All Fall Down ★☆☆

1962 US
監督:ジョン・フランケンハイマー
出演:ウォーレン・ビーティ、エバ・マリー・セイント、カール・マルデン、アンジェラ・ランズベリー

左:ブランドン・デ・ワイルド、右:ウォーレン・ビーティ

「グランプリ」(1966)以前のジョン・フランケインハイマーの白黒作品には優れたものが多いことは別のレビューに書きましたが、日本劇場未公開作品である為かその中でも最も知られていないのがこの作品であり、この当時のフランケンハイマーとしては珍しく政治的なコノテーションがなくプライベートな人間ドラマに仕上がっています(「影なき狙撃者」(1962)、「5月の7日間」(1964)、「大列車作戦」(1964)のように明らかに政治色がある映画は別としても、「明日なき十代」(1961)、「終身犯」(1962)、「セコンド」(1966)のような作品もプライベートな人間ドラマであるとはとても言えないでしょう)。それ故ややフランケンハイマー的ではないようなイメージはありますが、それでも興味深いドラマに仕上がっています。その理由の1つは、プレイボーイのオーラをたぎらせるウォーレン・ビーティの存在が素晴らしいことで、倦怠感と熟れ過ぎたバナナのようなどこか何かが腐っている雰囲気が横溢し、それを得も言われぬオーラに転換してしまうスクリーンマジックを持つこの俳優さんは、まさに60年代が生んだ新しいタイプのヒーロー(というよりもアンチヒーロー)であることが分かります。まあ、ダテにプレイボーイと呼ばれてはいなかったということです。そのビーティに騙されて最後には自殺してしまうのが、若い頃よりこの頃の方が魅力的に私目には見えるエバ・マリー・セイントで、実はこの頃既に40才近かった彼女がビーティにコロリと誑かされてしまっても何も不思議ではないようなシンプルな純朴さがこの人にはあります。それからビーティのようなタイプのワルのバランスを取るには、ストレートなキャラクターも必要で、その役はブランドン・デ・ワイルドが演じています。デ・ワイルドはビーティの弟役ですが、根が真面目な彼は最初は兄貴が持つ得も言われぬオーラに圧倒され尊敬していますが、密かに思いを抱いていたエバ・マリー・セイントがビーティに騙されて自殺するのを見て兄貴の無責任とも言える生き方に疑問を持つようになります。デ・ワイルドは同じ頃「ハッド」(1963)でも、ポール・ニューマン演ずる反抗的な主人公の義弟役を演じていましたが、キャラクター的な位置付けとしては「All Fall Down]の場合と全く同じであるように思われます。まあ、「シェーン」(1953)の子役もこの頃は成長して、ストレートなイメージが強い、すなわち悪い言い方をすれば個性があまりない俳優さんになっていたというわけです。ということで、この映画のポイントは、何と言っても「ハッド」のポール・ニューマンとは違ったタイプのオーラを持つウォーレン・ビーティの存在にあり、この作品は「草原の輝き」(1961)、「ローマの哀愁」(1961)の次に彼が出演した作品ですが、或る意味で彼の本質が最も良く現れている映画であると言えるかもしれません。まあ、ビビアン・リーの次はエバ・マリー・セイントですか、困った人です・・・。


2005/05/07 by 雷小僧
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