ローマの哀愁 ★☆☆
(The Roman Spring of Mrs. Stone)

1961 US
監督:ホセ・クインテロ
出演:ビビアン・リー、ウォーレン・ビーティ、ロッテ・レーニア、ジル・セント・ジョン

左:ロッテ・レーニア、右:ビビアン・リー

「欲望という名の電車」(1951)以後のビビアン・リーは、孤独なスピンスター(オールドミス)役が似合うようになってしまいました。実際、彼女の晩年の実生活は、若かりし頃の華やかさからは想像すらできないようなものであったという話もあり、スクリーン上でも同様な傾向が反映されるようになったのかもしれません。「ローマの哀愁」は、彼女が出演した最後から2番目の作品であり、最後の出演作「愚か者の船」(1965)はクレジット上では彼女の名が一番先に現れるとはいえ、基本的には彼女に焦点が置かれた作品ではなく、従って「ローマの哀愁」が最後の主演作品であると見なすべきでしょう。作品中、彼女はローマで孤独な晩年を過ごす舞台俳優を演じており、ひょっとするとビビアン・リー自身の姿とも重なるところがあるのではないかとすら思えます。邦題の「ローマの哀愁」は、彼女の代表作の1つである「哀愁」(1940)をもじったものと思われますが、単なる哀愁ではなく「老いと孤独の悲哀」と言うべきでしょう。舞台がローマだけに風景は明るいにも関わらず、バックが明るいが故に彼女の孤独が余計に際立っています。ランダ・ヘインズの秀作「潮風とベーコンサンドとヘミングウエイ」(1993)のレビューで、同作品では、フロリダの陽光をバックグラウンドとして年老いた主人公達の孤独、寂寥感が見事に表現されていると述べましたが、「ローマの哀愁」もそれと同様な印象を受けます。年老いたにも関わらず、自らの誇り高きプライドが自分の周りの人々と馴染むことを許さないが故に、ますます孤立して絶望的な孤独に陥る様を演ずるには、まさにビビアン・リーの持つキャリアと実力が必要なのです。「愚か者の船」の中で、誰も見ていない船内の廊下で一人タンゴを踊る彼女は、そのような晩年の彼女のイメージを見事に凝縮するシーンでした。残念ながら、「ローマの哀愁」は、メロドラマ的なストーリーにだるさが感じられ、それ故この作品を高く評価することはできません。とはいえ、出演している俳優さん達には見るべきものがあります。ビビアン・リーは勿論のこと、殊に目を惹くのがコンテッサと呼ばれながら孤独な金持ち未亡人を見つけては若い男を紹介してバックマージンを取る女ポン引きのような役を演じているロッテ・レーニアです。彼女は、「三文オペラ」で有名な作曲家クルト・ヴァイルの奥さんだった人であり、映画ファンには「ロシアより愛をこめて」(1963)の悪役(ラストシーンでアブドラ・ザ・ブッチャーよろしくナイフを仕込んだ凶器シューズで無謀にもジェームズ・ボンドを襲うおばちゃんが彼女です)が最も有名でしょう。「ローマの哀愁」でオスカー助演女優賞候補になっているのは、尤もなところかもしれません。また、ウォーレン・ビーティがいかにも彼らしく、女たらしのプレイボーイを演じています。このような役を演じてスクリーン上でオーラを放つには、並みのプレイボーイでは済まないでしょう。彼は翌年の「All Fall Down」(1962)でもエバ・マリー・セイント演ずるスピンスターをもて遊んでおり、この頃は言うならば究極のおばキラーであったということになります。他にもコーラル・ブラウン、ジル・セント・ジョンなども出演しており、サポートキャラクターの粒が揃った作品です。監督のホセ・クインテロは、一般には馴染みのない名前ですが、どうやら実際には映画監督ではなくブロードウエイの舞台監督であったようです。原作はテネシー・ウイリアムズのようですが、ドラマ的にはイマイチの感が拭えません。しかしながら、ビビアン・リーの晩年の数少ない作品の1つであるだけでも、一見の価値有りと言えるでしょう。


2004/05/01 by 雷小僧
(2008/10/18 revised by Hiroshi Iruma)
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