愛のトンネル ★★☆
(Tunnel of Love)

1958 US
監督:ジーン・ケリー
出演:ドリス・デイ、リチャード・ウイドマーク、ギグ・ヤング、ジア・スカラ

左:ドリス・デイ、右:リチャード・ウイドマーク

今回は、歌って踊ってのジーン・ケリーが監督した作品を3本程取り上げてみたいと思います(他の2本は「プレイラブ48章」(1967)と「テキサス魂」(1970)です)。ジーン・ケリーと言えば出演作の多くはミュージカルなので、監督作もミュージカルが多いかと思いきや、意外なことに7本程ある内、「舞踏への招待」(1956)及び「ハロー・ドーリー!」(1969)を除くと歌って踊ってとは全く関係のない作品ばかりです。ということで、今回取り上げた3本も全てミュージカルではありません。「愛のトンネル」は、一言で云えばドリス・デイ主演のロマンティックコメディ、というよりもベッドルームファースの中の一本です。ドリス・デイのロマコメのお相手と言えば、クラーク・ゲーブル、ケーリー・グラント、ロック・ハドソン、デビッド・ニブン、ジャック・レモン、ロッド・テイラー、ジェームズ・ガーナーと、1950年代から60年代にかけて、およそこの手の作品に適役であると見なされていたあらゆる超一流の俳優さんがズラリと並びます。さしずめ現代で言えばロマコメの女王メグ・ライアンと言ったところですが、しかしながらその共演陣の豪華さではメグ・ライアンはとてもドリス・デイにはかなわないでしょう。そう言えば、先日「ニューヨークの恋人」(2001)というメグ・ライアン主演のロマンティックコメディを見ていた時、どうしてもドリス・デイの顔が頭に浮かんできて仕方がありませんでした。よくよく考えてみると、意外なことにドリス・デイが「愛のトンネル」に出演した時の年齢は、メグ・ライアンが「ニューヨークの恋人」に出演した時の年齢に比べると遥かに若いのですね。何故意外かと言うと、小生にはどうしても逆ではないかと思えるからです。これはメグ・ライアンという女優さん個人の特質かもしれませんが、世相を反映してかドリス・デイが家庭の主婦を演じているのに対しメグ・ライアンが未婚のキャリアウーマンを演じているという点を差し引いたとしても、ライアンの方が遥かに子供っぽく見えるのです。オーディエンスの年齢層が1950年代よりは21世紀の方が遥かに低いはずなので、ロマコメの主人公もその年齢層に合わせたパーソナリティを持っているということであったとしても、それを40才にならんとするメグ・ライアンが演じているのは実に興味深いものがあります。勿論、ロマコメを演じる俳優さんは伝統的に年配の俳優が多かったという事実はあります。しかしいずれにしても、「愛のトンネル」のドリス・デイを見ていると、メグ・ライアンのような子供っぽい中年女性のロマコメとは、全く新しい現象であるようにすら思われます。さて、「愛のトンネル」では、ドリス・デイよりももっと興味深いのが、お相手役のリチャード・ウイドマークです。何せ、ハイエナ笑いのリチャード・ウイドマークがロマコメに出演しているわけなので、それだけでも映画ファンには見逃せないこと請け合いでしょう。結果はどうであるかと言うと、彼自身にしても勝手が違うところがあった故か、ややオーバーアクティング気味に見えるところがないでもありませんが、全体としては意外と言えば意外に悪くはありません。というよりも、冷酷非情なハイエナ笑いのイメージとベッドルームファースでの彼のドジぶりというミスマッチには、他の俳優では醸し出せない可笑しさがあります。また、ギグ・ヤングが主人公夫妻のお隣さんとして彼独自の持ち味を出しています。当時この手のロマコメ作品に脇役として出演し独特の持ち味を出していた俳優さんとして、他にトニー・ランダールが挙げられますが、両人とも実にとぼけた独特のタイミングを持っていて、それが素敵にロマコメにマッチするのですね。最後に付け加えておくと、この作品を見るといつも気になるセリフがあります。それはラストシーンで、待望の赤ちゃんがようやく生まれると知って喜んだリチャード・ウイドマークがドリス・デイに向かって言うセリフで、「子供を育てるには田舎は向いていないから健全なマンハッタンに引っ越そう」などと嬉々として述べます。現在であれば、差し詰めそれとはアベコベに「子供を育てるにはマンハッタンは向いていないから健全な田舎に引っ越そう」と宣言するのが普通であろうと思われます。これも時代の違いと言えるかもしれません。面白いですね。


2002/11/16 by 雷小僧
(2008/10/10 revised by Hiroshi Iruma)
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