恐怖のメロディ ★★☆
(Play Misty for Me)

1971 US
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド、ジェシカ・ウォルター、ドナ・ミルズ、ドン・シーゲル

奥:ジェシカ・ウォルター、手前:クリント・イーストウッド

21世紀に入っても活躍し続けるクリント・イーストウッドの監督デビュー作ですが、彼は良い意味でオーディエンスの期待を見事に裏切ってくれます。本国アメリカで食い扶持にあふれて、一般には怪しげであると見なされていたマカロニウエスタンのようなジャンルの作品に出演していた俳優が監督を務めて、まともな作品になるのかといったたぐいのネガティブな思い込みが、裏切られる期待の1つです。このようなおよそ根拠のないマイナスの期待とは裏腹に、「恐怖のメロディ」は、ストーリー展開の巧みさといい、サスペンスのキレといい、初期のサイコホラー映画の中では最もよく出来た作品の1つであると評価できます。裏切られる予想の2点目は、マカロニウエスタンや「ダーティハリー」シリーズ(とはいえ「恐怖のメロディ」公開時は、まだこの有名なシリーズは影も形もありませんでしたが)で彼が扮したマッチョマンヒーローを自身の監督作でも当然演ずるであろうとする期待です。ところが、「恐怖のメロディ」での彼は、ヒーローどころか、ななななななんと!女性ストーカーにしつこく付き纏われ悩まされ続ける、実にアンチヒロイック且つマゾヒスティックな役を演じているのです。勿論、マゾヒスティックな役といっても、いじめられるのを自ら悦ぶような役ではありませんが、同年の出演作「白い肌の異常な夜」(1971)でも、ジェラルディン・ペイジに鋸で脚をチョン切られる役を演じていたことを考えると、ひょっとするとマッチョ的な役に飽き足らず、そのような役を演じたい潜在願望を彼は持っていたのかもしれません。「恐怖のメロディ」では、ジェシカ・ウォルターが女性ストーカーを演じており、彼女のブチキレ具合が実に素晴らしく、もともとスタイリッシュ且つビューティフルな女優さんであっただけに、意外性のあるキレた役にナイフのように鋭利なキレが加わり、それによって作品全体を通してシャープなサスペンス感が醸し出されています。いずれにしても、イーストウッドの記念すべき監督第一作が、いかにも彼らしくない作品であるところに、只者ではない彼の役者としての力量を垣間見ることができます。


2001/05/06 by 雷小僧
(2008/11/15 revised by Hiroshi Iruma)
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