5月の7日間 ★★★
(Seven Days in May)

1964 US
監督:ジョン・フランケンハイマー
出演:バート・ランカスター、カーク・ダグラス、フレデリック・マーチ、エバ・ガードナー

向:バート・ランカスター、手前:カーク・ダグラス

最近、我が家の隣にあるシネコンで、「13デイズ」(2000)という作品を見ていた時、ふと「5月の7日間」のことを思い出しました。「13デイズ」がキューバ危機という史実に基いているのに対し、「5月の7日間」は完全なるフィクションであるという違いはありますが、政治サスペンス映画としての出来の良さという点ではどちらも素晴らしい作品です。両者とも、緊張感の持続のさせ方が絶妙で、たとえ結果が分かっていても、いったいこの先どうなるのかハラハラドキドキさせるサスペンス溢れる展開によって、観客を巧みに誘導するストーリーの流れが実に見事です。政治映画の中には、「5月の7日間」や「13デイズ」のように、サスペンス要素がふんだんに盛り込まれ、並みのサスペンス映画では達成できないような緊張感を醸しだすことに見事に成功している優れた作品が時々見受けられます。普段は政治映画を敬遠する御仁でも、サスペンスの舞台が政治シーンに置かれていると捉えれば大きな興味が湧いてくるのではないでしょうか。「5月の7日間」は、アメリカ合衆国の真っ只中で、ガチガチのミリタリスト(バート・ランカスター)が率いる軍部がクーデターを計画している事実を彼の部下(カーク・ダグラス)が嗅ぎ付け、大統領(フレデリック・マーチ)らとともにそれを何とか阻止しようとするストーリーが展開されます。まず、クーデターを計画する将軍を演ずるバート・ランカスターが、この役にはこの人しかいなかろうと思わせるほど、パーフェクトにマッチしています。バート・ランカスターは、アメリカ合衆国を乗っ取ろうとするテロリストを10数年後に再び「合衆国最後の日」(1977)で演じており、このような役には欠かせない存在でした。また、舞台が、架空の国にではなく、アメリカ合衆国に置かれている点がまた凄い。アメリカ合衆国を舞台として設定してしまえば、恐らくそんなクーデターが成功する見込みはまずないことを最初から暴露するようなものですが、それにも関わらずドキュメンタリータッチの作品全編を通じて見事な緊張感を感じ取ることができます。考えてみれば、この作品が製作された60年代前半は「13デイズ」で描かれているキューバ危機が起きた直後の東西冷戦最高潮の頃であり、国内外を問わず政治的なテーマに関する世の関心も高く且つ極めてセンシティブであったのではなかろうかと考えられます。要するに、「5月の7日間」が扱うテーマは、確かにアメリカ合衆国軍部のクーデターという着想には極端なところがあるとはいえ、政治的不安の渦中にあった当時としては、コンテンポラリーな関心を呼んだはずであり、そのような時代背景と重ね合わせれば、この作品の存在意義がより明確になるはずなのです。ソビエトの脅威に対する一種のパラノイアックな反応として、アメリカ合衆国軍部のクーデターなどという、今から考えれば突拍子のないアイデアが、それほど不自然には思われずに飛び出してきたとも考えられるかもしれません。国内問題に終始する「5月の7日間」とは違ってモロに米ソのガチンコ勝負を題材とする同年製作の「未知への飛行」(1964)や「博士の異常な愛情」(1964)などとも、その意味では製作の動機として共通面があったのではないかとすら考えられます。ということで、不安感を誘うジェリー・ゴールドスミスの音楽が素晴らしいことを、最後に付け加えておきましょう。


2001/07/29 by 雷小僧
(2008/10/24 revised by Hiroshi Iruma)
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