テキサス魂 ★★☆
(The Cheyenne Social Club)

1970 US
監督:ジーン・ケリー
出演:ジェームズ・スチュワート、ヘンリー・フォンダ、シャーリー・ジョーンズ、ロバート・ミドルトン

左:シャーリー・ジョーンズ、右:ジェームズ・スチュワート

邦題から推測される通り「テキサス魂」は西部劇であるとはいえ、当作品が公開されたのは既に70年代に入ってからであり、伝統的な西部劇とは趣をかなり異にします。しかしながら、「テキサス魂」はまた、古き良き時代に対する惜別の念がどこかに感じられる作品でもあります。ストーリーは次のように展開されます。テキサスに住むカウボーイ(ジェームズ・スチュワート)のもとに、実業家の兄が死んだので遺産相続の手続きをしにワイオミング州シャイアンまで来るよう督促する手紙が届き、彼は相棒(ヘンリー・フォンダ)と共に馬に乗ってはるばるワイオミングまで出掛けます。ところが相続した遺産が「シャイアン・ソーシャル・クラブ」という名の娼館であるということを知り、彼はこの娼館を気品のあるサロンに変える為に、女将(シャーリー・ジョーンズ)を筆頭とする女の子達をクビにしようとします。しかしながら、人の良い彼はなかなか実際に女の子達を追い払えないでいるところに、なじられた為に女将を殴った悪漢と決闘し、彼を倒します。ところが、今度は倒された悪漢の叔父だの甥っ子だのが大挙して彼の命を狙ってシャイアンにやってきます。一度は彼らを撃退したものの再び仲間が何十人も連れ立ってやってくると聞き、また自分はビジネスマンには向かないと悟って、娼館の所有権を女将に譲り自分は相棒と共にテキサスに帰ります。かくして、主人公とその相棒が、元のカウボーイ生活に戻るところでジエンドになります。要約すると、ジミー・スチュワート演ずる主人公は、古き良き時代のカウボーイ生活を中断して、シャイアンまではるばる出掛け、そこで兄の遺した遺産によって新しい事業を始めようとしますが、悪漢どもに付け狙われるようになったとはいえ、結局自分は新しい時代のビジネスには向かないと悟り、再びカウボーイ生活に戻っていくというストーリーが繰り広げられるのです。ところで、「シャイアン・ソーシャル・クラブ」は、鉄道駅の構内に建てられているのが興味深く、また、蒸気機関車がうなりをあげて走っている様子を見ていると、アメリカ史における鉄道の発達は、開拓史時代から新しい脱フロンティア時代への移行を象徴的に表していたことにハタと気付きます。というのも、鉄道は、馬や馬車とは異なり固定された拠点間を結ぶ移動手段であり、すなわち拠点が既に確立されていない限り発展の余地がないことを意味していたからです。勿論、物資輸送手段としての鉄道が人口を引き寄せた側面もありますが、それだけでは広範な鉄道網の発展は説明できません。デビッド・リーンの「アラビアのロレンス」(1962)に、ロレンス(ピーター・オトゥール)が率いるアラブ遊牧民のゲリラ部隊が鉄道を破壊するシーンがありますが、それは単に物資輸送手段を混乱させ経済を麻痺させることが目的であったのみではなく、西欧文明拡大の証拠としての鉄道が持つ象徴的な意味合いに対する攻撃でもあったのです。同様に「テキサス魂」においても、西欧文明がフロンティアに拡大し根付くことによって展望が開けた新しい時代の幕開けとしての象徴的な意味を担った存在として、鉄道が登場しているのです。しかしながら、主人公とその相棒は、結局最後には、そのような象徴的意味を担った鉄道がやって来る町シャイアンを棄てて、またそのような鉄道がやって来るまさにその駅の構内に建てられ、ビジネスチャンスが最大限に活かせるはずの「シャイアン・ソーシャル・クラブ」で新たなビジネスを展開することを諦め、新しい時代を象徴する鉄道ではなく過去を象徴する馬にまたがって、再び昔の生活を続ける為にテキサスに帰っていくのです。冒頭で述べた古き良き時代に対する惜別の念とは、このような点を指しているのです。西部劇が凋落しつつあった時代に、西部劇の黄金時代に多数の西部劇作品に出演した大スター、ジミー・スチュワートとヘンリー・フォンダがそのような役を演じているのが、極めて興味深いところです。とはいえ、「テキサス魂」には、そのような側面と同時にコメディ的要素もふんだんに含まれています。たとえば、冒頭のテキサスからワイオミングまでの道中、相棒がひたすらしゃべり続けるので、それを聞かされる主人公がうんざりしている様子が可笑しいのと(一般的には、ジミー・スチュワートが饒舌でヘンリー・フォンダが寡黙である印象がありますが、ここではそれが逆になっています)、相棒が始終、実に魔の悪いタイミング、或いは素敵なタイミングでゴリゴリ音をたてて胡桃?を割りながら口に放り込んでいるのが実に愉快です。因みに、ヘボ拳銃使いの主人公が決闘で悪漢を倒せるのも、丁度拳銃を抜くタイミングで素知らぬ顔をして相棒が胡桃をゴリゴリ割るので、悪漢が拳銃を抜く音と勘違いしてそちらに気を取られるからです。歌って踊ってのジーン・ケリーが監督し、ジェームズ・スチュワートとヘンリー・フォンダというかつての二大スターが出演する作品なので、見ても決して損はないでしょう。


2002/11/16 by 雷小僧
(2008/11/13 revised by Hiroshi Iruma)
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