真夜中のカーボーイ」(1969)等への出演もあります。そういうわけで、この両人を揃って見ることが出来るというか聞くことが出来る「浮気の計算書」は、私目にとってはそれだけでも貴重な映画なのですね。最後は何か映画の紹介ではなくて俳優さんの紹介のようになってしまいましたが、映画自体もなかなか面白いので機会があれば是非とも見て下さい。

2000/09/10 by 雷小僧
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