セコンド ★★☆
(Seconds)

1966 US
監督:ジョン・フランケンハイマー
出演:ロック・ハドソン、サロメ・ジェンズ、ジョン・ランドルフ、マーレー・ハミルトン

左:ロック・ハドソン、右:サロメ・ジェンズ

「セコンド」を監督しているジョン・フランケンハイマーは、60年代の中頃までは、たとえば「終身犯」(1962)、「影なき狙撃者」(1962)、「5月の7日間」(1964)、「大列車作戦」(1964)などの骨太で簡素且つ緊張感溢れる白黒作品を数多く監督していました。ところが、カラーに転向するといきなり「グラン・プリ」(1966)のような、カーレースがテーマであるにもかかわらずいまひとつ緊張感のないメロドラマティックな作品を監督しています。どうも彼は、シンプルなテーマをシンプルに表現している時の方が、テーマや素材が豪華な時よりも力を発揮するタイプの監督さんであったように思われます。それ故、カラー作品よりも白黒作品のハンドリングに優れているように見え、要するに余剰を持て余してしまう方の人なのでしょう。たとえば、画家にもシンプルなデッサンが得意な人もいれば、ルノワールのようなゴージャスな絵画を描くことが得意である人もおり、フランケンハイマーがもし画家になっていたならば、きっとデッサンを得意としたに違いありません。勿論、彼は今でも現役の監督さんであり(※)、個人的にも「RONIN」(1998)などは見ており確かに全く駄目ではありませんが、60年代前半のいかにも「これがフランケンハイマーの作品だ」という力強さは感じられません。「セコンド」は、他の60年代の彼の作品と比べると知名度ではかなり落ちるとはいえ、いかにも彼らしい簡素な白黒スリラーです。整形手術をし、アイデンティティを変えて生まれ変わった男(ジョン・ランドルフ=>ロック・ハドソン)が、成り替わったアイデンティティに同化し切れず、最後は悲惨な結末を迎えるというストーリーが繰り広げられます。極めて陰惨な作品ではあれど、フランケンハイマーのスタイリッシュとも言えるほどにシンプルで過剰さのないハンドリングが、緊張感溢れるストーリー展開を盛り上げています。テーマの暗さは、既に色褪せつつあったとはいえ主演のロック・ハドソンの持つカリスマ性に、そぐわないように思われても当然でしょう。しかし、全体的にそのような印象をあまり受けないところは、フランケンハイマーのハンドリングが効いている証拠でしょう。殊にラストシーンで、ベッドに縛り付けられたロック・ハドソンがあばれまくる姿は、色男ハドソンもこれではかたなしだと思わせてくれます。明らかに、「セコンド」は、ロック・ハドソンの作品でなく、ジョン・フランケンハイマーの作品なのです。また、この頃のフランケンハイマーの他の白黒作品と比べると、政治色は直接的にほとんど感じられない一方で、個人のアイデンティティ操作という題材に70年代以後の作品に頻繁に見出される管理社会批判SFを思わせるところがあります。ということで、一言で云えば、「セコンド」は、骨太且つ簡素な硬派向けの作品です。

※この記事を書いて1年も経たずに亡くなってしまいました。合掌。(2008/11/02追記)


2001/09/16 by 雷小僧
(2008/11/02 revised by Hiroshi Iruma)
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