Breezy ★★★

1973 US
監督:クリント・イーストウッド
出演:ウイリアム・ホールデン、ケイ・レンツ、ロジャー・C・カーメル、ジョーン・ホチキス

左:ウイリアム・ホールデン、右:ケイ・レンツ

今年の新年冒頭劇場でクリント・イーストウッドが監督した「ミスティック・リバー」(2003)という作品を見ましたが、その時感じたのが70年代初頭の彼の映画がシンプル且つ実に面白いのに比べ、随分とまた錯綜した映画を撮るようになったものだなということです。確かにこの「ミスティック・リバー」という作品は一般的な評価は高いようですが、私目の印象はむしろネガティブなものであり少なくとも70年代の初頭の彼の映画が持っていたチャームがないなというのが正直な感想でした。では70年代初頭の彼の映画とはどの映画を指すかというと、彼が監督したこの「Breezy」及び「恐怖のメロディ」(1971)、及び彼が主演した「白い肌の異常な夜」(1971)です。クリント・イーストウッドと言えばどうしてもマカロニウエスタンとダーティ・ハリーシリーズというマッチョなイメージがあるわけですが、この3作品だけ(それからまあ比較的最近の「マディソン郡の橋」(1995)もこれに含めることが出来るかもしれませんが、個人的にはこの作品はあまり好きではありません)は全く別であり、彼のマッチョ的イメージからは想像も付かないような役を演じていたり(後二者)、センシティブな映画を撮ったり(前者)しています。この「Breezy」という作品は、クリント・イーストウッドが監督したという話題性があるにも関わらず日本未公開(但し「愛のそよ風」というタイトルでテレビ公開はされているようです)であるばかりか実はあまりあちらでの評価も高いとは言えず、或る意味で大きく過少評価(underestimate)されている作品であると言えます。内容はウイリアム・ホールデン演ずる初老のガチガチのビジネスマンと、ケイ・レンツ演ずる風のよう(breezy)にノンシャラントな若いギャルのラブストーリーであり、言ってみれば「ロリータ」(1962)的な関係が描かれていると言えますが、「ロリータ」的なコノテーションがこの映画にあるわけではなく、むしろ「Hoffman」(1970)のピーター・セラーズとシニアド・キューザックを思い出させます。すなわち中年助平オヤジが一方的に若いギャルを偏愛するというような関係が描かれているわけではなく、年齢差が齎すギャップという現実がなかなか克服出来ずにぎごちない関係を続けていくけれども、最後にむしろそのギャップが存在するということを理解しその事実を無理に否定するのではなく、互いに他の持っていない部分を補完していくことが正しいあり方であると気が付いた時に真の関係が始まっていくというようなストーリー展開であり、遥かにゲテモノ性は少ないと言えます。すなわち前述したようにこの映画は極めてセンシティブな映画であり、知らなければ誰もクリント・イーストウッドの作品であるとは思わないでしょう。そのようなテーマであるだけにキャストを失敗するととんでもない茶番劇になる可能性が大ですが、この作品の主演のウイリアム・ホールデンとケイ・レンツが実に良いのですね。ウイリアム・ホールデンはいかにも60年代以降のウイリアム・ホールデンだなという印象があり(この作品を見ているとナンシー・クワン演ずる予測不能な若いギャルのお相手をする「スージー・ウォンの世界」(1960)での彼を何とはなく思い出してしまいます)、年を取って考え方に柔軟性を失ってしまったルーチンワーク的ビジネスマンを好演しています。しかしそれ以上に素晴らしいのがケイ・レンツであり、風のようなスピリチュアリティを感じさせる彼女のパフォーマンスは必見です。ところで、誰とも知らない男の部屋で目が醒めノンシャラントに立ち去ってゆく冒頭のシーンから明らかなように彼女はヒッピー的なキャラクターとして登場しているわけですが、この作品が製作された頃はまだ60年代後半のカウンターカルチャー的余韻が残っていたはずであるとはいえ、カウンターカルチャー的コノテーションはこの映画の場合は、むしろ無視した方が良いように思われます。それよりもケイ・レンツ演ずるそのような風のようなパーソナリティが、風通しの良さなどとうの昔に忘れてしまったウイリアム・ホールデン演ずるキャラクターに化学変化を起こさせるそのプロセスに注目すべきでしょう。確かにあちらの批評家が言うように、若干この映画にはTVドラマ的に安っぽそうなルーチンセンチメタリティ(たとえば瀕死の瀬戸際から救った犬とホールデンが海岸を散歩する様子等)に傾きそうになったり、またラスト10分がいかにも予想可能なクリーシェ的展開になる等のマイナス面はありますが、しかしながらクリント・イーストウッドが実はこんな側面も持っていたのかと思わせる面も含め、「ミスティック・リバー」を見るよりは遥かにダイレクトにそしてシンプルにイーストウッドの持っている映画人としての優れたクオリティを伺うことが出来る好作品に仕上がっていると言えるように少なくとも私目には思われます。


2004/08/21 by 雷小僧
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